日々の恐怖 9月6日 識別 (5)
余命マイナスの者が極端に多いお陰で、余命平均値が大きく下がってしまったのだろう、と冷静さを保とうとする努力はしたが、もう全身嫌な汗が出っぱなしだった。
その後チームで話し合いを重ねたが、嫌な結論にしかたどり着かなかった。
即ち、余命推測等というのは誤差が大きすぎてアテにならない。
あるいは、私達の周りに、余命マイナスの者が平然と闊歩している。
当然採用したのは前者の結論。
上層部には、顔認識を利用した健康状態の調査をしていた事にして適当な報告書を書き、このプロジェクトは闇に葬り去られることとなった。
私達は毎日何百もの人々とすれ違い、目線を交わしている。
その中に、
” 余命マイナスの顔は無い。”
と、どうやって言い切ることができようか。
そして、余命0年宣告を出されたAは、一年経たずに本当に死んでしまった。
Aは、通勤ラッシュ時にホームから大ジャンプを決めた。
なぜコンピュータにそれが予測できたのか、まったくわからない。
コンピュータが知り得た情報は、サンプルと対象者の顔だけである。
しかし、事実としてAは宣告通りに死んでしまった。
死相という言葉がある。
人がもうすぐ死にそうだ、というのが何となく分かってしまう能力者がいる。
非科学的なことは信じたくないのだが、この事件以来、俺は防犯カメラと人混みが怖くてたまらなくなってしまった。
よほどの生命の危機や必要に追われない限り、病院にも近寄らないようにしている。
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