消費者は“情報の森”の中で迷子状態
「適切な思い込み」に誘導する指針を示すことこそ、真のホスピタアリティある広告
インターネットやモバイルの普及がもたらした、情報が氾濫する社会。情報量の多さに加え、CGMの登場がインターネット情報の玉石混交度に一段と拍車をかけている。正しい情報と誤った情報、必要な情報と不必要な情報の識別が非常に難しくなっているのが現状だ。
また、こうした社会の変化に伴い、消費者の情報入手経路や商品購入方法も多様化。さらに、どのメディアをベースに商品情報を得ているかによっても、情報の取り込み方や判断軸にある種のくせがあると思われる。
東京成徳大学 応用心理学部福祉心理学科教授・海保博之氏は「企業が製品マニュアルやパッケージの表示、広告表現などを考える際に、平均的な消費者像を想定しにくい状況にある」と指摘する。
特に製品マニュアルに関しては、こうした状況に加え、製造物責任法(PL法)、さらには昨今盛んに言われている企業のコンプライアンスという側面も絡んだ結果、「誰もが知っていて、わざわざ言う必要のないような当たり前のことまですべて記載。たとえば、随所に“警告”“危険”“注意”といったアイコンや注意書きが出てくるため、 。それが、製品の組み立てや使用方法の説明の流れを中断させてしまっている。また、あまりに細かく書かれていることにより、本当に大事な部分を埋もれさせて見えなくさせってしまっている。という意味でいわば、情報ノイズがあちこちに発生してしまっているのである。安全面ばかりに目がいって、読みやすさや分かりやすさといった快適使用の部分がおざなりになるなど、ユーザー視点に欠けたマニュアルが跋扈することになっている」として、「あれこれ書く、あるいは書かざるをえないにしても、内容と表記にメリハリを付けることで、ある程度、こうした問題点を解決できる」としている。を求めている。
他方、消費者について海保氏は「ユーザーは“情報の森”の中をさまよい歩きまわりながら、どうしよう、どうしようと迷っている不安な状況にあり、そこから早く脱け出そうとするあまり、“思い込み”という蜘蛛の糸にみずからとらえられて不安を解消しようとするしがみつこうとする傾向がある」と指摘。昨今ランク付けが流行、1位の人なり商品なりに多くの人が飛びついてしまうくのも、この“情報の森”から抜け出るひとつの蜘蛛の糸(出口)ではないかとの思いから出る希望的観測に基づく思い込みによる行動であるというのだ。
思い込みには、その場で使えそうな知識を持っているがゆえに起こる「知識」に基づくもの、究極の飢餓状態で見るものすべてが食べ物に見えるといったなになにをしたいという「欲求」に基づくもの、お化けは絶対にいると信じているがゆえに枯れ木を幽霊と見間違えるといった世の中こうあるべしという「信念」に基づくもの、の3タイプがあるという。
こうした消費者の置かれている状況、社会的事情・背景を踏まえた上で、海保氏は「ホスピタリティあふれる広告表現とは、抽象的だが、“情報の森”の中にいる不安一杯の消費者に「適切な」思い込みへとガイドして不安を解消してあげるもの」と指摘する。‘なお、「適切」でないと、詐欺行為になる。)
自社の商品・サービスのお客さまが何に基づいた、どのような「思い込み」をしているのか、したがっているのかを把握すること。
たとえばダイエット商品でやせたいという「欲求」の強い人には成功体験者の実例を、「知識」ベースの思い込みタイプには学者など権威による科学的根拠を提示といった具合である。「適切な」思い込みへと導く情報の提供は、消費者の不安を解消するだけでなく、「なるほど」という納得感も持ってもらえることになります。
ターゲットが求めている情報を過不足なく的確に提示。同時に、その商品があることによってどれだけ自分の生活が快適になるか、納得できるものになるかというストーリー(思い込みの世界)を提供できれば、まさにそれこそが「真のホスピタリティ」を持った広告であるというわけだ。