ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

山梨のヒメボタル(2009~2024)

2024-07-24 20:21:24 | ヒメボタル

 山梨のヒメボタル生息地(一ヵ所)には、2008年からほぼ毎年訪れ、観察と撮影を続けている。当地は標高およそ1,000mで、赤松林とブナ林に挟まれた急斜面の尾根であり、下草は極めて少ない。尾根道は地肌が見えており、豪雨があれば全て流してしまうような環境である。幼虫の生息調査も行ったが、幼虫も餌となる陸生巻貝も発見できなかった。これまで日本各地のヒメボタル生息地を訪れてきたが、このような環境の生息地は他では見たことがない。狭い範囲で様々な環境とヒメボタルの飛翔光景を観察できる貴重な生息地である。
 以下には、2009年から今年2024年の間に撮影した写真から9枚を選び、さらに動画1点を掲載した。1枚目は、ネガカラーフィルムでの撮影で、他はデジタルカメラで撮影したものである。成虫は、薄暮型で19時半頃にブナ林から発光を始め、しばらくすると飛翔するようになる。しばらくはブナ林の中を飛び交っているが、森全体が暗くなる20時頃になると尾根を越えて赤松林の急斜面を下るようにもなる。それは「光の川」といっても過言ではない光景である。そして21時には発光を止めてしまう。
 掲載した写真は、尾根から前後左右にカメラを向けて撮影している。つまり、自分の周囲すべてに発光飛翔しており、ヒメボタルに取り囲まれている状況なのである。年によっては、まったく飛翔がない年もあった。それは、発生しなかったのではなく、当地は毎年の発生時期にかなりの差があり、天候状況と休日が合致せずに発生が終わってしまった後に行ったことによる。ちなみに、今年は発生の終盤で発光飛翔する個体は少なかった。
 山梨のヒメボタルは、今後も継続して観察を行い、当地における生態を明らかにするとともに、写真という記録を残していきたいと思う。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。また動画は 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ヒメボタルの写真
ヒメボタル
CANON EOS 3 / Canon EF 50mm F1.4 USM / FUJICOLOR NATURA 1600 / バルブ撮影 F1.8 60分露光(撮影地:山梨県 2009.07.18)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 400 4分相当の多重露光(撮影地:山梨県 2011.07.16)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 7D / SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM / バルブ撮影 F1.4 ISO 400 5分相当の多重露光(撮影地:山梨県 2011.07.16)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 7D / SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM / バルブ撮影 F1.4 ISO 1600 30秒露光(撮影地:山梨県 2011.07.23)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 1600 4分相当の多重露光(撮影地:山梨県 2016.07.16)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 1600 15分相当の多重露光(撮影地:山梨県 2017.07.22)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 1600 8分相当の多重露光(撮影地:山梨県 2019.07.19)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル撮影 F2.8 ISO 1600 約10分相当の多重露光(撮影地:山梨県 2021.7.17)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 ISO 1600 5分相当の多重露光(撮影地:山梨県 2024.07.20)
ヒメボタル(山梨2021)
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンに しますと高画質でご覧いただけます)
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東京のヒメボタル(ブナ林編)

2024-07-15 15:05:08 | ヒメボタル

 東京のヒメボタルの発生が始まって一週間。発生数の状況確認のため7月9日と同じ生息地を訪れた。結果から言うと、前回と発生数はほとんど変わらず、50mくらいの範囲で、30頭余りであった。
 杉林は間伐と下草狩り、ブナ林では乾燥が懸念材料であったが、12日金曜日には雨が降り、訪れた13日も夕方に雨が降ったので、乾燥が原因ならば発生数が増えるだろうと期待したが、思ったほど増えていなかった。ただし、メスが確認できなかったことから、まだこれからが発生のピークになる可能性もある。あるいは、ヒメボタルは成虫になるまで2年を要するため、小規模な生息地では2年周期で発生数が増減するため、今年は少ない年とも考えられるが、環境の急変で減少したならば、復活にはゲンジボタル以上に時間がかかる。飛ぶことができないメスが産卵する場所は局所的であり、産卵数も30~90と少ない。幼虫も狭い範囲で生活しているから、何かあれば多くが一度に死んでしまうからである。
 今のところ何とも言えないが、原因が環境の急変だとしても、この東京のヒメボタル生息地においては、対策を立てることも、具体的な保全策を講じることもできない。ただただ自然に回復するのを待つだけの無力さが悔しい。

 東京のヒメボタル生息地では、肉眼での観察とともに、様々な場面を写真と動画に記録として残しておきたい。他の地区では10年前から観察し何枚もの写真を撮ってきており、この生息地においても4年間でいくつもの証拠を残してきた。先週は、舗装された林道にカメラをセットしたが、今回は、ブナ林にカメラを2台据えた。1台は動画撮影用で、もう1台は向きを変えて写真撮影とした。
 発光の開始時刻は19時20分。9日よりも10分早い。特に生態学的な理由はなく、その個体がたまたま一番早く暗くなる場所にいたのだろう。19時40分頃になると発光する個体が増え始め、45分には飛翔も始まった。
 発光飛翔する個体を見ていると、2~3頭がまとまって飛翔する場合が多く見られた。またどの個体も、おおよそ決まったルートで50m位の範囲を行き来している。漆黒の闇の中で、よく木々にぶつかることもなく飛べるものだと感心する。どこに行ってもそうなのだが、ヒメボタルのオスは、メスが全くいない場所へも飛んでいく。発光飛翔の目的は、勿論飛べないメスを見つけて交尾することなので、周囲を隈なく探索しているのだろうか?あるいは、何頭ものオスが、広範囲を発光飛翔することで、メスに存在を知らせ、メスの発光を促しているのだろうか?
 メスの発光は弱く、下草の葉上よりも地表で発光していることが多い。林道脇などの目立つところにはいるが、発光器が地面を向いているから、光っていても上からでは見つけにくい。限られた時間内で、そのメスとの出会いを果たさなければならないのだから、本能のままに飛び回っているに違いない。
 「ホタルは、なぜ光っているのか」それを理解して初めて、単に幻想的という一言でしか表現できない人たちには分からない"silent sparks"の光景が見えてくる。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

東京のヒメボタルの写真
東京のヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 1600 2分相当の多重 焦点距離フルサイズ換算42mm(撮影地:東京都 2024.07.13)
東京のヒメボタルの写真
東京のヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 1600 4分相当の多重 焦点距離フルサイズ換算42mm(撮影地:東京都 2024.07.13)
ヒメボタルの動画(都多摩西部)
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンに しますと高画質でご覧いただけます)
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東京のヒメボタル(林道編)

2024-07-10 21:06:32 | ヒメボタル

 東京のヒメボタルの発生が始まった。多摩西部の標高700m以上の山間部には、居所的ではあるが、かなり広範囲にヒメボタルが生息している。2004年から観察を続けているが、どの生息地も概ね19時半頃から発光を始め、21時頃までの活動で、生息地ごとの標高やその年の気候によって発生の時期は多少差があるが、全体では7月6日から20日までの2週間が発生時期である。
 今回は、2021年から毎年定点観察を行っている生息地を訪れた記録である。当地は、標高1,000mを越えるブナとミズナラ、シラカンバの原生林と杉林からなる秩父多摩甲斐国立公園の一角である。知人T氏によれば、今年は7月7日から発生。前日夕方の雷雨が地上に出てくるためのサインとなったようである。例年では7月10日が初見日であるから、若干早いようである。翌日も観察に訪れていただいたが、発生数が少ないと言う。私が訪れたのは9日だが、やはり発生数が少なく、見渡せる範囲で20頭足らずであった。

 9日は、17時半に現地入り。東京都心の最高気温は34.5℃であったが、現地17時半の気温は25℃。心地よい気候の中、生息地内の状況を見て回った。舗装された林道を挟んで杉林とブナの原生林があり、そのどちらにもヒメボタルは飛び交うが、残念なことに杉林は間伐と下草刈りが行われていた。杉林を管理するためには必要不可欠なことであるが、この環境の急変はヒメボタルにとっては打撃である。ただし、杉林を生息環境としてきたからには、長い間で何回もこうした変化はあったはずであり、また、それが生息環境の維持にもつながっているので、今回、ダメージがあっても数年すれば復活するに違いない。
 一方、ブナの原生林では異常なまでの乾燥で、地表はカラカラ状態であった。東京は梅雨でありながら、ひじょうに雨が少なく、ここ数日は晴れで猛暑日の連続である。6日の雷雨も一時的なものであり、大地を潤すまでには至らなかった様である。おそらく、杉林の間伐と乾燥が、昨日までの発生数の少なさの原因であるように思われる。
 当日の日の入り時刻は19時ちょうど。尾根であるから、なかなか暗くならない西の空が良く見え、しかも薄雲が広がっており、生息地内も暗くなるまで時間を要する。それでも19時35分に足元の草地で発光が始まり、その数は少しずつ増えて行った。しかしながら、最盛時期の発生数とは比較にならないほど少ない。先述のように見渡せる範囲で20頭足らずであり、21時過ぎには発光飛翔する個体はいなくなった。まだ発生初期でもあり、次のまとまった雨に期待し、再度訪れたい。

