ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

シータテハとエルタテハ

2024-08-14 13:18:06 | チョウ/タテハチョウ科

 シータテハとエルタテハ。CとL。後翅裏の白紋の形から付けられた何ともユニークな和名である。先日、久しぶりにシータテハを見かけて撮影したので、和名も形態も似通った両種について比較してみた。まずは分類であるが、どちらもタテハチョウ科(Family Nymphalidae)ではあるものの、シータテハはキタテハ属 Genus Polygoniaで、エルタテハはタテハチョウ属 Genus Nymphalisである。分布や生息環境も似ており両種ともに成虫で越冬するが、シータテハは年に2回程度発生し、夏型と秋型の季節型がある。

  1. キタテハ属 Genus Polygonia
    • シータテハ Polygonia c-album hamigera (Butler, 1877)
  2. タテハチョウ属 Genus Nymphalis
    • エルタテハ Nymphalis vaualbum ([Denis et Schiffermuller], 1775)

 シータテハは、アジアからヨーロッパまで広く分布しており、国内では北海道から九州まで分布する。北海道では平地から山地に生息するが、本州での分布は不連続でやや標高の高い山地に限られる。同属のキタテハに似ているが、本種は翅の縁の切れ込みが深くくっきりしており、後翅表にある黒斑内に水色の斑がないので、容易に区別できる。花や樹液に集まり、オスは地表でよく吸水する。幼虫の食草は、ニレ科のハルニレ、アキニレ、エノキなどで、成虫は年に2回程度発生し、初夏から真夏にかけて現れる夏型と、秋に現れてそのまま越冬する秋型がある。夏型より秋型の方が、翅外縁切れ込みが深く、秋型の翅裏に縞模様があり、オスでは濃淡がはっきりしている。また、秋型の翅裏には部分的にコケ状の暗緑色斑が現れる場合が多い。
 シータテハは、環境省版レッドリストには記載されていないが、都道府県版レッドリストでは、和歌山県、鳥取県、岡山県で絶滅、島根県、徳島県、香川県、愛媛県で絶滅危惧Ⅰ類に、その他、四国と九州を中心に絶滅危惧Ⅱ類や準絶滅危惧種としてきさいしており、これら地域でも、現在はほとんど見られない状態となっている。

 エルタテハは、ユーラシア大陸とアフリカ大陸北部の旧北区のほぼ全域と北アメリカ大陸に分布し、日本では北海道と中部地方以北の本州に分布する。北海道では平地から山地にかけて、本州では主に標高1,000 m以上の食樹であるニレ科植物(ハルニレなど)やカバノキ科植物(ダケカンバ、シラカンバなど)がある落葉広葉樹林等に生息している。成虫は、年に1回の発生で7月~8月頃に羽化し、そのまま成虫で越冬した後、翌年の5月頃まで生きて産卵する。ノリウツギやナナカマド等の花を吸蜜することもあるが、ダケカンバ等の樹液、獣糞を吸ったり、腐った果実に集まったり、地面で吸水したりすることが多い。また、コンクリートの擁壁に止まり、エフロレッセンス(白華)現象によって生じた炭酸カルシウムの結晶を吸っている様子を見ることも多い。
 エルタテハは、環境省版レッドリストには記載されていないが、都道府県版レッドリストでは、東京都で絶滅危惧Ⅱ類、新潟県で準絶滅危惧としているが、本種はもともと個体数が少なく、植林に伴う自然林の消滅や生息環境の少しの変化によっても個体群が維持できなくなる可能性がある。

 シータテハとエルタテハは、キタテハにも似て翅色が地味で、しかも、どこにてもいるようでもそうではなく、撮ろうと思ってもなかなか出会えないチョウである。これまで、こうした希少種に近いものや絶滅危惧種、そして美麗種を中心に追いかけてきたが、近年ではチョウよりもトンボ類を撮ることが多く、今年に限っては、沖縄でコノハチョウを撮っただけである。トンボでは、成虫の図鑑的写真の他、生態の各ステージ、例えば羽化や交尾、産卵といった場面の撮影チャンスが多いが、チョウはそれらを野外で撮ることが簡単ではない。また、種類を数多く撮る事だけを目的としておらず、ジャノメチョウやヒョウモンチョウなどは撮らないことが多いので、本ブログにおいては、トンボ類の投稿記事が多くなっている。
 そろそろ自然風景写真も撮りたいと思っているが、夏も終わりに近づいているので、ヤマキチョウ等を久しぶりに撮っておきたいと思っている。

参照ブログ記事

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

シータテハの写真
シータテハ(夏型)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 100(撮影地:長野県 2024.08.10)
シータテハの写真
シータテハ(夏型)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 100(撮影地:長野県 2024.08.10)
シータテハの写真
シータテハ(秋型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/320秒 ISO 250 +2/3EV(撮影地:長野県 2011.09.10)
シータテハの写真
シータテハ(秋型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/800秒 ISO 200 +2/3EV(撮影地:長野県 2011.09.10)
シータテハの写真
シータテハ(夏型)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/640秒 ISO 100(撮影地:長野県 2024.08.10)
シータテハの写真
シータテハ(秋型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/200秒 ISO 200(撮影地:群馬県 2012.08.25)
シータテハの写真
シータテハ(秋型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/200秒 ISO 200 +1/3EV(撮影地:群馬県 2016.09.10)
エルタテハの写真
エルタテハ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 1250 +1EV(撮影地:長野県 2018.08.12)
エルタテハの写真
エルタテハ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F4.8 1/320秒 ISO 200(撮影地:群馬県 2012.08.25)
エルタテハの写真
エルタテハ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 320 +1EV(撮影地:長野県 2018.08.12)
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オオムラサキ

2024-07-27 16:40:34 | チョウ/タテハチョウ科

 オオムラサキ Sasakia charonda charonda (Hewitson, 1863) は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)コムラサキ亜科(Subfamily Apaturinae)オオムラサキ属(Genus Sasakia)に分類されるチョウで、日本の国蝶である。本種は最初に日本で発見され、学名の Sasakia は佐々木忠次郎博士に献名された。ちなみに、国蝶は、法律や条例で規定されたものではなく、1956年にオオムラサキが記念切手の図案に採用されたことを契機として、その翌年に日本昆虫学会が選んだものである。勇ましく、堂々としていて、華麗である事と日本中に分布していることが理由に挙げられている。
 日本では北海道から九州まで各地に分布し、翅を広げると10センチ以上あり、日本に分布するタテハチョウ科の中では最大級である。幼虫の食樹はエノキやエゾエノキで、食樹のある雑木林に生息している。成虫は、年に1回6月下旬~7月下旬にかけて羽化し、クヌギ、コナラ、ニレ、クワ、ヤナギなどの樹液に集まってなめる姿をよく見かける。
 オオムラサキは、環境省版レッドリスト(2020)では準絶滅危惧として記載され、都道府県版レッドリストでは、千葉県で絶滅危惧Ⅰ類に、埼玉県、茨城県、滋賀県、鳥取県、島根県、鹿児島県で絶滅危惧Ⅱ類に、その他多くの都道府県で絶滅危惧種として記載している。雑木林の減少が大きな原因となっており、雑木林の保全に取り組む山梨県北杜市長坂町は全国一の生息地として知られている。また、埼玉県嵐山町のようにシンボルとして掲げている地域もある。

