ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

サラサヤンマ

2024-05-30 17:26:43 | トンボ/ヤンマ科

 サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri(Martin, 1901)は、ヤンマ科(Family Aeshnidae)サラサヤンマ属(Genus Sarasaeschna)のヤンマである。サラサヤンマは北海道から屋久島にまで分布し、丘陵地や低山地のほとんど水のない小さな湿地や休耕田などに生息しており、体長が6cm程で、ヤンマの仲間ではかなり小さい。関東では5月初め頃に羽化して、雑木林の中で過ごした後、成熟する5月下旬頃に湿地に戻ってくる。幼虫は、草に覆われた湿地内の、僅かに水の溜まった場所で、泥の上に落ち葉が堆積したような所で生活しているようであるが、まだ、生態の詳細は解明されてはいない。
 サラサヤンマは、環境省版レッドリストに記載はないが、都道府県版レッドリストでは、東京都、神奈川県、群馬県、長野県のRDBで絶滅危惧Ⅰ類に、青森県、兵庫県、徳島県のRDBで絶滅危惧Ⅱ類に、千葉県、埼玉県、栃木県のRDBでは、準絶滅危惧種として記載している。里山の谷戸における湿地や休耕田が主な生息環境だが、里山そのものの消失、里山においても、放棄放置によって湿地や休耕田が乾燥状態になる等が減少の原因と考えられる。

 サラサヤンマは、ホバリング飛翔や静止写真においては、これまで何度も撮影し掲載しているが、産卵の様子は2020年に一度だけで、しかも草被りの写真であった。そこで、撮り直しをすべく都内の里山を訪れた。生息数は多いとは言えないが、確実にサラサヤンマと出会うことができる。ここに合計4回訪れたが、結果は、産卵を見ただけで写真に撮ることができなかった。

  • 1日目/晴れ:9:30より待機。オスは探雌のために3頭が飛翔しており、ホバリングしたかと思うと、下草や低い位置の木の枝に止まって休んでいる。10:30に産卵。オスに捉えらる。
  • 2日目/曇:9:30より待機。雌雄ともに現れず。
  • 3日目/曇のち晴れ:9:30より待機。10:00にメスが現れ産卵。オスは1頭だけホバリング。
  • 4日目/晴れのち曇り:9:00より待機。9:00にメスが現れ産卵。オスは1頭だけホバリング。

 メスは、地表近くを飛びながらヤナギがドーム状に茂った湿地の暗い場所などに飛んでくる。一か所で長い時間、産卵に集中することもあるが、朽木や泥土上などあちこち移動しながら忙しなく産卵することの方が多いようである。産卵の時間帯は決まってはいないようで、午前9時の場合もあれば正午過ぎのこともある。天候は、晴れて気温が25℃くらいないと現れないようである。ヤンマの仲間では、オスがいない時間帯に産卵に訪れる種もいるが、本種は、オスが待ち構えている場所にやって来る。
 生息地内には産卵場所が点在するが、こちらもオスと同じように一カ所に的を縛って待ち伏せするスタイルである。他を覗きに行っている空きに来られたのでは悔しいが、来なければ成果はゼロである。長い時は5時間も待ち伏せしたが、結局、産卵を確認しただけで撮影には至らなかった。サラサヤンマに限らず、昆虫写真はその種の特徴が分かるだけでなく、構図にも拘りたい。本種の産卵撮影は、今季はもう時間的余裕がないため、来年以降に再挑戦である。
 以下には、草被りの産卵の他、2012年から今年に撮影した羽化後、飛翔、静止の写真と今年撮影した動画を掲載した。

 5月は、山形県の白川湖の水没林、奈良県と三重県の県境にある大台ヶ原と、一度は行って見たいと思っていた場所で計画通りに撮影することができ、東京都内のゲンジボタル幼虫の上陸も期待以上のものを写すことができた。サラサヤンマの産卵以外は、ほぼ計画達成であり、成果は少ないながらも自己満足している。勿論、反省点は多々あるが、改善は他で生かそうと思う。
 6月は、チョウとホタルがメインで、梅雨の季節であるから天候次第のところはあるが、計画通りならばかなりの走行距離になりそうだ。ちなみに山形県遠征で29万キロになり、現在は29万2千キロである。また、下旬には3年連続となる沖縄遠征も控えているので、体調万全で臨みたい。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。また動画も 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

サラサヤンマの写真
サラサヤンマ(羽化後)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F3.5 1/400秒 ISO 200(撮影地:東京都 2012.04.30 9:52)
サラサヤンマの写真
サラサヤンマ(羽化後)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F3.5 1/640秒 ISO 200(撮影地:東京都 2012.04.30 10:49)
サラサヤンマの写真
サラサヤンマ(飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F4.5 1/125秒 ISO 400 +1EV(撮影地:東京都 2013.05.25 12:55)
サラサヤンマの写真
サラサヤンマ(飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F4.5 1/125秒 ISO 640 +1EV(撮影地:東京都 2013.05.25 13:59)
サラサヤンマの写真
サラサヤンマ(飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 3200 +1EV(撮影地:東京都 2013.05.25 14:06)
サラサヤンマの写真
サラサヤンマ(飛翔)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F9.0 1/320秒 ISO 1600 +1 1/3EV(撮影地:高知県 2020.05.23 10:53)
サラサヤンマの写真
サラサヤンマ(飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 3200 +1EV(撮影地:東京都 2013.05.25 14:02)
サラサヤンマの写真
サラサヤンマ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/125秒 ISO 400 -2EV ストロボ使用(撮影地:埼玉県 2024.05.19 11:53)
サラサヤンマの写真
サラサヤンマ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/50秒 ISO 3200 1/3EV(撮影地:東京都 2024.05.24 11:31)
サラサヤンマの写真
サラサヤンマ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F4.5 1/60秒 ISO 640 ストロボ使用(撮影地:東京都 2024.05.19 10:29)
サラサヤンマの写真
サラサヤンマ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / プログラムAE F3.2 1/60秒 ISO 400 +2/3EV ストロボ使用(撮影地:東京都 2024.05.30 10:56)
サラサヤンマ産卵の写真
サラサヤンマ(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/60秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地:東京都 2020.05.30 12:10)
サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.