 東京のヒメボタルの生息地では、これまでに杉林とブナ林におけるヒメボタルの飛翔風景は撮影しているので(以下のリンクを参照)、今回は杉林とブナ林を行き来する様子を収めようと林道にカメラを据えた。結果は、予想通りに林道を渡ってくれ、その様子を記録として残すことができた。
 私は「ホタルがどんな環境に生息し、どのように光りながら飛んでいるのかが分かるように、そして、その貴重な場面を証拠として残すこと」を目的として写真を撮影しているが、ここで、少しヒメボタルの写真について触れておきたいと思う。
 私が東京のヒメボタルの撮影に初めて成功した2009年は、OLYMPUS OM-2というフィルムカメラにネガカラーFUJICOLOR NATURA 1600で撮っており、それまでの数年間は試行錯誤でかなり苦労したが、今ではデジタルカメラで誰でも簡単にヒメボタルの写真を写すことができる。フィルムと同じ長時間露光で撮る方は少数で、大多数の方々はカメラ本体やパソコンにおいて比較明合成という方法で仕上げる。比較明合成は、背景もヒメボタルの光も美しい1枚にすることができる画期的な方法であると思う。ただし、連続シャッターでもタイムラグがあるので、比較明合成したものは時間連続性がないため写真芸術、あるいはホタルの生態学的な観点からは評価の対象外となることは知っておかなければならない。
 表現は自由であり、比較明合成によって重ねる枚数も人それぞれであるが、昨今、スマートフォンでニュースを見ていると、ある「ヒメボタルの写真」が話題として取り上げられていた。「幻想的」「こんな光景を見たい」などという反響がすごいと言う。何のことはない比較明合成の写真で、撮影者によれば3時間分をすべて重ねたと言う。まさにヒメボタルの光の洪水である。
 表現は自由であり、どんな写真に仕上げようと撮影者の自由であり、それに対して何かを言うつもりはないが、その写真を見た人々が「写真と同じ光景が実在する」と勘違いしてしまうことが恐ろしい。かつてヒメボタル観賞会を行った時、初めてヒメボタルを見たと言う女性の感想は「ガッカリした」であった。写真のようにたくさん光っているものと思っていたらしい。「写真」というものや「撮り方」の知識がなければ、勘違いするのはやむを得ないことかもしれないが、実際に生きているヒメボタルを前にして、感動どころかガッカリとは、こちらがガッカリであった。世にあふれるヒメボタルの写真に騙されてはいけない。

東京のヒメボタルのブログ記事一覧

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

東京のヒメボタルの写真
東京のヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 1600 2分相当の多重 焦点距離35mm(フルサイズ換算)(撮影地:東京都 2024.07.09)
東京のヒメボタルの写真
東京のヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 1600 7分相当の多重 焦点距離35mm(フルサイズ換算)(撮影地:東京都 2024.07.09)
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秩父のヒメボタル

2024-06-07 22:23:03 | ヒメボタル
秩父のヒメボタル

 秩父のヒメボタルは、数年後には絶滅するかもしれない。

 秩父のヒメボタル生息地には、2010年から訪れている。当時、秩父にヒメボタルが生息していると言う話を聞き、長年の勘で生息していそうな場所を夜間に一人で探索したところ、農家の庭先で発光している数頭のヒメボタルを見つけた。その付近を歩いて探していると、何も植わっていない単なる草地で無数のヒメボタルが乱舞している所を発見。時刻は、午前1時を過ぎていた。それまでは、東京奥多摩の山奥の杉林でしか見たことがなく、「森のホタル」と言われていたヒメボタルが開けた草地で飛び交う様に驚いたものである。
 その後、毎年訪れては観察と撮影をし、メスの形態、特に前胸部の赤斑が特徴的であることも分かった。(参照:ヒメボタルの生態と生息環境)その頃は、カメラマンは勿論のこと、地元の方々すら誰も見に来ていなかったが、2012年に私が撮影した写真をブログにて「ヒメボタル(秩父2012年)」と題して公開したところ、私の写真をプリントアウトし、それを持って秩父市内で聞き込みを行った方がいた。その方は、自身のホームページで場所の詳細を公開し道順まで記した。いつの間にか、近くの広場にはヒメボタル生息地という看板まで立ち、瞬く間にカメラマンで溢れかえってしまったのである。路上駐車が多く、駐車禁止の看板と共に駐車場まで整備された。
 2016年に訪れた時には、あまりのカメラマンの多さにうんざりし、その後訪れていなかったが、2022年に生息地の様子と発生の状況を確認したくなり、再び訪れてみると、相変わらずカメラマンと鑑賞者で溢れかえっていた。三脚を据えて椅子に座ってスタンバイしているのはいいが、足元のヒメボタルのメスを踏みつけても何も思わない。ほとんどのカメラマンがそうだ。レンズの先で発光するオスを写すことしか頭にない。今更ながら、2012年のブログ記事に「秩父」と記載したことが悔やまれる。
 このブログでは、昆虫類の写真撮影地は県名までの表記にしており、種によっては保全のために無記載にしているが、今回、表題を「秩父のヒメボタル」としたのは、絶滅の坂を下り始めていることが分かり、その事実を広く知っていただきたいからである。

 ヒメボタルが生息する場所は様々であり、手つかずの原生林の他は、山奥の杉林は勿論、神社の境内や河川敷の竹林等々、ある程度人の手が入って間伐や下草狩りがされており、そのことでオスの飛翔空間が生まれ、飛ぶことのできないメスが、オスとの出会いに成功しているが、今回訪れた秩父の生息地は、公園の竹林はまったくの放置状態で、2年前よりさらに竹藪と化し、道は竹が何本も倒れたままで塞がれており、ヒメボタルの飛翔空間がない状態であった。
 竹林近くのくぼ地では、2年前には乱舞していたが、隣接する木を何本も伐採し、土が見えるまで草も刈ってしまったため、乾燥化で幼虫も死んでしまったと思う。成虫は1頭も飛ぶことはなかった。ヒメボタル生息地という立派な看板を立てておきながら適切な保全管理をしないのは無責任と言わざるを得ない。
 生息地は、少し離れた私有地(農地)にもあり、どちらかと言えば私有地の方が乱舞する。カメラマンが増えてから、農地に無断で入り込む者が後を絶たず、地主さんが「ヒメボタル生息地につき立ち入り禁止」として周囲にテープを張ったのは良いが、これまで乱舞していた草地は膝の高さ以上、場所によっては腰の高さまで草が伸び放題。これでは飛び回るオスはメスを見つけることができない。家も立ったが、私有地内のことに他人が口出しする筋合いはない。

 今回は、15時から周囲の環境を細かく調査し、18時からどの程度の発生があるのか写真と動画で記録を撮った。以下には、2010年と2012年、そして今回2024年に撮影した写真と動画を掲載した。
 天候は快晴で月はなし。昼間の気温は27℃であったが、日暮れと共に下がり23時には17℃まで低下し肌寒さを感じた。ヒメボタルは、20時になると草むらで1頭が光り出したが飛翔はしない。20時半には2頭が発光しながら飛翔。その光は、フラッシュ 発光ではなく、まるでヘイケボタルのようであった。22時を過ぎると発光する個体が増えるが、飛翔する数は増えない。22時半になるとカメラを据えた周囲で一番の暗がりであった10坪ほどの木陰で、10頭以上が発光をはじめ、草地にも飛び出してくる ようになり、23時を過ぎると本格的に発光飛翔するようになった。
 腰まで伸びた草の上を飛ぶヒメボタル。私の目線と同じである。やはりメスを見つけることができない。飛び方も活発ではなく、ゆっくりである。気温は17℃に下がったが、以下の2012年に写した写真と動画では、17℃の降雨時でも活発に発光飛翔していたので、気温の低さだけが影響しているとは思えない。かつては午前2時でも活発に発光飛翔していたが、この日は午前0時を過ぎると林の中に戻ってしまった。かつての光景は、今はない。
 このままの状態が続くとすれば、毎年、確実に発生個体数が減り、数年後には絶滅するかもしれない。私有地の地主さんには望めないが、せめて公園整備を進めた埼玉県には、県のレッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類と位置付けているヒメボタルの貴重な生息地を適切に保全管理をする責任がある。そうしなければ、ここに掲載した光景は、これが最後の記録となってしまう。

以下の掲載写真は、横位置は1920×1280ピクセルで、縦位置は683×1024ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画は 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ヒメボタルの写真
秩父のヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 1600 3分相当の多重(撮影地:埼玉県秩父市 2024.06.05 21:51)
ヒメボタルの写真
秩父のヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 1/30秒 ISO 1600 3分相当の多重(撮影地:埼玉県秩父市 2024.06.05 23:04)
ヒメボタルの写真
秩父のヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 1/30秒 ISO 1600 25分相当の多重(撮影地:埼玉県秩父市 2024.06.05 23:04)
ヒメボタルの写真
秩父のヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 1/30秒 ISO 1600 4分相当の多重(撮影地:埼玉県秩父市 2024.06.05 23:41)
ヒメボタルの写真
秩父のヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 24秒 ISO 800 10分相当の多重(撮影地:埼玉県秩父市 2010.06.06 1:26)
ヒメボタルの写真
秩父のヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3秒 ISO 1600 3分相当の多重(撮影地:埼玉県秩父市 2012.06.08 23:47)
ヒメボタルの写真
秩父のヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F2.8 2秒 ISO 1600 2分相当の多重(撮影地:埼玉県秩父市 2012.06.09 0:27)
秩父のヒメボタル
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ヒメボタル(中部地方)

2024-05-22 17:00:02 | ヒメボタル

 2024年最初のヒメボタルの観察は、初訪問の中部地方の生息地にて行ってきた。

 ヒメボタルは、すでに高知県などでは5月上旬から発生しており、関東東海でも例年通り6月上旬から7月中旬にかけて様々な場所で発生すると思われ、今年も毎年訪れている生息地にて、生息環境や発生状況の確認、更にはこれまで訪れたことのない場所でも観察を行いたいと思っているが、今年最初のヒメボタルの観察は、初訪問の中部地方を選んだ。カメラマンは勿論、地元の方の鑑賞者も誰一人来ない所である。
 ヒメボタルの生息地は、標高およそ50mで、市街地からさほど遠くない所にある山のふもとの雑木林である。近くには畑や竹林もあり、かなり広範囲に飛翔する。深夜型であり、概ね23時から翌2時頃まで活発に発光飛翔する。現地では18時から環境を細かく調査し、日の入りを待った。20時になると、広範囲で5頭ほどだが、開けた場所の木の下、雑木林の茂みの下草の葉の上で発光するヒメボタルが現れる。ただし、時折短く発光するだけで飛ぶことはない。深夜型であっても20時頃から発光を始めるのは、他の深夜型が生息する場所でも同じである。
 その状況が、そろそろ乱舞するであろう23時を過ぎても変わらなかった。訪れた日は、日中は晴れで気温が31℃まで上がり、夜も気温が高く風もない。それは良いのだが、月齢10の月が1時54分に沈むまで雑木林を照らすという悪条件の夜。ただし、夕暮れから薄曇りになる予報は的中し、直射の月明かりを遮ってはくれたものの、空を見上げれば、かなり明るい。街明かりを反射し拡散する夜の曇り空は、月明かりよりも明るいのである。
 ちなみに、満月に照らされる地表の明るさはおよそ0.2ルクス(暗い場所で人工的な光の影響を受けない場合)だが、半月の明るさは約10分の1の約0.02ルクスである。晴天で月のない夜は、0.0003 ルクスであるが、夜の曇り空の照度は、市街地からの距離などでも違いがあるが、市街地に近ければ1,000ルクスほどあると言われている。1,000ルクスは、2020年から新型車に搭載されているオートライトが点灯する照度である。ホタルの仲間は、発光を繁殖行動のコミュニケーションツールとしており、0.1ルクス以下でないと行動が阻害される。知人の話では、前日は晴れで半月より大きい月が輝いていたが、それでも23時から発光飛翔が始まり2時過ぎまで光っていたという。この日は23時を過ぎても、発光する個体は増えず、飛翔もしない。ヒメボタルのメスは、地面を歩くことしかできず、自らの存在をオスに知らせ、オスも発光しながら群飛することでメスに存在を知らせるためには、"暗さ"というものが必要だ。
 観察を続けていると、23時半頃から飛翔する個体が出初め、0時を過ぎた頃から一気に発光飛翔する個体が増加した。その数はどんどん増え始め、1時を回ったころには数百というヒメボタルが、いたるところで乱舞するという状況になった。照度計を持参しなかったので何とも言えないが、月がかなり傾き、更には深夜になったことでビルや家の明かりが消えたことで"暗さ"が増したことによると考えられる。月のない晴れた夜ならば、体内時計によって23時頃から発光飛翔を始めるが、わずかな明るさの違いでも活動が抑制されるのである。いかに"暗さ"が重要であるかということが分かる。
 私は、午前2時半に引き上げたが、その様子は3時半頃まで続いていたようである。まだメスが見られなかったことから、この撮影日に数日後が発生のピークであろう。ただし、次第に満月となり、高度は30度であるが深夜に照っているため、繁殖を阻害しないかが心配である。

 以下には、ヒメボタルの写真5枚を掲載した。私の場合は、観察がメインで、写真撮影はその場の記録を残すという目的で行っている。環境やヒメボタルの飛翔ルートや範囲が分かるように写すことで、ヒメボタルの行動の証拠になり、保全にも役立つ。他の大多数のカメラマンが撮るような、光の玉ボケを入れたり、点景となるような人工物をわざわざ添えたり、光で埋めつくすような「作品」は目指していないし、撮るつもりもない。とは言っても、短時間の露光カットを重ね合わせることで、生息環境のどの部分に集中して発光飛翔しているのかが分かる場合もある。また、悲しいことに一般の方々に感動を与える写真は、光で埋めつくされた写真であり、ブログを訪問下さる方々はそのような写真を期待されているのも事実であることから2時間相当の多重写真を1枚掲載した。
 勘違いして頂きたくないのは、あくまで数時間という長い間に飛び交ったヒメボタルの"光"を、たった1枚に凝縮したものであり、写真は見た目とはまったく違うということである。また、感動は、暗闇の中で黄金色の光を放ちながら懸命に飛び交うヒメボタルを実際に見た時である、ということをお分かり頂きたい。
 最後になったが、今回、ヒメボタルの生息地をご案内いただいたI氏に心から御礼申し上げたい。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 20秒 ISO 1000 5分相当の多重(撮影地:中部地方 2024.05.19 0:07~)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM(焦点距離24mm) / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 1600 2分相当の多重(撮影地:中部地方 2024.05.19 23:42~)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM(焦点距離24mm) / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 1600 120分相当の多重(撮影地:中部地方 2024.05.19 23:42~)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 1250 12分相当の多重(撮影地:中部地方 2024.05.19 0:55~)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 800 24分相当の多重(撮影地:中部地方 2024.05.19 1:20~)
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ヒメボタル(東京2023)

2023-07-17 16:51:04 | ヒメボタル

 ヒメボタルの東京都における生息地は、標高およそ700m~1,200mの山地に点在しており、2004年から観察と撮影を行っている。今年は、2021年から観察を開始した生息地に行き、発生状況や環境の変化などを調査観察をするとともに、いつものように写真に収めてきた。

 ヒメボタルは、全国的(本州、四国、九州)には標高0mからおよそ1,700mまで、ブナ・ミズナラの原生林から、天然林、杉林や竹林、河川敷や里山の雑木林などの人工林(二次林)、畑や堀など、様々な環境に適応して生息している。ちなみに、「人工林」は読んで字のごとく、人が植えて育てる森林のことで、「天然林」とは、伐採など人の手が加わっても、自然の力で維持されている森林を指す。それに対し「原生林」とは、過去に伐採されたことがなく、人為の影響のない森林のことを言う。
 今年も訪れた東京のヒメボタルの生息地は、標高およそ1,100mでブナ、ミズナラ、シラカンバ(白樺)の天然林と林道を挟んで反対側は杉林の人工林となっており、一度に違った生息環境を見ることができる。杉林はよく管理され、天然林においても笹などが低く茂っているため、ヒメボタルのオスの飛翔空間が広く保たれている。このような空間は、当然のことながら夜間でも暗く、オスは空間全体を飛び回っている。草木が生い茂った部分では飛翔しない。翅がなく飛ぶことができないメスは、こうした空間の一部におり、オスは空間全体を飛翔することでメスに存在をアピールしているものと思われる。

 東京都内におけるヒメボタルの発生時期は、7月上旬から中旬頃までで、この生息地は例年7月10日頃から発生が始まり、10日間ほどで期間は終了する。今年は、7日には知人が発生を確認しており、9日にはかなりの数が飛翔していたと連絡を受けた。連日、月がなく風も弱く、気温も19時で23℃以上あり、一気に発生数が増え、飛翔条件も良いことから、多くのオスが乱舞したのだろう。
 私が訪れたのは15日。現地には18時に到着。月明かりの影響がなかった2021年は、ブナ林の入口付近で19時24分から発光が始まり、月明かりがあった昨年は19時40分。今年も月はなく、気温は24℃。風もない。ただし、発光が始まったのは昨年同様に19時40分であった。20時を過ぎると発光飛翔数が増えてきたが、期待するほどの数ではなかった。飛翔数には波があり、まったく発光が見られない時間帯もある。21時を過ぎると次第に減り、最後は21時40分には、ほとんどが下草に止まり、発光を止めた。
 今年は、おそらく例年よりも4日ほど早い発生で、12日頃をピークとして訪れた15日は終息傾向であったと思われる。蛹から羽化までの期間は温度に関わらず一定と仮定し、前蛹から蛹化までは、ゲンジボタルと同様に積算温度が関係しているとして、昨年と今年の気象をグラフにし比較検証してみた。6月からの平均気温、最高気温を比較すると、7月になってからは若干今年の方が高いが、積算温度を見てみると、最終的に今年は昨年よりも10日度ほど高くなっていることが分かる。前蛹から蛹化までの期間であっただろう6月の間でも高いことから、前蛹期間が短くなり昨年に比べて発生が早かったことが理解できる。また、7月1日~10日までの夕立を含めた降雨日数が、昨年の6日間に対して今年は4日間で、しかも7月5日からまったく降っておらず、更には10日からは連日最高気温が30℃を超えたことが、羽化後の飛翔チャンスを多く与え、1頭の寿命も短くし、発生のピークを早めたとも考えられる。(参照:ホタルの発生に及ぼす温暖化の影響について
 東京のヒメボタル生息地には、鑑賞者も他のカメラマンも来ることはない。環境も安定しているので、また来年も定点観察地として訪れ、今度はメスの生息場所を突き止めたいと思う。

多摩地方の気象の図
多摩地方の気象(気象庁データより作成)

 ヒメボタルの観察と撮影も終盤になり、今年は次の週末が最後となる。写真においては、いつも、どんな場所でもそうだが、中望遠レンズで点景とともにヒメボタルの光を芸術的に入れた写真は撮っていない。私の写真をご覧いただければお分かり頂けるように、標準レンズや広角レンズでなるべく広い範囲を撮っている。それは、ヒメボタルが生息する自然環境とヒメボタルが舞う命をつなぐ光景を嘘偽りない記録として残しておきたいからである。「どのような環境で、どのような範囲を、どのように飛翔しているのか」これが重要な記録になる。
 生息場所によっては、当然、光跡の数はとても少ない。それでも、その写真はヒメボタルが生息している環境と生息の証拠として貴重な資料だ。光跡の少ない写真を掲載したところ「光が少なく観賞に耐えない写真」とコメントを頂いたことがある。単なるインスタ映えを狙った光ばかりのヒメボタルの写真があふれ、そのような写真ばかりを見ているからであろう。多少の悔しさも感じるので、それに近い写真も掲載することにしている。
 今回は、カメラ2台を杉林にセットし、発光飛翔の様子を収めた。1枚目は、飛翔がよくわかるように150秒相当の多重にとどめた。杉林の急斜面を下から上に、時には上から下に早いスピードで飛翔している。2枚目は同じ杉林において35分相当の多重である。3枚目は更にレンズの近くを飛翔した2カットを追加した。これらは見栄えは良いが、林床をどのように発光飛翔しているのかは全く分からない。ヒメボタルを知らない方では、林床が光で埋めつくされていると勘違いしてしまうかもしれない。また4枚目は、杉林とは林道を挟んで反対側にあるブナ、ミズナラ、シラカンバ(白樺)の天然林におけるヒメボタルの写真で、2021年に撮影した10分相当の多重のものを再現像して掲載した。今年は撮影しなかったが、映像は昨年に撮っているので、こちら「東京のヒメボタル生息地」を参考にして頂きたい。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ヒメボタル(東京都)の写真
ヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 15秒×10カット多重 ISO 2000(撮影地:東京都 2023.07.15)
ヒメボタル(東京都)の写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 15秒×140カット多重 ISO 1600(撮影地:東京都 2023.07.15)
ヒメボタル(東京都)の写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 15秒×142カット多重 ISO 1600(撮影地:東京都 2023.07.15)
ヒメボタル(東京都)の写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 10秒×60カット多重 ISO 1600(撮影地:東京都 2021.07.10)
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杜に舞うヒメボタル

2023-06-12 21:14:25 | ヒメボタル

 杜に舞うヒメボタルを観察し撮影してきた。

 杜に舞うヒメボタルは、日本各地で見ることができ、関東周辺では静岡県御殿場市の二岡神社(未訪問)が有名であるが、今回の撮影場所は違う所である。
 撮影した地域は、ヒメボタルの分布的に貴重な地域であり、2010年からヒメボタルの観察と撮影に行っている。しかしながら、写真には、いつも1~2頭が飛んでいる様子しか収められていなかった。古くからの親友の調査では、この地域ではかなり広範囲にヒメボタルが生息していると聞いており、また、知人は昨年にこの地域内のある場所でヒメボタルが乱舞しており、写真に収めたとの連絡を頂いていた。それが杜に舞うヒメボタルであり、そこで今年は、その場所に行ってみることにした。
 10日土曜日は仕事の為、翌11日、小雨降る自宅を午後12時に出発。現地には14時過ぎに到着した。これまで観察をしてきた場所の近くであり、やはり広範囲に生息している証拠である。その場所は、神社の参道であり、常緑照葉樹が多い地域にも関わらず、鳥居をくぐると両脇は杉林になっている。その杜にヒメボタルが舞うのである。
 この地域のヒメボタルは深夜型で、23時からが活発に活動する。しかし到着時刻は14時過ぎ。周辺の環境を入念に調査し、16時に撮影のための三脚をセットし、後は待機である。19時からはカメラもセットし、その場で待機して活動の様子を伺った。気温23℃で無風。曇りで、時々日が差す天気で、将にホタル日和である。
 徐々に日が暮れ、19時45分。1頭のヒメボタルが下草で発光を始めた。規則的は明滅はしない。20時になると発光飛翔する個体も現れた。V字谷という物理的環境なのだろうか?長く光りながら、不思議なことに地上10mの高さまで舞い上がっていく個体が多い。また、あちらこちらで数頭が発光をしているが、発光は長くは続かない。準備運動なのだろうか?21時を過ぎても、あちらこちらで数頭が時々光るだけで、、一向に発光数は増えない。
 この場所は、人口の明かりは一切ない杜である。一種独特の緊張感を感じる。しかも私一人であり、若干の恐怖を感じながらの待機であったが、22時頃にカメラマン一人がやってきた。独占ではなくなったが、こんな環境では心強い。話を聞くと、昨日はとてもヒメボタルもカメラマンも多く、ヒメボタルは22時過ぎで、かなり乱舞していたという。今日は、昨日よりも気象条件は良いが、なかなか発光飛翔の数が増えない。
 時刻は23時。やはり体内時計があるのだろう、ようやく発光飛翔するヒメボタルが植えてきた。これまでは、参道両脇の杉林の中を飛んでいた個体も、参道に出てくるようになった。参道の隅では、メスのヒメボタルが独特な発光をしているが、参道は谷の傾斜の部にあり、オスは高い所を飛翔して一向に気づく様子はなかった。
 この夜、見渡せる範囲で50頭以上が発光していたが、居合わせたカメラマンの話では、昨日の方が発光飛翔する数が多いようであった。メスも発生していることから、発生のピークは昨日今日あたりではないかと思われる。

 今回撮影した場所は、鳥居もあって写真映えがし、更にはこの地域で唯一まとまったヒメボタルの写真が撮れる場所であろう。しかし、都道府県が発行するレッドリスト(2019年改訂版)では、最重要保護生物(特に留意が必要な種)として記載されている。埼玉県のヒメボタル生息地のように、足元にいるヒメボタルを踏みつけても何とも思わない、単にインスタ映えする写真を撮りたいというだけのカメラマンが押し寄せることを防ぎ、ヒメボタルと自然環境を保全する観点から、今回は撮影場所を都道府県名さえも記載しないことにした。貴重な記録として、以下には、横構図の写真2点、飛翔の様子が分かるものと見栄え重視のものと、同じ位置から撮影した縦構図の写真、そしてフルハイビジョンの映像を掲載した。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 10秒×27 ISO 1600~3200(2023.6.11)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 10秒×110 ISO 1600~3200(2023.6.11 22:05~23:53)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM(焦点距離26mm) / マニュアル露出 F2.8 15秒×56 ISO 2500~3200(2023.6.11 21:46~23:47)
杜に舞うヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE
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ヒメボタルと天の川

2022-07-25 15:36:24 | ヒメボタル

 ヒメボタルと天の川の写真を初めて撮ることができた。

 日本ホタルの会主催のヒメボタル観察会に理事(スタッフ)として参加してきた。日本ホタルの会では、コロナ禍により発生地でのホタル観察会を2年連続で見合わせてきたが、今年度は再開することにした。とは言え、一日のコロナ新規感染者が過去最高の3万4千人を超えるという状況。感染対策を十分に行っての開催である。日本ホタルの会の観察会は、これまでゲンジボタルが中心であったが、今回は初めてヒメボタルの観察で、写真撮影講習会も行った。
 都心から遠方であるため、全員、自家用車での集合。まずは分かりやすい「道の駅」に集まって頂き、その後、ヒメボタル生息地まで移動。18時から生息地と発光する時間帯や飛翔場所等を説明したが、この生息地は深夜型のヒメボタル。20時頃からチラホラ発光を始めるが、本格的な発光飛翔は23時過ぎからである。実に長丁場の観察会である。
 20時を過ぎると森の縁で1頭が発光を開始した。ヒメボタルを初めて見ると言う小さなお子様連れのご家族。その光り方や発光色、そしてヒメボタルの小さな命に感動していた。カメラを持参した参加者は、思い思いの場所に散らばったが、撮影初心者の方は、奥には入らず安全な場所から、この生息地らしいブナの森に向けて構図を決めて頂き、私が適宜撮影のアドバイスを行った。私も1台はその場所にセットし、もう1台は開けた草地において縦構図とし、空が入るようにセットした。
 このヒメボタル生息地は、2010年からほぼ毎年訪れており、写真と映像を何点も記録しているが、今回はかねてからの目標である構図で撮ろうと決めていた。それがヒメボタルと天の川である。2011年の時には月も雲も無く天の川が綺麗に見えており、ヒメボタルも森から出てきて多くが飛翔していたが、天の川と組み合わせて撮ろうと言う考えさえ浮かんでおらず、撮影できるレンズも撮影技術もなかった。
 その後、一年おきに月明りのない夜になるが、これまではいつも雲が広がり星は見えなかった。快晴の夜もあったが、そんな時に限って半月が煌々と照っていて天の川は全く見えなかった。11年経ってのこの日は、月は午前1時に三日月が昇ってくる程度。雷雨等の天候が心配されたが、快晴の時間帯もありチャンスである。過去の知見から、ヒメボタルはブナの森から出てきて草地を発光飛翔することも分かっている。風はなく、気温は19℃。夏の天の川は、肉眼でも確認でき、ヒメボタルは予想通りに森から出てきて飛翔してくれた。天上の星と地上の星の融合である。
 もう一台は、この生息地ならではのブナの森を飛翔するヒメボタルの様子を写真と映像に収めた。前々回の記事「ゲンジとヒメのコラボ」の最後で「林床がヒメボタルの光で埋め尽くされる創作写真が多い昨今、できればヒメボタルの生のリズムと躍動を感じるものでありたいと思う。」と記したが、世間一般の方々に評価され受ける写真は、これでもか!くらいに光を重ねた写真である。1時間あるいは2時間の間に発光したすべての光の点を1枚という写真に重ね合わせて凝縮するのだから別の世界である。それはそれで奇麗だと思うし、以下の4枚目に13分に相当する発光数を重ねたものも掲載したが、3枚目の写真と比べると、やはり本質から離れてしまう気がする。映像は、発光飛翔する2時間以上の中で、たったの1分間の光景であるが、写真と異なり実際の見た目に近い。
 参考までに6、7枚目に2011年に今回と同じ場所で撮影した天の川、そしてヒメボタルの写真も掲載した。ヒメボタルは、合成なしの256秒長時間一発露光で撮影したものである。

