ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

岐阜県郡上市の和良蛍

2024-06-20 12:13:44 | ゲンジボタル

 岐阜県郡上市の和良蛍を、今年も観察し、写真と動画を撮影してきた。和良町は、和良川や鬼谷川などに国の特別天然記念物に指定されているオオサンショウウオが生息していることで有名だが、ゲンジボタルも見ることができる。地元では和良蛍と呼んでおり、おそらく本州一の発生数であろう。
 鬼谷川の東野地区では、およそ1kmにわたって1,000頭以上のゲンジボタルが乱舞し、2つの違った景観を見ることができる。1つは、ファブリダムによって流れが穏やかになる場所では、平面的ではあるが対岸で乱舞するゲンジボタルの光が水面に映り、光の数が2倍になって見える。一方、川の蛇行を正面から見る下流の場所では、ゲンジボタルの舞いが立体的に見えるのである。どちらも西日本型ゲンジボタル特有の2秒間隔の発光で、一斉に集団同期明滅する様は圧巻である。

 和良町には一昨年と昨年の6月に成虫の飛翔写真と動画を撮影(参照:郡上和良のホタル)、昨年の12月はホタル勉強会の講師として招かれ、今年の4月には幼虫の上陸観察で訪れている。私がこの場所に惹かれた理由は、まったくの自然発生地で乱舞を見ることができるということもそうだが、毎年多くのゲンジボタルが発生する理由が知りたいのである。興味深いことに、幼虫のエサとなるカワニナが非常に少ない。おそらく数十億匹いるだろう幼虫の成長を支えるだけのカワニナがいないのである。富山県ではミミズを食べている様子が観察されているので、カワニナ以外のものを食べている可能性は高いが、それが何かは分かっていない。また、発光飛翔の時間が長いことも挙げられる。午前0時近くまでオスが飛びまわっているのである。こうした素晴らしい場所を、今後も保全したく地元の「守る会」の皆さんに微力ながら協力もしたいとの思いもあり通っている。
 先に記したが、4月には幼虫の上陸観察で訪れている。上陸場所を保全するためには、どこに上陸し潜土するのか確かめなければならない。西日本型であるから、数百という幼虫が集団で上陸することを期待し、上陸条件が合致する日に行ってみたが、何と観察できたのはわずか2頭。もしかしたら今年の発生は極端に少ないのではないかという懸念があったが、成虫の発生は、現地の「守る会」の観察結果を頻繁にお知らせ頂いており、昨年に比べて発生初日が数日早く5月30日に7頭が飛び始め、6月5日では100頭を超え、順調に数が増えているとのこと。実際に6月10日と17日、いずれも月曜日に訪れてみると、いったい、いつどこにこれだけの幼虫が上陸したのだろう!?と不思議に思える程の成虫が発生していた。
 まず6月10日はファブリダム付近で観察を行った。気温21度でくもり。17時半頃から待機したが、残念なことに護岸より上の乱舞する場所の草が綺麗に刈られてしまっていた。自治会が行ったそうだが、これではメスの居場所がない。19時40分から発光が始まり、20時を超えた頃には約200頭が発光飛翔したが、昨年よりも数が少なく、21時を待たずに終息傾向になってしまった。その後下流に移動すると、そちらは両岸と中洲に草が茂っていて、多くの数が発光飛翔しており、21時半になっても減ることはなかった。
 翌週の17日は、15時から産卵しそうな場所など周囲の環境を見て回り、17時から下流の場所で待機した。天気予報では21時から雨であったが、18時ころからぽつぽつと降り始め、19時には本降りの雨となってしまったが、ゲンジボタルは、19時半から発光を始めた。気温は18度で肌寒いが、発光数は少しずつ増え、20時頃には見渡せる範囲だけで500頭を超えるゲンジボタルの乱舞が見られた。晴れていれば、月齢10.6の半月よりも大きな月明かりが、南の空40度の高さに輝くので、ここまで乱舞することはなかったであろう。飛翔中に雨粒に打たれて落下する個体もいたが、本降りの雨でも何ら変わらず飛び回るオスたちの行動には、子孫を残したいと言う本能が強く感じられた。

