安全、安心の心理学 新曜社刊
テーマ:海保の著作物
はじめに
「安全と水はただ」(山本七平)だったはずの日本の伝統的な「安全・安心社会」を脅かす犯罪、災害、事故が多発している。
世論にもそれが敏感に反映されている。たとえば、世論調査によると、
・日本人の86%が「10年前より安全な国でなくなった
(2004年Gallup調査HPより)
・「今の日本は安全・安心な国か」に対して55.9%が
「そう思わない」としている(内閣府、2004)
高リスク社会に対応するための個人的、社会的な諸施策もとられようになってきた。
犯罪も災害も事故も、最後に被害を受けるのは人である。そこに心理学がかかわってくる。本書では、そのかかわりを考えるためのキーワードを拾って、心理学の立場から考えてみた。
何がなんでも人の心の問題、あるいは心理学の問題に還元してしまう「心理主義」、あるいは「心理学化」には、問題の解決をも個人の心だけに求めてしまう危うさがある。しかし、人の心への配慮なしの制度的、法律的、組織的な安全、安心対策にもまた危ういところがある。
なお、あたかも「ゼロリスク社会」をめざすかのような極端な「管理」施策も一部ではみられる。「角を矯めて牛を殺す」ことになってしまうのも、まずい。「リスクとの共存」ができる社会をいかに作り出すかに周知を集めるべきであろう。
本書は、序も含めて5つの部から構成されている。
序では、安全・安心の心理学の周辺を探ることで、安全・安心の問題を多彩な視点から論じてみた。
1部では、危険予知の心理と題して、あらかじめ想定される危険を予知し、それに備えることで、安全・安心を確保することにかかわるキーワードを取り上げてみた。
2部では、安全保持の心理と題して、安全、安心できる状態をできるだけ長く保持するための心の課題にかかわるキーワードを取り上げてみた。
3部では、犯罪、災害、事故に直面したときの対処にかかわる心理学のキーワードを取り上げてみた。
4部では、後処理で発生する心の諸問題にかかわるキーワードを取り上げてみた。
なお、本書は、前著(田辺と共著)「ワードマップ ヒューマンエラーーー誤りからみる人と社会の深層」(新曜社)の発展的な本としての位置づけになる。1996年発刊されて以来まだ版を重ねているので、合わせてお読みいただければ幸いである。
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