 オオムラサキというチョウの存在を知ったのは、今から49年前。私の師である故 矢島稔先生の著書「小さな知恵者たち―昆虫の決定的瞬間 (朝日ソノラマ1975年)」であった。オオムラサキの羽化の瞬間の写真が表紙になっており、ページをめくると、将に決定的瞬間が何枚も掲載され、羽化したばかりの美しい翅色に魅了されたものである。
 冬には、エノキの根本で幼虫探しをしたものだが、屋外で実際に成虫を見たのは中学生になってからである。雑木林の中でクヌギの樹液をカブトムシと一緒になってなめている様子に感動したことは忘れない。残念ながら写真には撮っておらず、記憶の中だけの思い出である。
 昨今では、食樹が同じゴマダラチョウや外来種のアカボシゴマダラはよく見かけるが、オオムラサキは見る機会がとても少なくなった。先日、栃木県でトンボを撮影していると、クヌギの幹に止まっている大きなチョウが目に入った。もしかしたらと近づいてみると、オオムラサキのオスであった。翅はすでにボロボロであるが、濃い紫色が美しい。周囲で飛び回るものも多数いた。オオムラサキは、「ひらひら」とは飛ばない。羽ばたきが俊敏で滑空する。以前、山梨県韮崎市にある茅ヶ岳の山麓で、何頭ものオスが縄張り飛翔している様子を目撃したことがあるが、近くを飛ぶと「バサ」っと羽音が聞こえるのだ。(キベリタテハも羽音がする)今回も、その凄い飛翔に改めてオオムラサキの威厳を感じた。

 オオムラサキは、これまでブログに単独で掲載したことがなかったので、先日撮影した写真と過去に撮影していた数枚を合わせて、以下に掲載した。いずれの写真も、オスの成虫は翅が色あせていたり、ボロボロの個体ばかりである。「生態」と言えばそうなのだが、いつか羽化したばかりの新鮮で美しい個体を撮って残したいと思う。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

オオムラサキの写真
オオムラサキ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / シャッター速度優先AE F4.0 1/320秒 ISO 1600光(撮影地:栃木県 2024.07.24)
オオムラサキの写真
オオムラサキ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / シャッター速度優先AE F4.0 1/250秒 ISO 400 E-TTL評価調光(撮影地:栃木県 2024.07.24)
オオムラサキの写真
オオムラサキ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/160秒 ISO 200(撮影地:山梨県 2010.7.24)
オオムラサキの写真
オオムラサキ(オス1頭、メス5頭)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/125秒 ISO 200(撮影地:山梨県 2010.7.24)
オオムラサキの卵の写真
オオムラサキの卵
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F14 1/100秒 ISO 3200(撮影地:山梨県 2010.7.24)
オオムラサキの幼虫の写真
オオムラサキの幼虫
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/320秒 ISO 200(撮影地:山梨県 2010.7.24)
オオムラサキの越冬幼虫の写真
オオムラサキの越冬幼虫
Canon EOS 5D Mark II / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / Canon マクロツインライトMT-24EX E-TTL / 絞り優先AE F6.3 1/60秒 ISO 200(撮影地:群馬県 2010.1.31)
オオムラサキの幼虫の写真
オオムラサキの幼虫
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/160秒 ISO 200(撮影地:山梨県 2010.7.24)
オオムラサキの羽化の写真
オオムラサキの羽化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/160秒 ISO 200(撮影地:山梨県 2010.7.24)
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コノハチョウ

2024-07-03 10:31:53 | チョウ/タテハチョウ科

 コノハチョウ Kallima inachus eucerca Fruhstorfer, 1898 は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)タテハチョウ亜科(Subfamily Nymphalinae) コノハチョウ族(Tribe Kallimini)コノハチョウ属(Genus Kallima)のチョウで、翅の裏面が枯葉のように見えることが和名の由来である。模様は個体変異が多く、1頭ずつ模様が異なると言ってもよい。
 コノハチョウ属はインド、東南アジア地域を中心に10種が知られ、コノハチョウは、インド北部からヒマラヤ、インドシナ半島、中国、台湾に、そして日本国内では沖縄本島、沖永良部島、石垣島、西表島、徳之島などの南西諸島の島々に分布しており、日本に分布するものは7亜種に内の Kallima inachus eucerca とされる。
 本種は、丘陵から山地にかけての日ざしの比較的多い川沿いの樹林内やその周辺に多くみられ、幼虫はオキナワスズムシソウ、セイタカスズムシソウなどを食べ、成虫は年に複数回発生し、3月頃から晩秋まで見られ、成虫で越冬する。訪花はせず、日中にアカメガシワなど樹液や腐った果実に集まる。また、高所を素早く飛行し、林縁や林冠で占有行動を取っている。越冬態は、成虫である。
 コノハチョウは、環境省版レッドリストで準絶滅危惧(NT)にリストされており、都道府県版レッドリストでは、鹿児島県(平成26年改訂)で準絶滅危惧としている。昭和44年(1969年)には、沖縄県の天然記念物に指定され、昭和48年(1973年)には、名護市の「市民の蝶」にも指定されており、採集は禁止されている。

 コノハチョウの撮影は、今回の沖縄遠征の主目的の1つであった。一昨年は、石垣島では見られず、沖縄のやんばるでは翅がボロボロの1頭を見かけただけ。昨年は1頭も見ることすらできなかった。今年こそ、との思いで、これまで訪れたことのない場所に行って見ることにした。
 現地に午前9時頃に到着すると、早速、飛び回るコノハチョウを発見。昨年までの探索は何だったのかと思えるほど、周囲には10頭を超える数がいる。頭上の木の葉に止まっていたり、地面にも止まるが、すぐに飛び立って写真に写すのは難しい。そこで、二か月前から準備しておいたトラップが役に立った。パイナップルを黒砂糖を溶かした35度の泡盛に漬け込んだものである。その液を木の幹に塗ると、次から次へと吸汁にやってきた。習性なのだろう。面白いことに、どの個体も頭を下にして止まる。翅を閉じたり開いたりしながら吸汁しているが、敏感で近くによると飛んでしまう。それでも、木の葉のような翅裏と、びっくりするくらい鮮やかな色彩の翅表を十分に写すことができた。
 コノハチョウは、初見初撮影の種で、ブログ記事「昆虫リストと撮影機材」のリスト「鱗翅目」で149種類目の撮影となった。