ヒメボタル(中部地方)

2024-05-22 17:00:02 | ヒメボタル

 2024年最初のヒメボタルの観察は、初訪問の中部地方の生息地にて行ってきた。

 ヒメボタルは、すでに高知県などでは5月上旬から発生しており、関東東海でも例年通り6月上旬から7月中旬にかけて様々な場所で発生すると思われ、今年も毎年訪れている生息地にて、生息環境や発生状況の確認、更にはこれまで訪れたことのない場所でも観察を行いたいと思っているが、今年最初のヒメボタルの観察は、初訪問の中部地方を選んだ。カメラマンは勿論、地元の方の鑑賞者も誰一人来ない所である。
 ヒメボタルの生息地は、標高およそ50mで、市街地からさほど遠くない所にある山のふもとの雑木林である。近くには畑や竹林もあり、かなり広範囲に飛翔する。深夜型であり、概ね23時から翌2時頃まで活発に発光飛翔する。現地では18時から環境を細かく調査し、日の入りを待った。20時になると、広範囲で5頭ほどだが、開けた場所の木の下、雑木林の茂みの下草の葉の上で発光するヒメボタルが現れる。ただし、時折短く発光するだけで飛ぶことはない。深夜型であっても20時頃から発光を始めるのは、他の深夜型が生息する場所でも同じである。
 その状況が、そろそろ乱舞するであろう23時を過ぎても変わらなかった。訪れた日は、日中は晴れで気温が31℃まで上がり、夜も気温が高く風もない。それは良いのだが、月齢10の月が1時54分に沈むまで雑木林を照らすという悪条件の夜。ただし、夕暮れから薄曇りになる予報は的中し、直射の月明かりを遮ってはくれたものの、空を見上げれば、かなり明るい。街明かりを反射し拡散する夜の曇り空は、月明かりよりも明るいのである。
 ちなみに、満月に照らされる地表の明るさはおよそ0.2ルクス(暗い場所で人工的な光の影響を受けない場合)だが、半月の明るさは約10分の1の約0.02ルクスである。晴天で月のない夜は、0.0003 ルクスであるが、夜の曇り空の照度は、市街地からの距離などでも違いがあるが、市街地に近ければ1,000ルクスほどあると言われている。1,000ルクスは、2020年から新型車に搭載されているオートライトが点灯する照度である。ホタルの仲間は、発光を繁殖行動のコミュニケーションツールとしており、0.1ルクス以下でないと行動が阻害される。知人の話では、前日は晴れで半月より大きい月が輝いていたが、それでも23時から発光飛翔が始まり2時過ぎまで光っていたという。この日は23時を過ぎても、発光する個体は増えず、飛翔もしない。ヒメボタルのメスは、地面を歩くことしかできず、自らの存在をオスに知らせ、オスも発光しながら群飛することでメスに存在を知らせるためには、"暗さ"というものが必要だ。
 観察を続けていると、23時半頃から飛翔する個体が出初め、0時を過ぎた頃から一気に発光飛翔する個体が増加した。その数はどんどん増え始め、1時を回ったころには数百というヒメボタルが、いたるところで乱舞するという状況になった。照度計を持参しなかったので何とも言えないが、月がかなり傾き、更には深夜になったことでビルや家の明かりが消えたことで"暗さ"が増したことによると考えられる。月のない晴れた夜ならば、体内時計によって23時頃から発光飛翔を始めるが、わずかな明るさの違いでも活動が抑制されるのである。いかに"暗さ"が重要であるかということが分かる。
 私は、午前2時半に引き上げたが、その様子は3時半頃まで続いていたようである。まだメスが見られなかったことから、この撮影日に数日後が発生のピークであろう。ただし、次第に満月となり、高度は30度であるが深夜に照っているため、繁殖を阻害しないかが心配である。

 以下には、ヒメボタルの写真5枚を掲載した。私の場合は、観察がメインで、写真撮影はその場の記録を残すという目的で行っている。環境やヒメボタルの飛翔ルートや範囲が分かるように写すことで、ヒメボタルの行動の証拠になり、保全にも役立つ。他の大多数のカメラマンが撮るような、光の玉ボケを入れたり、点景となるような人工物をわざわざ添えたり、光で埋めつくすような「作品」は目指していないし、撮るつもりもない。とは言っても、短時間の露光カットを重ね合わせることで、生息環境のどの部分に集中して発光飛翔しているのかが分かる場合もある。また、悲しいことに一般の方々に感動を与える写真は、光で埋めつくされた写真であり、ブログを訪問下さる方々はそのような写真を期待されているのも事実であることから2時間相当の多重写真を1枚掲載した。
 勘違いして頂きたくないのは、あくまで数時間という長い間に飛び交ったヒメボタルの"光"を、たった1枚に凝縮したものであり、写真は見た目とはまったく違うということである。また、感動は、暗闇の中で黄金色の光を放ちながら懸命に飛び交うヒメボタルを実際に見た時である、ということをお分かり頂きたい。
 最後になったが、今回、ヒメボタルの生息地をご案内いただいたI氏に心から御礼申し上げたい。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 20秒 ISO 1000 5分相当の多重(撮影地:中部地方 2024.05.19 0:07~)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM(焦点距離24mm) / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 1600 2分相当の多重(撮影地:中部地方 2024.05.19 23:42~)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM(焦点距離24mm) / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 1600 120分相当の多重(撮影地:中部地方 2024.05.19 23:42~)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 1250 12分相当の多重(撮影地:中部地方 2024.05.19 0:55~)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 800 24分相当の多重(撮影地:中部地方 2024.05.19 1:20~)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.


大台ヶ原から天の川

2024-05-21 20:59:26 | 風景写真/星

 大台ヶ原から天の川の撮影を行った。

 大台ヶ原は、紀伊半島の南東、奈良県と三重県の境にある日出ヶ岳(1,695m)を最高峰とする台地状の山地である。大台ヶ原山全体が特別天然記念物に指定されている日本百名山のひとつ。日本百景や日本の秘境100選にも選ばれており、吉野熊野国立公園の特別保護地区にも指定されている。4月中旬から山開きされ、11月下旬までの間、四季折々の風景を堪能できる。また、有名な星空スポットであり、満天の星を楽しめる場所でもある。
 大台ヶ原から天の川の光景は、以前から一度は行って見たいと思っており、GW頃に計画はしていたもののGW期間中は事情により出掛けることができず、その後も、躊躇していた。まずは、遠いこと。自宅からの距離は550kmほどだが、180kmは一般道を走らなければならず、所要時間は8時間である。更には、駐車場から星空のポイントとなる場所まで徒歩で1時間弱かかる。夜中に歩いて行かねばならないことに一歩を踏み出せないでいた。また、年間降水量が4,500㎜を越える本州の最多雨地で、この多量の雨が湿潤な気象条件を生み出し、曇りや雨は当たり前で霧もよく出る。晴れる方が珍しい場所であることで、今年は諦めかけていたが、5月17日18日は晴れマーク。9日は福島と山形で天の川を綺麗に撮れなかったのでリベンジもしたい。そして丁度ヒメボタルの発生がピークに近いという場所が中部地方にあることから、「大台ヶ原から天の川」とヒメボタルをセットにして遠征することにしたのである。
 自宅を17日15時半に出発。中央道、新東名高速、伊勢湾岸自動車道を走り、東名阪道の亀山ICで下り、後は一般道である。ただし亀山ICから針ICの名阪国道は「高速自動車国道に並行する一般国道の自動車専用道路」にカテゴリされ、信号がないので順調に針ICまで進んだ。その後が長い。最後の大台ヶ原ドライブウェイはカーブが多く、真夜中の走行は緊張の連続で、結局、大台ヶ原の駐車場には23時に到着。自宅からは7時間半かかった。駐車場は広く、5~6台が駐車していた。

