明治後期の北海道。狩猟によって生きている熊爪という男が、すでに人を屠っている熊と激突する。そしてタイトルが「ともぐい」
……となれば、獣のように生きる男と、神性すらおびる熊の、共食いの話だと誰だって思う。いや実際に熊と男の駆け引き、殺し合いは息詰まる圧倒的な描写の連続で、そこだけでもみごとな小説だと思う。でも、後半は思いもよらない展開を見せる。
「釧路の近くに、白糠ってとこはある?」
妻は釧路から酒田に来たのだ。
「あるわよ。お姉ちゃんの初任地がその近く」
高校教師だった義姉がそこにいたのか。
「不便なところでねえ」
熊爪が住むのは、その白糠からも離れた山中。
日露戦争直前のその地域は、次第に産業構造が変化しているのだが、それに気づかずにいる人物も登場し、味わい深い。そして、盲目の女性が現れ……
誰もが驚くラストだと思う。共食いの果てに、最後に生き残る存在がすばらしい。直木賞は当然だったでしょう。