ハヤシミドリシジミ Favonius ultramarinus ultramarinus (Fixsen, 1887) は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)シジミチョウ亜科(Subfamily Lycaeninae)ミドリシジミ族(Tribe Theclini)オオミドリシジミ属(Genus Favonius)のチョウで、国内では北海道・本州・九州に分布している。四国には産しない。オスの翅表は学名(ウルトラマリン)にふさわしく、サンゴ礁の海のような青緑色が特徴である。和名は、チョウの研究者、林慶氏にちなむ。
ゼフィルスの多くはブナ科の数種を食樹としているが、本種はほぼカシワしか食べない。そのため、丘陵地や高原のカシワが散在する明るい二次林に多く生息し、年1回、6月中旬~7月上旬頃に発生、卵で越冬する。
本種は、食樹のカシワの樹林からほとんど離れず、日中は雌雄共にカシワの葉上などに静止していることが多いが、オスは、午後3時を過ぎる頃からカシワの梢上を活発に飛翔したり、カシワの葉に静止してテリトリーを見張る占有行動を行う。
ハヤシミドリシジミは、限られた場所に生育するカシワに依存して生息していることから、産地はいずれも局地的であるが、
近年では、混交林の繁茂や管理放棄に伴いカシワの生育が不全となったり、伐採によってカシワが無くなる地域が多く、本種の個体数は減少傾向にある。
環境省カテゴリーにはないが、18の都府県ではRDBに記載しており、茨城県、群馬県、愛知県では絶滅危惧Ⅰ類に、山形県、栃木県、埼玉県、東京都、神奈川県、岐阜県、兵庫県、熊本県では絶滅危惧Ⅱ類に選定している。
ハヤシミドリシジミは、2013年にカシワの葉上で翅を広げてテリトリーを見張る様子を撮影している(写真.9)。これは生態写真であり、ウルトラマリンの翅表も美しく撮れている貴重な1枚であるが、更に翅に擦れや欠損がない個体にて、その特徴である翅色が分かるような美しい図鑑写真を撮りたいという欲が出る。
昆虫写真は様々である。撮影者が何も拘りを持たず、ただその姿を写すだけならば、トンボやチョウでも苦労なく撮れる種は多いが、撮影に目標や理念を持つとハードルが高くなる。撮りたい種の生態と行動パターンを学んだ上で生息場所に行き、丹念に探せば何とかなる場合もあれば、証拠程度の写真すら苦労する場合もある。更に産卵や羽化と言った生態写真になれば、より多くの知識と経験、撮影機材とテクニック、時には運も必要になるが、撮影成功の鍵は、執念かも知れない。
では、チョウである本種の開翅写真はどうだろうか?生態と行動パターン、攻略法を学ぶことは言うまでもない。その上で、まずは発生初期に行くこと。今年は、どの昆虫も例年に比べて発生が10日ほど早く、本種も同じように早いと予想。そして一番重要なのが気象条件である。
ハヤシミドリシジミの生息地。天候は、曇り時々小雨。早朝4時半から何本もあるカシワを1本ずつ周る。カシワの葉から何頭も飛び出しても、それを追うのが大変で、運良く下草に降りても、見失ってしまう。やっと見つけても、翅を開かず飛び立ってしまうことも。1時間くらいすると雨が降り出し、一旦中断。止んでも、すぐにまた雨。気温は18℃から15℃に下がった。
ようやく雨があがり、途中から来られた同じ目的を持ったお二方とともに連携作業を繰り返す。そのうち1頭のオスが下草に静止。10分ほど経過すると奇跡的に薄日がさす。すると、その個体は徐々に翅を広げた(写真.3~7)。よく見ればカメラ目線で、こちらの思いが通じたかのようだ。その後、見事に全開翅。他のゼフィルスでもそうだが、この瞬間はいつも緊張と安堵、そして感動と興奮である。この個体は、5分ほどマリンブルーを披露してカシワの木へと飛び去っていった。気温が高ければ降りては来ないし、気温が低ければ翅は開かない。また、チョウの翅に直射日光が当たれば、青よりもキラキラした緑色が強く出てしまう。位置がちょっと変わるだけでも後翅は黒色になってしまう。
将にすべての条件が揃った5分間であった。
写真撮影とブログへの掲載は、個人的趣味の自己満足の域を出ないが、これら写真から、ハヤシミドリシジミという美しい小さなチョウの魅力が少しでも伝われば幸甚である。また、下草での開翅写真は、撮影のために人為的な手段を用いるため、生態学的には意味をなさないものであることを付け加えておきたい。
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ハヤシミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400(撮影地:神奈川県 2018.6.24 7:09)
ハヤシミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 640(撮影地:神奈川県 2018.6.24 7:02)
ハヤシミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 500(撮影地:神奈川県 2018.6.24 7:08)
ハヤシミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 500(撮影地:神奈川県 2018.6.24 7:08)
ハヤシミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 640(撮影地:神奈川県 2018.6.24 7:08)
ハヤシミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 640(撮影地:神奈川県 2018.6.24 7:08)
ハヤシミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 640(撮影地:神奈川県 2018.6.24 7:08)
ハヤシミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 500(撮影地:神奈川県 2018.6.24 7:13)
ハヤシミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X / 絞り優先AE F8.0 1/1000秒 ISO 1600(撮影地:東京都 2013.06.30 15:19)
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