 既に天の川が昇り始めている時間であるが、この日は月齢9の半月より大きい月が1時57分まで沈まない。上空には、月だけでなく薄雲も広がっている。ただし、GPV気象予報では2時頃には綺麗に晴れる予報になっており、月が沈み雲がなくなることを期待しながらしばらく車内で休憩していたが、居ても立っても居られず、23時半に正木峠へ向けて出発した。
 ヘッドランプを付けて登山道を歩く。それほどきつい道ではないが、怖いのはクマである。鈴を鳴らしながら、ひたすら歩く。分岐点を左へ曲がると日出ヶ岳へ続き、山頂も星空撮影のスポットであるが、今回は、分岐点を右へ曲がり正木峠だけで撮る予定である。急な木道を上がったところが正木峠である。正木峠は、森林破壊によって、山全体が緑のミヤコザサに覆われた大台ヶ原を象徴する場所である。60年ほど前までは、全国的にも珍しい針葉樹のトウヒが森を形成していたが、1959年の伊勢湾台風が大台ヶ原にも直撃したことで多くの木が倒され、その後繁殖した鹿の食害によって森が失われてしまったという。20年前までは、立ち枯れも多くあったが、昨今では立ち枯れの木も少なくなりつつある。
 峠の木道には休憩スペースがあり、ベンチに座ってしばし待機である。気温は9℃。厚着はしたが、風が時折強く吹くと、やはり寒い。先客は一人だけ。話を聞けば、日暮れ時刻からいるという。さぞ、退屈だったろう。30分ほど寒さに耐えながら待機したが、何となく撮影を開始。まだ月があり、雲も晴れないが、月明かりで質感が分かる正木峠の特徴である立ち枯れを入れながら、様々なカットを撮影。午前2時。月が沈み、雲も晴れてきた。風も止んだ。天の川が肉眼でも見えた。
 これまで、各地で天の川など星景写真を撮ってきたが、私の経験した中で一番光害がなく星が美しかったのは宮古島で、次が乗鞍高原であった。この大台ヶ原は、ボートル・スケールのSQM(Sky Quality Meter)で表すと、21.81 mag./arc sec2で、優れた光害フリーの土地であり天の川のさそり座といて座の領域が明確な影を投げかける場所である。ちなみに長野県乗鞍高原のまいめの池は、SQMが21.85 mag./arc sec2で、大台ヶ原よりも暗い空であるが、大台ヶ原は見晴らしも良いため、南から北まで、頭上にかかる天の川のアーチもはっきりと見える。月がなければ、美しいアーチも撮れただろう。立ち枯れと天の川を撮ったあとは、正木峠のもう1つの特徴である白い木道を入れての撮影。立ち上がる天の川と木道の位置が時期的に合わず、構図的には良いとは言えないが、撮っておきたい光景であった。
 ただ、この素晴らしい天の川の光景を前にしながら、それを思うように捉えられないレンズの性能に限界を感じた。F値が1.8より明るい単焦点の広角レンズが欲しい。

 正木峠では3時まで撮影し、下りることにした。駐車場には車が増えており、そこから星空を撮影している方々が多かった。駐車場を4時に出発し、その後、静岡と岐阜でトンボの探索。そして、ヒメボタルの生息地へと向かった。ヒメボタルは深夜型であり、二日連続の徹夜撮影である。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセル及び683×1024ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

大台ヶ原から天の川の写真
大台ヶ原から天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 13秒 ISO 5000(撮影地:奈良県 大台ヶ原正木峠 2024.05.18 2:07)
大台ヶ原から天の川の写真
大台ヶ原から天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 13秒 ISO 5000(撮影地:奈良県 大台ヶ原正木峠 2024.05.18 2:20)
大台ヶ原から天の川の写真
大台ヶ原から天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 13秒 ISO 5000(撮影地:奈良県 大台ヶ原正木峠 2024.05.18 2;27)
大台ヶ原から天の川の写真
大台ヶ原から天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 13秒 ISO 5000(撮影地:奈良県 大台ヶ原正木峠 2024.05.18 2;41)
大台ヶ原から天の川の写真
大台ヶ原から天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 13秒 ISO 5000(撮影地:奈良県 大台ヶ原正木峠 2024.05.18 2:57)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.


ゲンジボタルの幼虫上陸(東京)

2024-05-15 21:34:13 | ゲンジボタル

 ゲンジボタルの幼虫上陸の様子は、これまで各地で観察し撮影してきたが、今回、初めて東京都内のゲンジボタル生息地で観察し、写真に記録として残すことができたので掲載したいと思う。

 ゲンジボタルの幼虫は、およそ8か月から個体によっては3年8か月の水中生活を終え終齢に達すると、陸地で蛹になるために上陸をする。その時期は、全国各地の生息地ごとにおおよそ決まっており、その時期に達して以下に示した細かな基本的条件が合致した夜に上陸が行われる。(飼育して放流した幼虫は体内時計が狂っており、以下の条件とは関係なく上陸する場合がある。)

ゲンジボタルの幼虫上陸の基本的諸条件
  • 日長時間が、12~13時間であること。
  • 上陸時の気温が、水温より高い、もしくは約10℃以上であること。
  • 降雨であること。(または降雨後で陸地が十分に濡れていること。)

 ゲンジボタルの幼虫上陸の観察は、基本的諸条件の合致もさることながら、これまでは私の休日とも重ならなければ行うことができず、なかなか十分な観察ができていなかった。そこで、秋までは時間を自由に使うことができる今年は、いつでも上陸の観察に行けるよう毎日天気予報をチェックしながらチャンスを待ち、上陸すると思われる日に出掛けた。
 4月と5月の訪問記録を列挙すると以下になるが、特に岐阜県では、6月中旬頃に数百という西日本型ゲンジボタルが乱舞するにも関わらず、観察できた上陸数が少なかった。現地の守る会による連日の観察でも、極少数の上陸個体しか見られていない。上陸場所が見えない場所なのか、観察していない深夜に多数が上陸しているのか、上陸条件の定説を覆すような特別な地域特性があるのか、あるいは、今年は上陸数が極端に少ないのか・・・はっきりしたことは分からないままである。

