白川湖の水没林を撮影してきた。自然風景写真は4月に桜を撮って以来だが、随分と久しぶりのような気がする。
白川湖は、山形県西置賜郡飯豊(いいで)町にある。最上川の治水、周辺のための水のコントロール、水力発電などに利用される「白川ダム」によって造られた人造湖である。白川湖に春先の雪解け水が大量に流れ込んで満水になると岸辺が水没し、生えているヤナギなどの木々が水の中から生えているかのような光景が見られる。いわゆる水没林である。飯豊町は、木々が芽吹く前の残雪がある3月下旬~4月中旬を「白の水没林」、新緑の季節を「緑の水没林」と命名し、パンフレットやWeb等でPRに力を入れている。この光景は、5月下旬になると田植えのためにダムの水が放水されて水位が下がり、林に戻ってしまうので、全体でおよそ2か月間限定である。
似たような光景は、以前に群馬県の奥四万湖で撮影したことがあり、当ブログに「奥四万湖/浮島」として掲載している。水没林(浮島)は奥四万湖外周道路の奥まで行かないと見られないが、3月下旬までは冬期通行止めであるから、注意が必要だ。こちらも放水までの期間限定の光景で、青く透明な湖「四万ブルー」とともに美しいが、岸辺からではなく、外周道路から湖を見下ろさなければならず、また場所もごく限られた位置からしか見ることができない。
白川湖の水没林は、Instagramを中心としたSNSでの拡散とメディアでの取り上げなどにより、ここ5~6年で急激に注目を浴びるようになった。私も数年前から知っており、いつかは訪れてみたい場所の1つであったが、自宅からおよそ430kmあり期間限定ということで、なかなか条件が合わずにいた。私が求めた条件とは、降雨の翌日で深夜から快晴で朝は無風であること。水没林に「朝霧と水鏡と朝の光」を加えてこそ、幻想的な光景になるからである。これまでなら、仕事が休みのGW期間中にしか行けず、その間にすべての条件が合致することは極めて稀であり、しかも大渋滞と大混雑を覚悟しなければならなかっただろうが、今年はじっくりとGWを避けた平日にその機会を待った。
そのチャンスは、天気予報では5月10日の朝に訪れそうであった。しかし、前々日になっても遠征には迷いがあった。400kmを超える遠征は、それなりに気合が必要で出費も多い。天気の急変があれば、時間もお金も無駄になる。しかも、後日に掲載するが、連日ゲンジボタルの幼虫上陸の観察と撮影で帰宅が深夜になっており、疲れもあった。しかし、9日の朝になり天気予報をチェックすると、10日の朝は条件が合致する。気合を入れて行くしかない。自宅を正午に出発し、前記事に投稿したように、まずは福島の浄土平で天の川を撮影し、白川湖の駐車場には10日午前2時半過ぎに到着。気温は浄土平と同じ2℃であったが、風がないので寒さは感じない。いくつもあある駐車場には、平日にも関わらず多くの車が停まっている。日の出は4時35分。3時半を過ぎると懐中電灯なしでも歩けるほどの明るさになったので、早速、湖畔へと向かった。
初めての場所で、ロケハンもなし。「水没林のシンボルツリー 一本柳の撮影スポット」という案内板に従って三脚を設置。薄っすらと見えるが、暗くて、まだピント合わせはできない。続々とカメラマンが集まってくる。全部で50~60人ほどであるが、湖岸は広く、有料のオートキャンプ場内でなければ、どこからでも自由に撮影ができるので、各々散らばって好きな場所でカメラを構えている。時間とともに水没林の全容が明らかになってくると、期待通りの「朝霧と水鏡」の光景が広がっていた。
白川湖の水没林の光景をどう撮れば良いのか・・・昆虫写真は「記録」という意味合いが強く、被写体の形や色を細部まで正確に分かりやすく撮ること、生態の一瞬では高度な撮影技術も必要だ。一方、自然風景写真は、単なる「記録」ではなく自然芸術の実写であり、自然と対峙し感動を表現したものだ。高度な撮影技術よりも、直感的に美しいと思わせる黄金比を心で捉えるアート的思考や豊かな感性が必要だ。
その意味では、私の写真は、ただ撮っただけの記録的風景写真ばかりで、この目前の白川湖の水没林の芸術から感じた感動を伝えられていない。これまでの経験では、現場には最低でも3回以上通わないとダメである。霧氷も期待できるだあろう「白の水没林」も含めて、また、いつか訪れてみたいと思う。
以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。また動画も 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。
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