なぜかいまバカ売れ。書店に平積み状態。1991年に発表されたミステリがなぜ二十年以上もたって?
どうやら祥伝社の営業攻撃+取次の日販のプッシュという事情があったみたい。しかしこれはうれしい。わたしは「二の悲劇」は読んでいたけれどこの作品は未読。この騒ぎがなかったら一生読まないで終わったかもしれない。
広告代理店勤務のエリートサラリーマン山倉に、妻から電話がかかってくる(この時代はまだ携帯電話が一般化していないことに注意)。長男が誘拐されたと。しかしその長男は風邪のために学校を休んで二階で寝ている。実際に誘拐されたのは近所に住む同級生だった。取り違えなのか。しかし山倉にとってこれは違った意味をもっていた。その同級生は7年前の不倫でできた子ども。そして息子は妻の妹の子なのである……
犯人を序盤で当てることができる人はまずいないと思う。それほどに怒涛の展開。「天国と地獄」(黒澤明)の取り違え誘拐や、某有名作家の某直木賞受賞作品などを下敷きに、どんでん返しにつぐどんでん返し。
アリバイトリックが中心と見せて密室殺人も起こり、ダイイングメッセージまで出てくる。おまけに“信用できない語り手”なのかと読者を混乱させ……とミステリのあらゆる手法を駆使してあるのだ。面白くないわけがない。
ただねー、カタルシスがあるかどうかは微妙なところで、エリートサラリーマンが多少の火遊びなんかでそんなに罪悪感を抱き続けられるものなのかしらと。あ、偏見。
精緻に組み上げられた犯罪であるために、名探偵の登場は必然。しかも、犯人のアリバイづくりに探偵が利用される展開はさすがだ。しかし、しかしネタバレになるので微妙な話だけれど言いたい。“第一の犯人”の、どこか人生を諦めきった感じと、名探偵をひっかける奸智の同居はどうにも納得がいかない。それに、この主人公を好きになれる人っていますか(笑)
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一の悲劇 (ノン・ポシェット) 価格:¥ 680(税込) 発売日:1996-07 |