 今回の沖縄遠征で撮影できたチョウ類は、コノハチョウだけで、他の昆虫写真はすべてトンボ類であった。未撮影のフタオチョウ、イワカワシジミ、リュウキュウウラボシシジミも計画には入れていたが、時期的に難しく、また、過密スケジュールと暑さから気力と体力が奪われ断念してしまった。今後、沖縄に行く機会があれば挑戦したいと思う。

以下の掲載写真は、横位置は1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。また動画は 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

コノハチョウの写真
コノハチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/60秒 ISO 400 1+2/3EV(撮影地:沖縄県 2024.06.27 9:07)
コノハチョウの写真
コノハチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 3200 2/3EV(撮影地:沖縄県 2024.06.27 9:02)
コノハチョウの写真
コノハチョウ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/200秒 ISO 3200 2/3EV(撮影地:沖縄県 2024.06.27 9:02)
コノハチョウの写真
コノハチョウ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/60秒 ISO 400 1/3EV(撮影地:沖縄県 2024.06.27 9:19)
コノハチョウの写真
コノハチョウ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 400(撮影地:沖縄県 2024.06.27 9:05)
コノハチョウの写真
コノハチョウ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 2000(撮影地:沖縄県 2024.06.27 9:16)
コノハチョウの写真
コノハチョウ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 2500(撮影地:沖縄県 2024.06.27 9:17)
天然記念物・コノハチョウ
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンに しますと高画質でご覧いただけます)
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ゴマダラチョウとアカボシゴマダラ

2021-09-16 20:43:49 | チョウ/タテハチョウ科

 ゴマダラチョウ Hestina persimilis (Westwood, [1850]) およびアカボシゴマダラ Hestina assimilis (Linnaeus, 1758)は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)コムラサキ亜科(Subfamily Apaturinae)ゴマダラチョウ属(Genus Hestina)で、ゴマダラチョウ属はこの2種である。コムラサキ亜科には他にコムラサキ Apatura metis Freyer, [1829] とオオムラサキ Sasakia charonda (Hewitson, [1863]) が属している。今回、同じエノキの木の下で吸水する両種を撮影した。尚、過去の撮影データを調べてみると、ゴマダラチョウは2010年8月にたったの1枚しか撮っておらず、今回が2度目の撮影であった。また、同じエノキに羽化不全の個体が1頭止まっていた。本種も季節型(春型・夏型・秋型)があるようなので、秋型であろう。

 ゴマダラチョウは、北海道の一部、本州、四国、九州のほぼ全域に分布し、地域ごとに成虫の大きさや斑紋、季節型などが分化している。食樹はニレ科のエノキであり、平地から山地の雑木林に生息している。クヌギ、コナラなどの樹液によく飛来し、オスは地表で吸水することも多い。
 アカボシゴマダラの基産地は、中国の広東である。和名通り後翅の外縁に赤の環状紋が並ぶのが特徴。本種は東アジアの広域分布種であり、ベトナム北部から中国、台湾、朝鮮半島まで分布し、日本では奄美大島とその周辺の島々だけに固有の亜種 Hestina assimilis shirakii Shirozu, 1955 が分布するが、1995年に埼玉県秋ヶ瀬公園などで突如として中国大陸産の名義タイプが確認された。数年間には神奈川県を中心とする関東地方南部でも確認され定着するようになる。2006年には東京都内でも発生し、2010年以降は千葉県、茨城県、栃木県、群馬県へと関東全域に分布を拡大し、近年では静岡県、山梨県でも目撃情報がある。
 なぜ、中国大陸産が突如出現したのか?これは、蝶マニアによる人為的な放蝶の可能性が高いといわれており、気候風土が好適であったために急激に個体数が増加したと考えられている。「在来蝶類との競合の可能性」が指摘され、2018年1月に「特定外来生物」(日本の在来生物の生態系や人体、農林水産業に悪影響を与える恐れがある国外由来の生物)として指定されている。

 同じエノキを食樹とする在来種ゴマダラチョウと駆除対象のアカボシゴマダラ。その生態はほとんど同じであるが、アカボシゴマダラの幼虫の方が、エノキの低木・幼木を好み、ゴマダラチョウの生育に悪影響を及ぼしたという具体的な例は報告されていない。また、野外での浸透性交雑の可能性は低いと考えられている。
 人為的放蝶によって繁殖している外来種のチョウは、アカボシゴマダラだけでなく「ホソオチョウ」も知られている。チョウ自らが移動して繁殖地を広げているならともかく、生息域から遠く離れた本来生息していない所に、人為的に放すことは生物地理学上行うべきではない。これは、チョウだけでなくホタルでも同様である。元来、北海道にはゲンジボタルは生息していないし、上高地に人為的に放され定着したゲンジボタルは駆除された。昆虫や植物に罪はなく、既に広範囲で定着し生態系に悪影響を及ぼす危険性が低い種を駆除する必要もないと思うが、人間の勝手な行為は慎むべきである。
 2021年8月現在、特定外来生物に指定された昆虫は25種類であり(環境省:特定外来生物等一覧)これら昆虫を無許可で飼育したり野外に放したりすると3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金となる。法人では最高1億円の罰金が科される。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。

ゴマダラチョウの写真

ゴマダラチョウ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 1600 +1EV(撮影地:栃木県 2021.9.12 11:03)

ゴマダラチョウの写真

ゴマダラチョウ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 2000 +1EV(撮影地:栃木県 2021.9.12 11:03)

アカボシゴマダラの写真

アカボシゴマダラ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 1000(撮影地:栃木県 2021.9.12 11:04)

アカボシゴマダラの写真

アカボシゴマダラ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 640(撮影地:栃木県 2021.9.12 11:05)

