ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ムカシヤンマの産卵

2022-05-30 17:06:27 | トンボ/ムカシヤンマ科

 ムカシヤンマの産卵を写真と映像に収めることができた。

 ムカシヤンマは、丘陵地から山地の周囲に樹林のある湿地や、水が浸み出す斜面などで見られるが、幼虫(ヤゴ)は他のトンボ類と違い、水がしたたり落ちるゼニゴケなどが一面に茂っているような斜面湿地に穴を掘って棲んでいる。当然、メスはそう言った場所に産卵に来る。昨年は午前8時半から12時半まで、幼虫が生息する崖で待機したが、結局メスは産卵には来なかった。
 撮影に向かった生息地では、ゴールデンウイーク頃に成虫は羽化を完了している。羽化後は、しばらく林内などで過ごし、5月下旬頃になるとオスは産卵場所に集まってきて、メスがやってくるのを待つようになるが、問題は、産卵の時間帯である。主に朝夕と書いてある文献もあれば、昼頃と書いているブログもある。昨年の経験を考えると早朝かもしれないが、今回は昼頃という情報に賭けることにした。
 現地におけるムカシヤンマの産卵場所は2ポイントあり、最初は林道奥のポイントに9時過ぎから待機。オスは2頭がメスを待っているが、11時半を過ぎてもメスの飛来はない。当日は朝から快晴で、しかも5月としては異例の30度越えの気温。ポイントは日陰が一切ないので、我慢の限界になり、もう1つの産卵場所へ移動。
 谷になっているため産卵場所となる崖の下部に太陽が当たるのは、11時半頃から14時頃まで。到着すると、すぐさま1頭が崖に止まって産卵を開始した。数分後に、もう1頭。オスも飛んできて下草に止まっているが、メスは1カ所で丁寧に産卵すると、また少し飛びながら移動し、また産卵。5~6カ所ほどに産卵している。産卵中は、かなり近づいても平気である。魚眼レンズが翅に当たっても平気で産卵を続けている。
 下草に止まっているオスも、手で捕まえることができるし、人の肩や脚にも止まる。メスが産卵中は待機しているが、産卵場所の移動しようと飛んだ瞬間は、ものすごい速さで飛んでいき、メスと交尾するために高所へ連れ去るのである。今回は、2カ所目のポイントにおいては、12時から13時過ぎまでの間に4頭のメスが産卵に訪れた。ここに限って言えば、産卵場所に直射日光が当たる時間帯のみに産卵に来ていた。
 ムカシヤンマの産卵は、初見初撮影で、写真だけでなく映像も収めた。また産卵場所には、あちこちに穴が開いており、羽化していない留年幼虫が生活をしているわけだが、ゼニゴケが茂っている場所では、ゼニゴケを上手く丸い形に切り取っている様子も観察することができた。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ムカシヤンマの産卵の写真

ムカシヤンマの産卵
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地: 茨城県 2022.5.29 12:02)

ムカシヤンマの産卵の写真

ムカシヤンマの産卵
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地: 茨城県 2022.5.29 12:15)

ムカシヤンマの産卵の写真

ムカシヤンマの産卵
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地: 茨城県 2022.5.29 12:17)

ムカシヤンマの産卵の写真

ムカシヤンマの産卵
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地: 茨城県 2022.5.29 12:48)

ムカシヤンマの産卵の写真

ムカシヤンマの産卵
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/100秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地: 茨城県 2022.5.29 12:50)

ムカシヤンマの産卵の写真

ムカシヤンマの産卵
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F8.0 1/25秒 ISO 2500 +2/3EV(撮影地: 茨城県 2022.5.29 13:18)

ムカシヤンマのオスの写真

ムカシヤンマのオス
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F8.0 1/50秒 ISO 100 -2/3EV(撮影地: 茨城県 2022.5.29 13:09)

ムカシヤンマの産卵場所の写真

ムカシヤンマの産卵場所
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F8.0 1/20秒 ISO 640 -2/3EV(撮影地: 茨城県 2022.5.29 13:01)

ムカシヤンマの巣穴の写真

ムカシヤンマの幼虫の巣穴
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F8.0 1/25秒 ISO 1000 -2/3EV(撮影地: 茨城県 2022.5.29 13:04)