2024年のゲンジボタルの幼虫上陸の訪問記録
  • 4/04 山梨県の生息地/気温15℃ 雨が降らず上陸なし
  • 4/21 岐阜県の生息地/気温13℃ 17時から小雨 上陸は3頭のみ(4/16に守る会が初上陸を確認)
  • 4/24 山梨県の生息地/気温15℃ 雨 上陸は1頭のみ
  • 5/01 東京都の生息地/気温11℃ 雨 見える範囲で100頭以上が上陸
  • 5/02 東京都の生息地/気温15℃ 朝から晴天で、新たな上陸個体はなし。昨夜の居残り個体が陸地の途中で発光
  • 5/07 東京都の生息地/気温14℃ 雨は朝だけで、新たな上陸個体は数頭のみ
  • 5/08 東京都の生息地/気温11℃ 雨 見える範囲で40頭以上が上陸
  • 5/13 東京都の生息地/気温17℃ 雨 見える範囲で20頭ほどが上陸

 今回、観察を行った東京都内の生息地は、山間部の渓流で生息域はおよそ5kmに及ぶ。上流域の発生地は点在で発生数も多くはないが、下流域はまとまって発生しており、毎年6月下旬頃になると多くのゲンジボタル(残念ながら西日本型)が舞い、その様子は、何度も通って写真と動画にも収めている。2019年の台風による記録的豪雨で2020年から発生が激減してしまったが、昨年からようやく復活の兆しが見え始めたので、今回は下流域の約300mにおいて集中的に観察を行い、撮影も行った。
 現地には、上記のように計5回訪れた。17時から待機し、上陸の時を待っていると、幼虫は、石組みの垂直護岸、砂利のなだらかな岸、淵からいきなり岩壁、早瀬の岩をいくつも乗り越えながら岸にたどり着くと言った様々な岸辺の物理的環境において上陸を行っていた。全体的に河川の南側の岸に上陸する幼虫が多いが、対岸の北側に上陸する幼虫も少なからず見られた。幼虫の生活場所から近い岸辺に上陸すると考えると、幼虫は、河川のある一部に集まっているのではなく、下流域の約300mの平瀬、早瀬、淵に分散して生息していると言える。
 降雨時における上陸の開始時間は、岸辺の樹木が河川まで覆いかぶさっている暗い場所では18時45分。そうでない場所では、その日の空の暗さで異なるが、概ね19時半頃からで、水中から出ると発光を始める。最初に1頭が発光を始めて上陸しだすと、次々に他の幼虫も上陸を始める。22時頃から上陸を始める幼虫もいるが、極少数であった。上陸の最中では、複数の幼虫の発光が同期することもあり、先を行く幼虫の後を追うように、離れた場所からルートを変更して同じ方向へと上って行く幼虫も見られた。
 水際から潜土できそうな場所までは最低でも5mあり、場所によっては10m以上もある。地域によっても違いはあるだろうが、幼虫は、上陸開始から3時間程度が這い上がる限度のようであり、それを過ぎると発光を止めて、その場に留まってしまう個体が多かった。したがって、一晩で潜土場所までたどり着けない幼虫も多く、その場合は翌晩に再開し、雨が降っていなくても暗くなると発光を始めて這い上がっていた。
 朝から全く雨が降っておらず、陸地が乾いていると水中からの上陸は一切ない。実験的に、ジョウロで一時間ほどかけて川の水を撒いて濡らしてみたが、上陸はしなかった。また、雨が降っても上陸開始時刻の19時の時点で止んでいた場合も、水中から新たに上陸を開始する幼虫は極めて少なく、上陸をしようとしても水際で止めてしまう個体が多い。居残り幼虫に関しては、深夜にしか雨が降っていない次の夜に観察しているから、雨の降りだしが深夜になった場合は、その時間から上陸していることが分かる。これは、以前に山梨県での観察がそうであり、この時は22時から小雨で23時過ぎから本降りとなり、0時からようやく幼虫が上陸を始めている。
 屋外の自然河川の生息地では、とにかく「雨」が上陸のキーワードになっている。ちなみに、人工飼育の場合は、雨が降らない水槽で毎晩のように上陸することが不思議である。
 今回の観察地(山間部)は、知人の観察によれば4月24日から上陸が始まっており、私も観察した5月1日が上陸数のピークで5月13日で終了したようである。これも地域によっても違いはあるだろうが、当地でのゲンジボタルの幼虫上陸 の期間は、おおよそ3週間で、その間の降雨日に上陸が行われたという結果である。成虫の発生は今後の気温次第ではあるが、例年通りの6月中旬頃からで6月25日頃がピークとなると思われる。尚、丘陵地では、4月22日に上陸が確認されているので、6月10日頃には発生ピークになるであろう。

 ゲンジボタルの幼虫上陸の観察は、河川における幼虫の生活圏と蛹になるための潜土場所を把握でき、また、上陸の条件を知ることもホタルの生息環境保全に大いに役立つ。これまで、休日や天候とのタイミングから東京都内のゲンジボタル生息地において幼虫の上陸を観察することができなかったが、今年は観察により知見を深め、証拠となる記録写真も撮影することができた。暗い河川の水際から上がった途端に発光する幼虫たち。その光景は、まさに「地上の星」であった。
 以下には、同じ河川における上陸光景2カ所の写真3枚と過去に別の場所で撮影した上陸幼虫の写真1枚を掲載した。上陸光景の写真には、それぞれ発光しながら岩の上や地上を這う幼虫の様子が光跡となって写っている。1枚目は、上陸後、かなり時間が経過してから撮影を開始したので、光跡が途切れ途切れになってしまっているが、早瀬の中の岩を乗り越える様子が写っていたので掲載することにした。3枚目の写真で、岩壁の途中から光跡が写っているのは、水際から上陸した幼虫ではなく、前日に上陸したものの潜土場所までたどり着けなかった居残り幼虫の光跡である。

 「これまでできなかった事をやり抜く」と、自分に誓って早3か月。このゲンジボタルの幼虫上陸の観察もその1つである。まだ、次回降雨日には、東京都内の渓流源流部において上陸の観察を行いたいと思うが、今回、5回にわたり同行下さった竹本氏に心から御礼申し上げたい。

