事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「天下一の軽口男」 木下昌輝著 幻冬舎

2016-07-23 | 本と雑誌

宇喜多の捨て嫁」で、純粋悪・絶対悪の宇喜多直家を描いた気鋭の新人作家が、今度は上方落語の祖と言われる米沢彦八の生涯を描く。振れ幅でかいなー、意図的にさまざまな題材にチャレンジしているのだろうけれど。

米沢彦八という存在は知りませんでした。でも確かに実在していたらしく、名古屋で亡くなったのもこの小説と一致している。

彼は子どものころから話芸をみがき、話芸だけで食えるようになりたいと願っていたし、その才もあった。ただ、江戸時代中期においては、純粋の話芸がまだ評価されておらず、辻立ちしているなかからスカウトされ(まさしく、芸能プロのスカウトマンのような存在がいたのだ)、豪商たちに座敷で芸を披露するのが成功とされていた。

彦八はそんな金持ちの慰み者になるよりも、庶民に向けて芸を発信し、笑いをとりたいと願う。そのために、彼はオリジナルの芸をつくりあげ……

現代の芸能とつながる部分が多いのに驚く。もちろんこれは木下の計算でもあるだろう。ネタをパクられて江戸に行かざるをえなくなるとか、ライブによって芸がみがかれていくとか、オリジナルこそが至上であるとか。

古典落語にあぐらをかける状況にはもちろんその頃はなく、“古典”という発想すらなく、だいたい“落語”というジャンルすらなかったのだから。米朝や春団治の先達は、なかなかにハードな人生を歩んだようだ。

そんな彦八が、実はいちばん笑わせたかったのは誰なのか、このあたりは泣かせます。さあ木下は、今度はどんな手でくるのかしら。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする