11日~12日は岩手県までヒメボタル観察に行く予定を立てていたが、まだ発生の初期段階で数が少ないことから、今年は見送ることにした。少々残念な気もするが、代わりに先週訪れた東京奥多摩のヒメボタル生息地に再び行って来た。
ホタルの観察は、ほとんど親友と一緒のことが多いのだが、今日は別行動。つまり一人である。自殺の名所でもある渓谷沿いの道を進んだ後、細い砂利道の林道を2kmほど登ると峠だ。そこから急勾配の登山道を数十メートル上がったところがポイントになる。
もちろん明るい時間(18時)に到着。懐中電灯は持たずに、ポイントでひたすら待つ。気温18℃、無風、天候は曇り。19時半。時折、星も見える。先週よりも暗いなと思うと、1匹のヒメボタルが登山道脇の茂みで光る。また1匹。次第に発光するヒメボタルの数が増え、20時には、およそ50匹のヒメボタルが谷を登り始めた。
ヒメボタルの発光色は、黄金色に見えるときもあれば、黄緑色に見える時もある。湿度による光の屈折の影響やヒメボタルとの距離も関係ない。ヒメボタル自身が発光色を変化させているとしか思えないのであるが、確かではない。急斜面の杉林を登ったり降りたり、或いは登山道を行き来するものもいる。かなりのスピードで斜面を降りていくものを追いかけるように後に続くもの、時には垂直に飛ぶものもいる。規則正しいリズムで発光していたかと思えば、光り続けながら下草めがけて下降したり、何匹もがバラバラに発光していたかと思うと、同期明滅する場合もある。15分ほどたつと、まったくいなくなる時もある。またしばらくたつと1匹の光が見え始め、またあちらこちらで発光する。何とも興味深い。
観察途中、不思議な体験があった。山側の斜面の数メートル先でサ~と音がする。一箇所ではなく、音に奥行きがある。昨年、山梨にヒメボタル観察に行った時に、やはり数メートル先でサ~と音がした。この時は雨の音だったが、今日は違う。風の音でもない。1~2分でその音はパタリと止んだ。この音は、その20分後に再び聞こえたが、その後は聞くことはなかった。一体、何だったんだろうか?
こんな山奥に一人というのは、何とも心細い。今日は、フクロウも鵺も鳴かない、とても静まりかえった夜だ。
21時半。発光するヒメボタルの数が減ってきた。また、しばらくすれば光るだろう、せめて22時までし居ようと思った瞬間、背後の山側の茂みからガサ、ガサ、ガサと大きな音が聞こえてきた。
最初、人が歩いてきたのかと思ったが、そんな訳がない。イノシシか?いや、それにしては、下草を踏みしめる音が大きい。音の長さから、足のでかい奴だ。一体、何だ・・・?
「ツキノワグマの出没が確認されていますので、十分ご注意ください。」峠に建てられた看板を思い出した。やばい。その足音は、次第に近づいてくる。今度は向きを変え、左方向にノシノシと動いている。
「こっちには来るな!」心で叫びながら、身動き出来ないでいた。「まじで、やばい。」とりあえず、逃げるしかない。セットしていたカメラ2台を三脚ごと担いで、登山道を降りた。
結局、暗闇なのでその姿を見ることはなかったが、過去の経験から鹿やイノシシとは違う。やはり熊か?ホタル観察どころではない恐怖の一時であった。
東京にそだつホタル>東京ゲンジボタル研究所/古河義仁