関連ブログ記事:ホタルの蛹と羽化

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ゲンジボタルの幼虫上陸の写真
ゲンジボタルの幼虫上陸(光跡)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.8 30秒 ISO 640 ×約2時間相当の多重(撮影地:東京都 2024.05.1 20:18~22:05)
ゲンジボタルの幼虫上陸の写真
ゲンジボタルの幼虫上陸(光跡)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F4.0 30秒 ISO 2500 ×約3時間相当の多重(撮影地:東京都 2024.05.13 19:31~22:18)
ゲンジボタルの幼虫上陸の写真
ゲンジボタルの幼虫上陸(光跡)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 1600 ×約3時間相当の多重(撮影地:東京都 2024.05.8 18:54~22:21)
ゲンジボタルの幼虫上陸の写真
発光しながら上陸するゲンジボタルの幼虫(腹部第8節の左右両側に発光器がある)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 16秒 ISO 400(撮影地:千葉県 2011.4.09 20:24)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.


白川湖の水没林

2024-05-12 15:45:19 | 風景写真/湖沼

 白川湖の水没林を撮影してきた。自然風景写真は4月に桜を撮って以来だが、随分と久しぶりのような気がする。

 白川湖は、山形県西置賜郡飯豊(いいで)町にある。最上川の治水、周辺のための水のコントロール、水力発電などに利用される「白川ダム」によって造られた人造湖である。白川湖に春先の雪解け水が大量に流れ込んで満水になると岸辺が水没し、生えているヤナギなどの木々が水の中から生えているかのような光景が見られる。いわゆる水没林である。飯豊町は、木々が芽吹く前の残雪がある3月下旬~4月中旬を「白の水没林」、新緑の季節を「緑の水没林」と命名し、パンフレットやWeb等でPRに力を入れている。この光景は、5月下旬になると田植えのためにダムの水が放水されて水位が下がり、林に戻ってしまうので、全体でおよそ2か月間限定である。
 似たような光景は、以前に群馬県の奥四万湖で撮影したことがあり、当ブログに「奥四万湖/浮島」として掲載している。水没林(浮島)は奥四万湖外周道路の奥まで行かないと見られないが、3月下旬までは冬期通行止めであるから、注意が必要だ。こちらも放水までの期間限定の光景で、青く透明な湖「四万ブルー」とともに美しいが、岸辺からではなく、外周道路から湖を見下ろさなければならず、また場所もごく限られた位置からしか見ることができない。
 白川湖の水没林は、Instagramを中心としたSNSでの拡散とメディアでの取り上げなどにより、ここ5~6年で急激に注目を浴びるようになった。私も数年前から知っており、いつかは訪れてみたい場所の1つであったが、自宅からおよそ430kmあり期間限定ということで、なかなか条件が合わずにいた。私が求めた条件とは、降雨の翌日で深夜から快晴で朝は無風であること。水没林に「朝霧と水鏡と朝の光」を加えてこそ、幻想的な光景になるからである。これまでなら、仕事が休みのGW期間中にしか行けず、その間にすべての条件が合致することは極めて稀であり、しかも大渋滞と大混雑を覚悟しなければならなかっただろうが、今年はじっくりとGWを避けた平日にその機会を待った。
 そのチャンスは、天気予報では5月10日の朝に訪れそうであった。しかし、前々日になっても遠征には迷いがあった。400kmを超える遠征は、それなりに気合が必要で出費も多い。天気の急変があれば、時間もお金も無駄になる。しかも、後日に掲載するが、連日ゲンジボタルの幼虫上陸の観察と撮影で帰宅が深夜になっており、疲れもあった。しかし、9日の朝になり天気予報をチェックすると、10日の朝は条件が合致する。気合を入れて行くしかない。自宅を正午に出発し、前記事に投稿したように、まずは福島の浄土平で天の川を撮影し、白川湖の駐車場には10日午前2時半過ぎに到着。気温は浄土平と同じ2℃であったが、風がないので寒さは感じない。いくつもあある駐車場には、平日にも関わらず多くの車が停まっている。日の出は4時35分。3時半を過ぎると懐中電灯なしでも歩けるほどの明るさになったので、早速、湖畔へと向かった。
 初めての場所で、ロケハンもなし。「水没林のシンボルツリー 一本柳の撮影スポット」という案内板に従って三脚を設置。薄っすらと見えるが、暗くて、まだピント合わせはできない。続々とカメラマンが集まってくる。全部で50~60人ほどであるが、湖岸は広く、有料のオートキャンプ場内でなければ、どこからでも自由に撮影ができるので、各々散らばって好きな場所でカメラを構えている。時間とともに水没林の全容が明らかになってくると、期待通りの「朝霧と水鏡」の光景が広がっていた。

 白川湖の水没林の光景をどう撮れば良いのか・・・昆虫写真は「記録」という意味合いが強く、被写体の形や色を細部まで正確に分かりやすく撮ること、生態の一瞬では高度な撮影技術も必要だ。一方、自然風景写真は、単なる「記録」ではなく自然芸術の実写であり、自然と対峙し感動を表現したものだ。高度な撮影技術よりも、直感的に美しいと思わせる黄金比を心で捉えるアート的思考や豊かな感性が必要だ。
 その意味では、私の写真は、ただ撮っただけの記録的風景写真ばかりで、この目前の白川湖の水没林の芸術から感じた感動を伝えられていない。これまでの経験では、現場には最低でも3回以上通わないとダメである。霧氷も期待できるだあろう「白の水没林」も含めて、また、いつか訪れてみたいと思う。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。また動画も 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

白川湖の水没林の写真
白川湖の水没林
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.0 30秒 ISO 1000(撮影地:山形県飯豊町 2024.05.10 3:52)
白川湖の水没林の写真
白川湖の水没林
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 8秒 ISO 100 -2/3EV(撮影地:山形県飯豊町 2024.05.10 4:07)
白川湖の水没林の写真
白川湖の水没林
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 3.2秒 ISO 100(撮影地:山形県飯豊町 2024.05.10 4:13)
白川湖の水没林の写真
白川湖の水没林
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 52秒 ISO 100 +1EV(撮影地:山形県飯豊町 2024.05.10 4:23)
白川湖の水没林の写真
白川湖の水没林
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/20秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:山形県飯豊町 2024.05.10 5:25)
白川湖の水没林の写真
白川湖の水没林
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 0.6秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:山形県飯豊町 2024.05.10 4:37)
白川湖の水没林の写真
白川湖の水没林
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F13 2秒 ISO 100 +1/3EV(撮影地:山形県飯豊町 2024.05.10 4:47)
白川湖の水没林
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.


