あれは小学生のころだった。プロ野球中継を見ていたら(山形県は日テレ系の山形放送しか民放がなかったので、当然巨人戦)、スポーツアナがテンション高く、
「この秋、ご覧の局の火曜8時から『ゲバゲバ90分!』という番組が始まります!」
と番宣。局をあげて、この特大ギャグ番組に賭けているのが小学生にも理解できた。今思えば井上ひさし、喰始、松原敏春などそうそうたる面々が書いていたのだ。
そのオープニングに登場したのが大橋巨泉と前田武彦。なにやら、これまでのテレビとは違う番組が始まったのだなとだけは理解できた。なにしろ大橋巨泉というその司会者は、視聴者にみじんも媚びを売らないのだ。熱中しましたよわたしも。
井原高忠、永六輔につづいて、大橋巨泉も亡くなったという。この三人の共通点ならいくらでもあげられるが、その最大のものは
・テレビはおれたちがつくった
という強烈なプライドと
・でもテレビなんかどうでもいい
と思っていたことだと思う(もっと大きいのは、彼らが戦争を知っていることだが)。確かに、テレビをつくったのは彼らだ。同時に、いつでもケツをまくってやると思っていたはず。
日テレの敏腕プロデューサーだった井原は早々にリタイアしたし、永はラジオの方を偏愛した。
巨泉にしても、「11PM」「クイズダービー(山形ではネットしていなかったので、東京に出て初めて見ました)」「世界まるごとHOWマッチ」「ギミア・ぶれいく」などのヒットを飛ばしながら(わたしが好きだったのは「巨泉のこんなモノいらない!?」だった)、しかし自分の生活を守ることを高らかに宣言していて、出演者を呼び捨てにするなど、文句があるなら辞めてやるという姿勢ありあり。週刊現代のエッセイも政治的に賛同できるものだった。そうか、亡くなったのか。
「この人の奥さん(浅野順子)はね、むかし少女雑誌のモデルですごく人気があったの」
さすがうちの妻は年季の入った芸能通だ。わたしにとっては鈴木清順の「けんかえれじい」における清純そのもののヒロインだった。どうして巨泉と?(笑)
今日のNHKニュースのトップに、「11PM」の、あのテーマソング(シャバダバダバダバア)が流れた。テレビ人として、あのNHKもそうせざるをえなかったのだろう。きっと五十代のお偉いさんが「日テレの許可もらってこい!」と命じたにきまっている。わたしたちの世代は、11PMでできあがっているもんなあ。
朝まるで弱い朝丘雪路や、長くラジオのアシスタントをつとめた一谷伸江も哀しんでいるだろう。合掌。