日々の恐怖 12月3日 二つ目の玄関(1)
彼女の家には玄関が二つある。
ひとつは、ドア。
ご家庭にある玄関ドアをイメージして貰えばおおむね合っているだろう、普通のドアだ。
もうひとつは引き戸。
星のような放射状の模様がある型板ガラスを使った、古い引き戸だ。
開け閉めするたびガラガラうるさいという。
ドアが二つあるというと二世帯住宅を想像するが、そうではない。
彼女の家は普通の一軒家だ。
玄関が二つあるということと、それに付随して変則的な間取りになっている以外、特筆するところはない。
なんでも古い家を壊すとき、祖父母の希望でわざわざ残したらしい。
つまり、引き戸のある場所が元々は玄関だったわけだ。
それを残して新しい家を建てた。
そしてわざわざ新しい玄関も作った。
そういうことらしい。
「 なんだってまた、そんなことを?」
「 死んだ人が訪ねてくるからだよ。」
彼女が当たり前のようにそう答えるものだから、一層混乱した。
曰く。
集落で死人が出ると、初七日から四十九日を終えるまでの間に、彼女の家に故人が訪ねてくる。
夜明け頃。
あるいは夕方が多いそうだ。
薄暗いなか、がしゃがしゃと引き戸を叩く音がする。
見に行くと、ガラスの向こうに人影がある。
型板ガラスなので、細かいところはわからない。
ぼんやりとした、人型の影だ。
それがじいっと立っている。
ねじ締り錠を回し、引き戸を開ける。
そこには誰もいない。
ついさっきまで、人影があったはずなのに。
そういうことが、あるのだそうだ。
「 そのあとは?」
「 亡くなった人の家に電話して、来たよ~って連絡してたかな。」
「 なんのために?」
「 それは、よくわかんないんだけど。」
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