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クジャクチョウ

2021-04-27 18:28:05 | チョウ/タテハチョウ科

 クジャクチョウ Inachis io (Linnaeus, 1758)は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)クジャクチョウ属(Genus Inachis)で、和名通り孔雀の飾り羽のような模様、そして翅表4枚前縁それぞれの大きな目玉模様が特徴的である。英名でも「peacock」(孔雀)と呼ばれている。ヨーロッパから中央アジア、中国、朝鮮半島、日本、樺太、シベリアまで分布している。日本を含む東アジアに分布するものは亜種 Inachis io geisha (Stichel, 1908) とされる。
 学名“io”は、ギリシャ神話に登場する女性神官のイオで、亜種名“geisha”は、芸者の事である。イオは、ゼウスの妻ヘラに仕えた美女で、芸者は鮮やかな和服姿で着飾った美女であるから、どちらも由来に相応しいが、個人的には派手過ぎるチョウだと思っている。ちなみに学名の“Inachis”もギリシャ神話に登場するイーナコス河の川の神「イナコス」に由来している。

 ここで少しばかりギリシャ神話を引用したい。
 イナコスにはイオというとても美しい娘がいた。イオはゼウスの妻であるヘラの神殿に仕えていたが、ゼウスの目に留まり愛される。このことに気がついたヘラは、イオを牛の姿に変えてしまう。牛の姿となったイオは、ゼウスと会わないようにと牛舎の中に閉じ込められ、体中に100の目を持つアルゴスという怪物に見張られていた。
 困ったゼウスは、イオの父親のイナコスを呼び、イオを救い出すように命じる。牛舎に行ってみたイナコスだが、アルゴスの見張りによってどうすることもできない。そこでゼウスは、今度はヘルメスにイオを救い出すように命じる。ヘルメスは、どんなものでも眠らせる力を持つ笛を吹き、眠ったアルゴスを殺してイオを救い出す。
 ヘラは、アルゴスの死後、彼を悼んでその目を取って自身の飼っているクジャクの尾羽根に飾ったので、クジャクの羽には目のような模様がたくさん付いたと言う。
 クジャクチョウの名前に、ギリシャ神話も潜ませた命名者のセンスが素晴らしいと思う。

 クジャクチョウは、ヨーロッパでは低地から標高2,500mの高山まで広く生息しているが、日本では滋賀県以北に分布し、本州中部では標高の高い山地でしか見られないが、東北地方や北海道では平地でも見られる。森林の周辺部や高原に生息し、成虫の出現期は4~9月で、寒冷地では1回、暖地では2回発生し、成虫で越冬する。幼虫はクワ科のホップ、カラハナソウ、イラクサ科のホソバイラクサ、エゾイラクサ、ニレ科のハルニレなどを食草としている。
 クジャクチョウは、環境省カテゴリにはないが、植生遷移による森林化が要因で、神奈川県RDBで絶滅危惧Ⅱ類に、埼玉県RDBでは準絶滅危惧種として記載している。また、2016年頃から一時期、キベリタテハとともに極端に少なく、場所によってはほとんど見かけない状態があったが、現在では回復している。

 今回、長野県にギフチョウを探索に行ったが、さすがに時期が早く未発生であった。その代わりに越冬明けのクジャクチョウが慰めてくれた。さすがに翅は擦れて色も褪せている。最低気温がマイナス15℃にもなるこの地の厳しい冬を越えたのである。命の輝きと逞しさ、尊さを感じた。
 クジャクチョウは、ブログ「ホタルの独り言 PartⅠ」では何度も掲載しているが、今回の越冬明け個体は初撮影であり、また本ブログではクジャクチョウの写真を掲載していなかったので、夏に撮影していたものも併せて掲載した。

参考:アポロドーロス著、高津春繁訳註『ギリシア神話』岩波文庫、1978年改版。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1920*1280 Pixels で投稿しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。

クジャクチョウの写真

クジャクチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/640秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:長野県 2021.4.24)

クジャクチョウの写真

クジャクチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/640秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:長野県 2021.4.24)

クジャクチョウの写真

クジャクチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/640秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:岩手県 2010.7.17)

クジャクチョウの写真

クジャクチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/640秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:長野県 2011.7.23)

クジャクチョウの写真

クジャクチョウとイブキスズメ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/640秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:長野県 2011.7.23)

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イシガケチョウ

2020-05-30 23:07:37 | チョウ/タテハチョウ科

 イシガケチョウ Cyrestis thyodamas mabella Fruhstorfer, 1898 は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)イシガケチョウ族(Tribe Cyrestidini)イシガケチョウ属 (Genus Cyrestis)のチョウ。南方系の種で、本州の三重県あたりが分布の北限となっているが、温暖化により北上しているチョウであり、国内では年々分布域を広げている。国外ではインドから中国南部まで広く分布している。
 翅は、和名通りの石崖・石垣模様を持ち、メスはやや大型で、地色が白色と黄色の2型があるが、オスは白い地色のみである。食樹はクワ科のイヌビワ・イチジク・オオイタビなどで、渓谷沿いの照葉樹林や疎林に多く生息し、ひらひらと紙切れが舞うように飛ぶ。秋までに年3~5回発生し、成虫で越冬する。

 今回の高知遠征は、ゲンジボタルがメインであるが、トンボの観察と撮影も計画に入れていた。前記事のコフキヒメイトトンボの他、四国にしか生息していないシコクトゲオトンボ、そしてミナミヤンマも目的で、その生息地を訪れたが、羽化まで1週間ほど早かったようで出会うことは出来なかった。
 その代わりに、イシガケチョウの集団吸水に出会ったのである。渓流沿いの砂地のごく狭い範囲に6頭ほどが集まっての吸水。本種は、東京では八王子市の多摩動物公園内のチョウの温室では見たことがあるが、自然の中で生きているのは初見であり大変嬉しい出会いであった。

 イシガケチョウは、初見初撮影の種で、PartⅠを含めたブログに掲載した鱗翅目では、140種目となる。参照「昆虫リストと撮影機材

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イシガケチョウの写真

イシガケチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F7.1 1/320秒 ISO 250(撮影地:高知県日高村 2020.5.24 9:31)

イシガケチョウの写真

イシガケチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F7.1 1/250秒 ISO 500 +2/3EV(撮影地:高知県日高村 2020.5.24 9:34)

イシガケチョウの写真

イシガケチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F7.1 1/250秒 ISO 400 +2/3EV(撮影地:高知県日高村 2020.5.24 9:34)

イシガケチョウの写真

イシガケチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F7.1 1/250秒 ISO 500 +2/3EV(撮影地:高知県日高村 2020.5.24 9:39)

イシガケチョウの写真

イシガケチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F7.1 1/320秒 ISO 640 +2/3EV(撮影地:高知県日高村 2020.5.24 9:39)

イシガケチョウの写真

イシガケチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F7.1 1/250秒 ISO 640 +2/3EV(撮影地:高知県日高村 2020.5.24 9:38)

