事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ナナメの夕暮れ」若林正恭著 文藝春秋

2020-09-15 | 本と雑誌

“正論が持て囃されている。

多様化された世の中では自分の中の正解に自信が持てなくなる。なんとなく正しいことを言ってそうな、有名人のコメント、Twitterのアカウント、誰かの正論に飛びついて楽をする。自分の中の正解と誰かの正論は根本的に質が違う。”

“なぜ相談もされていないのに、「野心や欲望が無いとダメ」と他人に言いたくなってしまう人がいるのだろうか。

自分の生き方に自信が有り過ぎるのだろうか?

それとも、無さ過ぎるのであろうか?”

うおおおお、なんという冷静さ。確かにオードリーの絡みを見ていて、尋常な才能ではないんじゃないかと(ちょっと)思わせてくれる若林だが、内面にこんな屈託や邪悪さや知性を抱えていたとは。しかも、だ。

“前作のエッセイで、スターバックスで注文の時に「グランデ」と言えないと書いた。

何か自分が気取っているような気がして、恥ずかしかったのである。

「L」は言えるのだが「グランデ」は言えない。

自意識過剰である。

自意識過剰なことに対して、「誰も見てないよ」と言う人がいるがそんなことは百も承知だ。

誰も見ていないのは知っているけど、自分が見ているのだ、と書いた。”

ここから若林はもうひとつ別の展開まで持っていく。並みの力量ではない。すごい

ベストセラーになったことが素直に納得できる。多くの人が、自分に若林的なものが内在しているに違いないし、もちろんわたしもその一人です。また言わせてもらおう。すごいです若林。にしてもダ・ヴィンチの連載だったのに文藝春秋から単行本が出たとは。ぬかったなー角川。

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「ミステリアス・ジャム・セッション」 人気作家30人インタヴュー」村上貴史著 早川書房

2020-09-15 | ミステリ

ミステリ評論家の村上貴史が、ほぼ二十年近く前にミステリマガジンに連載したインタヴュー集。当時の人気ミステリ作家30人に(ほとんどの作家と酒を飲んだりしつつ)創作の秘密を聞き出している。予想以上にディープで、量もたっぷり。しかもとても面白い。

表紙の画像を見てもらえれば、いかにすごいメンツだったかがわかる。で、ほとんどの人たちが元気じゃないですか。

亡くなったのって北森鴻と打海文三ぐらいか。まあ執筆から遠ざかっている人は何人かいるようだけれど(高野和明は「ジェノサイド」からこっち、何をしているんだろう)。

まあ今ではビッグネームになっているけれども、当時はまだ駆け出しの人を積極的にチョイスしたということか。30代とか40代が中心なわけで、だからみんな離職して作家になることに悩んだりしていたのだ。わかるなあ。

駆け出しの代表格のような伊坂幸太郎が、なにしろ案山子がしゃべる「オーデュボンの祈り」でデビューしたときに、設定が設定だけに一発屋で終わるだろうと思われ、その反発から書いたのが「陽気なギャングが地球を回す」だったというエピソードなど、リアルタイムでなければ聞けない話。そんな彼が、いまや押しも押されもせぬベストセラー作家になっているのだから痛快。

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