人口筋肉によってカバーリングされた機械、脳の一部を麻痺させることによって罪の意識から逃れる暗殺者、核兵器が実際に使用されてしまったことで、ヒロシマの常識(核は使わないことに意義がある)が通用しなくなった世界……魅力的な世界観にまず圧倒される。
なにより、特定の国において血で血を洗う虐殺が横行するようになる理由がすばらしい。いかにもありそうだし、現実に誰かが研究をしていそうだ。
人間の生死にきわめて意識的な小説。作者の伊藤が闘病しながら執筆したことと無縁ではないだろうが、これがデビュー作とはどんだけ凄いんだか。しかし彼は長篇3作を遺して逝ってしまった。そのDNAを円城塔が継ぐとしても、いかにも惜しい……
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虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA) 価格:¥ 756(税込) 発売日:2010-02-10 |