 以下には、写真5枚と動画を掲載した。動画は、3年間で撮影した記録を編集した。岐阜県郡上市の和良蛍の魅力が伝わるものになっていると思う。
 写真1~3枚目は、17日に下流付近撮影したもので、時系列的に発光飛翔が増えている様子を表している。4枚目は10日にファブリダム付近で撮ったもの、そして5枚目は、国道256号線および県道329号線を通る車のライトが生息域をなめるように照らしている様子を写したものである。
 車は、地元の方々の生活の為であるから仕方のないことだが、平日で20時から21時で20台ほどが通過する。川面よりかなり高い位置を照らすことと、四六時中ではないことが救いであるが、週末ではホタル観賞に来られた車が加わるから大変な光害となることが想像できる。写真から、平日であってもどれだけ酷い光害であるかは分かっていただけるだろう。光が当たるたびに発光をやめてしまう。
 ゲンジボタルの発光飛翔の時間帯は、概ね21時を過ぎると一旦終息するが、この和良蛍は、23時を過ぎてもオスが活発に飛翔している。深夜になるほど車の通行量が減ることとも関係しているのかもしれない。例を挙げれば、都内のあるホテルの庭園にいるヘイケボタルは、客室の灯りが消える23時頃から発光を始める。和良町において、4月に2頭しか確認できなかった幼虫の上陸も、深夜に行われているのかもしれない。

 これまでの観察結果を踏まえて、岐阜県郡上市の和良蛍を守る上での重要な課題をいくつか挙げてみた。

  • 産卵場所の調査
  • 幼虫の食べ物調査(カワニナが他地域に比べて極端に少ない)
  • 幼虫の上陸場所の調査(どこに潜土するのか、上陸時間と光害の関係)
  • 草刈の時期の検討
  • 光害対策(車のライト及び観賞者の懐中電灯)

 近年では、日本各地において台風及び線状降水帯による大雨と洪水によって、ゲンジボタルの生息地も大きな被害を受けている中、岐阜県郡上市の和良蛍は、ここ数年、毎年コンスタントに数千頭が乱舞している。環境や生態系が豊かなだけではなく、地形や川の形状等の物理的特性やゲンジボタルの生態の地域特性もあろう。登録云々に関わらず、ここは「自然遺産」であり「天然記念物」であると思う。上記の事柄を調査し対策を立て、この貴重な場所を今後とも存続させなけれならない。私も、協力は惜しまない。

以下の掲載写真は、横位置は1920×1280ピクセルで、縦位置は683×1024ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画は 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂き、暗い部屋でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

岐阜県郡上市和良町のゲンジボタルの写真
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 10秒 ISO 400 2分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.17)
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタルの写真
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 1000 1分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.17)
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタルの写真
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 1600 7分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.17)
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタルの写真
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 20秒 ISO 400 6分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.10)
ゲンジボタル生息地における光害写真
ゲンジボタル生息地における光害
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 1600(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.17 20:09)
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂き、暗い部屋で フルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.


オオミドリシジミ

2024-06-15 13:42:54 | チョウ/ゼフィルス

 オオミドリシジミ Favonius orientalis orientalis (Murray, 1875) は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)ミドリシジミ亜科(Subfamily Theclinae)ミドリシジミ族(Tribe Theclini)オオミドリシジミ属(Favonius Sibatani & Ito, 1942)で、ゼフィルス(Zephyrus)と呼ばれている樹上性のシジミチョウの一種である。当ブログPartⅡにおぴて単独で掲載したことがなかったため、今回、過去の撮影であるが紹介したい。
 本種は、平地~山地の広葉樹林に生息しており、幼虫の食樹は、コナラ、クヌギ、ミズナラなどで、成虫はクリの花などで吸蜜することもある。オスの翅表が青緑に輝く一群であるオオミドリシジミ(Favonius)属の中では、本種が最も淡い青味を帯びているが、構造色であるから光の当たり具合によって変化し、他種に引けを取らない美しさである。
 オオミドリシジミは、環境省版レッドリストに記載はないが、都道府県版レッドリストでは、福岡県、長崎県で絶滅危惧Ⅱ類に、千葉県、三重県、奈良県で絶滅危惧Ⅱ類に、東京都および他7県で準絶滅危惧種として記載している。食樹であるブナ科のコナラ・クヌギなどで形成される雑木林(里山)の減少が影響している。

