長野県のヒメボタル生息地を初めて訪れた。長野県におけるヒメボタル生息地は何カ所かあるが、今回はそのうちの一つ、標高1,450m付近に生えるカラマツとブナ、ミズナラの混合林を観察と撮影の場所に選んだ。ヒメボタルの生息地の標高としては知る限り2番目に高い。もっとも高標高の生息地は山梨県で約1,700m、3番目は岐阜県の約1,370mである。ちなみに前回の静岡県の生息地は約1,200mである。
7月24日(土)この日は前日夜から車中泊で乗鞍高原入りしており、午前11時までゼフィルスとトンボ探索を行った。「まいめの池」付近ではツキノワグマと遭遇するなどし(後日掲載)結局、目的の昆虫撮影は達成できず、午後からヒメボタル生息地へ移動。現地には16時に到着し、早速、生息環境を視察。ただし、肝心のヒメボタルの発生数、発生時期、飛翔場所等の情報はインターネットの不確実な情報だけで、今、発生しているのかも分からない状況である。
いったん、駐車場に止めた車に戻り日暮れを待った。まだ他には誰もいなかったが、18時を過ぎると車が2台到着。しばらくすると、大きな三脚を担いて森の方へと向かって行った。どうやら発生はしているようである。18時半、こちらも準備を整え森へと向かうことにした。
もう一度、環境を見まわし、ある場所にカメラを据えることにした。これまで日本各地で観察してきたヒメボタルの生息環境とヒメボタルの飛翔行動の知見から「ここなら、こんな風に発光飛翔するだろう」と予測できる場所であった。しかし、実際に飛んでくれるかは夜にならないと分からない。初めての場所なので、数頭が飛んでくれれば良いという思いで日没を待った。
気温20℃で曇り。満月という悪条件の日ではあったが、月の出時刻は19時半。運よく東方向には2,000m級の山々があるので、月明りの害はない。待つこと1時間。西の空が暗くなった19時33分。一番暗い場所で1頭が発光を始めた。まずは発生していたことに安堵する。その後、少しずつ発光する数が増え、予測通りのコースを飛翔するようになった。見渡す範囲では、思っていたより多く20頭ほどのヒメボタルが発光し飛び交っていた。暗い森のあちこちで点滅するヒメボタルは、やはり幻想的である。不思議なことに、黄金色のフラッシュ光の個体は少なく、黄色の光をゆっくり発したり、かなり明るい光を発する個体もいた。また、飛翔スピードもゆっくりであった。
20時半で観察と撮影を切り上げた。駐車場に戻るまでの区間では、ヒメボタルは、まとまった数ではないが、かなり広範囲を飛翔していた。駐車場に戻ると、車は10台ほどに増えており、懐中電灯を付けて観賞に向かう親子連れとすれ違った。新型コロナウイルスの影響がなければ、大勢のカメラマンや観賞者が訪れるだろう。当生息地は、長野県が管轄する八ヶ岳中信高原国定公園内の原生林であり、ヒメボタルにとっては手つかずの自然でなければならない。観光客誘致の資源として利用しているようだが、来訪者への指導ができないならば、観光協会等がインターネットで情報発信することは避けるべきだろう。
長野県のヒメボタルとして、今回も二枚の写真を掲載した。どちらも時間連続性がないため写真芸術の観点からは外れるが、ホタルの生態学的観点からは、1枚目の3分相当の比較明合成は、ヒメボタルの発光飛翔ルートが分かるものとなっている。また、光の点と点の間隔が狭いので、飛翔スピードがゆっくりであることも分かる。2枚目の14分に相当する比較明合成は、単に「見栄え」を重視した創作ではあるが、範囲個体数がそれなりに多い生息地であるということは分かる。
今季、ヒメボタルの生息地は5カ所、ゲンジボタルは4カ所、ヘイケボタルは1カ所において、観察と撮影を行い、すべての場所でホタルの生態と生息環境等の新たな知見を得ることができた。今年は既に時期的なこともあり今後の観察と撮影の予定は未定だが、緊急事態宣言の解除後は東北方面においてヒメボタルの保全指導を行うため、全力で最善を尽くして参りたい。
追記:当地でも同標高の乗鞍園地でも同日にクロマドボタルのオス成虫を多数見かけた。
以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。
ヒメボタルの森
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル F1.4 ISO 1600 3分相当の比較明合成(撮影地:長野県 2021.7.24 20:00)
ヒメボタルの森
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル F1.4 ISO 1600 14分相当の比較明合成(撮影地:長野県 2021.7.24 20:30)
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