日々の出来事 11月19日 やせ蛙
今日は、小林一茶が亡くなった日です。(文政10年11月19日)
小林一茶は、江戸時代を代表する俳諧師の一人です。
小林一茶は宝暦13年に信濃北部の北国街道柏原宿で、貧乏な農家の長男として生まれました。
3才のとき実母を喪い、8才で継母を得ますが馴染めず、江戸へ奉公に出ます。
25才で二六庵小林竹阿に師事し俳諧を学び、江戸から房総付近にかけて旅をしながら俳句を読み続けました。
めでたさも 中くらいなり おらが春
雀の子 そこのけそこのけ お馬が通る
名月を 取ってくれろと 泣く子かな
我と来て 遊べや 親のない雀
やれ打つな 蝿が手をする 脚をする
かたつむり そろそろのぼれ ふじの山
裸にて 生まれてきたに 何不足
小林一茶は一生を通じて家族愛に薄く、実家を出てからも父の遺産相続で継母と争い、付き合っていた女流俳人の織本花嬌とは死別、結婚しても妻や子供と死別、二度目の妻とも短期間で離別、おまけに文政10年に自宅も全焼し、焼け残った土蔵で生活する中、同年11月19日、65才の生涯を閉じました。
これがまあ つひのすみかか 雪五尺
しかし、不幸なままで終わりかと言うと、そうではありません。
小林一茶は、タダでは死にません。
やせ蛙 負けるな 一茶ここにあり
この句は、単にカエル相撲での判官びいきを歌ったものではないのです。
小林一茶の死後、3番目の妻やを に女児やた が誕生、その後、やた は明治まで生き一茶の家系は後世に残りました。
やせ蛙は、子孫を残すため、実は日夜戦っていたのです。(小林一茶の日記より)
小林一茶(村松春甫画)
☆今日の壺々話
オタク俳句群
母パート
妹デート
俺ニート
夜なのに
僕がみるのは
あおいそら
なんだこりゃ
パソコン切ったら
キモヲタが
外不況
おいらはお部屋で
籠城戦
5時5分
AM?PM?
分からない
服がない
買いに行くにも
服がない
買ったけど
封をきらない
ゲーム群
軋んでる
オレの家計と
体重計
聞いてない
誰もそこまで
聞いてない
おれオタク
おれおれオタク
おれオタク
不幸
ある夫婦が船旅に出ました。
夫婦は客船の甲板で月を見ていたとき高波が押し寄せ、夫が波にさらわれてしまいました。
数日捜索したものの、夫は見つかりませんでした。
妻を陸地で降ろし、船長は「奥さん、何か見つかったら必ず連絡しますので。」と言い残して出航しました。
3週間後、夫を見つけた船長は、妻にFAXを送ります。
“ 奥さん、残念なお知らせです。
ご主人は見つかりましたが、場所は海底で、既にお亡くなりになっていました。
ご主人を引き上げたら、たくさんの貝がついているような状態だったのですが、貝の中に5万ドル相当の真珠がありました。
ご遺体はいかがいたしましょうか?”