浄土平で天の川撮影

2024-05-11 16:53:49 | 風景写真/星

 浄土平で天の川を撮影してみたのだが、気温2℃で物凄い強風。耐えきれず、わずか数分で撤退したため、良い結果は得られなかった。

 GW期間中の渋滞と混雑を避けるため、GW後の平日において、天気の良い日を待って東北に出掛けてきた。一番の目的は、次の投稿記事で紹介したいと思うが、折角、東北に行くのだからと、目的地に向かう途中で天の川が撮れる良い場所はないかと探し、浄土平から撮ってみることにした。浄土平は、福島県福島市にある全長約29kmの磐梯吾妻スカイラインの中間あたりに位置する標高1600mの高山地帯で、磐梯朝日国立公園の特別保護地区にも指定されており、高山植物や野鳥、星空観察にも最適だと言われている。ちなみに磐梯吾妻スカイラインは、4月23日に冬期通行止めが解除されたが、5月7日までは、17時から翌朝8時までは夜間通行止めであり、勿論、調べた上での遠征である。
 浄土平で天の川を撮影するならば、タイムラプス動画や天の川アーチ撮影のために午前3時頃まで撮りたいところだが、主目的の場所に午前3時までに到着したいことから、タイムリミットは午前0時半。天の川も斜めで、あまり絵にならないが仕方がない。

 5月9日の正午に自宅を出発し、東北自動車道をひた走る。那須高原SAで小休止し、安達太良SAで食事。「あだたらチャーシューメン煮卵入り チャーハンセット 1570円」を頂く。その後、福島西ICで降りて磐梯吾妻スカイラインへ向かう。30数年前、新婚時代に家内と二人で訪れたことがあったが、どんな風景かは忘れていた。改めて走ると、硫化水素のニオイが漂う火山路に少々恐怖を感じた。2019年には、火山ガス濃度が基準値を超えたとして、通行止めになったこともある。浄土平の手前1km付近には、「火山性ガス発生の為、駐停車禁止」という立て看板があちこちにある。
 17時に浄土平の駐車場に到着。こちらは、硫化水素のニオイは全くない。GW後の平日。広い駐車場に車は5台。目の前の吾妻小富士や湿原を散策したりしていたが、日暮れと共に誰もいなくなった。こちらも、湿原を歩いてロケハン完了。天の川が昇り始める23時まで車内で待機である。
 車窓から、肉眼で天の川が確認できるようになった23時半過ぎに準備を開始したが、気温は2℃。セーターにフリース、ウィンドブレーカーを着たが、物凄い強風。カメラをセットしたが、指がかじかんで設定の変更もままならない。それに、三脚をしっかりと抑え込まないと、風でぶれてしまう。何とか数枚撮ったが、寒さに耐えきれず午前0時で撤退することにした。
 写した結果は1枚目の写真である。湿原に伸びる木道とともに写したが、天の川が立つ午前3時頃ならば絵になっただろう。また、上空は暗いが、南方向は郡山市の街明かりの影響を受けていたのが残念であった。

 場所を移動して、今回の主目的の場所に午前2時半過ぎに到着。辺りを見渡すと、天の川がくっきりと目視できた。垂直近くまで立ち上がっていたが、光害がまったくなく、浄土平よりも条件は良い。ただし、星景写真として「絵」にはならず、単に天の川を写すだけになってしまうのが惜しい。そう思いながら撮っていると、霧が出てきて、こちらも数枚で終了。
 天の川を美しく撮ろうとするならば、F値の明るい単焦点の広角レンズで、赤道儀を使って追尾撮影し、後にPCで地上の風景と合成することが必要だ。私が所持する広角ズームレンズで追尾なしの一発露光では、これが限界。星景写真を専門に撮っておられる方々の足元にも及ばないものに悔しさを感じながら、また、場所を変えて挑戦したいと思う。

以下の掲載写真は、横位置は1920×1280ピクセルで、縦位置は683×1024ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

天の川(浄土平)の写真
天の川(浄土平)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 1600(撮影地:福島県福島市 2014.05.09 23:52)
天の川の写真
天の川(白川湖より)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 3200(撮影地:山形県飯豊町 2014.05.10 2:49)
天の川の写真
天の川(白川湖より)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 3200(撮影地:山形県飯豊町 2014.05.10 2:44)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.


ムカシトンボ

2024-05-06 17:41:59 | トンボ/ムカシトンボ科

 ムカシトンボ Epiophlebia superstes (Selys, 1889)は、トンボ目(Odonata)均翅不均翅亜目(Anisozygoptera) ムカシトンボ科(Family Epiophlebiidae)ムカシトンボ属(Genus Epiophlebia)に分類されるトンボである。
 トンボは、系統上から大きく3つのグループに分類されている。1つは、イトトンボやカワトンボ等の4枚の翅の形がほぼ同じ均翅亜目で、2つ目は、アキアカネやヤンマ等の前後の翅の形が異なる不均翅亜目、そして3つ目が、ムカシトンボの均翅不均翅亜目である。ムカシトンボは、均翅亜目でも不均翅亜目でもなく両方の特徴を持っていて、2つの亜目のつながりを示している。同じ特徴をもつ化石が1億5千万年前~2億年のジュラ紀や三畳紀の地層から出土することから、本種は「生きた化石」と呼ばれ、ムカシトンボという名前がついている。
 ムカシトンボは、日本固有種で北海道、本州(千葉県以外)、四国、九州に分布しているが、日本以外ではヒマラヤ山脈周辺に(Epiophlebia laidlawi Tillyard,1921)が、中国黒竜江省には(Epiophlebia sinensis Li&Nel,2012)、四川省西部の山岳地帯には(Epiophlebia diana sp.n.)が分布するのみで、他の国や地域には分布しておらず、トンボ目の中でもたいへん特異なグループである。
 これまで、分布が知られる全ての地域のムカシトンボは、上記のようにムカシトンボ属の別種扱いであったが、最新の遺伝子研究の結果では、遺伝的差異はほとんど見られなかったという。この程度の遺伝的差異は、他のトンボの近縁種間の変異よりも明らかに小さく、むしろ同一種内の地域的な差異と同等程度と確認されたという。
 この遺伝的差異の小ささは、約2万年前にピークを迎えた最終氷期には、ムカシトンボは南アジアから東アジア地域にかけて広く分布しており、氷期が終わり地球が温暖になるのに伴い、熱帯や温帯の多くの地域で絶滅し、日本の山地や中国、ヒマラヤ山地といった寒冷な地域に隔離され、現在の分布が形成されたと言える。

