日々の恐怖 5月10日 ワイの話(13)
ポチは、ワイより妹に懐いていたから、ワイはそれをあまり面白く思っていなかった。
「 もしその子の首輪が残っていたら、小さく切ってキーホルダーにして妹ちゃんに持たせてあげて。」
「 きっと、またその子が妹ちゃんを見つけて守ってくれるから。」
「 ただ、その子もずっとこの先も一緒にいる事は出来ない。
いえ、あまり長い間、止まらせては酷だから。」
「 それまでに、妹ちゃんが対処を憶えてくれれば大丈夫だけど・・・・。」
「 もし、また妹ちゃんが困ったら、いつでも相談して下さい。」
マッマとバッバが、
「 ありがとうございます。」
と礼を繰り返す中、ワイも拝み屋さんに話し掛けられた。
「 妹ちゃんも優しくて頼られるけど、君は女の子に頼られるから気を付けなさい。
妹ちゃんには優しくて、ね?」
そのおばさんが帰り際に、玄関でバッバが包んだ謝礼を渡そうとしているのをワイは見た。
「 そういう物は一切、受け取りません。」
それでもバッバは、
「 助けて頂いたから・・・・。」
と、割と強めに渡そうとしていたが、最後まで拝み屋さんはそれを受け取らなかった。
「 過去の私と同じ様に困った人がいたら、ただお節介をしているだけなので・・。」
ワイは、拝み屋さんが最後に言ったその言葉を、今でもハッキリと覚えている。
後日、マッマが妹に少し汚れた赤い革のキーホルダーを、お守りと言って渡していた。
ポチの付けていた首輪と同じ色のキーホルダーをランドセルに付けてから、妹は学校へまた通える様になった。
それからワイはなんとなく、登校する友達グループに妹も加えて、一緒に登校するようになった。
あの後に、一度だけ妹に聞いた事がある。
「 どうしてあの時、ワイに学校でお化けが見えて怖いって話さなかったのか?」
「 おにいちゃん、なにかみえてもいうなっていったから・・・・。」
妹はどんなに怖くても、昔、ワイが言った約束を律儀に守っていたのだ。
ワイは、急に情けなくなった。
犬のポチでさえ、妹を守ろうとしているのに、兄であるワイは何をしているんだ。
離婚して今は小さい弟を除けば、家に男はワイしかいない。
“ 妹もマッマも、ワイが守らないといけないんだ。”
その日、幼いながらもワイは決意した。
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