●ちょっとした日常事故を引き起こすもの
日常の行為の特徴は、いつもと同じ状況で多彩なことを、ほとんど無意識的かつ自動的(習慣的)に行なところにある。
たとえば、我々大人の朝起きてから家を出るまでにする多彩な行為を考えてほしい。いずれも無意識的かつ自動的だからこそ、ごく短時間で意識的な努力もせずにこなしている。子供の朝のぐずぐずぶりと比較されたい。
こんな日常の中では、事故は無縁のように思えるが、現実には、かなりの頻度で発生してしまう。なぜか。
一つは、「いつもとちょっと違う」日常が発生しているのに、いつもと同じようにやってしまったために、状況と行為との間にギャップが生じてしまったことによる事故である。
机の位置がちょっと動いていたのに、いつものようにまっすぐ歩いてぶつかってしまった。いつもは閉まっているドアが開いていたために、ドアにぶつかっってしまったなどなど。
2つは、状況はいつもと同じなのだが、自分のほうが変化していて、状況と行為の間にギャップが生じてしまったことによる事故である。
人の能力は、高まるものもあれば衰えるものもある。いつもと同じにやっているつもりでも、たとえば、高齢者の場合は、70%しかパワーが出ていない、若者の場合は130%のパワーが出ていた、というようなことがある。この30%が、高齢者の場合は、「能力劣化による事故」、若者の場合は、「勢い余っての事故」を起こす。
さらに、頭の働き、とりわけ注意も時々刻々と変化している。いつもはそれとなく注意を払ってやっていた皿洗いが、あわてたために失敗してしまう、ひげそリ時に子供が泣きだし、そちらに注意がとられて、ついうっかり顔に傷を作ってしまうなどなど。
要するに、日常のちょっとした事故は、状況と自分の行為との間に「みえにくい」ギャップが発生してしまうために起こるのである。