 ゼフィルスの撮影は、2011年のアカシジミとミズイロオナガシジミが最初であるが、これらは下草に止まっていることが多く、生息地に行けば翅裏だけなら容易に撮る事ができる。その後、少しずつ撮る種を増やそうと思ったが、ゼフィルスは基本的に樹上性のシジミチョウである。翅表が美しい種ほど、頭上より高い木の葉上に止まっており、また種によっては産地が限られ、撮影は簡単ではない。そこで、まずは発生が6月上旬と早く、自宅から遠くない所にある雑木林にてオオミドリシジミを狙うことにしたのである。2013年のことである。
 その雑木林に行くと、個体数は多いが、案の定すべて頭上の遥か上ばかりに止まっている。オスは、葉の上で翅を全開にしてテリトリーを見張る行動をとる。他のオスが近寄ってくれば、飛び出して2頭がクルクルと飛び回り(卍飛翔という)追い払うと、また同じ葉の上に止まって翅を開くが、翅表は下からでは全く見えない。
 後に、早朝に長い竿で木をゆすると下草に降りてくる場合があることを知り、他の種ではそれを行い翅表を写したことはあるが、その写真は図鑑写真ではあっても、生態写真ではない。まずは、種の同定のために翅裏を、そして"葉上で翅を開きテリトリーを見張る仕草"を特徴的な美しい翅表とともに撮って残したい。ある時は、脚立に昇って撮影したこともあるが、様々な生息地で観察を続けていると、目線より下の葉上に止まる場所があったり、あるいは地形上、止まる葉先が見下ろせる場所も発見した。あとは、止まるのを待って撮れば良いのである。撮影がしやすい生息地を見つけること、そして生態、特に行動時間や行動パターンを知ることが、思うような写真を撮るには必要なのだと、その時改めて思った。
 しかしながら、発生時期を見定めて初期に撮影しないと、盛んに卍飛翔するために、すぐに翅が擦れてボロボロになってしまう。美しさを美しく撮るのは簡単ではないチョウである。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

オオミドリシジミの写真
オオミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 2000(撮影地:東京都八王子市 2013.6.09 6:29)
オオミドリシジミの写真
オオミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS PRO300 2X DG / 絞り優先AE F9.0 1/800秒 ISO 2000 -2/3EV(撮影地:東京都八王子市 2015.6.13 7:52)
オオミドリシジミの写真
オオミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS PRO300 2X DG / 絞り優先AE F9.0 1/800秒 ISO 1250 -2/3EV(撮影地:東京都八王子市 2015.6.13 8:12)
オオミドリシジミの写真
オオミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS PRO300 2X DG / 絞り優先AE F9.0 1/1000秒 ISO 1600 -2/3EV(撮影地:東京都八王子市 2015.6.13 8:16)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.