 悲しいことに、今回の観察会参加者の撮影組も「これでもか!」を目指している。何百、何千枚を重ねる・・・そんな会話が聞こえてくる。何が悲しいかと言えば、撮影に夢中になり観察しないことである。撮り慣れた方の中には、撮影は連続シャッターでカメラ任せにし、ご自身は車に戻って会話に興じる。カメラは後で回収して、自宅に帰ってからPCで処理すれば写真の出来上がりである。この夜も、まるでヘイケボタルのような発光の仕方で飛ぶ個体や、飛翔スピードがかなり速い個体、同期明滅のタイミングが合っていく瞬間、そして明滅せずに発光飛翔するクロマドボタルの成虫が観察できたが、観察には興味がないようである。
 また、光溢れる写真ばかりを目にしているためだろうか「乱舞してなくて残念」という言葉も聞かれた。確かに発光飛翔数の多い時に比べれば半分程度であったが、同じ場所で長い時間観察していれば、多くが同期明滅する素晴らしい瞬間もある。写真の先入観から四六時中、林床が光で埋め尽くされていると誤解する方もいるかもしれない。
 私は、初めてヒメボタルの光を見た時には衝撃的な感動を覚えた。ゲンジボタルやヘイケボタルとは全く違う発光の仕方、そしてそれが漆黒の森の中のあちこちで明滅する。里山の小川や田んぼに見る情緒ある光景ではなく、特別な不思議さを感じたものである。そんな話もしたが、何か腑に落ちない様子の方もいた。観察会では参加者の安全を考慮し、森の外から観察するように勧めたが、森の中の漆黒の闇に包まれていれば、きっと不思議な感覚と異次元の感動を体感できたかもしれない。
 撮影者も観察者も、まずはこの小さな命が懸命に光りながら飛ぶ姿に感動していただきたい。光の数は問題ではない。

 今回の日本ホタルの会主催「ヒメボタル観察会」の参加者は、スタッフを含め総勢30名。それぞれの思いは様々であろう。写真撮影を行った参加者は、それぞれが思うような結果を得られたか どうかは分からないが、是非、命の神秘さと尊さ、自然の美しさと大切さに思いを馳せて頂きたいと思う。
 この記事で今年のホタルの成虫の発光飛翔に関する投稿は終了であるが、私にとっては一年中がホタルの季節。観察と記録はいつでも継続して行っているので、特記事項があれば掲載したいと思う。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ヒメボタルと天の川の写真
ヒメボタルと天の川
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 2500(撮影日:2022.7.23 20:30)
ヒメボタルと天の川の写真
ヒメボタルと天の川
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 2500(撮影日:2022.7.23 22:35)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 ISO 1600 3分相当の多重(撮影日:2022.7.24)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 ISO 1600 13分相当の多重(撮影日:2022.7.24)
ヒメボタルの写真
フラッシュ発光ではないヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 20秒 ISO 1600(撮影地:2022.7.24)
天の川の写真
天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE4 / バルブ撮影 F1.4 4秒 ISO 6400(撮影地:静岡県 2011.7.23 22:25)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル(長時間露光 合成無し)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 256秒 ISO 1600(撮影地:静岡県 2011.7.23 23:23)

ブナの森のヒメボタル/Fantastic firefly dance

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ゲンジとヒメのコラボ

2022-07-18 17:55:39 | ヒメボタル

 ゲンジとヒメのコラボ(ゲンジボタルとヒメボタルが同時に舞う光景)を撮ることができた。

 先週に引き続きヒメボタルの観察と撮影に出掛けたが、今回は、これまで足を踏み入れたことがない場所にてヒメボタルの生息確認を行った。事前に知人のT氏が探索しており、生息は確認して頂いていたが、どのような環境なのか、またどのくらいの生息範囲にどのくらい生息しているのかを調査するともに、証拠の写真を残すことが目的である。
 場所は、自宅から車で90分ほど走り、徒歩で山道を30分ほど登った標高およそ1,200m付近である。標高差約250mを一気に登る軽登山である。以前、とあるヒメボタル生息地まで林道を30分歩いて登ったことが何度もあるが、歳と共に衰える体力と日頃の運動不足の体には、久しぶりにきつい。カメラ2台と三脚2本、それに飲料水600ml×2本。重い!
 最初は深い谷であるが、標高を上げるにつれ道は渓流沿いとなり、更に進むと渓流は源流の様子を呈してくる。周囲の斜面はブナを主体とする天然林である。サワクルミの大木も多い。T氏によれば、ヒメボタルはかなり広範囲の場所でそれぞれに飛翔していたという。気温24度、曇り時々晴れ。歩きながらある場所をポイントに定めることに決定した。
 初めての場所では、ヒメボタルがどこをどのように飛翔するのかは全く分からない。そこはこれまでの経験と勘に頼り、車横付けの場所や歩いて数分の生息地では見られない光景を残せるようロケーションを優先してカメラをセットした。1台は源流と奥に広がるブナ林が収まる位置にセットし、もう1台はブナの大木を配した斜面に向けた。飛翔するであろう時刻まで2時間の待機である。
 19時を過ぎるとようやく薄暗さに包まれる。19時16分。すぐ近くで1頭のヒメボタルが発光しながら飛び始め、斜面を降りて行った。生息の確認はできたが、その後はなかなか発光しない。19時35分。ブナの大木を配した斜面にセットしたカメラの方向で何頭かが発光飛翔しているのが目に入った。行って見ると、カメラの後ろ側の林で多く飛び交っている。しばらくすると、カメラの前を横切るように飛ぶようになった。狙い通りである。源流にセットしたカメラは10mほど離れている。両方を同時に操作することはできないため、源流のカメラはレリーズでシャッターを固定し、ヒメボタルが飛ぼうと飛ぶまいと関係なくひたすら連続撮影である。
 ブナの斜面で観察していると、源流の方向に明滅しない光の筋が見えた。クロマドボタルのようである。昨年、山梨県内のヒメボタル生息地でも観察したことがある。ただし、すでに真っ暗で自分の足も見えない状況。ライトを付けない限り移動は全くできないので、発光を見ただけの記録である。
 当生息場所全体の生息数は不明だが、かなりの広範囲をばらけて飛翔する。急な斜面や起伏もあるため、見える範囲だけでは決して多いとは言えない。どこかへ飛んで行ってしまうと全くいなくなり、しばらく暗闇に包まれる。そしてしばらくすると、また光が現れるといった繰り返しである。どこかにまとまった飛翔区域があるのかもしれないが、今回は分からなかった。
 21時近くになり、発光飛翔の数が全く見られなくなったので、足元だけをライトで照らし、源流のカメラの場所に向かった。すると、1頭のゲンジボタルが目の前をゆったりと飛翔しているではないか。標高1,200mの源流にゲンジボタル。ここに生息しているのかもしれないが、おそらくは、麓の生息地から上昇気流に乗って上がってきた個体であると思われる。かつて富士山の標高1,200m付近の林でも見たことがあるが、まさかここでゲンジボタルに遭遇するとは思いもしなかった。偶然とは言え、ゲンジとヒメのコラボ(ゲンジボタルとヒメボタルが同時に舞う光景)は、両種の発生時期が異なっていたり、そもそも生息環境の違いや生息分布が重ならないことから、全国的にもそう多くはない。特に撮影した地域では初であり、たいへん貴重な記録である。

 今年も知人のT氏にはお世話になり、心より御礼申し上げたい。多くの事を学び、また新たな疑問も生じ、未だ生態に不明な点が多いヒメボタルの魅力をより一層感じた日であった。以下に掲載した写真は、2台のカメラでそれぞれ撮影した2点。ゲンジとヒメのコラボも貴重だが、個人的には源流付近を舞うヒメボタルを収めるのも初めてであった。林床がヒメボタルの光で埋め尽くされる創作写真が多い昨今、できればヒメボタルの生のリズムと躍動を感じるものでありたいと思う。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。

ゲンジボタルとヒメボタルの写真
ゲンジボタルとヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 ISO 2000 約3分相当の多重(撮影日:2022.7.17)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 ISO 1600 約5分相当の多重(撮影日:2022.7.17)

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東京のヒメボタル生息地

2022-07-11 21:08:42 | ヒメボタル

 東京のヒメボタル生息地は、秩父多摩甲斐国立公園内の標高およそ700m~1,200mの山地に広く分布している。今年も、昨年訪れた生息地に行って見た。標高1,000mを越えるブナとミズナラ、シラカンバの原生林と杉林である。昨年は、ブナ林で発光飛翔する様子を写真に撮った。「参照;ヒメボタル(東京都)」今年は杉林で観察と撮影を行った。杉林では、別の東京都内のヒメボタル生息地ではあるが、過去に何度も訪れ写真撮影は行っている。「参照;ヒメボタル(東京2020)
 天候は晴れ時々曇り。気温は到着した18時で24℃。早速、林道にカメラ2台をセットして待機。昨年は、ブナ林の入口付近で19時24分から発光が始まったが、今年の一番ボタルは19時40分。なかなか後が続かない。20時を過ぎても一向に発光し飛翔するヒメボタルが増えないのである。それもそのはずで、月齢11.3の明るい月が、20時の段階で南方向30度の高さに輝いており、杉林の林床を照らしていたのである。山奥にたった一人であるから、この月明りは、私にとっては恐怖心を和らげたが、ヒメボタルにとっては大敵である。
 20時半になると月が雲で隠れ、林内は暗闇に包まれた。するとヒメボタル達は盛んに発光飛翔するようになった。しかし、それも15分足らずで終了。再び、月が林床を照らし始めたのである

 東京のヒメボタル生息地における今回の目的は、発生時期、活動時刻、飛翔範囲とルートの確認、そして証拠・記録としての写真と映像の撮影であった。月明りに邪魔をされたが、これら目的はすべて達成。以下には、3枚の写真と映像を掲載した。1枚目の写真は90秒相当の多重で、ヒメボタルの飛翔ルートが分かる。観察していると、何故オスはそのコースを飛翔するのか、そして全体的な飛翔範囲から特性も推察できた。できれば次の週末に再訪し、メスの生息範囲等を確認をし、仮説を証明したいと思う。
 インターネット上では、これでもか!という位にヒメボタルの発光を重ね合わせた写真ばかり目に付き、コンテストでも上位に入るようだが、それらは単に「インスタ映え」という変な流行に惑わされた創作であり、ヒメボタルの生態学的見地からは何の意味もなく価値もない。そう思いながらも10分と13分相当の光跡を重ねた写真も掲載してみた。