直ぐに、船長は妻からの返信FAXを受け取りました。
“ 真珠は送って頂戴、そして「エサ」をまた沈めておいて。”
不幸からの解放
フランスに仕事で行った夫(10年以上前)。
ホテルで強烈な金縛りに遭い、汗ぐっしょりになりつつも恐怖と必死に戦ったという。
ベッドのそばに、フランス人の女の子が現れた。
俺は、その少女に“ケツが臭い”と言われた、と憤る夫。
恐怖よりも、ショックのほうが強かったようだ。
この10年、“俺のケツは臭いのか?”と悩んだという。
“別に臭くないよ”と励ましても、“いや、霊が言うんだから間違いない”と言って聞かない。
最近、とある海外の心霊関係のネットで、
「白人の少女が現れて、これ何?と宿泊客にたずねるホテル」が紹介されてた。
そのホテルは名前こそ出ていなかったが、場所の特徴から考えて夫が泊まったホテルに違いなさそう。
フランス語で「これ何?」は、カタカナに直すと「ケスクセ?」らしい。
まさか・・・
ネタと思うなかれ。
本当です。
夫は、十年にわたる“ケツが臭いかも”という見えない鎖から解き放たれた、と本気で喜んでます。
“俺が遭ったのはやはり霊だったのか”という方の恐怖は、微塵も感じられません。
ホント、良かったね。
足音
高校の時、一緒に住んでいた祖父が急死した。
その後、時々真夜中に庭を歩き回る足音が聞こえるようになった。
草を踏みしめる音で、少し歩いては立ち止まり、また少し歩くという感じだった。
父母を俺の部屋に呼んで全員で足音を確認し、すぐに庭を懐中電灯で照らしても人はいない。
ある夜、窓を隔ててすぐ近くから足音が聞こえた。
窓の前にいると思った俺は、また父母を呼んでカーテンを開けた。
誰もいなかった…が、その時また下から足音が聞こえた。
大きな蛙がいた。
蛙釣り
これは小学校3~4年生頃(20年程前)の話です。
最近ふと思い出しましたので書いてみます。
少々長くなりますがご勘弁を。
それは8月のある蒸し暑い夜でした。
母が知人の家に行くと言ったので、特についていく理由はなかったのですが、その頃はまってた蛙釣りがやりたくてついて行きました。
蛙釣りとは、水田の稲穂の先を一粒残して他は全て取り除き、その先を水田にいる蛙の鼻先に近づけてくわえさせ釣り上げる遊びです。
うちの小学校では流行っており、俺は小学校でトップクラスの腕でした。
その知人の家に行くのは俺は初めてでしたが、俺の住んでいた所は四方を水田に囲まれた家が多かったので釣り場所には困りません。
夜に一人で出かけられない臆病者ではありましたが、初めて行く場所での蛙釣りの誘惑には逆らえず、知人宅に着くと早速一人で釣り場を探し始めました。
すぐに釣り場を見定めると、周囲の暗闇を少し気にしながらも釣り始めました。
その夜はなぜかいつもよりもよく釣れ、普段の倍のペースで釣れました。
しばらくすると蛙も慣れて釣れなくなるので場所を替えようと移動を始めました。
その知人宅の隣には小さい神社があり、その鳥居前の電柱には電灯がついていて、その明かりに少しホッとし、その明かりの下で再び釣りに夢中になっていました。
ここでも普段よりハイペースで釣り上げ続けていました。
次第に興奮してきた俺は時間を忘れていました。
しばらくするとやはり釣れなくなり、興奮も収まってきたので再び移動しようと顔を上げたとき、周囲の異変に気付きました。
いつの間にか辺りは深い霧に包まれていました。
周囲の電柱には何本かおきに電灯があり、また小型懐中電灯も持ってきていたので霧の中ということは容易に判断できました。
しかし、自分の住んでいる地域では夏に霧が発生することは無く、その見慣れぬ状態と視界の悪さに忘れていた恐怖感を取り戻し、母の所に戻ろうと知人宅を目指しました。
しかし進めども進めども家が見えてきません。
道を間違えたかとも思いましたが、俺は当時方向感覚が鋭く、道や方向を間違うことは一度もありませんでした。
それ以前に隣接した神社の前にいたのだから歩いても1分とかからないはずでした。
その事に気付いた瞬間、周囲に突然何かの気配が感じられました。
姿は見えないがかすかに足音のようなものが聞こえました。
人が歩くような足音ではなく、言葉で表すのは難しいのですが、“ヒタヒタ+ポタポタ”というような音でした。
だんだんとその音は近づいてくるように感じました。
頭の中は恐怖でいっぱいになり、その気配を何とかやり過ごそうと道を外れ路肩の畦道に立ち止まり、道の方を向きました。
気配はさらに自分との距離を縮め、通り過ぎろと祈ったがその思いは誰にも通じず、自分の前で止まり、こっちを向いたように感じられました。
