堤清二氏が逝去された。実業家と言うよりも晩年は作家辻井喬としての活躍が印象に残る方だった。異母兄弟の堤義明氏との壮絶な確執とあいまって実に多彩色の人生を過ごされた方だと思う。作家としての同氏との接点はなかったが、実業家として(セゾンが買収したインターコンチネンタルホテルの総帥としても)の同氏とは、かれこれ20年ほど前になるが、同氏が団長をされたハンガリーへの本邦訪問団の一員として数日、行動を共にしたことがあった。
その際のビジネスのことはともかく、ハンガリー側との夕食会の終わりに同氏が日本語でスピーチしていた最中、突然降り出した雨に「これこそ日本で言う 遣らずの雨 というものです」と機転を利かせて同時通訳の若い女性が翻訳に戸惑っていたのを思い出す。仕立ての良い背広に身を包み、さわやかな足取りでブダペストのインターコンチネンタルホテル(かつてのフォーラムホテル)のロビーを歩いておられたのが昨日のことのようだ。