ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

オオルリシジミ

2019-05-29 21:50:23 | チョウ/シジミチョウ科

 オオルリシジミ Shijimiaeoides divinus (Fixsen, 1887)は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)オオルリシジミ属(Genus Shijimiaeoides)のチョウで、以下の2亜種に分類される。

  1. オオルリシジミ 本州亜種 Shijimiaeoides divinus barine (Leech, 1893)
  2. オオルリシジミ 九州亜種 Shijimiaeoides divinus asonis (Matsumura, 1929)

 オオルリシジミは、山地の明るい草原に生息し、とくに火山草原を好む。成虫は年に1回、5~6月に発生。卵は約1週間で孵化し、マメ科のクララの蕾と花を食べた後、アリによって巣に運ばれ7月から蛹として約10カ月を土中で過ごすが、日本各地で絶滅し、現在では、長野県安曇野市、東御市、飯山市(本州亜種)と熊本県阿蘇山系(九州亜種)の4地域でしか見ることが出来ない極めて希少な種(環境省カテゴリ:絶滅危惧Ⅰ類)である。
 かつては、人々が食草であるクララを薬草などとして利用するために、田の畦や用水路の土手などに植えて草刈りや野焼きを定期的に行ってきたが、1962年頃から大規模土地改良事業が行われ、クララを含めた草原植生は喪失し、野焼きも行われなくなったことで生息環境が消失したことが減少の一番の原因と言われている。草原は放置しておくと背丈の高いススキやカヤなどが増加するため、クララは減少してしまう。保護には継続的な春先の野焼きや草刈りによる二次的草地環境の維持が重要であろう。草地環境の維持は共生関係にあるアリの生息にも大きく影響するし、卵への寄生蜂を駆除することにもなる。
 現在、長野県では、長野県希少野生動植物保護条例に基き、東御市と安曇野市において「オオルリシジミ保護回復事業」として飼育個体の野外導入により保護回復(増殖)活動が続けられている。

 前記事で紹介したクモマツマキチョウの撮影後に、オオルリシジミの保護区がある「国営アルプスあづみの公園」に寄ってみた。食草であるクララの周りでは多くのオオルリシジミが飛び交い、メスは盛んに散乱していた。以前は、卵への寄生蜂の影響で定着が危惧されていたが、昨今では公園内でも定期的に野焼きを行い、生息環境の維持に努めているという。この保護区で成虫となった本種は、80%が他へ飛んでいくと言われ、他地域においてもクララを植えるなどして、生息環境の拡大も行っている。
 筆者は、本種の保全に直接関わってはおらず、こうして写真でしか紹介できないが、本種の生態や生息環境を理解し知識を深めることは、本種のみならずホタルをはじめとした多くの絶滅危惧種の保全にも役立つものであると思う。
 以下には、今回(2019年5月26日)に撮影したものと、2013年5月26日に撮影したものを合わせて掲載した。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorer等ブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorer等ブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。

オオルリシジミの交尾
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250 +2/3EV(撮影地:長野県安曇野市 2013.5.26)

オオルリシジミの写真

オオルリシジミの交尾
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200 +2/3EV(撮影地:長野県安曇野市 2013.5.26)

オオルリシジミの写真

オオルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200 +2/3EV(撮影地:長野県安曇野市 2013.5.26)

オオルリシジミの写真

オオルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 320 +1EV(撮影地:長野県安曇野市 2013.5.26)

オオルリシジミの写真

オオルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/310秒 ISO 200(撮影地:長野県安曇野市 2019.5.26)

オオルリシジミの写真

クララに産卵するオオルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 320(撮影地:長野県安曇野市 2019.5.26)

オオルリシジミの写真

オオルリシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 800(撮影地:長野県安曇野市 2019.5.26)

オオルリシジミの写真

オオルリシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200(撮影地:長野県安曇野市 2013.5.26)

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クモマツマキチョウ

2019-05-28 22:06:35 | チョウ/シロチョウ科

 クモマツマキチョウ Anthocharis cardamines (Linnaeus, 1758) は、シロチョウ科(Family Pieridae)ツマキチョウ属(Genus Anthocharis)で、ユーラシア北部に広く分布するチョウ。ヨーロッパでは普通種であるが、日本では本州中部地方の特産種で、北アルプス、南アルプス、八ヶ岳の高地帯の沢沿いにある草地に生息している。日本には、 次の2亜種が生息している。

