2004年度後期終業式挨拶
2005年3月18日
筑波大学附属高校
学校長 海保博之
「3低を克服しよう」
●日本の最近の若者の「3低」
昔、結婚の条件に「3高」というのがありました。 「学歴が高いこと」「年収が高いこと」「背が高いこと」の3つの「高」が、女性にとっての結婚の条件でした。
それにならって言うなら、最近の若者の特徴は、「3低」です。
・学力低下
・意欲低下
・規範(モラル)低下
今日は、この3つの「低」について、少し話しをしてみます。
●まず、学力低下です。
NHK放送文化研究所編「中学生・高校生の生活と意識調査」(NHK出版)によると、学校外での1日の勉強時間は、
1982年時点で、中学生113分、高校生99分
2002年時点で、中学生 73分、高校生55分
となり、20年間で序々に減少しここまで短くなってきました。
また、別の調査(内閣府「第2回青少年の生活と意識に関する基本調査」2000年)では、1995年と2000年とを比較すると、小学生から大学生まで、「ほとんど勉強していない」と答えた割合が、増え、さらに、その割合は、小中高大となるにつれて増加し、高校生では39・7%、大学では、なんと47.5%が「ほとんど勉強していない」と答えています。
国際比較のデータもあります。日本の15歳の勉強時間は、ギリシャの半分で、8か国中の最低です。
勉強時間が長ければよいというものではありませんが、どこまで短くなってしまうか、やや心配です。
もう一つ、読書に費やすお金です。1980年に、「学生(自宅外)の書籍代」は5,350円。2003年には、ほぼ半分の2,560円にまで落ち込んでいます。
●勉強することは良いこと
勉強時間の長短はともかくとして、若者にとって勉強することが「良いこと」であるのは、間違いありません。
・長い人生で役に立つ知識をたくさん仕込むことができます。
・集中力、記憶力、思考力などの基盤となる能力も陶冶(とうや)できます。人生で何回かは挑戦しなければならない、知識競争、能力競争に打ち勝つための強力な武器を身につけることにもなります。
●次は、意欲(モラール)の低下です。
これもデータを紹介します。藤沢市教育委員会が5年ごとに定点調査をしています。それによると、中学3年生に、「もっと勉強したいと思うか」を尋ねると、「はい」の割合は、1965年の65%から2000年度は、24%にまで落ち込んでいます。
これは勉強のモラールですが、仕事をしようといるモラールもおそろしく低下しているようです。ニート (neet;not in education,in employment,in training) と呼ばれる若者52万人、あるいは、いつまでも家に引きこもってしまっている若者も増加傾向にあるのも,少し心配です。豊かな社会で、勉強、仕事へのモラールを高めるのは、非常に難しいところがあります。
●家を出て退路をたつことが一つの乱暴な対策ですが、今度は保護者のほうが、離さないということもあるようです。
●さて、最後が、モラルの低下です。
モラルは、公と私を分けられるところから始まります。ところが、これが怪しくなってきました。電車で化粧、公の場で携帯電話、公の場での私語などなど。ケータイを持ったサル(正高信男)が、あちこちに跋扈するようになりました。
たとえば、エレベータに友人と2人で乗りました。途中で、見知らぬ人が乗り込んできました。さて、この時、あなたは友人とのおしゃべりを止めますか、続けますか。
止める人は、公と私の区別ができている人ですね。第3者が乗り込んできたことで、エレベータが公的空間に変化したのです。
おもしろいことに、20年前は8割が沈黙したのに、最近では半数くらいしか沈黙しないそうです(正高信男「ケータイを持ったサル」中公新書)。
●一人一人を大切にする民主主義がどこかではき違えられてしまったような気がします。
公と私の関係を今一度、考え直してみる必要がありますね。
●では、新学期、お兄さん、お姉さんとして、元気な姿をまた見せてください。
●知識は、われわれが天に飛翔する翼である。(シェークスピア)
●デカルトは、記憶がだめ。それが、「方法序説」で、確実な前提から出発し、論理的な連鎖によって物事を原因から演繹的にとらえる方法を打ち立てさせた。(中村雄二郎)