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クロヒカゲ

2019-10-22 19:52:58 | チョウ/タテハチョウ科

 クロヒカゲ Lethe diana (Butler, 1866) は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)ジャノメチョウ亜科(?Subfamily Satyrinae)ヒカゲチョウ属(Genus Lethe)で日本全土に分布する。山地性・森林性が強く、薄暗い林内などに生息している。学名の「diana」は「月の神(ディアナ)」という意味をもっている。(英語読みではダイアナ)

 ヒカゲチョウやジャノメチョウの仲間は、色彩が地味で林内の暗い場所にいる種が多いことから、一部を除いては私的に撮影対象外のチョウにしてきたが、偶然に出会ったときに撮影してみると、羽化後間もない新鮮な個体であれば、その美しさに気づくこともある。クロヒカゲもそんな一種である。特に翅裏の蛇の目紋を取り囲む青紋が発達して、色鮮やかな個体もいるというから興味をそそられる。来年は、そんな点に注目して積極的に撮影していきたい。
 掲載写真は、クロヒカゲの他に、同属のヒカゲチョウ(ナミヒカゲ)とジャノメチョウ、ツマジロウラジャノメも掲載した。

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クロヒカゲの写真

クロヒカゲ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F6.3 1/800秒 ISO 400 +1 1/3EV(撮影地:岐阜県 2019.9.14)

クロヒカゲの写真

クロヒカゲ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 200(撮影地:長野県東御市 2011.7.23)

クロヒカゲの写真

クロヒカゲ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 800 +1/3EV(撮影地:長野県 2017.8.13)

ヒカゲチョウの写真

ヒカゲチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.5 1/160秒 ISO 2000(撮影地:東京都青梅市 2011.9.10)

ジャノメチョウの写真

ジャノメチョウ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/250秒 ISO 2000(撮影地:東京都立川市 2011.7.24)

ツマジロウラジャノメの写真

ツマジロウラジャノメ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 250(撮影地:山梨県 2015.9.11)

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ベニヒカゲ

2019-09-01 15:27:38 | チョウ/タテハチョウ科

 ベニヒカゲは、2015年に長野県の浅間山系で撮影しているが、今回、8月半ばに北アルプスでも撮影したので、浅間山系の写真と併せて紹介したい。

 ベニヒカゲ Erebia neriene (Bober, 1809) は、 タテハチョウ科(Family Nymphalidae)ジャノメチョウ亜科(Subfamily Satyrinae)ベニヒカゲ属(Genus Erebia)で、国外ではヨーロッパからアジアに至るユーラシア大陸、北アメリカに分布し、北緯30°付近から北緯75°付近までの寒冷地や高山に多い。日本国内では、北海道および本州中部地方以北に分布し、北海道にはベニヒカゲ北海道亜種(Erebia neriene scoparia Butler, 1882)、本州にはベニヒカゲ本州亜種(Erebia neriene niphonica Janson, 1877)が生息している。
 北海道では低山地にも生息するが、本州では高山地に生息するいわゆる高山蝶の一種である。ちなみに、日本には14種類の高山蝶が知られているが、北海道特産の5種を除くと、本州に産するものは9種類ベニヒカゲ、クモマベニヒカゲ、タカネヒカゲ、クモマツマキチョウ、ミヤマシロチョウ、ミヤマモンキチョウ、オオイチモンジ、コヒオドシ、 タカネキマダラセセリである。
 ベニヒカゲは、全体が黒褐色で、前翅の両面と後翅表面には眼状紋を囲む橙赤斑があるのが大きな特徴である。雌は翅表の眼状紋内に白点がある他、縁毛が白く目立ち後翅裏面中央に白ないし黄色の帯が現れる。また地域固有の変異と個体変異があり、日本産だけでも20程が知られている。
 ベニヒカゲ本州亜種は、環境省カテゴリでは準絶滅危惧(NT)としており、地方自治体では、群馬県のRDBで絶滅危惧Ⅰ類、岩手・秋田・山形・福島・新潟・岐阜・福井各県のRDBでは準絶滅危惧種として記載している。また、昭和50年2月には長野県の天然記念物に指定され、長野県と群馬県では採集が禁止されている。
 昨今では温暖化の影響で生息域が高標高化の傾向にあり、生息域が縮小しているにも関わらず、登山者が多い生息地では、食草であるイネ科のイワノガリヤスやカヤツリグサ科のヒメカンスゲが踏み荒らしによって消失したり、ニホンジカによる草本の食害やスキー場の開発による生息地の改変、更にはマニアによる乱獲も減少の原因となっている。

 今回訪れた北アルプスでは、標高1,400mから1,800mの間を散策したが、草原や湿地で数多くのベニヒカゲが見られた。陽の光には敏感に反応し、陽が差すと草の中から飛びだし草上をゆるやかに飛翔するが、日が陰ると草むらに隠れるという行動が見られた。
 当日の一番の目標は、同じ高山蝶であるクモマベニヒカゲであったが、標高1,800m以上はガスの中であったため登山を断念。また下山途中でゴマシジミ八方尾根・白山亜種を見つけたが、リフトに乗っていたため撮影はできなかった。その他、湿原ではルリボシヤンマのオスを1頭、標高1,400m付近では、既に掲載したヒメキマダラヒカゲとアイノミドリシジミを撮影した。

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ベニヒカゲの写真

ベニヒカゲ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/160秒 ISO 125 (撮影地:長野県白馬村 2019.8.10 7:19)

ベニヒカゲの写真

ベニヒカゲ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/160秒 ISO 160 (撮影地:長野県白馬村 2019.8.10 7:18)

ベニヒカゲの写真

ベニヒカゲ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.0 1/160秒 ISO 100 (撮影地:長野県白馬村 2019.8.10 8:55)

ベニヒカゲの写真

ベニヒカゲ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/250秒 ISO 500 +1EV (撮影地:長野県東御市 2015.9.05 8:30)

ベニヒカゲの写真

ベニヒカゲ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/250秒 ISO 800 (撮影地:長野県東御市 2015.9.05 7:49)

ベニヒカゲの写真

ベニヒカゲ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/320秒 ISO 500 +1/3EV (撮影地:長野県東御市 2015.9.05 8:33)

ベニヒカゲの写真

ベニヒカゲ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/250秒 ISO 200 +1EV (撮影地:長野県東御市 2015.9.05 8:29)