  1. クモマツマキチョウ 北アルプス・戸隠亜種 Anthocharis cardamines isshikii Matsumura, 1925
  2. クモマツマキチョウ 南アルプス・八ヶ岳連峰亜種 Anthocharis cardamines hayashii Fujioka, 1970

 クモマツマキチョウは、高山蝶の一種で、大陸と陸続きになっていた氷河期に渡来してきたものが、温暖化により国内の高山に逃げ延びたものと言われているが、低標高地に産する場合もある。翅裏はツマキチョウと同じく草ずり模様になっているが、前翅先端は雄は鮮やかなオレンジ色、雌ではくすんだ灰色になる。 また前翅中央に黒点があり、これが北アルプス及び戸隠亜種は丸く、南アルプス・八ヶ岳連峰亜種は三日月形をしている。
 食草となるミヤマハタザオ、イワハタザオなどのハタザオ類は崖地などに生育するため、物理的環境の崩壊等で本種の絶滅も危惧されており、環境省カテゴリでは準絶滅危惧種として分類されている。長野県では「指定希少野生動植物」に、長野県及び富山県では天然記念物にも指定している。

 クモマツマキチョウ(北アルプス・戸隠亜種)は、2013年6月に富山県で撮影しているが、今回、未撮影のメスを求めて長野県の生息地へ向かった。
 25日の18時に自宅を出発し、現地には21時半に到着。25日は、前記事に掲載したウスバシロチョウの完全黒化型を撮影するため前日から福島県に行っており、福島から一時帰宅した後、すぐに長野へ向かうという強行軍。しかも二日連続の車中泊である。
 26日。6時から登山開始。当地は初めての訪問であり、ほとんど予備情報がない。過去の経験から生息環境と思われる場所を見つけながら、標高およそ1,500mのポイントで待機することにした。本種は、朝方に草地の地面近くを飛翔しながら吸蜜などをし、10時前後から渓流沿いなどを下方に下る習性があるが、この日はなかなか姿を確認できない。8時半頃、1頭のメスの飛翔を確認したが、止まること無く飛び去ってしまった。その後、オス1頭も確認したが、同じように飛び去ってしまった。この日は全国的に高温で、標高およそ1,500mの地点でもかなり暑いことが、行動パターンを変えているようである。
 2頭を目撃したことで、本種の飛翔コースが判明。その周辺の林道を行ったり来たりしていると、どこからともなく1頭のオスが現れ、私の周りを飛翔。どうやら、服の色が良かったようである。ただし、なかなか止まってくれない。しばらく追いかけると、やっと白い花に止まって吸蜜。ただし、ほんの十数秒。その後飛び立った後を追いかけたが、藪を超えて沢の下へと飛び去ってしまった。この日は、その後1頭も確認できず、結局オスの1カットのみの成果で終了。しかしながら、久しぶりに見るオレンジに少々興奮気味にカメラを向け、楽しい時間を過ごすことができた。いずれは、 南アルプス・八ヶ岳連峰亜種も撮影したいと思う。
 以下に掲載した写真は、1枚目が今回のもので、他は2013年に富山県において撮影した個体を比較として掲載した。

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クモマツマキチョウの写真

クモマツマキチョウ(北アルプス・戸隠亜種)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:長野県 2019.5.26 9:20)

クモマツマキチョウの写真

クモマツマキチョウ(北アルプス・戸隠亜種)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:富山県 2013.6.01 8:51)

クモマツマキチョウの写真

クモマツマキチョウ(北アルプス・戸隠亜種)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 200(撮影地:富山県 2013.6.01 8:48)

クモマツマキチョウの写真

クモマツマキチョウ(北アルプス・戸隠亜種)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 +1/3EV(撮影地:富山県 2013.6.01 8:50)

クモマツマキチョウの写真

クモマツマキチョウ(北アルプス・戸隠亜種)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 +1/3EV(撮影地:富山県 2013.6.01 8:53)