 この東京のヒメボタル生息地は、ヒメボタルの生態の知識がなく、それを学ぼうともしない、そして保護保全には興味がない単に創作写真撮影だけを目的としたカメラマンや興味本位の見物人は誰一人として来ない。かつては観賞者もカメラマンも誰もいなかった埼玉県や静岡県のヒメボタル生息地は、現在では人で溢れている状況。埼玉県のヒメボタル生息地では、カメラマンの足元の下草で光り始めたホタルがいても全く気にすることなく踏みつぶしていたのである。それも一人ではない。カメラを向けた方向に飛んでくれさえすれば良いのだろう。静岡県の生息地では、ヒメボタルが飛翔する時間になってから車で訪れ、いつまでも飛翔場所に向けたヘッドライトを消さない初老のカメラマン。消して頂くように話をすると「ここは駐車場だ!」と逆切れ。あるいは、生息地内を懐中電灯を照らしながら「ここはカメラマン優先ではなく、歩行者優先だ」と言いながら歩く若者。「ホタルが最優先である!」こんな状況はうんざりである。この東京のヒメボタル生息地を同じ状況にはしたくない。開発の手も入ることはない。これからも、ずっと山奥でひっそりと光り続けてほしいと思う。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

東京のヒメボタルの写真
東京のヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 ISO 1600 90秒相当の多重(撮影地:東京都 2022.7.10 20:00)
東京のヒメボタルの写真
東京のヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 ISO 1600 10分相当の多重(撮影地:東京都 2022.7.10 20:30)
東京のヒメボタルの写真
東京のヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 ISO 1600 13分相当の多重(撮影地:東京都 2022.7.10 20:45)
東京のヒメボタル

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ヒメボタル 埼玉2022

2022-06-06 15:42:05 | ヒメボタル

 今年最初のヒメボタルの観察と撮影は、2010年に私が発見した埼玉県の生息地へ6年ぶりに訪れた。
 ヒメボタルは、かつて「森のホタル」と呼ばれ、雑木林やブナ林、杉林、竹林内で見られることが多いが、埼玉県の生息地は開けた畑や草地を発光しながら飛翔する。街灯がある民家の庭先にも飛んでいる。中部地方では河川敷や城跡のお堀に生息するヒメボタルがいるが、開けた何もない草地上を乱舞するヒメボタルは伊吹山等の他ではほとんど見ない。関東地方のヒメボタルでは一番発生時期が早く、また成虫の形態にも特徴がある貴重な生息地である。

 2010年の生息地発見当時は、地元の人も誰一人としてヒメボタルを見ている方はいなかった。深夜型のヒメボタルであるから、地元の人も気が付かなかったのだろう。勿論、カメラマンもいなかったが、2010年から2012年に撮影した写真を当時ブログで公開(市の名称までを記載)したところ、場所を教えて欲しいとの問い合わせがあった。丁重にお断りすると私の写真(下記掲載写真4及び5)をプリントアウトし、市内で聞き取りを行って場所を突き止めた方がいた。そして自身のホームページで生息地までの行き方まで詳細に公開したのである。ヒメボタルはかなり広範囲に生息しており、近くの河川敷に遊歩道が整備された緑地には、ヒメボタル生息地として看板も設置され、それらの情報は瞬く間に広がり、2016年に訪れた時にはカメラマンで溢れかえっていた。
 あまりのカメラマンの多さにうんざりし、その後訪れていなかったが、今回生息地の様子と発生の状況を確認するため6年ぶりに訪れてみた。この生息地のヒメボタルは深夜型で23時過ぎからがピークになる。かつて観察していた場所には民家が増えたので迷惑等も考慮し、今回は数百メートル離れた河川敷の緑地に行って見ることにした。

 天候条件から4日(土)に行くことに(関東甲信地方は6日(月)に平年より1日早く梅雨入り)したが、あいにく19時まで仕事。仕方なく職場からそのまま現地へ向かった。21時頃に緑地の駐車スペースに着くと、すでに30台以上の車が止まっており、懐中電灯なしで遊歩道を進んで竹藪がある場所に行くと、遊歩道の両側には大勢のカメラマンが三脚を並べて待機中であった。
 かつてこの竹藪では、ほとんどヒメボタルを見ることがなかった、しばらく訪れないうちにカメラマンがこれだけ増えたということは、それなりに飛ぶのであろう。ただし、緑地全体は10年前に比べて自然度が高くなっていたが、草刈りはほとんどされていない状況。竹藪は、文字通り藪で荒れ放題である。
 背景の前撮りができない時間帯の到着であるが、一応カメラも持っていったので写真も撮ることにした。ただし、竹藪内は真っ暗で何も見えないため、カメラを向ける方向も構図も適当である。

 22時を過ぎると、竹藪の外の遊歩道脇にある草地でヒメボタルがチラホラと発光を始めた。カメラマンの足元でも光っているが、こちらが声を掛けなければ踏んでしまう。竹藪内ではまだ光らないが、草地では飛翔も始まった。
 23時を過ぎると、ようやく竹藪の中でも光が確認できたが、それほどは多くはなく、しかも手前の方ばかりで奥にはいない。人が入り込むことが出来ない程の藪では、メスの存在もないのだろう。これまで観察と撮影をしてきた近くの乱舞地では、道路脇の草地で多くのメスを発見している。他の地域の生息地でもそうだが、メスは林内よりも道路脇の茂みに多い。この場所でも遊歩道脇の草の茂みにいる可能性が高い。
 2009年に発見された岐阜県の長良川河川敷のヒメボタル生息地は、それまで長い間竹藪であったが、地元ボランティアが竹と竹の間隔を「人が傘をさして通れるほど」空けるという竹藪管理の格言の基に活動を行った結果、健康な竹林が回復し、ヒメボタルが乱舞し発見に至ったと言われている。この埼玉県の生息地においても、放置ではなく、適正な管理を行うことが必要である。
 竹藪では午前0時半頃まで観察と撮影を行い、駐車場に戻ろうと遊歩道を歩いていると、窪地になった開けた草地でヒメボタルが乱舞しており、改めて生息域の広さと生息数の多さを実感する。この緑地におけるヒメボタルの保全は、竹藪の適正な管理とカメラマンの「マナー向上」であろう。深夜ではあるが、誰もが気軽にヒメボタルを観察できる場所だけに、徹底しなければならないと思う。

 ホタルの写真撮影の鉄則について、この時期だからこそ記しておきたいと思う。

 ホタルの本格的な季節となり日本各地で美しい光景が見られ、インターネット上でも今年撮影されたホタル写真が多く公開されるようになってきた。フィルムカメラの時代では、フィルムの選択から始まり、長時間露光の露出設定、街明かりによる緑被り対策に苦労しながら撮影し、現像結果が分かるのは数日後。ヒメボタルの撮影方法を見つけ撮るまでに6年もかかったものである。しかしながら、現在のデジタルカメラでは、いとも簡単にホタルの写真が撮れてしまう。カメラ任せでも撮れるし、自宅に帰ってからパソコンで処理すれば美しいホタルの飛翔風景写真となる。
 ホタルの写真を上手く撮りたいと皆思う。知識不足の方々のために、プロの写真家のみならず多くのアマチュアカメラマンがインターネットやYoutubeでホタルの撮り方、写真現像の仕方を公開し、DVDまで販売している。これらで学ぶのも良いだろう。ただし、1つ注意しなければならない。こうしたプロの写真家もアマチュアカメラマンも「ホタルの専門家」ではないということである。私の知人であるプロの写真家の中には、日本ホタルの会の会員になり、ホタルについて学んでいる方もいらっしゃるが、こうした方は一部であり、多くはホタルに関しては素人である。ホタルの専門家ではないアマチュアカメラマンやプロの写真家の言うことは、当然のことながら写真撮影が主目的の内容になっている。
 写真の撮り方の説明の中には、ありきたりな「マナー」については書かれている。例えば

  • 光を出さない(車のヘッドライト、懐中電灯、カメラのランプはNG)
  • 虫除けスプレーを使わない
  • 不用意に茂みに入らない
  • ホタルを捕まえて持ち帰らない

 この程度である。こんな記述もある。「ホタルは光を嫌うことはすでに述べた。とはいえ、真っ暗な中で撮影の準備を行うのは大変。そこでホタルへの影響をできるだけ少なくするために、赤い光を発光できるヘッドライトを用意しよう。・・・」なぜ、真っ暗な中で撮影の準備をするのであろうか?なぜ、灯りを点ける必要があるのだろうか?確かに、ホタルの赤色に対する分光感度は比較的低いことから、灯火や懐中電灯に赤色フィルターをつけると影響を少なくできると書かれた論文は多くあるが、赤色でも1ルクスになると約25%が行動しなくなり、産卵にも遅れが生じるという報告もある。「影響を少なくできる」とは、「少なからず影響がある」ということである。
 高知県に住む知人の話では、私も行ったことがある沈下橋において、大きな赤い投光器をホタルが飛んでいる対岸に向けて照らしていた男女二人組のカメラマンを目撃している。点滅ではなくずっと照らしていたらしい。ゲンジボタルやヘイケボタルの成虫では、概ね0.1~0.2ルクス以下で正常に近い行動がみられる。0.3ルクスの満月でもオスの飛翔は抑制される。お互いの発光をコミュニケーションツールとし、繁殖行動しているホタルにとって暗闇は必須条件なのである。人間が写真を撮るという勝手な行為のために、少なからず繁殖行動に影響がある事を行ってはならない!