ただ撮っただけのトンボ写真

2024-06-12 15:53:19 | トンボ

 8月末までは、主にこれまで撮ることができなかった自然風景や撮り直しも含めた昆虫写真の撮影でスケジュール表が埋まっており、5月末までは、必ずしも予定通りではなく、また自己満足の範囲ではあるが、それなりの結果は出してきた。スケジュール的には、今月と来月がメインで、ホタルの観察と撮影を中心としてチョウやトンボ等の写真撮影を予定しているが、ホタル以外は、なかなか予定通りには進んでいない。天候と発生のタイミングもそうだが、予定したにも関わらず、間際で取りやめていることが多い。
 撮りたい被写体はほとんどが遠方のため、1度の遠征でいくつもの被写体をセットにすることが多い。今回は、当初、車中泊で大阪にてチョウを撮影し、その夜は岐阜でホタル。そのまま富山まで移動して早朝からチョウ、夜はホタル。徹夜走って帰宅。という計画を立てていたが、実際は、あまりに無謀過ぎる計画で、当日まで迷ったが、単独行動では熊の出没が怖く、撮り直しできる確証もないとの言い訳を自身にして、結局は午前3時に自宅を出発し、愛知でトンボの生息環境視察、岐阜で陸生ホタルの探索とトンボ撮影、夜はゲンジボタルの観察と撮影を済ませ、岐阜を22時に出発し、途中で3時間の仮眠で帰宅するという計画を大幅に縮小したものとなった。それでも、朝帰りした当日は、一日中、睡魔との戦いでRAW現像も進まなかった。
 このような遠征は、数年前までは平気で行っていたが、やはり還暦になると気力と体力が落ちている。特に、徹夜や極端な睡眠不足が続くと、かなり応える。熊に襲われることもなく、安全運転で事故なく帰って来るには、"欲張り過ぎず、無理のない計画"が大切だが、結果が出せなければ悔しい。それに遠方に何度も通うほど資金もないのが辛いところだ。

 今回の遠征での愛知県におけるトンボの生息環境視察は、見ただけで終わり。岐阜で陸生ホタルの探索も発見できず生息地を見ただけで終わり。時間が余ったので予定していなかった場所でのトンボ撮影は、"ただ撮っただけのトンボ写真"である。「この種の図鑑的写真を撮りたい」「この種のこうした生態写真を撮りたい」という目標もなく、細かく観察したわけでもない「そこにいたから写した」だけの写真。昔はそれだけでも楽しかったが、今は虚しさを感じる。例えば、このトンボの図鑑写真を撮るという目的ならば、レンズや撮り方の工夫もしただろう。或いは交尾や産卵のシーンを撮るという目的ならば、その時期や時間帯に訪れただろう。そうではなく撮ったことに感情と目的の欠如を感じ、空しいのである。

    撮影したトンボ種類
  • コヤマトンボ/Macromia amphigena amphigena Selys, 1871
  • グンバイトンボ/Platycnemis sasakii Asahina, 1949
  • ハッチョウトンボ/Nannophya pygmaea Rambur, 1842
  • ヤマサナエ/Asiagomphus melaenops (Selys, 1854)
  • アオサナエ/Nihonogomphus viridis Oguma, 1926

 今回の遠征での主目的は、岐阜県郡上市和良町のゲンジボタルの観察であった。4月に伺った際、幼虫の上陸が少なかったことから、成虫の発生状況を確認することで、写真撮影は二の次。できればもう一度伺い、その結果とともに来週以降に記したいと思う。その遠征計画もかなり欲張りの内容としたが、今度は何とか頑張りたい。

コヤマトンボの写真
コヤマトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 500 -1/3EV(撮影地:岐阜県土岐市 2024.05.10 9:19)

以下のサムネイル写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。サムネイルにカーソルを合わせると種名が表示され、写真をクリックすると別窓で拡大表示されます。

コヤマトンボの写真 グンバイトンボの写真 グンバイトンボの写真 グンバイトンボ(メス)の写真 ハッチョウトンボの写真 ハッチョウトンボの写真 ハッチョウトンボの写真 グンバイトンボとハッチョウトンボの写真 ヤマサナエの写真 ヤマサナエの写真 ヤマサナエの写真 アオサナエの写真
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.


