事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

あ・じゃ・ぱんPART1

2012-01-18 | 本と雑誌

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あ・じゃ・ぱん!(上) (角川文庫)
価格:¥ 780(税込)
発売日:2009-11-25

角川文庫の上巻485ページ、下巻662ページの超大作。

あの矢作俊彦が“ひょっとしたらこうであったかもしれないニッポン”を構築することで戦後日本を批判し、絶望し、そして賞賛もしている作品というか。こりゃ、生半可な覚悟では読み通せないな、と胃腸炎で寝込んでいるときに一気読みしました。いやはや大傑作。

設定は分断国家もの。敗戦後、1945年9月24日、東経139度線を境に西はアメリカに統治された大日本国、東はソ連に統治されて日本人民民主主義共和国となる。ここまでは、まだ他の作品にもある設定。実際、戦後日本については

・北海道、東北……ソ連

・関東・中部・福井県を除く北陸及び三重県付近……アメリカ

・四国……中華民国

・中国・九州……イギリス

・首都東京の23区…… 米・中・ソ・英の共同管理

・福井県を含む近畿……中華民国とアメリカの共同管理

なる案が連合国間で語られていたくらいだ。現実には天皇の処遇や、そろそろ冷たくなっていたアメリカとソ連の関係がそうさせなかったわけだが、「あ・じゃ・ぱん」(今さらですけど伴淳三郎の「アジャパー」と不定冠詞のついたJAPANをかけた造語です)においては、米ソの対立がそのまま分断に直結している。

ここから、偏執狂的なといえるぐらいの矢作の作り込みが始まる。この作品における歴史はこんな具合だ。

・1945年8月4日 ソ連、北海道に上陸

・1945年8月17日 アメリカ、新潟に原爆を投下しようとするが、失敗して富士山に落下させてしまう。その影響で富士山が噴火。富士山(=日本)の姿が“損なわれる”。

そして降伏、分割後……

・1964年 京都オリンピック開催

・1968年 ジョン・F・ケネディが弟ロバート、フランク・シナトラなどとともにテロで爆死。

・1969年 東京ナロードニキ大学(東京大学)の学生、安田記念講堂に立てこもる。同時期に京大の学生が京都タワーを占拠
……あああ次号につづく

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わたしの2011~極私的ベストワン

2012-01-16 | 読者レス特集

Paula_patton_img04 興行収入関係はこちら

さあ今回はあくまでわたしにとってのベストワンを。

◇映画

これはもう年末に宣言してしまったのだから「ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル」で決まり。「冷たい熱帯魚」「ヘヴンズストーリー」「奇跡」の邦画勢がそれにつづく。洋画で好きだったのは「マネーボール」「オーケストラ!」そして「猿の惑星 創世記」。女優№1は「冬の小鳥」「アジョシ」のキム・セロン。本音ではポーラ・パットンに持ってかれまくりですけれど。スパイって美人じゃないとダメなのかよ。男優は「冷たい熱帯魚」のでんでんでしょう!

◇ミステリ

ジェノサイド」高野和明、「殺し屋 最後の仕事」ローレンス・ブロック、「折れた竜骨」米澤穂信、「引かれ者でござい」志水辰夫、「卵をめぐる祖父の戦争」ベニオフ、ときて、しかし最高だったのはまもなく特集する「あ・じゃ・ぱん」(矢作俊彦)だ。腰痛やら神経痛やらで散々だった年末も、しかしこの超大作のおかげで有為なものになりました。よかったよかった。

◇ミステリ以外

2011はわたしにとって穂村弘元年。この歌人のエッセイはほんとうに面白い。短歌に対するわたしの偏見は完全に吹き飛びました。ということで今回は「整形前夜」を。ほかに古川日出男「二〇〇二年のスロウ・ボート」、いまさらだけど高峰秀子「わたしの渡世日記」がおすすめです。

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「赤の他人の瓜二つ」 磯﨑憲一郎著 講談社

2012-01-15 | 本と雑誌

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赤の他人の瓜二つ
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2011-03-18

語り手である“私”は、冒頭にしか出てこない。以降は、“私”にそっくりな赤の他人(つまりは自分であったかもしれない人物)や父、あるいはチョコレートに翻弄される人物たちに主体がどんどん移り変わっていく。こんな手があったのかとびっくり。