 こういった事を書くと、必ず反論がある。生息地に行くこと自体がホタルに影響があるのではないかといった極論まで頂くが、それは、ホタルの生息環境を考えれば論外な意見。「そういうお前もストロボを使っているだろう」この指摘に関しては、誤解をなくしたい。私が撮影したホタルのマクロ写真でストロボを照射したものが何枚かある。映像においてもホタルにライトの反射光を照らしたものもある。ストロボを使った写真は、すべて卵から飼育して羽化させた成虫を自宅の室内で撮影したものである。生息地におけるライトを使った映像は、ホタルの飛翔活動(繁殖活動)が終了し、葉に止まりだした時刻から0.2ルクス以下の弱い照射で撮影をしているので、繁殖行動にはまったく影響がない。

 ホタルの撮影や観賞において、よく「マナー」という言葉が使われているが、そもそもマナーとは、その場面でしかるべきとされる行儀・作法のことを指し、それ自体に強制力はないから、ホタルの撮影や観賞において守るべきことは「鉄則」という言葉を使いたい。「鉄則」とは「鉄の様に硬く絶対的な規則」である。「原則」は例外を認めるが、「鉄則」は例外を認めない。以下の鉄則を守って、ホタルの写真を撮って頂きたいと思う。

ホタルの写真撮影の鉄則(最低限)

  • 生息地には明るい時間に行き、ロケハンする
  • カメラは明るい時間にセットし、設定も完了させる
  • ホタルの飛翔が始まったら、デジタルカメラの背面モニターは黒い布で覆う
  • 懐中電灯は勿論、赤いライトなど灯りは一切持たない照らさない
  • 林道・遊歩道以外は、絶対に入らない
  • 帰るのは、ホタルの繁殖飛翔時刻が終了してから

 以下には、今回撮影した3枚の写真と2012年に撮影した写真2枚、そして今回と2012年に撮影した映像を編集した動画も併せて掲載した。写真は、いずれも1920*1280 Pixels であり、写真をクリックすると拡大表示される。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにすると高画質でご覧いただける。

ヒメボタルの飛翔風景の写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 1/125秒 ISO 2000 2分相当の多重(撮影地: 埼玉県 2022.6.05 23:30)

ヒメボタルの飛翔風景の写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 1/125秒 ISO 1600 90秒相当の多重(撮影地: 埼玉県 2022.6.05 0:11)

ヒメボタルの飛翔風景の写真

ヒメボタル(1枚目と2枚目の写真と発光色が異なっているのは、カメラの色温度設定のためによる)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 1/125秒 ISO 1600 1分相当の多重(撮影地: 埼玉県 2022.6.05 0:37)

ヒメボタルの飛翔風景の写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 1/125秒 ISO 1600 3分相当の多重(撮影地: 埼玉県 2012.6.08 23:37)

ヒメボタルの飛翔風景の写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 1/125秒 ISO 1600 2分相当の多重(撮影地: 埼玉県 2012.6.09 0:18)

ヒメボタル 埼玉県

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ヒメボタル(長野2021)

2021-07-25 19:38:43 | ヒメボタル

 長野県のヒメボタル生息地を初めて訪れた。長野県におけるヒメボタル生息地は何カ所かあるが、今回はそのうちの一つ、標高1,450m付近に生えるカラマツとブナ、ミズナラの混合林を観察と撮影の場所に選んだ。ヒメボタルの生息地の標高としては知る限り2番目に高い。もっとも高標高の生息地は山梨県で約1,700m、3番目は岐阜県の約1,370mである。ちなみに前回の静岡県の生息地は約1,200mである。

 7月24日(土)この日は前日夜から車中泊で乗鞍高原入りしており、午前11時までゼフィルスとトンボ探索を行った。「まいめの池」付近ではツキノワグマと遭遇するなどし(後日掲載)結局、目的の昆虫撮影は達成できず、午後からヒメボタル生息地へ移動。現地には16時に到着し、早速、生息環境を視察。ただし、肝心のヒメボタルの発生数、発生時期、飛翔場所等の情報はインターネットの不確実な情報だけで、今、発生しているのかも分からない状況である。
 いったん、駐車場に止めた車に戻り日暮れを待った。まだ他には誰もいなかったが、18時を過ぎると車が2台到着。しばらくすると、大きな三脚を担いて森の方へと向かって行った。どうやら発生はしているようである。18時半、こちらも準備を整え森へと向かうことにした。
 もう一度、環境を見まわし、ある場所にカメラを据えることにした。これまで日本各地で観察してきたヒメボタルの生息環境とヒメボタルの飛翔行動の知見から「ここなら、こんな風に発光飛翔するだろう」と予測できる場所であった。しかし、実際に飛んでくれるかは夜にならないと分からない。初めての場所なので、数頭が飛んでくれれば良いという思いで日没を待った。
 気温20℃で曇り。満月という悪条件の日ではあったが、月の出時刻は19時半。運よく東方向には2,000m級の山々があるので、月明りの害はない。待つこと1時間。西の空が暗くなった19時33分。一番暗い場所で1頭が発光を始めた。まずは発生していたことに安堵する。その後、少しずつ発光する数が増え、予測通りのコースを飛翔するようになった。見渡す範囲では、思っていたより多く20頭ほどのヒメボタルが発光し飛び交っていた。暗い森のあちこちで点滅するヒメボタルは、やはり幻想的である。不思議なことに、黄金色のフラッシュ光の個体は少なく、黄色の光をゆっくり発したり、かなり明るい光を発する個体もいた。また、飛翔スピードもゆっくりであった。
 20時半で観察と撮影を切り上げた。駐車場に戻るまでの区間では、ヒメボタルは、まとまった数ではないが、かなり広範囲を飛翔していた。駐車場に戻ると、車は10台ほどに増えており、懐中電灯を付けて観賞に向かう親子連れとすれ違った。新型コロナウイルスの影響がなければ、大勢のカメラマンや観賞者が訪れるだろう。当生息地は、長野県が管轄する八ヶ岳中信高原国定公園内の原生林であり、ヒメボタルにとっては手つかずの自然でなければならない。観光客誘致の資源として利用しているようだが、来訪者への指導ができないならば、観光協会等がインターネットで情報発信することは避けるべきだろう。

 長野県のヒメボタルとして、今回も二枚の写真を掲載した。どちらも時間連続性がないため写真芸術の観点からは外れるが、ホタルの生態学的観点からは、1枚目の3分相当の比較明合成は、ヒメボタルの発光飛翔ルートが分かるものとなっている。また、光の点と点の間隔が狭いので、飛翔スピードがゆっくりであることも分かる。2枚目の14分に相当する比較明合成は、単に「見栄え」を重視した創作ではあるが、範囲個体数がそれなりに多い生息地であるということは分かる。
 今季、ヒメボタルの生息地は5カ所、ゲンジボタルは4カ所、ヘイケボタルは1カ所において、観察と撮影を行い、すべての場所でホタルの生態と生息環境等の新たな知見を得ることができた。今年は既に時期的なこともあり今後の観察と撮影の予定は未定だが、緊急事態宣言の解除後は東北方面においてヒメボタルの保全指導を行うため、全力で最善を尽くして参りたい。

追記:当地でも同標高の乗鞍園地でも同日にクロマドボタルのオス成虫を多数見かけた。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。

ヒメボタルの森
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル F1.4 ISO 1600 3分相当の比較明合成(撮影地:長野県 2021.7.24 20:00)

ヒメボタルの森
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル F1.4 ISO 1600 14分相当の比較明合成(撮影地:長野県 2021.7.24 20:30)

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ヒメボタル(静岡2021)

2021-07-23 18:00:36 | ヒメボタル

 ヒメボタルの生息地がある静岡県を今年も訪ねた。標高1,200m付近に広がるブナやカエデなどの巨木がたたずむ原生林である。海から吹き上げる風によって霧が発生しやすく、樹木や林床の放置木は苔むしている。ここのヒメボタルは深夜型で22時を過ぎると光りながら飛翔し始め、 23時を過ぎる頃から真っ暗な原生林が光の明滅で埋め尽くされる。全体では、数千頭規模の生息数だと思われる。
 このヒメボタル生息地を始めて訪れたのは、2010年の7月。当時は、撮影者は勿論、観察者も誰一人といなかった。初訪の時は、時間が早かったのか1頭も光っておらず、恐怖感から待機もできず退散。2回目は、濃霧でまったく何も見えず退散。1年待った2011年、誰もいない漆黒の闇に乱舞するヒメボタルを親友と2人で観察し、写真に収めた。その後、この生息地はインターネットで情報が広がり始め、2015年頃からは大勢のカメラマンや観賞者が来るようになってしまった。今回で8回目の訪問、写真撮影では6回目になる。

 7月21日。仕事は午前中だけ。昼に退社しゆっくりと向かったが、現地には16時到着。深夜型のヒメボタルを撮るため6時間以上も前に生息地に来るものはいない。毎回の事だが、早速、環境調査を行う。気温24℃。時折、霧で覆われたが後に晴れた。
 撮影のためにカメラもセットする。今回は、フルサイズのCanon EOS 5D Mark Ⅱ は映像撮影のみとして使い、写真はCanon EOS 7D に広角レンズを付け、フルサイズで35mm相当の画角で、これまで撮影していない方向を撮ることにした。4連休前の平日ということもあって、やってくる車の数は少ない。結果10台で12人(カメラマンは11人)。この日、心配なのは人の数よりも「月」である。月齢11.4の大きな月が輝いている。月が無ければ真っ暗な森の中だが、今回は月明りがブナの森の林床に木漏れ日のように射している。22時半を過ぎた頃、少しずつヒメボタルが光り始めた。ただし、あまり飛ばない。月がかなり傾いた午前0時から、ようやく発光飛翔数が増え、今年も多くの数が発生していることを確認できた。
 他のヒメボタル生息地では見たことがないが、当地では5mほどの梢から舞い降りてくる個体がいる。多くは、林床や下草で暗くなるまで休んでいるが、活動時間が終了する午前1時を過ぎると梢に上がっていく個体が見られる。何故かは分からないが、きっと理由があるに違いない。