秩父のヒメボタル

2024-06-07 22:23:03 | ヒメボタル
秩父のヒメボタル

 秩父のヒメボタルは、数年後には絶滅するかもしれない。

 秩父のヒメボタル生息地には、2010年から訪れている。当時、秩父にヒメボタルが生息していると言う話を聞き、長年の勘で生息していそうな場所を夜間に一人で探索したところ、農家の庭先で発光している数頭のヒメボタルを見つけた。その付近を歩いて探していると、何も植わっていない単なる草地で無数のヒメボタルが乱舞している所を発見。時刻は、午前1時を過ぎていた。それまでは、東京奥多摩の山奥の杉林でしか見たことがなく、「森のホタル」と言われていたヒメボタルが開けた草地で飛び交う様に驚いたものである。
 その後、毎年訪れては観察と撮影をし、メスの形態、特に前胸部の赤斑が特徴的であることも分かった。(参照:ヒメボタルの生態と生息環境)その頃は、カメラマンは勿論のこと、地元の方々すら誰も見に来ていなかったが、2012年に私が撮影した写真をブログにて「ヒメボタル(秩父2012年)」と題して公開したところ、私の写真をプリントアウトし、それを持って秩父市内で聞き込みを行った方がいた。その方は、自身のホームページで場所の詳細を公開し道順まで記した。いつの間にか、近くの広場にはヒメボタル生息地という看板まで立ち、瞬く間にカメラマンで溢れかえってしまったのである。路上駐車が多く、駐車禁止の看板と共に駐車場まで整備された。
 2016年に訪れた時には、あまりのカメラマンの多さにうんざりし、その後訪れていなかったが、2022年に生息地の様子と発生の状況を確認したくなり、再び訪れてみると、相変わらずカメラマンと鑑賞者で溢れかえっていた。三脚を据えて椅子に座ってスタンバイしているのはいいが、足元のヒメボタルのメスを踏みつけても何も思わない。ほとんどのカメラマンがそうだ。レンズの先で発光するオスを写すことしか頭にない。今更ながら、2012年のブログ記事に「秩父」と記載したことが悔やまれる。
 このブログでは、昆虫類の写真撮影地は県名までの表記にしており、種によっては保全のために無記載にしているが、今回、表題を「秩父のヒメボタル」としたのは、絶滅の坂を下り始めていることが分かり、その事実を広く知っていただきたいからである。

 ヒメボタルが生息する場所は様々であり、手つかずの原生林の他は、山奥の杉林は勿論、神社の境内や河川敷の竹林等々、ある程度人の手が入って間伐や下草狩りがされており、そのことでオスの飛翔空間が生まれ、飛ぶことのできないメスが、オスとの出会いに成功しているが、今回訪れた秩父の生息地は、公園の竹林はまったくの放置状態で、2年前よりさらに竹藪と化し、道は竹が何本も倒れたままで塞がれており、ヒメボタルの飛翔空間がない状態であった。
 竹林近くのくぼ地では、2年前には乱舞していたが、隣接する木を何本も伐採し、土が見えるまで草も刈ってしまったため、乾燥化で幼虫も死んでしまったと思う。成虫は1頭も飛ぶことはなかった。ヒメボタル生息地という立派な看板を立てておきながら適切な保全管理をしないのは無責任と言わざるを得ない。
 生息地は、少し離れた私有地(農地)にもあり、どちらかと言えば私有地の方が乱舞する。カメラマンが増えてから、農地に無断で入り込む者が後を絶たず、地主さんが「ヒメボタル生息地につき立ち入り禁止」として周囲にテープを張ったのは良いが、これまで乱舞していた草地は膝の高さ以上、場所によっては腰の高さまで草が伸び放題。これでは飛び回るオスはメスを見つけることができない。家も立ったが、私有地内のことに他人が口出しする筋合いはない。

