テクニカルコミュニケーター・シンポジウム
会長挨拶
「メディアを変える、わかりやすさを変える」に触発されれて考えたこと
筑波大学心理学系 海保博之
●「変わる」ではなく「変える」のだ
今回のテーマにある3つのキーワードに触発されて思ったこと。まず、「変える」から。
大学で管理職になって3か月。「変える」のがいかに難しいかを実感させられている。議事の順番変更のようなつまらないことを変えるのが意外と面倒なのが奇妙でおかしい。早くも「変わるのを待つ」心境になりつつある。
今回のシンポのテーマも「変える」がキーワード。しかも、社会の仕組を変えるにも匹敵する、メディアと「わかりやすさ」を変えようというであるから、志ある方々のご苦労、挑戦心に心からエールをおくりたい。
●「紙」を基本に
マニュアルの新しい表現媒体がこれほど多彩になってくると、どのメディアを選択するのが最適かの判断が大事となってくるのはわかる。願わくば、制作コスト削減が最優先の考慮事項にならないことを願うし、ユーザがマニュアルを読む/使うために余計な「操作上の」苦労をするようなことにはならないようにしてほしい。変えようとする志ある方々の足を引っ張ることになるが、まだまだ---今後もずっとか---紙を基本にしたメディア計画であってよいのではないかと実は思っている。
●「わかりやすさ」の質を問え
うかつにも、「わかりやすさ」は、「程度」問題と思っていた。「わかりやすさ」にも「質」問題があるという当たり前のことに、今回のテーマで気づかされた。
たとえば、わかりやすさの質は、素人と玄人とでも違うし(人によっても)、購入開始時と使いこなし段階とでも違うし(学習段階によっても)、組立て説明と操作説明とでも(内容によっても)違う。これまで、こうしたケースを一括して「わかりやすさはユーザの知識経験の関数」と言ってきたが、これではあまりに粗雑で役には立たない。もっと精緻な言い方ができるようにしなければならない。これを機会に一つの宿題としておきたい。 32
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