 ムカシトンボは体長は5cmほどで、水温15℃以下の山間部の源流域に生息している。幼虫の期間は6~7年とも言われ、羽化前の1ヶ月ほどは、渓流の中ではなく、川岸の湿った落ち葉の下で過ごすというたいへん希な生態の持ち主で、成虫は、草木に止まる時は、翅を閉じるのが特徴でもある。
 若い個体は、晴れで気温も高いと、午前8時前からカゲロウ等の虫を捕食するため、川上10mくらいの高さを高速で飛びまわり、捕らえると杉の高い梢に止まって食べるという行動を繰り返す。その後、成熟したオスは川面に降りてきて、本流に流れ込む細流に移動し、メスが産卵に訪れそうな場所を水面から30cmくらいの所で時折り短いホバリングを行いながら忙しなく上流へと飛ぶ。曇っていたり湿度の高い日は、川面には降りてはこない。
 成熟度が進んだオスは、およそ15分間隔くらいで、同じ場所に現れる。また、数頭のオスが遭遇しても、どちらかが追い払うこともない。メスは、下流からゆっくりと上流に移動しながら産卵に適した植物(茎の柔らかいフキやゼニゴケ等)があると産卵する。産卵に集中すると、至近距離で撮影しても、まったく動じない。メスは、オスが頻繁に飛来しない、午前中早い時間や夕方近く、または曇りの日の方が、落ち着いて産卵するようである。

 ムカシトンボは、環境省版レッドリストに記載はないが、都道府県版レッドリストでは、山梨県と宮崎県、熊本県で絶滅危惧Ⅱ類 に、その他14の府県で準絶滅危惧として記載している。水温の低い山地の渓流でしか生息できないことから、河川の改修やダム建設、伐採や道路建設などに伴う土砂流入などが減少の原因となっている。
 東京都においては、多摩川水系、秋川水系、浅川水系の各支流源流域に生息しているが、2019年10月12日の過去最強クラスの台風19号により記録的な大雨が降り、大規模な河川氾濫や土砂災害に見舞われた。東京の西多摩地域では、他の月の、月間降水量より多い384.5mmが、たった1日で降ったことで、山地の渓流は人よりも大きな岩が流れ、崩落も起き、翌年からムカシトンボの発生が激減している場所が多い。また、それだけでなく、ハイキング、キャンプ、乱獲などの影響もある。ムカシトンボは幼虫期が長いので、自然環境が長期間安定していなければ生息できない。エコ・ツーリズムとは何かということを考えて頂きたいと思う。

 ムカシトンボの東京都内における生息状況は2009年から観察しており、以下には2017年までに撮影した幼虫、羽化、飛翔、産卵の写真(初掲載のものを含む)を選別して掲載した。本年2024年に、これら写真を撮影した生息地で調査したところ、僅か数頭のみの確認であった。再び良好な生息状況になることを祈りながら、5月中頃に産卵が見られるかどうか、再度確認をしておきたい。

参照

参考文献

  1. The thorax morphology of Epiophlebia (Insecta: Odonata) nymphs - including remarks on ontogenesis and evolution
    Sebastian Busse1 , Benjamin Helmker2 & Thomas Hornschemeyer Scientific Reports 5, Article number: 12835 (2015)
  2. A new Epiophlebia (Odonata: Epiophlebioidea) from China with a review of epiophlebian taxonomy,life history, and biogeography
    Frank Louis Carle Arthropod Systematics & Phylogeny 70(2) 75-83
  3. Phylogeographic analysis elucidates the influence of the ice ages on the disjunct distribution of relict dragonflies in Asia,Public Library of Science

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ムカシトンボ(幼虫)の写真
ムカシトンボ(幼虫)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/40秒 ISO 3200(撮影地:東京都 2011.02.26 11:39)
ムカシトンボ(上陸幼虫)の写真
ムカシトンボ(上陸幼虫)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/60秒 ISO 400 -1/3EV(撮影地:東京都 2017.04.02 10:34)
ムカシトンボ(羽化)の写真
ムカシトンボ(羽化)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 3200 -2/3EV(撮影地:東京都 2017.04.16 9:27)
ムカシトンボ(羽化)の写真
ムカシトンボ(羽化)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/200秒 ISO 3200 -2/3EV(撮影地:東京都 2017.04.16 9:35)
ムカシトンボ(羽化)の写真
ムカシトンボ(羽化)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/320秒 ISO 200 -1/3EV(撮影地:東京都 2017.04.16 10:42)
ムカシトンボ(羽化)の写真
ムカシトンボ(羽化)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F3.5 1/400秒 ISO 200(撮影地:東京都 2017.04.23 10:06)
ムカシトンボ(羽化)の写真
ムカシトンボ(羽化)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F10 1/250秒 ISO 640 +1EV(撮影地:東京都 2017.04.23 11:15)
ムカシトンボ(飛翔)の写真
ムカシトンボ(飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F4.0 1/500秒 ISO 200(撮影地:東京都 2014.05.11 11:46)
ムカシトンボ(飛翔)の写真
ムカシトンボ(飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F4.0 1/500秒 ISO 1000(撮影地:東京都 2014.05.11 11:46)
ムカシトンボ(飛翔)の写真
ムカシトンボ(飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F4.0 1/500秒 ISO 3200(撮影地:東京都 2014.05.11 12:14)
ムカシトンボ(飛翔)の写真
ムカシトンボ(飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F4.0 1/500秒 ISO 400(撮影地:東京都 2014.05.17 9:47)
ムカシトンボ(飛翔)の写真
ムカシトンボ(飛翔)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.0 1/500秒 ISO 1600(撮影地:東京都 2014.05.17 9:47)
ムカシトンボ(産卵)の写真
ムカシトンボ(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/125秒 ISO 1000(撮影地:東京都 2014.05.17 10:24)
ムカシトンボ(産卵)の写真
ムカシトンボ(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/50秒 ISO 3200(撮影地:東京都 2014.05.17 10:21)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.


