ヤマキチョウ Gonopteryx rhamni maxima Butler, 1885 は、シロチョウ科(FamilyPieridae)モンキチョウ亜科(Subfamily Coliadinae)ヤマキチョウ属(Genus Gonepteryx)のチョウで、国外では北アフリカから中国、朝鮮半島にかけて分布し、岩手県、長野県、山梨県、岐阜県に分布するが、極めて局所的であり、アザミ類やマツムシソウが生育する乾燥した広く明るい標高1,000m以上の高草原地帯に生息している。
幼虫の食草は、本州(中部以北)の山地や高原に生える落葉低木であるクロツバラのみで、成虫は8月上旬頃から出現し9月中旬頃まで見られる。年一化で、初夏から夏に羽化した成虫はそのまま越冬し、翌年の5月から7月頃にかけ産卵する。翅を開くと(開帳)60~75mmほどで、モンシロチョウがおよそ開帳50~60㎜であるから、一回り大きい。翅表はオスは黄色、メスでは淡い黄色で、前翅の先端は鈎状に突出している。前後翅とも中室端に橙黄色の小紋があり、前翅の前縁と外縁および後翅の後角や後縁に赤褐色の縁取りがある。同属のスジボソヤマキチョウ Gonepteryx aspasia niphonica Verity, 1909 は、前翅の前縁に赤褐色の縁取りがないので区別ができる。
ヤマキチョウは、2007年の環境省版レッドリストでは絶滅危惧II類の位置づけであったが、2012年には絶滅危惧ⅠB類 (EN)として記載された。都道府県版レッドリストにおいては、12の都県で記載しており、青森県と埼玉県では絶滅、現在分布する岩手県と長野県では絶滅危惧Ⅰ類に、山梨県では準絶滅危惧としている。ちなみにスジボソヤマキチョウについては、環境省版レッドリストには記載がないものの、都道府県版レッドリストでは21の道府県で絶滅危惧Ⅰ類や絶滅危惧Ⅱ類としている。
昨今は、毎日のように午後にはゲリラ雷雨があり、日によっては午前中から降ることもあるため、なかなか目的地に遠征することをためらっているが、先日、わずかなチャンスを狙って11年ぶりにヤマキチョウの生息地を訪れた。その生息地は、本種の分布域を10ヵ所以上も探索し、11年前に自力で見つけた場所である。
過去の経験から、本種は天気の良い午前中の短い時間帯しか姿を現さないので、その時を狙って待機したが、残念ながら今回はまったくその姿を見ることができなかった。各地域においての本種の減少は、大規模な耕地、耕作放棄や植生遷移の進行などによる食草であるクロツバラの減少が大きな原因とされているが、当地は11年前と環境は変化しておらず良好な状態が保たれている。本種は、暑い日中は活動しない個体が多。また、今年の猛暑で涼しい場所に避難ししている可能性もあるが、採集も度外視できない。
ヤマキチョウは、もともと分布域が狭く生息地も局所的であるため、採集者が殺到する。以前、他の生息地では大勢が網を振り、一人で二桁のヤマキチョウを採集していた所を目撃している。このような事を書くと、チョウの採集を行っている方々から批判のコメントを頂く。「標本は、そこに存在していた確かな証拠」とか「採集で絶滅することはない」などだ。どちらも議論するに値しない各人の言い訳にしか聞こえない。
採集をするならば、その地区におけるヤマキチョウの個体群動態解析を行い、存続可能性の評価と絶滅確率、最小存続可能個体数について調べ、安定的な存続を可能にするための採集数を決めた上で、全国から押し寄せる採集者全員を管理し、その採集数を上回る採集をしないよう統制を図ってからにしてほしい。「私一人」や「我々グループだけ」は通用しない。「絶滅が心配される希少種だから採っておこう」は言語道断。これは、本種のみならず、ギフチョウやルーミスシジミをはじめ、多くのチョウやトンボでも同様である。
以下には、2013年に撮影したヤマキチョウと、比較のためにスジボソヤマキチョウの写真も掲載した。両種ともに逆光で翅が透けるように見ると、レモン・イエローの美しさが際立つ。
以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。
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