この手法あるかぎり、物語はどのような方向にも飛んで行けて、その代わりに文章に魅力がないと読者に放り出されてしまう。その意味でこの作品は完全に成功している。なにしろ面白くって仕方がないのだ。さすが「終の住処」で「あ、芥川賞受賞作も面白いんだ」と思わせた磯﨑憲一郎。やるなー。

日本人作家が描く、もうひとつの「チョコレート工場の秘密」。ぜひ。

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わたしの2011~興行収入篇

2012-01-14 | 映画

Harrypotterandthedeathlyhallowspa_2 恒例になったマイベストシリーズ。まことに残念なことながら、どんなことにも震災の影響はみてとれる年だった。まずは映画方面からいきましょう。

2011年の興行収入トップテンは以下のとおり。

1  95.1(億) ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2

2  83.5 パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉

3  42.9 コクリコ坂から

4  41.6 トランスフォーマー ダークサイド・ムーン

5  41.4 劇場版ポケットモンスター ベストウイッシュ ビクティニと黒き英雄 ゼクロム/白き英雄 レシラム

6  37.3 ステキな金縛り

7  34.0 GANTZ

8  32.9 SP 革命篇

9  30.5 名探偵コナン 沈黙の15分

10  29.6 カーズ2

……映画興行に詳しい人なら、いかに厳しい数字かと感じると思う。物理的に被災地の映画館が上映できなかったこと以上に、映画を観ようという意欲がそがれた一年だったのが歴然。なにしろあのドラえもんがランキングに入っていない意味は大きい。

ハリポタは、第一作から漸減をつづけてきたとはいえ、評価の高かった最終作ですら100億に届かず、常勝パイレーツも予想をはるかに下回った。ジブリやトランスフォーマーも本来こんな数字ではなかったはず。健闘したのは「ブラック・スワン」「モテキ」「探偵はBARにいる」ぐらいか。

客として正直なことを言わせてもらえれば、震災を抜きにしても、『金を払って映画館で観たい』と思わせる作品が少ない年でもあった。何度タイムテーブルをながめてため息をついたことか……。次回は極私的ベストワン。それにしても、ホグワーツって同級生カップル多すぎ。

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改造。

2012-01-13 | 国際・政治

Yamaokaimg01 だから言ったじゃないの、とは結果論に過ぎると批判されるだろうか。

山岡賢次というお調子者を閣僚にしたあたりの甘さへのツケがこんなに早く。やれやれ。

小沢一郎には近ごろ失望させられっぱなし。彼は否応なしに(いろんなことに)勝たなければならないという事情を差し引いても、橋下あたりにすり寄る画像には気が遠くなった。

でも、検察審査会なる不可思議な存在のために彼への法的バッシングが続いている背景に、その審査会への報告文書自体が偽りだったことへの総括がなおざりにされているのはなんでだ。

給食を食べながら、新聞によって濃度は違うにしても(朝日よりも読売の方が大きな扱いだったのは、スクープってもののせい?)、なぜ小沢一郎の裁判が今でも続いているのかという根底が揺るいでいるのを、どうしてもっと報じないのだろうと考えこむ。

ただ、これだけは言える。小沢は子分に恵まれなかった。哀しいぐらいに。

党首選への小沢出馬を(小沢がそこまで望んでいたかは知らず)ひたすらはしゃいで牽引した山岡が、なぜ大臣になるのかはあまりにもわかりやすかった。茶坊主は嬉しかったんだろうな。

結果は予想以上に野田政権にダメージを与えた。

さあ改造。

Hiranoimg01 うわあああああ。あの平野が文科大臣っすか。何度も何度も批判してきたあの鳩山茶坊主がついに。この人事のなにが罪深いかというと、国対で(やっぱり)使い物にならない人材をとりあえず押しこめてしまえるポストが文科大臣だという部分。

今回の人事のキーワードは「黙っとけ」なんでしょう?ふうううう。

学校に勤める人間として新大臣にひと言。やっぱり「黙っとけ」だ。今度の人事をどう思っているか知らないけれど、お願いだから余計なことは言わなくていいからね。何もしないでいてね。

