ホソミモリトンボ Somatochlora arctica (Zetterstedt, 1840)は、国内では北海道と本州に分布し、本州では、これまで福島、栃木、群馬、長野、新潟、岐阜の6県で記録があるが、いずれも局所的であり、近年では確認されていない場所も多い希少種である。10年間探し続け、今年の7月下旬にようやく確実な生息地を自力で見つけ、観察と撮影を続けてきた。4回目の訪問となる今回は、初訪からおよそ一か月後でも出現しているのかを確認すること、そして出現しているならば、ピントの合った飛翔写真を撮る、この2つが目的である。
ホソミモリトンボの生息地には6時半に到着。天候は快晴。早速、これまで毎回のように飛翔していた場所で待機することにした。前回8月11日に比べて、アキアカネの数が激減していた。多くが麓に降りて行ったのだろう。また、クロヒカゲなどのチョウの姿もほとんど見かけなかった。それだけ季節が進んだということである。
気温が上がってきた8時。体感的にはこれまでと変わらないが、小さな虫を捉えるために飛び回るアキアカネの姿はない。前回は、すでにホソミモリトンボのオスの飛翔が確認でき、メスも産卵にやってきたが、
今回はその姿もない。もう、いなくなってしまったのか、あるいは前日の午後に激しい雷雨があったようなので、その影響も考えられるが、定かではない。その代わりに、ルリボシヤンマのオスが長いホバリングを行いながら飛び始め、別の場所ではオオルリボシヤンマのオスが縄張り飛翔を始めた。この2種が発生したとすると、体の小さいホソミモリトンボは追い立てられるので、その影響も心配である。
待機から3時間以上経過した10時。ようやく湿原のはるか遠くを飛んでいるホソミモリトンボ1頭を発見。11時になると、いつも飛翔している場所とは違う湿地で、比較的長いホバリングを交えて飛んでいる
ホソミモリトンボを発見。この場所では3頭のオスを確認。ただし、こちらに近い方でルリボシヤンマが縄張り飛翔をしており、20mほど先からなかなか近くに寄ってこないため、小さくしか写らず撮っても証拠写真にもならない。
そして12時。いつもの場所で飛び回るオスが現れた。この個体は、メスが産卵に訪れる水路がある一定の範囲を2~3秒のホバリングを行いながら細かく移動していた。4回訪れた中で、一番ホバリングの時間が長い。途中、疲れたのか湿原の草むらに降りて止まったりもしていた。13時頃になると、ようやくメスが産卵に訪れたが、近くには寄ってくることはなく、しばらくして見失ってしまった。オスも飛んでくることがなくなり、今回は、現地を13時半に引き上げることにした。
帰路は、相変わらずの渋滞。中央道は小仏トンネル手前から20kmの渋滞で上野原IC手前では事故も発生。韮崎では工事車線規制で6kmの渋滞。写真が撮れていなければ、疲れただけの遠征であっただろう。
ホソミモリトンボを4回観察したなかでの結果をまとめてみた。勿論、個体や気象条件(今年は4回ともに早朝から快晴)によっても違いがあると思われる。
- 出現期間は、およそ一か月である。(7月下旬~8月下旬)
- メスは、7月下旬から産卵する。
- オスの飛翔開始時刻は、季節が進むごとに遅くなる。
- 季節が進むほど、ホバリングの時間が長くなる。
- 季節が進むほど、産卵開始の時刻が遅くなる。
今回の目的の1つであった「ピントの合った飛翔写真を撮る」ことは、何とか達成できた。トンボの静止飛翔(ホバリング)の撮影は、広角レンズのパンフォーカスで背景も写し込む方法や望遠レンズで背景をぼかして被写体だけをクローズアップする方法等があるが、今回の撮影場所では、被写体までの距離が遠いため、望遠レンズで撮るしかない。静止飛翔(ホバリング)は、トンボの種類や気象条件、活動時間、個体によっても違うが、ルリボシヤンマのように数10秒も同じ位置でホバリングしていれば、撮影は簡単であるが、本種のように移動しながら2~3秒のホバリングであるならば、難易度が高い。
最新のデジタルカメラならば、被写体と認識した昆虫にピントを合わせ、動きを追尾するAI自動追尾機能やオートフォーカスが早いAF駆動用超音波モーターのレンズであれば、簡単に最良の画像を撮影することができるであろう。しかし、私の機材はそうではない。未だに、Canon EOS 7D に今回のレンズは Tokina AT-X 304AF 300mm F4 である。頭の先から尾の先端までピントが合い、触覚や細毛までブレることなく細かく描写でき、そして色彩等の特徴も分かる真横からの構図を撮ることは容易ではない。
カメラとレンズで合計約2kg。長玉であるから三脚に付けなければ手振れしてしまう。上下左右に動くようにし、左目でトンボを追いながら右目でファインダーを覗いてレンズ内に収めようとするが、望遠レンズの狭い画角内にトンボを収めるのに一苦労する。オートフォーカスは使えないから左手の親指でピントリングを回す。ピントが合う前にトンボは移動してしまう。運よくピントが合ったと思ったらシャッターを切るが、合焦音がなることは稀である。トンボが3秒以上静止してくれれば成功率は高いが、それ以下ならば撮った写真は、ほとんどがゴミ箱行きである。
今回は、4回の訪問の中で比較的長い2~3秒ほどのホバリングを繰り返し行ってくれたので、連写した1割くらいの確率で飛翔写真を残すことができた。尚、1と2枚目、3枚の体色が異なって写っているのは、個体差ではなく、1と2枚目は順光、3枚目は逆光での撮影の違いからである。また、背後からのカットでは、ホソミモリトンボのオスの特徴である尾部付属器が弧状に湾曲した様子も捉えることができた。
来年は、本種の産卵の様子を詳細に観察すること、交尾態の撮影を目標に訪れたいと思う。
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