天網恢恢疎にして漏らさず

映画レビューを中心に(基本ネタバレバレです)スキーやグルメ他、日々どうでもいいような事をダラダラと綴っています。

【映画】「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」@22作目

2021年06月23日 | 映画感想
「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」

1998年冬季長野五輪のスキージャンプラージヒル団体で奇跡の金メダルに輝いた日本チームの裏で何があったのか…を描いた実話の映画化。
このエピソードはスキー好きさんやスキージャンプ好きさん達の間では結構有名な話で、当時から話題になっていたので自分もよく覚えています。
本作の主人公「西方仁也」氏は勿論実在する人物で…と言うか、本作ほぼ登場人物実在・実名です(裏方メンバーの人達までは把握してましせんが)

あらすじ
1998年の長野オリンピック。スキージャンプ元日本代表の西方仁也(田中圭)は、ラージヒル団体で金メダルを狙う日本スキージャンプチームのエース原田雅彦(濱津隆之)のジャンプを見つめていた。西方と原田は前回のリレハンメルオリンピックに代表選手として参加し、ラージヒル団体では金メダルまであと少しだったが、原田のジャンプ失敗により銀メダルで大会を終えていた。西方は4年後の長野オリンピックを目指すが、腰の故障で代表を逃す。(Yahoo!Movieから丸パク)

西方氏を田中圭さんが演じているのは、まあ…正直そんな西方氏と似てると思わないんだけど、コレはコレでいいかなと。
それより原田さんを「カメラを止めるな!」の濱津隆之さんが演じられてるんですけどね…に、似てるわw原田さんを演じるのは確かに彼以外いない!!
個人的にはクライマックスのジャンプの後で原田さんが「船木ー!船木ぃー!」って叫んでた、あの名シーンは再現して欲しかったんだけどなぁー。

そう、原田さんは毎回やらかしてくれてた(苦笑)
映画冒頭でも出てくるけど、そもそもが長野の前のリレハンメルで「絶対に金、しかも楽勝で!」な雰囲気の中で原田さんがやらかしたせいで金を取り逃してしまう。
スポーツなんだからさ、戦犯なんか作っちゃダメなのよ。団体競技は皆の力の結集。だから「誰それのせいで」なんて事はある訳ないのよ。…表向きはねw
実際のトコロ、リレハンメルで金を逃したのは紛れもなく原田さんの大失敗ジャンプが原因だった。アスリートを攻めるのは間違っている、と誰もが心の表では判っているからそこまでエゲつない「糾弾」は表向きにはしなかったと思うけど、でもマスコミも国民も誰もが「原田のせいで」っていう空気感がバリバリに出ていた。
それでもって原田さんのキャラがまた…あの半泣きみたいな笑顔でヘロヘロ笑いながら「いやぁ~やっちゃいましたぁ~w」みたいなノリだったから、「戦犯本人がニヤニヤしてんぢゃねーわ!(怒)」みたいな不穏な空気も結構あって、当時裏で原田さんに脅迫状のようなモノを送り付ける輩も結構いたと後に原田さんも語ってましたね。

本作が凄いなーと思うのは、西方氏を決して清廉潔白で心清らかなアスリートとして扱っていない部分ですね。
多分本作を制作するにあたって、制作陣は西方氏ご本人や周囲のアスリートともよく当時の心の葛藤部分等細部にまで立ち入って打ち合わせをしたんだろうと想像します。
本作には他にもこの五輪にまつわる小さなエピソードも散りばめられていて、例えば有名ドコロではこのラージヒル団体の代表に「レジェンド葛西」は選ばれなかったんですよね…後に葛西さんが世界中のジャンパーから神扱いされるようになるだなんてこの時には誰も思いもしなかった訳ですが。
葛西さんも後に長野五輪の時の事を振り返って「団体代表に選ばれなくて腐りまくった」みたいな事を語っていたのが印象的です。
西方氏も葛西氏も一生懸命やって来た、でも不運な怪我に見舞われてここ一番で大舞台の切符を取り逃がしてしまう。お涙頂戴感動アスリート映画なら涙を拭いて顔を上げたら後は代表に選ばれた仲間の成功を祈って応援に励む、というのが正しい姿なんでしょう。でも人間そんなに簡単に割り切れるもんじゃない。
西方氏だって葛西氏だって、それこそ血の滲む努力を続けて来たんだし、それなりにちゃんと結果も出してきたんだという自負もある。その中でしのぎを削って自分が弾き出されてしまった…そんなの、自分の中で簡単に消化出来る訳ない。恨むよ憎いよアイツ潰れろとか汚い事も考えちゃうよだって自分があそこに立ててたハズなんだもん!
…本作はそういうアスリート達の生々しい葛藤(どす黒い感情)も等身大にさらけ出しているのが凄い事だなあーと、改めて「アスリートの業」を見せられましたね。

それから当時はまだ女子のスキージャンプは競技種目として認められてなかったんだよねー。
今でこそ高梨沙羅ちゃんや伊藤有希ちゃん、丸山希ちゃんみたいな女子ジャンプアスリートの名前が冬になるとバンバン報道されるようになったけど、当時は女子はジャンプ頑張ってもオリンピック競技種目として認められてなかったから全く何も結果が付いてこない、空しい競技だったんだよね。
本作ではテストジャンパーの紅一点として日向坂46の小坂菜緒ちゃんが出演されています。彼女具合悪くして今活動休止してるって?大丈夫ですかね?

それから聾者アスリートも登場します。この方も実在するジャンパーさん(高橋竜二さん)で山田裕貴くんが高橋さんを演じられています。
この山田くんが演じられた高橋さんのキャラクターが非常に魅力的で、「ウーロン茶ネタ」は映画のクライマックスまでネタ引っ張って来てなかなか上手いです。
山田くんも聾者という難しいキャラクターを凄く研究されて演じられていたのではないかなと。最近の若手役者さんって皆さんホントにお上手よね。

本来なら1年以上前に公開予定だった本作、どうせ公開延期するならスノーシーズンに公開するのが妥当では…とも思いつつ、東京オリンピックに照準合わせての公開なのね。
五輪ネタでジワジワ東京オリンピックを盛り上げて行こう、という気持ちは何となく分かりますよ。しかも本作はガチの実話ですしね。
輝かしい舞台の裏に多くの報われなかった五輪強化選手達の姿がある。彼らの汗と涙を踏み抜いて栄光の舞台にほんの数人だけが立つ事が出来る。
きれい事では済まされない様々な思いがあの舞台には詰まっているんだなぁ~と、改めて五輪の重さを感じさせて貰った気がします。
東京オリンピック、もうここまで来たんだから後はアスリートさん達が少しでも良いパフォーマンスが出来る環境であるように祈るばかりです。
コメント
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