その85「64(ロクヨン)後編」はこちら。
「よろずのことに気をつけよ」で江戸川乱歩賞を受賞した川瀬七緒の作品。これはもう、法医昆虫学という題材が圧倒的だ。
みなさん不思議に思わないだろうか。なぜ、死体にはウジがわくのだろう。いったいどの時点でハエがやってきて卵を産みつけるのだ。ひょっとしたらわたしたちの身体には常にハエの卵があって、死んで抵抗力がなくなった途端に孵化するのかと怖いことまで考えてしまいました。
違った(よかった)。
人間であっても動物であっても、死臭を察知して死亡してからわずか10分後にある種のハエがやってきて卵を産みつけるのだそうだ。これはしかし凄い話ではないだろうか。いったい世の中にはどれだけハエが飛んでるの?
これもおそるべきことに、昆虫は、個体数でみれば哺乳類よりも二桁は違うほど多く存在しているらしい。地球は虫の星だったのである。
死体の話にもどろう。産みつけられた卵が孵ってウジとなり、脱皮し、成虫となる。そしてまた卵を産みつけてウジとなり……このように、狭い環境のなかでも昆虫は完結した生態系をつくる。
そのため、どの時点で犯罪が行われたかの検証は、なまじっかの検死よりも昆虫を観察した方が正確に類推できる……話半分にしてもたいしたものだ。
主人公の法医昆虫学走査管の赤堀涼子は、ナウシカなどに代表される虫愛(め)ずる姫君の正統な後継。ミステリとしてはいかがか、という部分もあるけれど、とにかく面白い!
ご想像のとおりグロい描写が多く、およそドラマ化、映画化は望めないけれど(いや、油断はできない)、腐敗、ウジ、血だまりなどの単語にひるまない方なら、お楽しみいただけると思います。まあ、万人向けじゃなくても、十人向けにはなってるはず。
その87「孤狼の血」につづく。
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