オオマドボタル Pyrocoelia discicollis Kiesenwetter,1874は、ホタル科(Family Lampyridae)マドボタル属(Genus Pyrocoelia)で、一生を陸地で過ごす陸生ホタルである。成虫は時折しか発光せず、メスが発するフェロモンを感知して交尾が行われる。山地から丘陵地の二次林内、竹林、林道脇などに生息している。
マドボタル属は、前胸部に1対の透き通った窓があるのが大きな特徴で、日本国内には9種1亜種が生息しており、本州・四国・九州には2種、オオマドボタルとクロマドボタルが生息している。両種の生息環境や生態、幼虫の形態は酷似しているが、オス成虫ではオオマドボタルは前胸部に赤斑があり、クロマドボタルは赤斑が無く黒色である。
両種は分布域が異なっており、これまでオオマドボタルは近畿地方以西、クロマドボタルは近畿地方以東に生息すると言われていたが、最近の調査では、オオマドボタルは南限が九州鹿児島県で、北限が宮城県。ただし東日本には少ない。一方、クロマドボタルは、北限が青森県で南限は九州の熊本県。ただし、中部・北陸・東海以西には少ない事が分かっている。また、両種の境界地域となっている近畿地方には、前胸部の赤斑について様々な変異を持った個体が見られるのも興味深い。
両種は、交尾器の形状やコミュニケーション・システムなどにも大きな違いが認められないので同一種と考えられることもあるが、日本ホタルの会 副会長の鈴木浩文 氏に聞いたところ、両種のミトコンドリアCOⅡ遺伝子を分析し系統樹を作成すると、東北~近畿、近畿、近畿~九州という3つのグループ分けられ、東北から近畿のグループがクロマドボタルに対応するかもしれないが、まだ何とも言えない状況であるという。ただし、東北~近畿のグループと近畿~九州のグループには、ゲンジボタルの東西型以上の違いがあるとの結果が得られている。
オオマドボタルは、環境省RDBや地方自治体のRDBにも記載がなく珍しい種ではないが、関東地方で撮影するのは困難なため、これまで関西方面に遠征に行くたびに探していたが、見つけることが出来ていなかった。先月に訪問した高知県においても探索を試みたが、発生時期が早かったこともあり、1頭も見られなかった。今回、高知県ホタルネットワークの石川憲一 氏のご厚意により、採集した個体を1頭郵送いただき、自宅にて撮影することができた。ゆえに本写真は、生態写真ではなく図鑑写真としての撮影である。この場を借りて、生体を提供して下さった石川憲一 氏に対し御礼申し上げたい。
オオマドボタル(このオスの場合)は体長が15mmあり、クロマドボタル(オス)の体長10mm~12mmより大きい。今後は標本とし、研究のために保存したいと思う。以下には、比較のためにクロマドボタルの写真も掲載した。いずれもオスである。メスは、下記参照ページ「クロマドボタル」をご覧頂きたい
参照:クロマドボタル
参照:高知県ホタルネットワーク
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オオマドボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.5 1/125秒 ISO 2000 -1/3EV(高知県土佐市産 2020.6.13)
オオマドボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.5 1/160秒 ISO 2000 -1/3EV(高知県土佐市産 2020.6.13)
オオマドボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.5 1/125秒 ISO 3200 -1/3EV(高知県土佐市産 2020.6.13)
オオマドボタル(腹部背面に見える発光器)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.5 1/160秒 ISO 2000 -1/3EV(高知県土佐市産 2020.6.13)
オオマドボタル(腹部背面に見える発光器)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.5 1/160秒 ISO 2500 -1/3EV(高知県土佐市産 2020.6.13)
オオマドボタル(腹部の発光器)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.5 1/160秒 ISO 2500 -1/3EV(高知県土佐市産 2020.6.13)
クロマドボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/125秒 ISO 500(撮影地:静岡県富士宮市 2010.7.03)
クロマドボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/160秒 ISO 640(撮影地:静岡県富士宮市 2010.7.03)
クロマドボタル(前胸部の窓がはっきりしていない個体)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/125秒 ISO 800(撮影地:山梨県北杜市 2010.7.08)
クロマドボタル(前胸部の窓がはっきりしていない個体)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO 1000(撮影地:山梨県北杜市 2010.7.08)
クロマドボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/125秒 ISO 400(撮影地:静岡県富士宮市 2010.7.03)
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