04/5/12海保博之(筑波大学人間総合科学研究科教授)
「情報処理」
●情報の伝達から処理へ 有史以来、情報は伝達する対象であった。しかし、1937年にコンピュータ・ABCが開発されることによって、情報は処理される対象に変わった。つまり、通信系を介して「5+9=」の答を相手に伝達するだけであったのが、コンピュータは「5+9=」の答を出すという計算処理をするようになったのである。 これに呼応して、心理学でも、人間を情報伝達系(通信系)とみなすモデルから、情報処理系(information processing system)とみなすモデルが採用されるようになり、60年代から70年代には、情報処理的アプローチに立脚した認知心理学が隆盛を極めた。
●情報処理をあらためて定義する 情報処理とは,生体,機械,組織など,部分と全体とが有機的関係を保っているシステムにおいて,入力された情報をシステム内に貯蔵されている知識とデータとを使って,目的に適うように変形,加工することである. 情報処理を考える上では,入力情報,処理の目的,システム内に貯蔵されている知識・データ,処理プログラム,処理能力(速度,容量)の5つが問題になる.
●学習指導を情報処理の枠組でとらえる 子どもの認知システム(知覚,記憶,思考)を,教師の与える情報を選択,分類,関連づける一つの情報処理システムとみなせば,学習指導も情報処理の概念枠でとらえ直すことができる.
1)処理の目的 情報処理システムはある目的のもとで作動する.教育では、その目的は大きくは外から与えられるが、子ども自身の中に自生的に生まれる発達目標との整合性も大事になってくる。
2)入力情報 教師の講義内容,教材・教具,伝達メディアなどが,入力情報とその手段となる.子どもの既有知識の量と質,情報の提示チャンネル(目,耳など)への配慮が必要とされる.
3)知識,データ これには,「~についての知識(宣言型)」と「認知的・運動的技能を支える暗黙の知識(手続き型)」とがある.最適の学習が生ずれば,処理の結果はより高次の知識構造を生み出す.
4) 処理プログラム 入力情報を目的に応じて変形・加工するための一定の方式に従ったルールの体系がプログラムである.授業の現場では、どれほど豊富で効果的なプログラムを子どもに提供できるかが勝負となる。
5)処理能力 大量かつ多彩な情報を効率的に処理するには,認知システムの十全な働きを必須とする.学習指導の結果として,こうした能力(情報活用能力)の陶冶も期待されているのは言うまでもない.
学習指導を情報化社会のキーワードである情報処理の概念枠のなかでとらえ直すことによって,子どもの学習を時代思潮の流れのなかに位置づけて考えることができるようになる。(海保博之) ****本文68行
「情報処理」
●情報の伝達から処理へ 有史以来、情報は伝達する対象であった。しかし、1937年にコンピュータ・ABCが開発されることによって、情報は処理される対象に変わった。つまり、通信系を介して「5+9=」の答を相手に伝達するだけであったのが、コンピュータは「5+9=」の答を出すという計算処理をするようになったのである。 これに呼応して、心理学でも、人間を情報伝達系(通信系)とみなすモデルから、情報処理系(information processing system)とみなすモデルが採用されるようになり、60年代から70年代には、情報処理的アプローチに立脚した認知心理学が隆盛を極めた。
●情報処理をあらためて定義する 情報処理とは,生体,機械,組織など,部分と全体とが有機的関係を保っているシステムにおいて,入力された情報をシステム内に貯蔵されている知識とデータとを使って,目的に適うように変形,加工することである. 情報処理を考える上では,入力情報,処理の目的,システム内に貯蔵されている知識・データ,処理プログラム,処理能力(速度,容量)の5つが問題になる.
●学習指導を情報処理の枠組でとらえる 子どもの認知システム(知覚,記憶,思考)を,教師の与える情報を選択,分類,関連づける一つの情報処理システムとみなせば,学習指導も情報処理の概念枠でとらえ直すことができる.
1)処理の目的 情報処理システムはある目的のもとで作動する.教育では、その目的は大きくは外から与えられるが、子ども自身の中に自生的に生まれる発達目標との整合性も大事になってくる。
2)入力情報 教師の講義内容,教材・教具,伝達メディアなどが,入力情報とその手段となる.子どもの既有知識の量と質,情報の提示チャンネル(目,耳など)への配慮が必要とされる.
3)知識,データ これには,「~についての知識(宣言型)」と「認知的・運動的技能を支える暗黙の知識(手続き型)」とがある.最適の学習が生ずれば,処理の結果はより高次の知識構造を生み出す.
4) 処理プログラム 入力情報を目的に応じて変形・加工するための一定の方式に従ったルールの体系がプログラムである.授業の現場では、どれほど豊富で効果的なプログラムを子どもに提供できるかが勝負となる。
5)処理能力 大量かつ多彩な情報を効率的に処理するには,認知システムの十全な働きを必須とする.学習指導の結果として,こうした能力(情報活用能力)の陶冶も期待されているのは言うまでもない.
学習指導を情報化社会のキーワードである情報処理の概念枠のなかでとらえ直すことによって,子どもの学習を時代思潮の流れのなかに位置づけて考えることができるようになる。(海保博之) ****本文68行