俺は半泣き状態で一歩後ずさりをした瞬間、足を滑らし田んぼに落ちました。
いや、落ちたはずでした。
気がつくと田んぼと灌漑用の溝を仕切るコンクリートの上に立っていました。
左手に田んぼ、右手に畦道の土壁。
__道路
│
│2m位の高さ
ココ │
___П_│
田んぼ 溝 こんなイメージです。
ただ、蛙釣りをしていた時はそのような作りではなかったのです。
畦
___道路
_____|高さ40cm位
田んぼ
こんな感じで、溝やコンクリは無く高さも低かったはずです。
周りはまだ深い霧に包まれているようでした。
足を滑らした時に懐中電灯を落としたらしく、はっきりと判別はできません。
闇に目が慣れるまでその場を動かず、というか恐怖で動けず時は過ぎていきました。
しばらくすると闇に目が慣れ、ぼんやりと周囲が月明かりで明るくなっていき、それと同時に霧が晴れていきました。
周りが見えてくるにつれ、周りの異変にも否が応にも気付きました。
前後50cmくらいの間隔で何かいる。
大人くらいの背丈の何か。
人の様ではあるが人ではない様に感じました。
霧が晴れるにつれ、周囲の状況が把握できるようになりましたが、その異常さは理解ができませんでした。
何かの気配があったのは前後だけではありませんでした。
その前にも後ろにも同じようなものが並んでいる。
まるでブランドバッグの限定品に行列している人々のようでした。
怖かったが、もう一度確認しようと恐る恐る後ろを振り向いた時、心臓が凍りつくくらいにドキゾクッとしました。
その人のような物の全ての顔の部分に狐の面がついていました。
能面の狐の目をさらに吊り上げたような感じでした。
そしてその狐面はグッと体を押してきました。
しかし体には何も触れておらず空気自体を押してきているような感じでした。
足元は細くて不安定なコンクリートで、否応なしに前に進まされていると、前にいた何体もの狐面が一つ一つ姿を消していった。
自分の眼前にいた狐面が姿を消した瞬間、何が起こっているか理解できました。
足元に穴が開いており、そこに落ちていったようでした。
俺は踏み止まろうと抵抗しましたが、後ろからの圧力には勝てずに、自分も落ちていきました。土のスライダーを滑り落ちているような感じでした。
5秒ほどで底に着き、そこで見たものは落ちる前と同じ風景。
左手に田んぼ、右手に畦道の壁。
後ろの狐面もすぐに滑り降りてきて、再び妙な行列は始まりました。
しばらく進むとまた穴があり、その底にはまた同じ風景。
何度も何度も同じことを繰り返し、どれくらいの時間がたったのかわかりませんでした。
しかし、頭がだんだんと冷静になっていったのか、滑り落ちる穴が深くなっていることに気がつきました。
最初5秒位滑落していたのが10秒位になっている。
さらに何度か歩いては落ち歩いては落ちを何度も繰り返すと、今度は穴が底なしになりました。
かなりの時間滑り落ちていた感じがし、このまま永遠に落ち続けるかのようでした。
その時、何か低い音が轟いた、猛獣が吠えた様なおなかに響く威圧感がありました。
その音を聞いた途端目の前がぼやけ、かすみ、意識が遠ざかっていくのを感じました。
意識が戻ったとき、目の前には母の顔がありました。
帰ろうと捜しに来たところ、神社の狛犬の像に寄りかかるように倒れていたらしいのです。
ケガとかは無かったので大騒ぎにはならず、そのまま帰ったのですが、翌日、母にこの出来事を話したところ、不思議な顔をされました。
母いわく、知人の家の窓から俺の姿が見えていたと。
ずっと同じところをうろうろしていたらしい。
蛙釣りが好きなのを知っていたため、別に不審にも思っていなかったと言っていました。
もちろん霧のことも言ったのですが霧など出ておらず、満月だったため非常に明るかったらしい。
しかし、その日着ていた服の背中からお尻にかけて、土まみれでひどく汚れていたとは言っていました。
今から思うと最期の咆哮の主は発見時に寄りかかっていた狛犬で、狐に憑かれようとしていた俺を守ってくれたのでしょうか。
ちなみにその神社が何を祀っていたのかはわかりません。
カエルノウタ
ある年末でのことです。
会社の先輩からこんな誘いを受けました。
「 年末年始は実家に帰るんだけど、よかったらうちで一緒に年越ししない?おもしろい行事があるのよ。
一回見せてあげたいな~と思っててさ。」
その人は年齢も私より上でしたがとても気さくに接してくれる方で、入社した頃から何かと可愛がってくれていました。
仕事でもプライベートでも面倒見が良く、いろいろと連れていってもらったりしていたのですが、遠出の誘いはこれが初めてでした。