 今回は、15時から周囲の環境を細かく調査し、18時からどの程度の発生があるのか写真と動画で記録を撮った。以下には、2010年と2012年、そして今回2024年に撮影した写真と動画を掲載した。
 天候は快晴で月はなし。昼間の気温は27℃であったが、日暮れと共に下がり23時には17℃まで低下し肌寒さを感じた。ヒメボタルは、20時になると草むらで1頭が光り出したが飛翔はしない。20時半には2頭が発光しながら飛翔。その光は、フラッシュ 発光ではなく、まるでヘイケボタルのようであった。22時を過ぎると発光する個体が増えるが、飛翔する数は増えない。22時半になるとカメラを据えた周囲で一番の暗がりであった10坪ほどの木陰で、10頭以上が発光をはじめ、草地にも飛び出してくる ようになり、23時を過ぎると本格的に発光飛翔するようになった。
 腰まで伸びた草の上を飛ぶヒメボタル。私の目線と同じである。やはりメスを見つけることができない。飛び方も活発ではなく、ゆっくりである。気温は17℃に下がったが、以下の2012年に写した写真と動画では、17℃の降雨時でも活発に発光飛翔していたので、気温の低さだけが影響しているとは思えない。かつては午前2時でも活発に発光飛翔していたが、この日は午前0時を過ぎると林の中に戻ってしまった。かつての光景は、今はない。
 このままの状態が続くとすれば、毎年、確実に発生個体数が減り、数年後には絶滅するかもしれない。私有地の地主さんには望めないが、せめて公園整備を進めた埼玉県には、県のレッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類と位置付けているヒメボタルの貴重な生息地を適切に保全管理をする責任がある。そうしなければ、ここに掲載した光景は、これが最後の記録となってしまう。

以下の掲載写真は、横位置は1920×1280ピクセルで、縦位置は683×1024ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画は 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ヒメボタルの写真
秩父のヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 1600 3分相当の多重(撮影地:埼玉県秩父市 2024.06.05 21:51)
ヒメボタルの写真
秩父のヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 1/30秒 ISO 1600 3分相当の多重(撮影地:埼玉県秩父市 2024.06.05 23:04)
ヒメボタルの写真
秩父のヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 1/30秒 ISO 1600 25分相当の多重(撮影地:埼玉県秩父市 2024.06.05 23:04)
ヒメボタルの写真
秩父のヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 1/30秒 ISO 1600 4分相当の多重(撮影地:埼玉県秩父市 2024.06.05 23:41)
ヒメボタルの写真
秩父のヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 24秒 ISO 800 10分相当の多重(撮影地:埼玉県秩父市 2010.06.06 1:26)
ヒメボタルの写真
秩父のヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3秒 ISO 1600 3分相当の多重(撮影地:埼玉県秩父市 2012.06.08 23:47)
ヒメボタルの写真
秩父のヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F2.8 2秒 ISO 1600 2分相当の多重(撮影地:埼玉県秩父市 2012.06.09 0:27)
秩父のヒメボタル
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンに しますと高画質でご覧いただけます)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.


野川に生きるホタル

2024-06-01 21:02:04 | ゲンジボタル

 野川に生きるホタルを今年も観察し、写真と動画を撮ってきた。水面に光が映る様子を残すという目的は達成できた。

 野川は、東京都調布市、小金井市、三鷹市にまたがる都立野川公園の北地区を流れており、ゲンジボタルが生息している。元々は、隣接する野川公園自然観察園内で発生していたが、今ではホタル自ら生息範囲を広げて野川の本流でも発生するようになった。野川は、冬季に渇水することがあるが、年々、ゲンジボタルの生息に不可欠な物理的環境が整い、ゲンジボタルの飛翔数も増加している。西日本型のゲンジボタルではあるが、優雅な光景に心から癒される。
 私の自宅から車で20分ほどで行ける場所で、昨年は5月28日に訪れた。今年は29日に訪れたが、すでに発生のピークに達していた。野川のゲンジボタルは、発生が都内で一番早い自然発生地の1つであり、例年5月下旬に見頃を迎える。4月16日のブログ記事「ほたる出現予想(2024)」で、当地の発生予想として、出現開始日を5月29日、ピーク日を6月7日としたが、これが大ハズレ。野川自然観察園ボランティア有志の皆さんによる調査では、5月10日に1頭の飛翔を確認されており、5月24日には、ピークに達したようである。
 調査によれば、年々、発生が早くなっている。これは上陸後の気温が毎年高くなっていることで、羽化までの期間が短くなっているのであるが、それだけではない。「ほたる出現予想(2024)」の記事で、まだ上陸が行われていないと書いたが、実は上陸条件が合致した3月28日29日、4月9日に上陸が行われていたようなのである。それならば、5月中頃に多くが発生するのも、うなずける。東京の多摩西部では、ブログ5月15日の記事「ゲンジボタルの幼虫上陸(東京)」に記述したように4月下旬頃からGW期間あたりが上陸時期であるが、都心に近い野川は、それよりも一か月早いのである。千葉県では、やはり3月下旬から4月上旬に上陸するから不思議ではない。