クモマツマキチョウの写真

クモマツマキチョウ(北アルプス・戸隠亜種)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 200 +1/3EV(撮影地:富山県 2013.6.01 8:56)

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ウスバシロチョウ(不完全黒化型)

2019-05-26 20:47:08 | チョウ/アゲハチョウ科

 ウスバシロチョウ Parnassius citrinarius Motschulsky, 1866 は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ウスバアゲハ属(Genus Parnassius)に属するチョウで、鱗粉の量や色に地域変異や個体変異が多く「白化型」「赤化型」「黄色型」「黒化型」等が存在している。
 黒化型は、特に日本海側に現れる形質として知られ、過去に富山県と新潟県において黒化傾向の個体を撮影し、「ウスバシロチョウ黒化型」及び「ウスバシロチョウ 半黒化型」として掲載しているが、今回、福島県においてウスバシロチョウの完全黒化型に近い個体(黒化90%以上)を撮影したので紹介したい。

 5月25日。早朝から福島県のA地区において探索を開始。A地区は、かつて別のチョウの撮影で訪れたことがあり、周辺環境から生息しているだろうとの予測のもとでの訪問である。午前6時近くになると、広範囲の草地において10数頭のウスバシロチョウが確認できたが、すべてオスばかりで、関東の個体に比べれば黒い部分が多いものの、黒化とは言えない個体ばかりであった。
 2時間以上を費やしたが、結局、黒化個体は見つからず、那須高原まで一般道で帰ろうとナビゲーションに従って走行。車窓からは、あちこちでウスバシロチョウの飛翔が見られたが、黒くはない。 その後生息環境的に良さそうな場所があり、車を止めて下車して確認すると、狭い範囲に30頭を超えるであろうウスバシロチョウが飛び交っており、その中に、かなり黒く見える個体が混じっていた。
 それら個体は、すべてメスである。そもそもウスバシロチョウの黒化は、羽化した時から黒いわけではなく、交尾を終えたメスが時間の経過と共に黒化するようである。 交尾後のメスは、腹部に、他のオスとの交尾を防ぐため、交尾相手のオスが腹部から出す物質で作った交尾付属物(受胎嚢もしくは交尾嚢)がついているので容易に分かる。交尾後のメスは、飛び回ってヒメジョオンやハルジオンの花で吸蜜するが、吸蜜後は草むらに隠れるように止まって動かない。この地区の黒化個体は、小型のものが多く、前翅長は25mmほどしかない。また、黒化傾向の個体から、完全に黒化した個体も見られた。

 以下には、ウスバシロチョウの不完全黒化型と黒化傾向の個体、また比較のために、ノーマルタイプと言える関東の個体の写真を掲載した。

参考:ウスバシロチョウ

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ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(不完全黒化型/黒化90%以上)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:37)

ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(不完全黒化型/黒化90%以上)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:37)

ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(黒化型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:35)

ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(黒化型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:27)

ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(黒化型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:08)

ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(黒化型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:08)

ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(黒化型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:08)

ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(黒化型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:07)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(福島A地区)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 250(撮影地:福島県 2019.5.25 9:24)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(福島A地区)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 320(撮影地:福島県 2019.5.25 5:50)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(福島A地区)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 400(撮影地:福島県 2019.5.25 5:57)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(福島A地区)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 7:42)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(福島)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:22)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(関東)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 320(撮影地:東京都 2011.5.05)

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環水平アーク

2019-05-13 21:28:31 | 風景写真

 環水平アーク(circumhorizontal arc)が、5月4日と5日に日本各地で出現し、11日にも関東や甲信エリアで見られた。
 環水平アークとは、気象庁によれば大気光学現象(虹色現象)の一種で、太陽の下にほぼ水平な虹色の帯が発生する現象のことである。虹のように見えるが発生メカニズムが異なり、太陽光が高層の大気中にある微小な氷の結晶を通過する際に屈折することで生じるという。また、太陽から約46度離れたところに現れるため、太陽高度が地上から58度以上の位置で、低空に雲がないことが条件になると言われている。日本では、年に数回、3月~9月頃のお昼前後にしか見られないレアな現象の一つらしい。