せっかくの帰省、ましてや年末年始にお邪魔するなんて悪いなという気持ちもありましたが、「気にしないでおいでよ~」と言われ、私自身は実家に帰る予定もなかったので、誘いを受けることにしました。
詳しく話を聞いてみると、12月の29~31日に先輩の町では行事があるようで、年越しがてらそれを見においでという事でした。
会社は29日で終わり、休みに入るのは30日からです。
行事について尋ねてみると、
「 私の町で毎年やってるんだけどね~町の人達の中から一人が選ばれて、その人のために行う行事なの。
0時をまわってからやるから、正確には30~元旦までの三日間になるわね。」
「 深夜に?そんな時間に何をするんですか?」
「 それは見てからのお楽しみ。
今年は私のお母さんが選ばれて、もう私もお父さんも大喜びでさ。」
「 そうなんですか。
よくわからないですけど、そんな時に私がいたら、やっぱりお邪魔じゃないですか?」
「 いいのいいの、うちの家族は気にしないから。
のんびりしたとこだし気軽においでよ。
まぁ休みは30日からだから、初日のは見れないけどさ。」
具体的な内容はわからなかったものの、何だか興味をそそる話でした。
私がその行事について気になってきたのを察すると、
「 もし最初から見たいなら、29日仕事終わりにそのまま行くって事でもいいよ。
あたしとしても最初から見せてあげたいしね。
年一回しかないうえに、今年はやっとうちのお母さんが選ばれたからさ。」
と言われました。
出来たらそうしたいとこでしたが、あまり甘えるのも悪いと思い、結局30日に向かうことになりました。
先輩は少し残念そうでしたが了解してくれ、30日から1日まで私は先輩の実家で過ごすことになりました。
当日、朝9時頃から先輩の車で目的地へ向かいました。
先輩の実家がある町は、私達の住んでいるところから車で3時間ほどかかります。
道中はのんびりと会話しながら、どんな行事なんだろうとわくわくしていました。
しばらくして景色が変わってきた頃、先輩がこんな事を言いました。
「 昨日、雨降ったよね。」
言葉のとおり、前日の29日は深夜まで雨が降っていました。
流れを切っての発言というわけでもなかったですし、何でもない話題なんですが、どこかに違和感があるような…そんな感じがしました。
「 降りましたね。
今日は止んでてよかったですよね。
行事は雨が降っててもだいじょぶなんですか?」
「 一応は平気。
昨夜は予定どおり行われたよ。
実はさぁ、あたし昨日から帰ってたからもう大変だったのよ。
会社からそのまま実家向かって、夜中にそれやって、終わったらまたこっち戻ってきて、あんた迎えに行って…。
今すっごい眠い。」
そう言って大欠伸する先輩には、先ほど感じた妙な違和感はありませんでした。
そうしてまた何でもない会話をしながら進んでいき、やがて目的地に到着します。
ちょうど12時になるぐらいの時間だったと思います。
車を降り、先輩の実家の方へ目をやった瞬間、ぎょっとしました。
先輩の実家は古いお屋敷みたいな広々とした家だったんですが、家の前の庭に水溜まりがありました。
鯉を飼ってる池のような大きさのです。
自然に出来るものでもそれぐらい大きくなるのかもしれませんが、そこにあったのはどう見ても不自然なものに思えました。
泥水をはった風呂場のような、そんな感じだったのです。
これは一体…と戸惑っていると、
「 これも行事に関係してるのよ~、とりあえず落ちないように気を付けてね。
結構深いから。」
と言われ、
不思議に思いながらも、ひとまず家の中へ案内してもらいました。
中へ入ると、奥から女の人が駆け寄ってきました。
「 遅かったね。
あっ、この子がお客さん?」
先輩は「そうだよ」と答えながら私の方を向き、その女の人が母の姉だと教えてくれました。
私が挨拶を済ませると、昼食が出来てるからと奥の方に案内され、お昼をごちそうになりました。
食後には居間にいた先輩の父とも挨拶を交わし、先輩が昔使っていた2階の部屋に案内されました。
部屋に入って一息つき、ふと窓から外を眺めるとある事に気付きました。
隣近所の家が何軒か見えるのですが、庭に大きな穴のある家がいくつかありました。
水溜まりではなく、ぽっかりと大きな穴があいているのです。
気になって先輩に聞くと
「 あぁ、あれは選ばれるのを待ってるお宅って事なの。
穴がない家は一度家族の誰かが選ばれたか、今は必要ありませんって事ね。
選ばれた家はさっき見たとおり、穴に水を入れて大きな水溜まりになるの。
