「虐殺器官」があまりにすばらしかったのでいきおいで読む。で、これがすごい傑作にして彼の遺作なのだ。34才。あまりに早い。
大災過、と呼ばれる騒乱の果てに人類が行き着いたのは、WatchMeとよばれるソフトを人体にとり入れ、心身ともに健康な生活を“全員が”送る世界だった。その一律さ、健康さから逃れるために、三人の少女はある行動を起こす……
道徳的で、やさしい思いやりのあふれる世界。おとなになってWatchMeがインストールされれば、そのことの怖さ、異常さに気づくことさえできなくなっていく。
そこに気づいたカリスマ的少女がまず魅力的なのだが、彼女に影響された主人公が、不健康さを享受するために危険な場所に突撃する役人になるという設定がすばらしい。たばこを吸うために学校の正門前に逃避するのとは100万倍ぐらいスケールが違う。
わたしは逆のことを思うんです。精神は、肉体を生き延びさせるための単なる機能であり手段に過ぎないかも、って。肉体の側がより生存に適した精神を求めて、とっかえひっかえ交換できるような世界がくれば、逆に精神、こころのほうがデッドメディアになるってことにはなりませんか。
……これを、常に死を意識しなければならなかった若き男が書いたことの重みを思う。
ミステリ的に周到なのは、文中に大量のマークアップ言語がしこんであることで、そのことが最後に生きてくる。そう来たかぁっ!とたまげてしまいました。タイトルの意味も壮絶。ああ、伊藤の“次”を早く読まなければ。そう、円城塔が伊藤の発想をひきついだ「屍者の帝国」を。でも、それで本当に最後なんだよなあ。
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ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) 価格:¥ 756(税込) 発売日:2010-12-08 |