 11日の正午頃、前記事に記載したギフチョウを撮影中に、空に横たわる虹が目に入った。色が濃く、太い帯であった。初めて目にする光景にチョウの撮影を中断し、急いで林の中から出てカメラを向けた。断片的であったため、最初は同じく虹色をした彩雲かとも思ったが、後のニュースで環水平アークであると判明。
 この現象は、ほんの数分間で消えてしまった。単なるスナップ写真であるが、珍しい現象ゆえに掲載した。

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環水平アークの写真

環水平アーク
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/5000秒 ISO 200 -1EV(撮影地:長野県 2019.5.05 11:51)

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ギフチョウのイエローバンド

2019-05-12 08:16:01 | チョウ/アゲハチョウ科

 ギフチョウのイエローバンドは、長野県のごく一部で見られる常染色体劣性遺伝により引き継がれている地理的変異で、 通常の個体に比べ翅の縁毛が全て黄色になり、翅の外縁部が黄色の毛で縁取られる型である。昨年に引き続き、今年もイエローバンドを撮影するために信州へ。
 まず、昨年同様の5月5日に訪問。しかしギフチョウがまったくいない。数頭飛んでいたと聞いたが、筆者は1頭も目撃できなかった。次に5月11日。2週連続での探索である。前夜から車中泊し、現地ポイントに早朝から10時まで待機したが、ギフチョウの姿がまったくない。飛んでくるのは、スジグロシロチョウとコツバメだけ。天気は良く、気温は13℃。ポイントが日陰になってきたところで林内に移動。蝶道で待機していると、ようやく1頭が飛来。その後9頭ほどが飛来し、撮影できた2頭の内、1頭がイエローバンドであった。熊笹が茂る急斜面を飛翔しており、葉に止まったところでカメラを向けたが、イエローバンドの特徴が分かる証拠程度の写真1枚しか撮ることができなかった。
 以下に掲載したギフチョウのイエローバンドの写真は、1枚目が今年撮影したもので、2枚目以降は昨年撮影したものである。

 昨年はギフチョウの発生が早かったが、今年も3月下旬には神奈川で発生が始まり、信州もGW期間中にピークを迎えるものと思われた。しかしながら、4月上旬に寒波の来襲があり、信州は雪(東京都内の多摩地域でも雪)が積もるという状況であった。おそらく、羽化準備をしていた蛹の中には死滅したものも多いのであろう。他の地域でも発生が遅く、個体数がかなり少ないと言う。
 ギフチョウは一年一化であるから、発生した個体数が少なければ産卵数も少ない。来年以降の発生数も心配である。にも関わらず、網を振るって採れるだけ採る輩が多い。採集者には、ギフチョウを保全する気持ちはまったくない。自身の標本箱に多くのギフチョウを並べることだけが目的だ。

 ギフチョウ Luehdorfia japonica Leech, 1889 は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ギフチョウ属(Genus Luehdorfia)に分類される里山に生息するチョウで、氷河期の頃から地球環境の変化に耐えて生き残ったと考えられている。 ギフチョウは、吸蜜植物が開花し食草の新葉が出る春に合わせて成虫が羽化・産卵し、葉が硬くなり林冠が閉鎖する真夏が来る前に蛹になる。 そして夏から翌春までの長い期間を蛹で過すという雑木林の季節変化にあわせた生態を持った「春の女神」(スプリング・エフェメラル)である。
 環境省カテゴリでは絶滅危惧Ⅱ類(VU) に、多くの地方自治体のRDBでも絶滅危惧Ⅰ類やⅡ類に選定されている。長野県白馬村では、ギフチョウとヒメギフチョウを昭和49年10月1日に村の天然記念物に指定し、成虫だけなく、卵、幼虫、蛹も含めて捕獲を禁止している。 また平成22年度より天然記念物の捕獲等については、条例で10万円以下の罰金などの罰則が課される。

 今回の遠征で愛車の総走行距離は、140,000kmを超えた。どれだけ走っても昨今は充実感がない。気が付けば、今年になってから自然風景写真は「星空」しか撮っていないし、昆虫写真も満足できる成果がない。里山を散策しながら、出会った風景や昆虫を撮るのも楽しいに違いないが、年初に掲げた目標に拘っているために、未達ならば心折れる充足感のない週末で終わる。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウのイエローバンド(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 500 +2/3EV(撮影地:長野県 2019.5.11 10:34)