ムカシヤンマの巣穴と幼虫の写真

ムカシヤンマの巣穴と幼虫
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F8.0 1/20秒 ISO 1000 -2/3EV(撮影地: 茨城県 2022.5.29 13:05)

ムカシヤンマの産卵(映像)

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ムカシヤンマ

2021-05-23 20:33:13 | トンボ/ムカシヤンマ科

 ムカシヤンマ Tanypteryx pryeri (Selys, 1889)は、ヤンマと名がついているが、ヤンマ科ではなくムカシヤンマ科(Family Petaluridae)ムカシヤンマ属(Genus Tanypteryx)に分類される体形のがっしりした大型のトンボである。複眼が黒褐色で、独特の雰囲気をもつ。複眼が接することなく離れているのでヤンマ科の各種とは区別でき、メスは産卵管を持っているのでサナエトンボ科とは区別できる。この種は遺存的な一群で、世界に10種だけ知られるが、日本にはムカシヤンマ1種だけが生息する日本固有種。ムカシトンボと同じく、形態に原始的な特性を持つ種である。
 ムカシヤンマは、丘陵地から山地の周囲に樹林のある湿地や、水が浸み出す斜面などで見られるが、幼虫(ヤゴ)は他のトンボ類と違い、水がしたたり落ちるゼニゴケなどが一面に茂っているような斜面湿地に穴を掘って棲んでいる。幼虫は水に入ることはほとんどなく、成虫になるのに約3年かかると言われている。穴から顔を出す幼虫は、2017年5月3日に撮影しブログ記事「ムカシヤンマのヤゴと羽化」に掲載している。
 ムカシヤンマは、東北以南の本州と九州に分布しているが、局所的である。また、林道沿いの水がしみ出す崖など不安定な場所で発生している産地は、生息環境が失われる危険が高く、各地で減少傾向にある。環境省カテゴリにはないが、都道府県のRDBでは、東京都、群馬県、長崎県で絶滅危惧Ⅰ類に、埼玉県、神奈川県、山梨県、三重県、兵庫県で絶滅危惧Ⅱ類として記載している。その他13の府県で準絶滅危惧種としている。

 5月23日。関東は、久しぶりの青空と太陽である。このチャンスを逃すわけにはいかず、今季3回目の昆虫観察と撮影のために遠征することを決めた。
 ちょうど発生している信州のクモマツマキチョウが頭を過ったが、今回は、未撮影である「ムカシヤンマの産卵」シーンを撮る事を目的にした。ムカシヤンマは、東京都内にも生息地があり何度も撮影しているが、幼虫の生息場所が分からず、従って産卵も撮影できない。そこで、2017年に幼虫と羽化を撮影した茨城県の生息地へ行くことにした。勿論、車での移動で、現地は当然ながら行き帰りも誰とも接触しない単独行動である。
 自宅を午前5時に出発し、現地には8時に到着。早速、探索である。

 気温17℃。曇り。8時半から幼虫の生息する崖で待機。崖の茂みには羽化殻が2つあり、羽化していることを確認。後は飛んでくるのをひたすら待つだけである。
 10時30分。ようやく晴れ間が広がり直射日光が差す。と同時にメスのムカシヤンマが1頭飛来。するとすぐさまオスが現れメスと連結し崖上へ連れ去ってしまった。その後、オスが4頭が飛来し、産卵場所近くの梢や草、地面などに止まってメスを待っている。着地は下手である。バサッと落ちるように止まる。すべて、産卵場所である崖の方を向いて止まる。近づいても動かない。手で掴むこともできるくらい鈍感であるが、違うオスが来れば追いかけまわすバトルが繰り広げられる。
 この日は、12時半まで4頭のムカシヤンマのオスと共にメスの飛来を待ったが、とうとうメスは産卵に現れなかった。

 今回、目的の産卵シーンを撮ることは出来なかったが、オスの静止写真と共に動画を撮影したので、以下に掲載した。次の週末は、いよいよ「ホタル」の観察と撮影である。今までに撮っていなかった 「ゲンジボタルのメスが産卵のために飛び回る」光景を残すことを主目的にしたい。天候次第であるが、ホタル観察の前に、今回撮れなかった「ムカシヤンマの産卵」をリベンジしようと思う。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ムカシヤンマの写真