選ばれた人は大変なのよね~お母さんも今準備中だからうちにいないのよ。」
という事でした。
今思えば、この時から何だかおかしな空気が漂っていたような気がします。
先輩の説明を聞いても、何が行われるのか全く分からない。
当初はお祭り気分で楽しめるような行事だとばかり思っていたのが、何か異様なもののように感じ始めていました。
とはいえ、そんな失礼な事を言うわけにもいかず、私の考えすぎであることを願うばかりでした。
その日は行事が始まる時間までのんびりしてようという事で、前日ほとんど寝てなかった先輩は寝てしまい、私は先輩の叔母さんと話したりして過ごしました。
夜になって夕飯やお風呂を済ませ、あとは行事が始まるのをじっと待つだけとなりました。
この間、先輩のお母さんの姿は一度も見ていません。
11時を過ぎた頃、事態が動きだしました。
四人でたわいもない話をしていたところ、電話が鳴り叔母さんが出ました。
10分ほど話して電話を切り、先輩と先輩の父には「そろそろ用意だから行っておいで」と、
私には「○○ちゃんはここにいよっか。私も一緒にいるから」と言いました。
何も分からなかった私は、「はい」と答えるしかなかったです。
すると、先輩がムッとしたような表情で叔母さんに近付いていきました。
そしてなぜか険悪なムードになり、突然二人の言い合いが始まりました。
「 叔母さん、昨日も家に残ってたよね。なんで?」
「 何年も前からさんざん言い続けてるでしょう?
私は認めてない。
どうしてもやるならあんた達だけでやりなさい…って。」
「 やっとお母さんが選ばれたのに、まだそんな事言うわけ?
叔母さんだってしてもらったくせに。
今日だってお母さんはずっと準備してるのに。」
「 私はあんた達とは違うの、いいから早く行きなさい。」
私は状況が飲み込めずにおろおろするしかなく、昼間の不安がますます募っていきました。
しばらく二人の言い合いは続いていたのですが、先輩が時計を見て時間を気にしたのか口を閉じ、言い合いは終わりました。
黙ってみていた先輩の父は途中で先に出ていってしまい、苛立った様子の先輩はばたばたと出かける支度をし、玄関へ向かいました。
「 昨日より気合い入るわ~これから何があるか、しっかり見ててよ!」
私にそう言うと先輩は出ていきました。
先輩の姿が見えなくなったその瞬間、いきなり叔母さんが玄関の鍵を急いで閉め、私の手を掴んで居間へ戻りました。
そして私の顔を見つめ、神妙な面持ちで話し始めました。
「 ○○ちゃん、今から私が話す事をよく聞いて。
もう0時をまわったわね。
この後1時になったら、ある事が始まるわ。
このままだと、あなたは犠牲者になる。」
思わぬ言葉でした。
「 えっ?…おっしゃってる意味が分かりません。どういう事なんですか?」
「 詳しくは後で話すから!とにかく、今は解決するための話をするわ。
こうなってしまった以上、あなたはその行事を見なければいけないの。
1時になったら2階に行って、部屋の窓から外を見なさい。何があっても、最後まで見なきゃダメよ。
ただし、声をかけたりしてはダメ。ただ見て、聞くだけでいいの。」
「 聞く?聞くって何をですか?一体何なんですか?」
「 歌よ。あの子達が歌う歌を聞くの。
必ず最後まで聞かなきゃダメよ。耳を塞いだりしないで最後まで。いいわね?」
もう何が何だか分からず、泣き出したい気持ちで一杯でした。
何かとんでもない事に巻き込まれてしまったのでは、どうしたらいいのか、と頭がぐるぐるしていました。
叔母さんは私の頭をそっと撫でながら「大丈夫」と言ってくれましたが、何を信じていいのか分かりませんでした。
しかし、その間にもどんどん時間は迫ってくる。
結局、叔母さんに言われたとおりにするしかありませんでした。
時間が過ぎていくにつれ、私の心臓は破裂しそうな程バクバクしていました。
どうしよう…どうしよう…。
そうこうしている内に1時が近付き、叔母さんに2階へ行くように促されました。
「 一緒に来てくれませんか?」
とお願いしましたが、
「 私はここにいるから、歌が終わったらすぐに降りてらっしゃい。
くれぐれもさっき言ったことをちゃんと守るようにね。」
が答えでした。
「 さぁ…。」
と背中を押され、逃げ出したい気持ちで2階へ上がり、昼間にいた部屋へ入りました。
でも、窓の外を見ようとする事が出来ず、ただうずくまって震えていました。
もうやだ、怖い。
それだけでした。
5分…10分…。
どれくらいそうしてうずくまっていたかは覚えていません。
とても長い長い時間に思えました。
ふと、何かが聞こえてきている事に気付きました。
話し声?叫び声?