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウのイエローバンド(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.05 11:04)

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウのイエローバンド(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:長野県 2018.5.05 11:04)

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウのイエローバンド(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.05 11:03)

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウのイエローバンド(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.05 10:34)

ギフチョウの生息環境の写真

ギフチョウの生息環境

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信州にて天の川

2019-05-06 13:39:07 | 風景写真/星

 天の川の写真でGWは終了。10日間も休みがあったのに撮影した写真は、悲しいかなほんの数枚。過去に撮影した被写体の同じようなシーンは撮りたくないという言い訳と5月中旬以降の遠征のための節約という理由で、そもそも出控えたのが理由であるが、GW期間中の総走行距離は、約1,600kmになる。
 連休初日は、ホタルの講演で三重県。帰りがけに静岡県にて「平成最後の富士」として富士と星空を撮影。後日、山梨で「ホタルの幼虫上陸」の観察と撮影。その翌日には山梨県の三つ峠へ登山。 この時は、富士山・雲海・天の川をセットで撮ろうと考えたが、天気予報に騙され結局1枚も撮れずに終了。そして今回は、長野県へ行き天の川を撮った次第である。

 この場所からの天の川は、以前から撮影したいと思っていた。諸々のスケジュールと絡めながら、このGW期間に訪問する計画を半年前から立てており、4日~5日は運よく天候に恵まれて決行することとなった。
 4日19時に自宅を出発し、現地に23時着。出発前の自宅(東京都国分寺市)は、雹(ひょう)が大量に降ったが、長野県は快晴無風で星空が美しい。23時半から撮影を開始した。星景撮影では「光害」が障害となるが、ここは街灯りがなく、月は新月。最高の条件である。肉眼でもはっきりと天の川が確認できる。ただ、天の川だけ撮っても絵にはならない。この場所を選んだのは、一本の大きな木を脇役として入れたかったからである。カメラとレンズは、肉眼では見えない星も捉えて写してくれた。写真は、ソフトフィルターを使わないものと使ったもの、そして5月6日頃に活動が極大を迎えるみずがめ座η(エータ)流星群の1つを入れた星景を掲載した。また、過去に撮影した星景に、この連休中に撮影した星景2点を加えたタイムラプス動画も作成したので、一緒に掲載した。

 当地は、桜が満開で、他に梅、杏子、花桃の赤、白、ピンクの花々、そして山の萌黄や新緑。これらの色彩美に目を奪われたが、帰りの中央道の渋滞を考え、それらは車窓から目に焼き付けるだけにして11時半に帰路に就いた。(ちなみに上りの中央道は、小仏トンネル手前13kmの渋滞。比較的流れがよく、15時過ぎには帰宅。)
 連休中には昆虫の撮影も計画していたが、今年は昆虫の発生や生態行動が予想とまったく異なり、訪れても撮影が叶わない状況であった。3月の気象状況は問題ないように思われるが、4月になってから雪が降る等の寒波の到来が影響しているように思う。今後の昆虫写真撮影の予定をすべて見直し、天候に合わせて万全の態勢で臨みたいと思う。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

天の川の写真

天の川(一番大きく輝いている星は、木星)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 30秒 ISO 1600(撮影地:長野県 2019.5.05 0:34)

天の川の写真

天の川(一番大きく輝いている星は、木星)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 30秒 ISO 1600/ PRO1D プロソフトン[A](W)使用(撮影地:長野県 2019.5.05 0:32)

星景写真

星景
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 30秒 ISO 1600(撮影地:長野県 2019.5.05 0:43)