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開かずのお店 久村

2012-01-12 | 食・レシピ

201201111905000_2 今まで、うまい店ピンポイントとかで何度もとりあげてきたこの店は、さすがの展開を。

この店は開店が17:30に変更になったんです。ブログでちゃんと告知しろって言われたので(しまった。読まれてた)とりあえず報告。

昨日は17:40ぐらいに行って、赤提灯もちゃーんと点いているのに戸が開かない。

「?」

待ち合わせしていた元同僚に

「なんか戸が開かないからさー、別の店に行こうか」

と携帯で連絡すると

「オレいますぐ近くにいるからちょっと待ってて」

アクティブなその男は、酒屋の方から入って中から開けてくれた。要するに戸が凍っていたのである。

苦笑しながら思う。こんな状況でありながら、結局は満席に近くなってしまうこの店の強力さはすごい。

「百年ぐらい経ってるような店だから……」

女将がいうことが冗談に聞こえない(笑)。そういう次第なので久村に行く人は戸が開かなくてもギブアップしないこと!

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「台風クラブ」 (1985 東宝=ATG)

2012-01-11 | 邦画

Taifuclubimg02 三上くんはいま何をしているんだろう、と思う。

あの台風の夜さえなければ、東京の高校に進学し、お兄さんと同じように東大に入って立派な社会人になったであろう三上くん。

彼は担任に向かって吐き捨てたように“つまらない大人にならない”でいられただろうか。それとも、担任の心の屈託に気づき、自らの現在と引き比べて苦笑いをしているだろうか。

中学生というのはまことにしんどい存在で、やたらに自意識が過剰なのに加え、身体が大人に近づく過程に個人差がありすぎるものだから色んなことにいらつく。とにかくいらつく。

だから鬱屈がどんどん内向し、きっかけがあると爆発してしまう。その象徴がこの映画における台風だし、わたしだって教室の窓から遠くを眺め「来ないかな、ゴジラ」と中学時代は思っていた。

相米慎二が1985年に監督した伝説の映画。三上くんを演じたその名も三上祐一は、よくもここまでお兄さん役の鶴見辰吾にそっくりな子役がいたもんだと思ったらほんとに弟だった。工藤夕貴は、ひとり原宿の街を流浪する姿が美しい。愛に飢えている彼女の、自慰シーンはちょっとせつない。

彼ら中学生の日常のいらつきは、冒頭のプールのシーンから画面にあふれている。その湿度が飽和した瞬間に台風が襲来。もう、どうしたって歯止めがきかない描写はすごく納得できる。バービーボーイズの曲も合致。

「俺たちには、厳粛に生きるための厳粛な死が与えられていない」

という三上くんの言葉は痛烈だが

「あと15年もすれば、お前らも俺になるんだ」

という担任の返答もまた重い。演じた三浦友和はこの作品から名優への道を歩き始めました。

相米演出はあいかわらず歌を使って絶好調。今回はわらべの「もしも明日が」。台風の目に入った瞬間に始まる裸でのダンスは、中学生の本音をむき出しにしている。だってあの歌は、最後にこう終わるのだ……

愛するひとよ そばにいて

すべてが終わったとき、工藤夕貴の目に朝の学校が

「金閣寺みたい!」

に見えたことは、薄汚い大人のひとりである学校事務職員にとっても、小さな救いだった。

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ドッペルゲンガー 孤独の旅路

2012-01-10 | ドッペルゲンガー


YouTube: Neil Young - Heart Of Gold

サンボマスター関係はこちら。久しぶりドッペルゲンガー。

わたしもいい年なんだから、世の中には言っていいことと悪いことがあるのは承知しています。

「ちょっと待て 言ってよかこと 悪かこと」

「博多っ子純情」のセリフをちょっと変えてみました。でも、今夜のニュースを見ていて思いついてしまったものは仕方がない。うん、仕方がないっす。ジェンキンスさんネタまでやったドッペルゲンガーだもん。

オウム関係がネット上でどう扱われているかも怖いけど、言っちゃいましょう。17年間の「孤独の旅路」、いや女性がかくまっていたんだから「男は女が必要」か。カナダ出身のあのアーティストとあの人はひたすらドッペルじゃないですか!