何かが聞こえる。
私は無意識に窓に近づき、外を見ました。
窓の外、あの水溜まりの周りに、いつのまにか大勢の人が集まっていました。
子供も大人も、男も女も。
十代ぐらいの子や、五~六歳ぐらいの子、熟年の方や高齢者の方…20人ぐらい、もっといたかもしれません。
その全員が、さっきまでずっと雨にでも打たれていたかのように、服も体もずぶ濡れでした。
ピクリとも動かず、全員が水溜まりを見つめています。
そして、何かを話している…?
怖さで固まったままその光景を見ていると、次第にはっきりと何かが聞こえてくるようになりました。
不気味に響くその声にすぐにでも耳を塞いでしまいたかったですが、叔母さんの言葉を信じ、必死で耐えていました。
やがて、それが何なのかがわかりました。
歌です。
叔母さんの言っていたとおり、確かに歌を歌っているように聞こえました。
何人もの声が入り交じり、気味の悪いメロディーで、ノイズのように頭に響いてくるのです。
何と言っているのか、聞こえたままの歌詞はこうでした。
かえれぬこはどこか
かえれぬこはいけのなか
かえれぬこはだれか
かえれぬこは○○○
(誰かの名前?)
かえるのこはどこか
かえるのこはいけのそと
かえるのこはだれか
かえるのこは○○○
(こっちは私の名前に聞こえた)
かえれぬこはどうしてる
かえれぬこはないている
かえるのこはどうしてる
かえるのこはないている
この歌詞が二度繰り返されました。
全員がずぶ濡れで、水溜まりを見つめたままで歌っていました。
誰も大きな声を出しているような感じには見えず、
私のいる部屋ともそれなりに距離があるはずなのに、その歌ははっきりと聞こえていました。
本当に例えようのない恐怖でした。
二度繰り返される間、ただがたがたと震えながらその光景を見つめ、その歌を聞き続けていました。
二度目の歌が終わった途端、静寂に包まれると同時に一人が顔を上げ、私の方を見ました。
それは満面の笑みを浮かべた先輩でした。
さっきまではあまりの恐怖で気付きませんでしたが、よく見ると先輩の父もそこにいました。
ただ一人、私を見上げ微笑んでいる先輩に、私は何の反応も示せませんでした。
しばらくそのままでいると突然そっぽを向き、どこかへ歩いていってしまいました。
すると、周りの人達も一斉に動きだし、ぞろぞろと先輩の後へ続いていきました。
“ 終わったんだ…。”
私はガクンとその場に座り込み、茫然としていました。
早く叔母さんのとこに戻りたい、でも体が動かない。
頭がぼーっとなり、意識を失いそうにフラフラとしていたところで、叔母さんが2階に上がってきてくれたのです。
「 終わったね。
怖かったでしょう。
よく耐えたね。
もう大丈夫よ。
もう大丈夫。」
そう言いながら叔母さんに抱き締められ、私はせきをきったように泣きだしてしまいました。
何を思えばいいのか、本当に分かりませんでした。
少しして落ち着いた私は、叔母さんに抱えられながら居間に戻りました。
時間はもう2時を過ぎていました。
時間を確認すると、
「 ○○ちゃん、ホッとしている時間はないの。
あの子やあの子のお父さんは、今日はもうここには戻ってこないけど、さっきのはもう一度行われるわ。」
「 えっ…?」
「 今度は3時に。
歌の内容もさっきとは少し違うものになるの。
ここでぐずぐずしていると、またあの子達が水溜まりに集まってくるわ。
そうしたらもう取り返しがつかなくなる。」
「 そんな、どうしたらいいんですか?