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ヒメキマダラヒカゲ

2019-08-28 17:35:33 | チョウ/タテハチョウ科

 ヒメキマダラヒカゲ Zophoessa callipteris (Butler, 1877) は、タテハチョウ科(Family Papilionidae)ジャノメチョウ亜科(Subfamily Satyrinae)ヒメキマダラヒカゲ属(Genus Zophoessa)のチョウ。
北海道・本州・四国・九州に分布し、北海道では平地~山地、本州では低山地~山地のササ類の生える樹林に生息する。 年1回7~8月に発生し、幼虫で越冬。分布域は広いが、生息地が分断されており、成虫の移動性も低いため、地域により翅の斑紋等に多少の変異がみられる。
 環境省カテゴリーに記載はないが、香川県で絶滅、福岡県では絶滅危惧Ⅰ類に、茨城県では絶滅危惧Ⅱ類、京都及び大阪府のRDBでは準絶滅危惧種として記載している。本種の食草となるササ類が、ササ枯れとシカの食害減少のために急激に個体数が減少していると考えられる。

 お盆三連休の長野県への遠征。目的は高山蝶その他。早朝、標高1,500mの高原脇にある林縁でゼフィルスの登場を待っていたが、5時半に飛び始めたのは、このヒメキマダラヒカゲ。高い梢を20頭以上が乱舞。あまりの高さに、最初、種類を特定できなかったが、何頭か低い所に降りてきたので撮影した。ジャノメチョウの仲間は地味なイメージが強く、普段、見かけてもカメラを向けることが少ないが、本種は、記録ということで撮影。

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ヒメキマダラヒカゲの写真

ヒメキマダラヒカゲ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 500 (撮影地:長野県白馬村 2019.8.10 5:54)

ヒメキマダラヒカゲの写真

ヒメキマダラヒカゲ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 640 (撮影地:長野県白馬村 2019.8.10 5:36)

ヒメキマダラヒカゲの写真

ヒメキマダラヒカゲ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 400 (撮影地:長野県白馬村 2019.8.10 5:55)

ヒメキマダラヒカゲの写真

ヒメキマダラヒカゲ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 800 +1/3EV (撮影地:長野県富士見町 2017.8.13)

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スミナガシ

2019-08-19 22:04:07 | チョウ/タテハチョウ科

 スミナガシ Dichorragia nesimachus nesiotes Fruhstorfer, 1903 は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)スミナガシ属(Genus Dichorragia)のチョウで、日本からヒマラヤまでを含む東南アジアに分布し、低地から山地の雑木林に生息している。和名は、黒地に青緑色を帯びた独特の翅模様が「墨流し」で作った模様に似ていることから付けられた。赤い口吻(ストロー)とモノトーンの翅裏も心象的である。ちなみに「墨流し」は日本古来の伝統芸術で、千年以上もの歴史を持つ。その起源は、川の水面に墨をおとし、流れによってうまれる模様の変容を楽しんだ9世紀頃の宮廷遊びと言われている。
 幼虫はアワブキやヤマビワなどを食草とし、成虫は花を訪れることは少なく、樹液や熟した果実、動物の糞などを吸汁する。年に2回~数回(稀に1回)発生し、春型と夏型の季節型がある。春型と夏型では、夏型の方が色が濃いが、白斑と黒斑は個体差によるものが大きく、春型と夏型による明確な違いはない。また、雌雄も色彩や斑紋等で明確な違いはない。
 環境省カテゴリーに記載がないが、雑木林の減少や放棄放置で生息数が減少している地域もあり、千葉県のRDBでは絶滅危惧Ⅰ類に、大阪府、香川県、宮崎県のRDBでは準絶滅危惧種としている。

 スミナガシは、いつも偶然の出会いでの撮影。春型は、ミヤマカラスアゲハの撮影で待機中に飛んできた。今回の夏型も、ミヤマカラスアゲハの探索中に飛んできた。嬉しい出会いではあるが、単なるスナップ的な絵で終わっている。来年は、スミナガシを撮ることを主目的にした遠征も予定し、もっと美しい写真に収めたいと思う。ちなみに、夏型は初見初撮影である。

 スミナガシの夏型に出会った週末は、台風一過で撮影のチャンスと思い、先に述べたように「ミヤマカラスアゲハの夏型」を撮ることを目的として遠征したが、場所の選定には迷いがあった。過去に「ミヤマカラスアゲハの春型」を何度も撮影しているポイントがあるが、自宅からおよそ70kmある山奥。もう一つの候補が、これまで一度も訪れたことのないポイントで、距離は50kmの山奥。さて、どちらにするか・・・
 年々、体力の低下を感じており、また昨年末の前立腺がんの全摘手術後は、気力も低下気味。月~金は、今までと同じように会社でハードワークをこなしていることもあり、趣味でさえも「どうせ行っても撮れない」とか「撮っても他人と同じ絵」であるとか「以前に一度撮っているから」と色々と理由を付けて、行く前から諦めようとすることが多くなってきた。今回も、場所の選定は勿論、行くことさえ止めようかという迷いがあった。この迷いは夢の中にも出てきた。
 7:00起床。家族と一緒に朝食を済ませ、結局、時間的に近距離である山奥に行ってみることにした。現地に着いて、砂利道の林道を歩く。カラスアゲハは、あちこちで吸水していたが、ミヤマカラスアゲハは、1頭だけ緑色に輝く翅を見せつけながら、私の周囲を飛び回り去って行った。ミヤマカラスアゲハは、崖から湧水が流れて砂利道が湿っているような場所が好きである。舗装された林道の水たまりでは、吸水しないことが再確認できた。天候的にチャンスがあれば再訪しようと思うが、ダメならば、来年にミヤマカラスアゲハの春型を撮りに来ようと思う。

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スミナガシの写真

スミナガシ(春型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/125秒 ISO 200 +1 1/3EV(撮影地:山梨県塩山市 2013.5.25 9:27)

スミナガシの写真

スミナガシ(春型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/125秒 ISO 200 +1 1/3EV(撮影地:山梨県塩山市 2013.5.25 9:29)

スミナガシの写真

スミナガシ(春型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/4000秒 ISO 200(撮影地:東京都あきる野市 2011.5.8 13:16)

スミナガシの写真

スミナガシ(夏型)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 400 -2/3EV(撮影地:東京都奥多摩町 2019.8.17 10:15)