 この日は、観賞者はなく良識的なカメラマンばかりで安心したが、単にヒメボタルの写真を撮りに来たのだという印象を受けた。私は観察も目的であるから、発光飛翔が始まれば、ずっとカメラの脇で最後までホタルを見ているが、「写真」が目的ならば、撮影はカメラに任せて自分は森から出て車の近くで会話を楽しんでれば良い。ヒメボタルの写真は、自宅に帰ってからパソコンで現像しソフトで比較明合成する作業で作り上げるものと化しているのである。

 私は2時間半の間、ヒメボタルとの会話を楽しみ、今回も彼らから多くの大切な事を学ばせてもらった。感謝したいと思う。
 以下には、同じカットの写真3枚を掲載した。まずは生息環境を写したもの、そして2分と10分相当の比較明合成した飛翔風景写真である。どちらが良いかは、ご覧頂く方々の判断にお任せしたい。また、映像については、今回撮影したものに昨年同生息地で撮ったもの、そして2018年に岩手県のヒメボタル生息地で撮ったものを加えて編集した。ヒメボタルは、杉林や竹林、畑上を乱舞する生息地もあるが、今回の映像は、いずれも「ブナの原生林」に舞うヒメボタルで「Firefly Forest in Japan」と題した。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ヒメボタルの森の写真

ヒメボタルの森
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F14 8秒 ISO 100 (画角35mm)(撮影地:静岡県 2021.7.21 17:04)

ヒメボタルの森の写真

ヒメボタルの森
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル撮影 F2.8 ISO 1600 120秒相当の比較明合成 (画角35mm)(撮影地:静岡県 2021.7.22 0:51)

ヒメボタルの森の写真

ヒメボタルの森
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル撮影 F2.8 ISO 1600 10分相当の比較明合成 (画角35mm)(撮影地:静岡県 2021.7.22 0:08)

Firefly Forest in Japan

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ヒメボタル(山梨2021)

2021-07-18 19:28:53 | ヒメボタル

 ヒメボタルの観察と撮影、先週末は、東京都内における大変貴重な記録を残すことが出来たが、この週末は2008年から通っている山梨県内のヒメボタル生息地へと足を運んだ。今回が11回目の訪問になる。過去の記録を見ると一番早い訪問日は7月16日で一番遅い日は7月24日であった。訪問時の飛翔数は、2008年から2011年までは多かったが、その後は次第に減少傾向にあった。少ない年では、まだ梅雨が明けておらず気温が低かったり、雨が降っていたり、風が強い日であったことから、単に発生ピーク時、或いは活動条件と合致していなかったことが理由であろう。
 さて、今年のヒメボタル発生はどうであろうか。7月16日に気象庁は「関東甲信・東北南部・東北北部が梅雨明けしたとみられる」と発表。平年より早く、翌17日は朝から夏空が広がり、東京では最高気温が33℃ほどまで上昇した。予報では夕立もない。ただし、半月が上空に昇っているのがマイナス要因である。
 自宅を15時に出発し、現地到着は17時。車を止めて軽登山である。ポイントでは、過去10回で一度も撮っていない北斜面のブナ林に林道から向けて写真撮影用として1台セットし、もう1台は、やはり林道から目前が飛翔ルートになっている場所に映像記録用としてセットした。気温は22℃で無風。
 19時22分。ブナ林にて1頭が発光を始め、次第に発光飛翔する数が増えた。半月の明かりが木々の間から部分的に林床を照らすが、それでも20時頃には将に「乱舞」という光景が広がった。このヒメボタル生息地は、カメラマンも観賞者も来ない。森の中で私一人がヒメボタルに取り囲まれる状況。この場では2011年以来であった。
 21時には発光飛翔する数が減ってきたため、こちらも撤収することにした。

 以下に、今回撮影した写真と映像を掲載した。写真でヒメボタルの光が丸い点ではなく伸びているのは、飛翔場所がかなりの急斜面でヒメボタルの飛翔スピードが速いためである。また映像は、急斜面を行き来するヒメボタルを至近距離で捉えている。最適な視聴のために、暗くした部屋で、サウンドをオンにして全画面表示にしてご覧頂きたいと思う。
 今週は4連休が控えている。満月と言う悪条件ではあるが、ヒメボタルの観察と撮影を2カ所で行う予定である。

追記

 ヒメボタルの観察中、他とは違う様子の1頭がめに入った。ゆっくりと飛翔しながら、明滅せずにずっと発光している。クロマドボタルのオス成虫である。以前にも、この場所でクロマドボタルのオス成虫が発光しているのを目撃している。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM 35mm換算50mm / マニュアル撮影 F2.8 ISO 1600 約10分相当の比較明合成(撮影地:山梨県 2021.7.17 20:00)

ヒメボタル(山梨2021)

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ヒメボタル(東京都)

2021-07-11 17:08:11 | ヒメボタル

これは、東京都内に生息するヒメボタルの貴重な記録写真である

 ヒメボタル Luciola parvula Kiesenwetter, 1874 は、ホタル科(Family Lampyridae)ホタル属(Genus Luciola)でゲンジボタルやヘイケボタルと同じ仲間になるが、幼虫は水中ではなく陸地で生活する陸生ホタルである。その生態はまだまだ謎が多く、生息環境も多岐にわたっている。青森県から鹿児島県まで分布し、標高数メートルの海岸や標高およそ1,700mの山頂、照葉樹林、ブナ林、竹林、河川敷、お堀などに生息している。
 ヒメボタルは、東京都内にも生息している。都内におけるヒメボタルは、秩父多摩甲斐国立公園内の標高およそ700m~1,200mの山地に広く分布しているが、生息場所はかなり局所的である。2004年から観察と撮影を行っている場所は、昨年のブログ記事「ヒメボタル(東京2020)」で紹介しているが、今回は知人T氏に案内いただき、別のヒメボタル生息地を訪れた。
 当地は、標高1,000mを越えるブナとミズナラ、シラカンバの原生林と杉林である。ヒメボタルは両方の林を行き来するが、範囲は50m四方ほどである。ヒメボタルの発光活動時間には二通りあり、ゲンジボタルと同じ19時半頃から21時頃までの薄暮型と23時頃から翌2時頃までの深夜型に分けられ、東京都内に生息するヒメボタルは、知る限りでは薄暮型である。成虫の発生時期はほとんど同じであり、その年の気候によって1週間ほどのズレはあるものの、おおむね7月10日前後から発生し、10日から2週間程度である。

 ヒメボタルの当地における発生は、今年は7月5日頃から始まったようであるが、1日に数頭が見られる程度であり、7月8日に前調査で訪問した時は、発光する個体はゼロであった。ちょうど梅雨の末期で、東京は連日の雨。8日も午後から本降りで、夕方から時折止む時間もあったが、飛翔時間になってから霧が立ち込めてきたため発光しなかった。ヒメボタルは、土砂降りの雨の中でも発光飛翔するが、霧が出るとまったく光らない。また、月が明るいと発光飛翔する個体も減る。
 次に訪問した10日は、朝から青空が広がり、日中の気温も上昇。都心では33℃まで上がった。当地へ到着した17時の気温は24℃。その後も気温は下がらず、無風。一斉に羽化し、相当数の発光飛翔が期待できる天候であった。
 飛翔コースで待機していると、19時24分から発光が始まった。45分頃になると、20~30頭ほどのヒメボタルが静寂に包まれた森の中を黄金のフラッシュ光を放ちながら飛んでいたが、これから飛翔数が多くなる20時になって雷雨となり、残念ながら引き上げることになった。
 当地を含め東京都内のヒメボタル生息地は、いずれも国立公園内にあり、優れた自然の風景地を保護するとともに、生物の多様性の確保に寄与することを目的として定められた自然公園法によって開発は規制されているので、森林伐採等の心配は少ないが、観賞者やカメラマンによって荒らされないよう、場所についてはマスコミは勿論のこと研究者に対しても一切口外しないこととする。
 以下に、東京都内におけるヒメボタル生息地の貴重な記録を、昨年に続き掲載したいと思う。当地の最盛期は、まだ数日先のように思うが、また来年の今頃に観察を実施しようと思う。その時は、映像も残したいと思う。

 ヒメボタルは、発光の特徴から写真では丸い光の点に写る。飛翔しながら規則的に発光しているから、その点々を辿れば、写真上で飛翔ルートが分かるわけだが、デジタルカメラで撮影した光跡のカットを何百枚も比較明合成すれば、森の中が光で埋め尽くされる写真になる。創作写真には偽りの合成もあり生態学的価値はないが、幻想的ではあるため、昨今ではヒメボタルの写真を撮ろうと単なるカメラマンが群がる現象が起きている。
 写真を撮る事も創作写真を作ることも否定はしない。ただし、ヒメボタルの基本的な生態を学んでから生息地に行ってもらいたい。インスタグラムでは、相も変わらずヒメボタルが舞う場所に人物を立たせて撮った写真が投稿されている。他にも、農道に深夜の時間帯に路上駐車の列ができたり、カメラマン同士のトラブルもある。是非、被写体は貴重な生き物であることを念頭に、自然環境や周囲への配慮を忘れずに撮影していただきたい。

 今の会社に入社して25年。今回、初めて夏休み(9連休)を頂いたが、あっという間に終了。長野へは、心折れる遠征であったが、最後に東京都内に生息するヒメボタルの貴重な記録を残すことができた。All's well that ends wel ! 今月は、まだ週末3回に4連休もある。緊急事態宣言中になるが、いつものように感染対策を徹底して行いながら長野、山梨、静岡へ、ヒメボタル、ゼフィルス、トンボ・・・貴重な記録を残していきたいと思う。
 最後になったが、案内して下さったT氏に、心より御礼申し上げたい。

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以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。

ヒメボタルの写真

東京都内におけるヒメボタル生息地
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F2.8 3分相当の比較明合成 ISO 1600(撮影地:東京都 2021.7.10 20:00)

ヒメボタルの写真

東京都内におけるヒメボタル生息地
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F1.4 13分相当の比較明合成 ISO 1600(撮影地:東京都 2021.7.10 7:09)

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