私はどうしたら。」
「 落ち着いて。今から私の家に行くわ。
この町を出て少し行ったとこにあるから。
でも、あなたが持ってきたものとかは諦めてちょうだい。
持ち帰るとかえって危険だからね。
詳しい話はそれからにしましょう。
さぁ、すぐ行くわよ。」
言われるままに私と叔母さんは家を飛び出し、そこから少し離れた空き地にとめられていた叔母さんの車に乗り込み、その町を後にしました。
どこを走っても同じ景色に見え、迷路から抜け出そうとしているような気分でした。
1時間ぐらい走ると、ようやく叔母さんの家に着きました。
中に入り、ある部屋に案内されたのですが、その部屋の中を見て再び恐怖が全身に広がりました。
卓袱台しかないその部屋の壁一面、天井にまでお札がびっしりと貼られていたのです。
異常としか思えませんでした。
“ もしかして、私は騙されているのでは?
叔母さんも何かとんでもない事に加担している一人?”
そんな考えが頭をよぎりました。
次々と意味の分からない状況が続き、自分以外の者に対して不信感が募っていたのかも知れません。
そんな私の心を見透かすように、叔母さんは言いました。
「 いろいろと思うことはあるでしょうし、恐怖もあるでしょうけど、この部屋でなきゃ話は出来ないのよ。
ごめんね。
我慢してね。」
叔母さんは私をゆっくりと卓袱台の前に座らせ、自分は真向いに座りました。
そして、話してくれました。
ここからは叔母さんの話を中心に書きます。
ほぼ、そのままです。
「 何から話せばいいのかしらね。
○○ちゃんはそもそも、あの子から何て聞いて、どうしてあの町へ来たの?」
「 毎年おもしろい行事があるから、見に来ないかって誘われたんです。
町の中から一人が選ばれて、その人のために行われるものだって聞きました。
それで、今年はお母さんが選ばれた…って。」
「 期間は三日間で、今日は二日目っていうのは聞いた?
初日から来れないかって誘われなかった?」
「 聞きました。
初日から見せてあげたいからそうしようかっていう話もあったんですけど、私が断ったんです。
あまりお世話になるのも悪いと思ったので…。」
「 そっか。
あの子があなたに言ったことは、全部そのままね。
あれは毎年選ばれた人のために行われるもので、今年はあの子の母親が選ばれた。
一日目から見せたいと言ったのは、特別な意味があったから。」
「 どういう事ですか?」
「 ○○ちゃん、今日一度でもあの子の母親の姿見た?見てないわよね?
それどころか、どこで何をしてるのかも、あの子は具体的に話さなかったでしょう?
当たり前なのよ。
あの子の母親、つまり私の妹だけど、死んでるんだから。
何年も前にね。」
「 えっ?」
「 あの子が学生の頃だったから、もうずいぶん前よ。
だから、あなたが話を聞いた時も、最初からあの子の母親はいなかったって事。」
「 そんな、だって…それじゃ選ばれたっていうのは何なんですか?
さっきの事は何なんですか?」
「 あれは死人を生き返らせるためのもの。
選ばれたというのは、生き返るチャンスを得たという事なの。
毎年、死んだ人間の中から一人が、そのチャンスを得られる。
ただし、それを家族が望んでいなければダメ。
望む場合は庭とかに大きな穴を掘って、その意志を示すの。
選ばれた場合、知らない間に穴に水が溜まっていって、大きな水溜まりが出来るの。
これは1月2日から12月1までの間、時間をかけて起こるわ。
それによって選ばれた者の家族は、29~31日(30~1日)の三日間、さっきのあれを行う。
そして1月2日から水がなくなり、また時間をかけて別の人が選ばれるのよ。
さっき、歌を聞いたわよね?