ホソミイトトンボ

2024-05-01 10:59:25 | トンボ/イトトンボ科

 ホソミイトトンボについては、これまでに本ブログにて産卵や越冬に関して写真も併せて載せており、今回、新たな知見はないが、前記事の「ホソミオツネントンボ」の産卵を観察し記録した水田にて、本種の産卵の様子を写真撮影し、動画にも収めたので、改めて掲載したいと思う。

 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum(Selys, 1876)は、イトトンボ科(Family Coenagrionidae)ホソミイトトンボ属(Genus Aciagrion)で、もともと千葉県南部、静岡以西の本州、四国、九州が主な分布域の南方系のイトトンボであったが、年々北上し、東京都、埼玉県では普通に見られるようになっており、新潟県や石川県、福島県、栃木県、茨城県、長野県でも単発的な記録がある。近くに雑木林がある平地や丘陵地の挺水植物が繁茂している湿地や滞水・水田などに生息しているが、局所的である。
 ホソミイトトンボは、すでに記載したホソミオツネントンボ、オツネントンボとともに成虫で越冬するトンボであるが、日本産のトンボで唯一、夏型と越冬型の2つの季節型が存在する。夏型は6月頃から見られ、9月頃には姿を消し、代わりに越冬型が盛夏頃から現れ、そのまま成虫で冬を越すが、通常の年2化ではないと言われている。夏型が産卵にしたものは、すべて越冬型として羽化するが、越冬型が産卵したものは、一部は夏型として初夏に羽化し、一部は越冬型として盛夏から秋にかけて羽化をするというのである。つまり越冬型には、春に前年に羽化した越冬型が産卵した個体群と、夏に夏型が産卵した個体群が混在しているのである。
 夏型は、体長28~34mmでやや緑がかった淡青色の体色で、越冬型は、体長が33~37mmと夏世代よりも大きく、羽化後は淡青色の体色だが、11月を過ぎ、植物が枯れ始めると茶色に変化する。越冬後は、徐々に体色が青色になっていき、繁殖時期である5月になると、濃い青色へと変化するという特徴がある。
 ホソミイトトンボは、環境省版レッドリストに記載はないが、都道府県版レッドリストでは、千葉県、石川県で絶滅危惧Ⅰ類に、長野県で絶滅危惧Ⅱ類として記載している。

 訪れた里山は、ホソミイトトンボの多産地であり、いくつもある棚田それぞれに30頭以上が飛び交っている。その様子は、前回訪れた2016年と変わらない。朝から23℃もあり、日当たりの良い水田では、午前7時から多数のオスが飛び交っており、9時頃から交尾態が見られ、9時半頃には次々とペアが産卵する様子が見られた。
 産卵は、連結したまま水面付近の植物組織内に行う(連結植物組織内産卵)で、しばしば潜水産卵やメスの単独産卵も見られるが、興味深いのは、グループ産卵である。水田には、多くの産卵に適した枯れた植物が浮いているが、あるペアが産卵をしていると、そこに複数のペアが集まってくるのである。観察していると、単なる偶然ではなく、先に産卵しているペアの誘引効果であると思われるが、詳しいことは分からない。また、産卵中のペアに単独のオスが近寄ってくると、翅を少し開いて威嚇のような行動をするのも面白い。

 子供の頃の愛読書 石田昇三 著「カラー 日本のトンボ」(昭和48年7月 山と渓谷社)には、100種類のトンボの飛翔写真や交尾、産卵の写真の他、幼虫や羽化の写真と解説も書かれており、今でも本棚に置いているが、本書の中に「トンボ撮影ノート」というページがある。そこには「胴長(ウェーダー)を履いて水中に入ったり、座り込むとシャッターチャンスが生まれる」と書かれている。確かにそう思う。水田や池、湿地において、産卵や羽化などの生態写真を撮ろうと思ったら、水面ぎりぎりにカメラを構えて写すことも必要で、必須アイテムであるウェーダーを履かなければ構図の良い写真は撮れない。
 以下に掲載した写真を見ればお分かりのように、写真はほとんどが斜め上からの構図で、しかも望遠マクロで撮っているため、決して良いトンボ写真ではない。これは、ウェーダーを履かず、手振れ防止機能もないカメラとレンズのため、水田の畔に三脚を立てて撮っているからに他ならない。水田は、棚田を守る会によって管理されており、会員の方とお話をして撮影をしたが、田植え前とは言え、さすがにウェーダーを履いて座り込むのは倫理的に問題がある。良い写真が撮れれば何をしても良い訳ではないが、出来ることなら良い写真を残したいと思うので、それが許される場所において、環境を荒らすことなく必要と感じたならば、ウェーダーを着用したいと思う。

 最後に、訪れた里山の近隣は、かつてゴルフ場計画破綻で町が差し押さえた土地が、公売により太陽光発電事業者の物となっていた。しかしながら、太陽光発電が環境アセス対象になった2020年以降、開発により大雨時に大量の土砂が流れ込む危険性があることから、環境相が計画見直しを求める意見を出し、県も「環境への重大な影響が払拭されない場合は中止も含めた事業計画の見直しも検討しなければならない」とする知事意見を経産省に提出していた。その結果、経産省が大量の認定失効に踏み切り、事業化困難な状態であると言う。このまま計画が中止され里山が保全されることを切に願う。

関連ブログ記事:ホソミオツネントンボオツネントンボ

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。また動画も 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ホソミイトトンボの写真
ホソミイトトンボ(越冬型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/2560秒 ISO 500 +1EV(撮影地:神奈川県 2013.05.06 10:04)
ホソミイトトンボの写真
ホソミイトトンボ(夏型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F9.0 1/320秒 ISO 640 +2/3EV(撮影地:神奈川県 2016.07.24 13:06)
ホソミイトトンボの写真
ホソミイトトンボ(越冬態)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 320 -1 1/3EV(撮影地:神奈川県 2017.01.22 10:40)
ホソミイトトンボの写真
ホソミイトトンボ(交尾)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 400 +1EV(撮影地:神奈川県 2013.05.06 9:53)
ホソミイトトンボの写真
ホソミイトトンボ(ペアの飛翔)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / マニュアル露出 F4.9 1/2500秒 ISO 800(撮影地:埼玉県 2024.04.28 8:59)
ホソミイトトンボの写真
ホソミイトトンボ(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 200(撮影地:埼玉県 2018.05.05 10:27)
ホソミイトトンボの写真
ホソミイトトンボ(グループ産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F9.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:埼玉県 2016.05.05 10:33)
ホソミイトトンボの写真
ホソミイトトンボ(グループ産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F11 1/250秒 ISO 400(撮影地:埼玉県 2016.05.05 10:34)
ホソミイトトンボの写真
ホソミイトトンボ(グループ産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F11 1/320秒 ISO 400(撮影地:埼玉県 2016.05.05 10:34)
ホソミイトトンボの写真
ホソミイトトンボ(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/800秒 ISO 800 +2/3EV(撮影地:埼玉県 2024.04.28 9:39)
ホソミイトトンボの写真
ホソミイトトンボ(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/640秒 ISO 800 +2/3EV(撮影地:埼玉県 2024.04.28 9:41)
ホソミイトトンボの産卵
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.