星空タイムラプス(BGM付) / 画質をHDに設定してご覧ください。

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ホタルの幼虫上陸

2019-05-01 13:48:23 | ゲンジボタル

 ホタルの幼虫上陸の観察と撮影で山梨県へ。(尚、本文で記すホタルは、ゲンジボタルのことを言う。)
 今季のホタルの幼虫上陸の観察は3回目。まず、2011年4月9日に多くの幼虫が上陸する様子を観察している千葉県へ4月10日に訪れた。この日は、1日中本降りの雨であったが、 寒気の影響で東京の青梅や奥多摩では雪。千葉県では、夜の気温が10℃を下回り、護岸で発光する幼虫もいたが、水中から上陸する個体は1頭も見られなかった。次は、4月14日に今回と同じ山梨県の生息地を訪れた。ここは2011年4月23日において、少数ではあるが上陸を観察しており、昨年は4月15日の深夜に多くの幼虫の上陸を観察している。(ゲンジボタルの幼虫上陸)本年の14日は、19時の気温は13℃。しかし雨の降り出しが17時と遅く、しかも降っても小雨であったため、19時半に1頭が発光しながら上陸を開始したものの後が続くことはなかった。
 本年4月30日は、東京では前日の夜から雨。かなりまとまった雨であった。ホタルが生息する山梨県のA地区の天気も雨で、19時までは降り続く予報。GPV気象予報でも、20時までは雨雲がかかっていた。ようやくホタルの幼虫上陸が期待できる日がやってきた。
 雨の東京を16時半に出発。途中も雨であったが、最後の一山を超えると雨は止んでおり、現地では舗装道路の路面が乾いている状況。一日の降水量は27mmであるが、午前中で雨はあがってしまったらしい。川の大きな石も水上部分は乾いている。天気予報に裏切られ、愕然としたまま暗くなるまで待機することにした。

 ホタルの幼虫上陸の時期は、日本各地の生息地によって異なり、関東地方では3月中旬頃から5月上旬頃に行われるが、時期になればいつでも上陸するわけではなく、次の条件が合致しなければ上陸しない。

  • 日長時間が12~13時間以上であること。
  • 当日の気温が水温と同等かそれ以上(10℃以上)であること。
  • 初回は、降雨時であること。

 ホタルが生息する山梨県のA地区における今年の気象状況を見てみると(グラフ1.)3月中旬以降に雨が少ない。雨量が多い日は寒気の影響で気温も低くなっている。また、降っても午前中だけ。これは、ホタルの幼虫上陸を阻害する状況である。この異常気象は、ホタルの発生に大きな影響を与えるものと思われる。

雨量と平均気温のグラフ

グラフ1.山梨県A地区の雨量と平均気温(2019年3月~4月)

 30日19時半。ホタルの生息域のごく一部で発光する幼虫を発見。10頭ばかりが上陸を開始したが、水際で発光して上陸を止める個体も数頭いた。雨が降っていれば多くの幼虫が上陸したに違いない。
 以下に掲載した当日の写真は、85分に相当する多重で、発光しながら上陸した幼虫が光の筋として写っている。また、過去に撮影した同地区での写真、千葉県での写真も参考までに掲載した。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

発光しながら上陸するゲンジボタルの幼虫の写真

発光しながら上陸するゲンジボタルの幼虫
光跡が細く小さいものは、幼虫の這う速度が速く、太く明るいものは、這う速度が遅く同じ場所で何度も発光していたことを表している。

Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 30秒 ISO 2000 85分相当の多重(撮影地:山梨県 2019.4.30)

発光しながら上陸するゲンジボタルの幼虫の写真

発光しながら上陸するゲンジボタルの幼虫
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.8 360秒 ISO 400(撮影地:山梨県 2011.4.23)

発光しながら上陸するゲンジボタルの幼虫の写真

発光しながら上陸するゲンジボタルの幼虫
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / バルブ撮影 F2.8 560秒 ISO 400(撮影地:千葉県 2011.4.09)

発光しながら上陸するゲンジボタルの幼虫の写真

発光しながら上陸するゲンジボタルの幼虫
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / バルブ撮影 F3.2 3秒 ISO 400(撮影地:千葉県 2011.4.09)

発光しながら上陸するゲンジボタルの幼虫の写真

発光しながら上陸するゲンジボタルの幼虫
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / バルブ撮影 F3.2 3秒 ISO 400(撮影地:千葉県 2011.4.09)

発光しながら上陸するゲンジボタルの幼虫の写真

発光しながら上陸するゲンジボタルの幼虫
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / バルブ撮影 F3.2 3秒 ISO 400(撮影地:千葉県 2011.4.09)

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