最後まで聞いたわよね
どんな内容だったか言ってみてくれる?」
前述の歌詞を叔母さんに伝えました。
叔母さんの話ではこうなるそうです。
かえれぬ子はどこか
かえれぬ子は池の中
かえれぬ子はだれか
かえれぬ子は〇〇〇
(選ばれた死人の名前)
かえるの子はどこか
かえるの子は池の外
かえるの子はだれか
かえるの子は〇〇〇
(犠牲にする者の名前)
かえれぬ子はどうしてる
かえれぬ子は泣いている
かえるの子はどうしてる
かえるの子は鳴いている
「 選ばれた死人を生き返らせるには、犠牲とする誰かに三日間歌を聞かせなきゃいけない。
あの子が初日から見せたいと言ったのはそのためよ。
歌は1時から2時、3時から4時の間でそれぞれ内容が変わり、各2回ずつ歌われる。
三日間で6つの内容の歌が、計12回歌われるというわけ。
さっきあなたが聞いたのは3つ目の歌ね。
6つ目12回目の最後の歌を聞かせた後、その人をあの水溜まりに突き落とすの。
はい上がってくるのはその人ではなく、選ばれた死人。
犠牲になった者は二度と帰ってこないわ。
そうやって、生きていた誰かの代わりに、死んだ誰かが戻ってくるのよ。
といっても、今の人達は、弔いのつもりで形だけ行う事がほとんど。
ここ何年かで本当に生き返らせようとしたのは今回だけ。
というより、あの子だけといった方が正しいかもね。
あの子は母親に固執してる。何年経っても断ち切れないでいるの。
母親が選ばれたと分かった時から、あなたの話が出てたわ。
どうしてあなたにしたのかは分からないけど、あの子はあなたを犠牲にして、母親を生き返らせるつもりだった。
本来なら、二日目に来たという時点で、これは成立しないはずだったのよ。
三日間のどれが欠けてもダメだからね。
でも、雨が降ったのがいけなかったわね。
歌も含め、これらの事はカエルノウタって呼ばれてるわ。
元は、昔から祀られている何かに関係するものなの。
死人を生き返らせるなんてぐらいだから、霊とかそんな次元じゃないのかもね。
その何かは雨を好むって伝えられてる。
三日間のうち、一日でも雨が降っている中でカエルノウタを行うと…(ここだけはぐらかしてました)。
とにかく、昨日雨が降った事で、あなたが一日目にいなかったというのは、意味を成さなくなったの。
本当なら、事が済んだ三日目に現われるはずのあの子の母親が、昨日の時点であの水溜まりにいたからね。
あなたが最初に見た時も、さっきの歌の時も、水溜まりからじっとあなたを見つめていたのよ。
お母さんが準備してるっていうのは、そういう意味だったの。
たぶん、これからもあの子は諦めないわね。
またいつか選ばれるのを待ち続ける。
だから、あの家の水溜まりの穴が無くなる事はないでしょうね。」
ここでかえるのうたの話は終わりました。
話を聞いた事である疑問が浮かびましたが、聞けませんでした。
もしそうだったら…、正気でいられないかもしれない。
そう思ったからです。
この夜は叔母さんの家に泊めてもらい、朝になって私の家まで送ってもらいました。
別れる際、叔母さんに言われました。
「 明日から新年だけど、その一年間は雨に濡れないようにしなさい。
雨の日は外出自体控えたほうがいいわ。
生活は大変になるでしょうけど、必ず守ってね。
その一年を過ぎれば、もう大丈夫だから。
もし、どうしても何か心配な事があったら、私のところにおいで。
怖い思いさせて本当にごめんね。
元気でね。」
休みが明けた後、しばらく先輩は会社に出てきませんでした。
『お母さんが亡くなった』と連絡してきたそうです。
私はその年に会社を辞めました。
叔母さんに忠告されたとおり、雨の日には一切外に出なかったので、続けられなかったんです。
突然雨が降るかもわからないので、その一年間は実家で引きこもりでした。
なお、私が辞めるのと入れ違いで先輩は復帰して、今もその会社に勤めています。
とても会う気にはなれませんでした。
今、私は普通に暮らしてます。
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