ムカシヤンマ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 1600 +1EV(撮影地:茨城県 2021.5.23 10:39)

ムカシヤンマの写真

ムカシヤンマ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 320 +1EV(撮影地:茨城県 2021.5.23 10:51)

ムカシヤンマの写真

ムカシヤンマ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1250 +1EV(撮影地:茨城県 2021.5.23 11:35)

ムカシヤンマの写真

ムカシヤンマ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 800 +1EV(撮影地:茨城県 2021.5.23 11:36)

ムカシヤンマ(メス)の写真

ムカシヤンマのメス
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 3200(撮影地:北陸 2021.06.11 14:16)

ムカシヤンマ

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ムカシヤンマのヤゴと羽化

2017-05-06 18:54:13 | トンボ/ムカシヤンマ科

 ムカシヤンマ Tanypteryx pryeri (Selys, 1889)は、ヤンマと名がついているが、ヤンマ科ではなくムカシヤンマ科に分類されている日本固有種のトンボで、ムカシトンボと同じく、形態に原始的な特性を持つ種である。(本種は「生きた化石」とは言われていない。)体長は80mmほどあり、止まり方は、翅を広げたまま張り付いた格好で止まる事が多い。

 ムカシヤンマの幼虫(ヤゴ)の生態と生息環境は、一般的なヤゴとは大きく異なり、水が滴り落ちてゼニゴケなどが茂っているような土の崖にトンネルを掘って棲んでいる。また、地面の落ち葉の下に穴を作り潜んでいることもある。穴の中には水が少したまっていることが多い。幼虫は水に入ることはほとんどなく、昼間は半身をのり出し穴の入り口近くを通る小動物を補食する。成虫になるまでに約3年かかると言われている。
 東北以南の本州と九州に分布しているが、生息場所は極めて局所的である。環境省RDBに記載はないが、東京都、群馬県、長崎県では絶滅危惧Ⅰ類、神奈川県、兵庫県、熊本県で絶滅危惧Ⅱ類、 その他、多くの自治体において準絶滅危惧種として選定している。

 ムカシヤンマの成虫は、都内において撮影してはいるが、ヤゴの生息場所が不明のままである。今回、知人に茨城県内の生息場所をご案内頂き、生息環境の確認、ヤゴの撮影、そして羽化の様子を撮影することができた。崖の穴で生活するヤゴは、小学生の時に本で知って以来ずっと見てみたい存在であったが、40年以上の時を経てようやくその姿をみることができた。
 今年は、他の昆虫でもそうであるように、羽化が一週間から10日ほど遅く、この地のムカシヤンマも遅れているようである。生息地三か所をご案内頂いたが、一ケ所目では羽化殻はあったものの、この日は羽化はなし。二か所目はまったく羽化する様子もなく、三か所目でようやく3頭の羽化を確認できた。茨城県在住の知人S氏に感謝したい。

お願い:写真は、正確にお伝えすべく、すべて1024*683 Pixelsで掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ムカシヤンマのヤゴの写真

穴から顔をのぞかせるムカシヤンマのヤゴ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/125秒 ISO 2000(撮影地:茨城県 2017.5.03)

ムカシヤンマのヤゴの写真

穴から出てきたムカシヤンマのヤゴ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/100秒 ISO 3200 +1EV(撮影地:茨城県 2017.5.03)

ムカシヤンマのヤゴの生息環境

ムカシヤンマ(ヤゴ)の生息環境/水が滴る泥の崖に掘られた無数の穴にヤゴが入っている。
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO 12500 +1EV(撮影地:茨城県 2017.5.03)

ムカシヤンマの羽化の写真

ムカシヤンマの羽化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/250秒 ISO 200(撮影地:茨城県 2017.5.03)

ムカシヤンマの羽化の写真

ムカシヤンマの羽化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/250秒 ISO 200(撮影地:茨城県 2017.5.03)

ムカシヤンマの写真

ムカシヤンマ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 1250 +1EV(撮影地:東京都 2013.6.02)

ムカシヤンマの写真

ムカシヤンマ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 +1/3EV(撮影地:東京都 2012.6.17)

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