日本国内におけるアゲハチョウ科(Papilionidae)アオスジアゲハ属(Graphium)は、下記の2種が生息しており、他のアゲハチョウ科と生態的に差異があり、幼虫は、茎や幹ではなく「葉」で蛹化し、食草(食樹)も異なる。
アオスジアゲハ属
- アオスジアゲハ Graphium sarpedon nipponum Fruhstorfer, 1903
- ミカドアゲハ Graphium doson (C. Felder et R. Felder, 1864)
- ミカドアゲハ 日本本土亜種 Graphium doson albidum Wileman,1903
- ミカドアゲハ 八重山亜種 Graphium doson perillus Fruhstorfer,1908
アオスジアゲハは、黒地に一本の青緑色の帯が形態的な特徴で、英名では"Common Bluebottle"と呼ばれている。
この帯に鱗粉はなく、翅自体に色がついている。南方系のチョウなので本州、四国、九州、八重山諸島に分布し、現在、東北の秋田県、岩手県の南部が北限であり、年々北上傾向にある。
しかしながら、長野県では、ほとんど見られない。これは、幼虫の食樹であるクスノキ、タブノキ等のクスノキ科常緑樹の分布と関係している。
アオスジアゲハは東京の都心でも普通に見られる。クスノキは大気汚染に強く街路樹として多く植えられていることが理由であろう。また、昨今のヒートアイランド現象と局地的豪雨により熱帯化している都市部は、南方系統の本種にとっては、棲みやすい環境なのかも知れない。
ミカドアゲハは、国内では、和歌山県、三重県の紀伊半島沿岸部と中国地方(山口、広島、岡山の一部)、
四国の太平洋岸の低地、九州、沖縄にしか分布していない。これまで、三重県の玉城町にある田丸神社の杜が北限と言われてきたが、最近は温暖化により愛知県の知多半島まで分布を広げている。しかしながら、食樹であるオガタマノキを中心とする極めて狭い範囲に限って生息するため、食樹の分布上からも、これ以上は北上しないと考えられている。
個体数も多くはなく、高知市の「ミカドアゲハ及びその生息地」は、国の特別天然記念物に指定され、また、室戸市では市指定の天然記念物にも指定されている。
さて、ミカドアゲハを撮影するには、東京から一番近い生息地でも紀伊半島まで行かなければならない。そこで、食樹であるモクレン科のオガタマノキが神木として多く植えられており、昔からミカドアゲハの生息地として有名な伊勢神宮を訪れたわけだが、ミカドアゲハという和名は、このチョウの発見者であるL.H.リーチ氏が明治天皇に献名したことが由来と言われている。ミカド(帝、御門)は、御所の門の意味で天皇の尊称だ。このミカドアゲハを皇室の氏神である天照大御神(あまてらすおおみかみ)を祀る伊勢神宮の内宮で撮ることに大きな意味を感じた。
一方、アオスジアゲハは、東京の渋谷駅近くでも飛んでおり、私にとっては普通種である。今月5日に埼玉県の里山で撮影したが、自身の過去の写真とデータを確認すると、これまでに2回しか撮影しておらず、その内1回は宮古島で、本土では1回でわずか3枚であった。前々回に紹介したスジグロシロチョウをはじめ、アゲハチョウ(ナミアゲハ)等のように、普通種であると、写真は「おざなり」 、生態の勉強は「なおざり」の傾向にある。アオスジアゲハもその類として扱っていたのである。
絶滅危惧種等を追いかけることは有意義であり、絶滅危惧種でなくても撮影難易度の高い種を撮ることは、撮影者としては意欲を掻き立てられる。本年も、それらを中心に遠征続きの週末であるが、誰もが見て知っている普通種をきっちり撮っておくことも、昆虫を学び、また撮る者としては、基本であると改めて認識した昨今である。
注釈:本記事は、先日撮影した未掲載の写真と過去に様々な地域や場所において撮影した写真を再現像し編纂したものです。
お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。
アオスジアゲハ
Canon EOS 7D / EF100-300mm f/4.5-5.6 USM
絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 1250(撮影地:沖縄県宮古島市 2012.09.09)
アオスジアゲハ
Canon EOS 7D / EF100-300mm f/4.5-5.6 USM
絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 800(撮影地:沖縄県宮古島市 2012.09.09)
アオスジアゲハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F11 1/2500秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地:埼玉県小川町 2016.5.5)
アオスジアゲハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F11 1/250秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地:埼玉県小川町 2016.5.5)
アオスジアゲハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F11 1/250秒 ISO 640 +2/3EV(撮影地:埼玉県小川町 2016.5.5)
ミカドアゲハ (日本本土亜種)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:三重県伊勢市 2015.5.17)
ミカドアゲハ (日本本土亜種)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 400 +2/3EV(撮影地:三重県伊勢市 2015.5.17)
東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------