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テングチョウ

2018-11-13 19:46:31 | チョウ/タテハチョウ科

 テングチョウ Libythea celtis Moore, [1858]  は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)テングチョウ属(Genus Libythea)で、国内には本種1種のみが生息している。ただし、日本本土亜種 Libythea celtis celtoides と琉球亜種 Libythea celtis amamiana に分けられ、北海道亜種 Libythea celtis matsumurae は絶滅している。頭部の触角の内側に前方に伸びる突起(下唇髭)があり、これが天狗の鼻のように見えることが和名の由来である。下唇髭は他のチョウにもあるが、本種は複眼径の3倍以上も伸びているのが特徴になっている。
 平地から山地を生息域とし、幼虫の食樹であるエノキが生える雑木林や、森林の河川や渓谷など幅広い場所でよく見られる。成虫は年1回(稀に年2回発生)6月頃に発生し、盛夏には休眠する。秋に再び活動してそのまま成虫で越冬し、春先から再び活動して5月頃に産卵する。
 青森県のRDBでは準絶滅危惧種として記載しているが、他の地域では普通種であり、昨今、広島、兵庫、和歌山など西日本各地や山梨など東日本でもテングチョウも大量発生が話題となっている。 猛暑や少雨、天敵との関係などが推察されているが、詳しい原因は分かっていない。

 テングチョウは、東京都内の多摩西部では普通に見られるチョウで、時折、撮影もしていたが、単独の記事としてまとめたことはなかった。過去に撮影した写真を整理すると、雌雄の違いが分かる写真と、小集団ではあるが、20頭ほどが集団吸水していた写真を撮っていたので掲載することにした。

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テングチョウの写真

テングチョウ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 1250(撮影地:埼玉県 2018.05.26)

テングチョウの写真

テングチョウ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 640(撮影地:東京都 2012.06.17)

テングチョウ集団吸水の写真

テングチョウ(集団吸水)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 1250 +2/3EV(撮影地:東京都 2016.06.12)

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キタテハ属

2018-09-09 14:28:40 | チョウ/タテハチョウ科

 日本におけるタテハチョウ科(Family Nymphalidae)キタテハ属(Genus Polygonia)は、以下の2種が生息している。

  1. キタテハ属 Genus Polygonia
    • キタテハ Polygonia c-aureum c-aureum(Linnaeus, 1758)
    • シータテハ Polygonia c-album hamigera (Butler, 1877)

 キタテハは、北海道(南西部の渡島半島のみ)から九州まで分布し、幼虫の食草は、アサ科のカナムグラ、ホソバイラクサなどで、平地から低山地にかけて、林やその周辺、川原などでよく見られる。
 一方、シータテハは北海道から九州まで分布する。北海道では普遍的に生息するが、本州での分布は不連続でやや標高の高い山地に限られ、四国・九州では個体が少ない。環境省カテゴリにはないが、徳島県、香川県、愛媛県、島根県のRDBで絶滅危惧Ⅰ類に、神奈川県、高知県、大分県、鹿児島県のRDBで絶滅危惧Ⅱ類に選定している。幼虫はクワ科のホップ、ニレ科のハルニレ、アキニレ、エノキなどを食草としている。
 両種は、翅の縁の切れ込みの深さや後翅の表にある水色斑で容易に区別でき、両種ともに初夏から真夏にかけて現れる夏型と、秋に現れてそのまま越冬する秋型がある。また、後翅の裏にはC字型の小さな模様があり、学名の「c-aureum」(金色のC)と「c-album」(白色のC)の由来となっている。

 シータテハは、東京近郊では山梨県の標高の高い所へ行かなければ見ることができないが、キタテハは、東京でも多摩西部に行けば普通に見られるチョウである。これまで何度となく出会い、時々撮影はしていたが、過去の写真を集めてみると、雌雄の夏型と秋型、またそれぞれの翅表と翅裏をすべて撮っていたかというとそうでもない。身近な種をキッチリと撮影していないことを反省せざるを得ない。

 秋雨前線の影響で、目的地は二週連続で天候不良。そのため、8月26日以来遠征無しの週末続きである。仕方なく、写真を整理して未掲載写真を含めてまとめた。

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キタテハの写真

キタテハ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/200秒 ISO 200(撮影地:東京都 2011.09.04)

キタテハの写真

キタテハ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 320(撮影地:東京都 2011.10.23)

キタテハの写真

キタテハ(夏型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1600 -1/3EV(撮影地:埼玉県 2012.06.17)

キタテハの写真

キタテハ(秋型)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F11 1/100秒 ISO 1600(撮影地:千葉県 2013.03.20)

シータテハの写真

シータテハ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/800秒 ISO 200 +2/3EV(撮影地:長野県 2011.09.10)

シータテハの写真

シータテハ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/200秒 ISO 200(撮影地:群馬県 2012.08.25)

シータテハの写真

シータテハ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/200秒 ISO 200 +1/3EV(撮影地:群馬県 2016.09.10)

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タテハチョウ属

2018-08-15 21:50:30 | チョウ/タテハチョウ科

 日本におけるタテハチョウ科(Family Nymphalidae)タテハチョウ属(Genus Nymphalis)は、以下の3種が生息している。

  1. タテハチョウ属 Genus Nymphalis
    • エルタテハ Nymphalis vaualbum ([Denis et Schiffermuller], 1775)
    • キベリタテハ Nymphalis antiopa (Linnaeus, 1758)
    • ヒオドシチョウ Nymphalis xanthomelas japonica (Stichel, 1902)

 上記の進化上近縁な3種は、いずれも羽化後に標高の高い所に移動し、晩夏から初秋になると標高の低い所に降りてきて越冬し、翌年の5月頃まで生きる長命なチョウであるが、今回、これまで撮影していなかったエルタテハの翅裏を撮ることができたので、ヒオドシチョウ属として3種をまとめて掲載した。単に個々に写真を撮るだけではなく 進化上近縁である種の形態や生態、生息環境などを学び、さらに実際の知見によって生態系を理解でき、自然保全を考えることができるのではないだろうか。
 尚、キベリタテハ及びヒオドシチョウの詳細については下記リンクを参照頂き、本記事ではエルタテハについて記しておきたいと思う。

 エルタテハは、ユーラシア大陸とアフリカ大陸北部の旧北区のほぼ全域と北アメリカ大陸に分布し、日本では北海道と中部地方以北の本州に分布する。北海道では平地から山地にかけて、本州では主に標高1,000 m以上の食樹であるニレ科植物(ハルニレなど)やカバノキ科植物(ダケカンバ、シラカンバなど)がある落葉広葉樹林等に生息している。同属のヒオドシチョウと形態が似ているが、本種は、後翅の裏面中央部に和名の由来となっている白色のL字紋があるのが特徴である。
 ノリウツギやナナカマド等の花を吸蜜することもあるが、ダケカンバ等の樹液、獣糞を吸ったり、腐った果実に集まったり、地面で吸水したりすることが多い。また、コンクリートの擁壁に止まり、エフロレッセンス(白華)現象によって生じた炭酸カルシウムの結晶を吸っている様子を見ることも多い。
   本種はもともと個体数が少なく、植林に伴う自然林の消滅や生息環境の少しの変化によっても個体群が維持できなくなる可能性がある。環境省カテゴリにはないが、新潟県のRDBには準絶滅危惧種として記載している。