遠く6年ほど飛んで本人篇につづく

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日本の警察~その44「東京影同心」 杉本章子著 講談社

2012-01-09 | 日本の警察

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東京影同心 (100周年書き下ろし)
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2011-01-14

その43「機龍警察」はこちら

明治元年、江戸町奉行所は市政裁判所と名を変え、のち、東京府に移管されて、完全に姿を消した。慶応三年、二五歳で異例の出世をし、南町奉行所定回り同心となった金子弥一郎。お役大事で、まじめに生きてきたこの男にも、コロリの流行、桜田門外の変、彰義隊と、文久、慶応、明治の大変動が襲いかかる。「八丁堀」が消えた明治の世になって、捕り物一途の男が見せる、己れと世の中につける決着。

いや、影同心とはいっても山口崇や渡瀬恒彦が必殺シリーズのぱくりでやっていたあれとは全然関係ないですよ。たとえが古すぎるけど。

タイトルからもわかるように、江戸から東京と名を変えた時代。八丁堀と呼ばれた奉行所は、そしてお上のご用を勤めていた同心たちはどう変貌したか。実は心の中では同心の魂を捨てていない主人公と、寄り添う芸者の粋さがいい。

つまりどうしたって時代にうまく乗れない人間の方が(愚かな生き方にしても)美しいと作者は語っているようだ。もっとも、反政府として駿府に移住して辛酸をなめた人間たちの悲惨さもまたリアル。

畠中恵の「若様組まいる」より少し前。薩長に恭順することがどうしてもできず、どう身を処せばいいか判然としないためにとりあえず居候をきめこむ正義漢。

この男のまっすぐさを、性格のきつい芸者が愛してやまないあたりのラブコメ具合がなんとも。信太郎シリーズが終わった今、こちらのシリーズ化を切望。

その45「警視庁FC」につづく

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山本五十六みたび。

2012-01-08 | 邦画

Isorokuimg02 PART2はこちら

東映の新作において前面に押し出されているのは、山本五十六の左手の指が二本欠損していることだ。そのことに驚いたお汁粉屋の少女に、あとでリボンをプレゼントするきっかけにもなっている。

この欠損は日本海海戦における負傷。つまり五十六が戦場の人であり、机上の空論をもてあそぶ司令部との乖離を強調するものだ。

戦場と司令部の対比は「連合艦隊」の方でも行われていて、戦争末期、司令部が日吉の慶応大学地下に移転し(知りませんでした!)、地下からはなにも見えはしないというセリフまで用意してある。

セリフといえば、「連合艦隊」の方では予備役だった船大工の財津一郎が、息子(中井貴一のデビュー作でした)の海軍兵学校入学を喜ぶものの、のちに息子が特攻隊に志願したことに気づき

「わしは何ちゅうあほな親じゃ。下士官上がりのひがみ根性が、せがれの命を縮めてしもうた。」

と悔やむシーンは泣けたなあ。

あ、話がそれた。この二本の五十六映画において、最大の差はなんと特撮なのだ。円谷英二の職人技は戦前から高名で、だから戦後も彼の特撮は使い回しなどが平気で行われるレベル。「ハワイ・マレー沖決戦」「ゴジラ」はその金字塔。スーツアクターの中島春雄(酒田出身)の回顧録などでもおなじみ。

「連合艦隊」では、直弟子といえる中野昭慶が特撮監督。円谷の技術、あるいは過去の作品のフィルムをそのまま援用している。これが…………やはりCG全盛時代の目からみるとしんどい。戦艦大和が岬から現れるあたりの“匂い”がいかにも東宝特撮だけれど、精巧なミニチュアを使った特撮はやはり過去のものだとしみじみ。

その点、しがらみも伝統もあまりない東映の新作は、最初からCGと割り切っているためにわたしのような円谷で育った観客の意表をつく。

五十六の命を奪った米軍機が、五十六の頭上に襲いかかってくるカットなど、みごとなものだ。平成ガメラシリーズがプラズマ火球で驚かせてくれたように、円谷を超えろのかけ声は、いまや十分に達成されてるんだなあ。

報道が事実を報ずるよりも、読者を啓蒙しようとした過ちは、いまもくり返されている。特撮のみごとさも含めて、そのテーマもあまり声高に語っていない点で、やはり礼儀正しい作品。ぜひ。

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