参照

キベリタテハ/キベリタテハがいない?
ヒオドシチョウ

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

エルタテハの写真

エルタテハ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 1250 +1EV(撮影地:長野県佐久市 2018.08.12)

エルタテハの写真

エルタテハ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F4.8 1/320秒 ISO 200(撮影地:群馬県吾妻郡嬬恋村 2012.08.25)

エルタテハの写真

エルタテハ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 320 +1EV(撮影地:長野県佐久市 2018.08.12)

キベリタテハの写真

キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F11 1/160秒 ISO 200(撮影地:群馬県嬬恋村 2012.08.25)

キベリタテハの写真

キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO 200(撮影地:群馬県嬬恋村 2012.08.25)

ヒオドシチョウの写真

ヒオドシチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 500(撮影地:山梨県北杜市 2013.06.08)

ヒオドシチョウの写真

ヒオドシチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 1600(撮影地:山梨県韮崎市 2013.06.23)

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キベリタテハ(2018)

2018-08-13 22:06:37 | チョウ/タテハチョウ科

 キベリタテハ Nymphalis antiopa (Linnaeus, 1758) は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae<)/タテハチョウ属(Genus Nymphalis)で、和名にあるように翅表外縁に黄色の太い縁取りがある。翅全体は小豆色でベルベットのような光沢があり、黄色の縁取りの内側には、青色の斑紋が一列に並ぶ。これに似たチョウは世界的にみても他にない。
 幼虫の食草はカバノキ科のダケカンバ、ウダイカンバ、シラカバ、ヤナギ科のオオバヤナギ、バッコヤナギ、ドロノキなどで、そのシックな色合いから日本では「高原の貴婦人」とも呼ばれており、アメリカでは、Mourning Cloak(喪服のマント)と呼ばれ、イギリスでは、Camberwell Beauty(キャンバーウェルの美人)と呼ばれている。北海道から本州中部(標高約1,000m以上の山岳)以北に生息し、雄大に滑空するたいへん優美なチョウである。
 本種は、標高1,000m前後の発生地において、7月下旬から8月中旬、9月上旬頃の3回くらいに分かれて羽化する。7月下旬から8月中旬に羽化した個体は、涼を求めて標高1,500m以上の高山へ移動し、9月中旬前後には標高1,000m前後の発生地に戻り越冬の準備をすると言われている。

 この日の主目的はエルタテハで、その撮影のために標高約2,000mのポイントに向かうと、林道沿いのコンクリートが吹き付けられた崖には、エルタテハ以外にキベリタテハがミネラルを吸うために飛来していた。本種は、過去に何度も撮影しているが、見かければカメラを向けてしまうチョウである。長野県の北信エリア、東信エリアの北部では、その姿をほとんど見ることができなくなったしまったが、東信エリアの南部や南信エリアでは、今年も数多く見られた。
 背景がコンクリートの壁では絵にならず、キベリタテハの色彩を再現するのが難しく、今後の課題ではあるが、今回は、ヤマハンノキで樹液を吸う姿も観察したので紹介したい。

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キベリタテハの写真

キベリタテハ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 2000 +1 2/3EV(撮影地:長野県松本市 2018.08.11 13:49)

キベリタテハの写真

キベリタテハ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 2000 +1 2/3EV(撮影地:長野県松本市 2018.08.11 13:49)

キベリタテハの写真

キベリタテハ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 1600 +1 2/3EV(撮影地:長野県佐久市 2018.08.12 9:07)

キベリタテハの写真

キベリタテハ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 800(撮影地:長野県佐久市 2018.08.12 9:20)

キベリタテハの写真

キベリタテハ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 1600(撮影地:長野県佐久市 2018.08.12 8:54)

キベリタテハの写真

キベリタテハ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 1600 +1 2/3EV(撮影地:長野県佐久市 2018.08.12)

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コヒョウモンモドキ

2018-07-03 21:50:18 | チョウ/タテハチョウ科

 コヒョウモンモドキ Melitaea ambigua niphona Butler, 1878は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)ヒョウモンモドキ属(Genus Melitaea)のチョウ。ヒョウモンモドキ属は、日本には3種生息しているが、本州に限られ、しかも局地的な分布である。

  • ヒョウモンモドキ Melitaea scotosia Butler, 1878
  • ウスイロヒョウモンモドキ Melitaea protomedia Menetries, 1858
  • コヒョウモンモドキ Melitaea ambigua niphona Butler, 187

 コヒョウモンモドキは、ユーラシア大陸に広く分布し、国内では本州(関東地方北部から中部山岳地帯)にのみ分布している。林縁や林間の明るい草原に生息し、幼虫の食草はクガイソウ、ヒメトラノオで、越冬後はオオバコを食べることが知られている。成虫は7月頃に出現し、緩やかに飛んでクガイソウ、オカトラノオ等で吸蜜する。鳥獣類の排泄物や動物の死体に群がることもある。
 昨今、人為的放置による草原の樹林化(日本列島の草地面積は、20世紀初頭には1割ほどであったが、現在では1%程度であるという。)やシカの食害による食草の減少で、絶滅が危惧されている。また本種は、大型・黒化型などの地域変異が見られ、マニアによる採集圧も問題になっている。
 本種は、環境省カテゴリでは絶滅危惧ⅠB類、都道府県のRDBでは、栃木県では絶滅、群馬県、新潟県、富山県で絶滅危惧Ⅰ類に、山梨県、長野県では絶滅危惧Ⅱ類として記載されている。

 個人的趣味から、ヒカゲチョウやヒョウ柄のチョウは、見かけてもほとんど撮ることがなく、知識もあまりない。本種も当然のことながら撮影計画にはなく、今回の遠征での偶然の出会いであった。車から降りると、私の腕に止まって汗を吸い始めたのである。生息地が局所的で絶滅が危惧されていることを知っていれば、もっと丁寧に翅裏等も撮影したのであるが、悔やんでも仕方がない。またの出会いを期待したい。
 コヒョウモンモドキは、初見初撮影の種で「昆虫リストと撮影機材」「鱗翅目」で139種類目となる。

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コヒョウモンモドキの写真

コヒョウモンモドキ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 250(撮影地:長野県 2018.06.30)

コヒョウモンモドキの写真

コヒョウモンモドキ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 200 -2/3EV(撮影地:長野県 2018.06.30)

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