 さて、今年も野川のゲンジボタルについて、観察は勿論の事、写真と動画も撮影してきた。気温21度、晴れで微風。月明かりはなし。野川公園の駐車場に車を止めて、徒歩5~6分の野川に18時から待機。川岸に生える桑の木を下から覗くと、あちこちの葉裏にオスのゲンジボタルの成虫が止まっている。また足元の草むらもよく探せば止まっている個体を見つけることができる。
 その後、19時近くなると葉の上にいた個体が静かに発光を始めた。明滅ではなく弱い光を放ち続けるという発光である。19時半になると発光飛翔が始まり、20時を過ぎると発光飛翔の個体数もかなり増えた。今回は前回と違う、流れがとても穏やかな場所にカメラを設置した。水面に光が映る様子を残すことが目的である。写真では分かりにくいが、動画では光が移動するので水鏡になっていることが分かると思う。

 今年も昨年同様に平日に訪れたので、鑑賞者は思ったほど多くはなかった。ここは広い遊歩道もあり夜でも真っ暗ではない。それでも懐中電灯をホタルに向けたり、スマホの明かりを向ける方がいるのは残念だ。その他、年配のグループが多かったのが印象的で、ご婦人方が歓声を上げると男性は幾つになっても格好つけだがるものである。内容までは書かないが、知ったかぶりとマナー違反は恥ずかしい。また、家族連れも何組かおられたが、1組のお子さんが、片っ端からホタルを捕まえては虫かごに入れており、30頭以上が虫かごの中で光っていた。その子の気持ちはよく分かる。50年前の私もそうだったからである。もしかしたら、将来、ホタルの研究者になるかもしれないが、ここは優しく「帰る時に放してあげてね。」と言うしかなかった。ちなみに、少し離れた所で観賞していたご婦人からも同じ言葉をかけられていた。30歳代くらいの父親は、息子に対して「10日くらいしか生きられないのだから放してあげよう」と言ってくれていたのは嬉しい。ただし、今日初めて地上に出てきて飛び出した個体なら、運が良ければあと10日くらいは生きられるだろうが、すでに何日も飛び回っていた個体ばかりなら、家に持ち帰っても1日~2日の命だろう。それに、この短い命の中での一番の目的は、子孫を残すことである。雌雄がお互いの光によって出会いを果たし、無事に交尾を終えて産卵しなければ絶滅してしまうのである。このお子さんが30頭のオスを持って帰っただけでは絶滅することないが、100人のお子さんがそれぞれ持ち帰ったらどうだろう。翌年は、まだ同じように発生するが、毎年繰り返されれば5年で絶滅してしまうだろう。
 この野川は、まったくの自然発生である。養殖した幼虫を毎年放流するようなことはしていない。このように多くのゲンジボタルが舞うのは、豊かな自然環境が維持されているからに他ならない。カワニナと幼虫の放流に頼って、毎年それを繰り返しているだけの所は、放流を止めた途端にホタルは飛ばなくなってしまう。飛ばないことが怖くて放流を止められないのだ。幼虫を放流するならば、卵からふ化したばかりの1齢幼虫がよい。3月に上陸間際の大きな終齢幼虫を「元気に大きく育ってね」と放流する園児や小学生の姿が新聞やテレビで報道されるが、不思議でたまらない。

 野川に生きるホタルは、都心に近い所にも関わらず、ホタル自らが懸命に生きている姿を誰でも安心して観察したり観賞できる貴重な場所である。ホタルが舞う光景がいつまでも続くように、どの生息地でも訪れる方々におかれては、ホタルがなぜ光っているのかを理解して欲しい。曖昧な知識は間違いの選択肢を選ぶ一番の要因となってしまう。細かな生態は知らなくても、100の曖昧な知識より10の確実な知識を持って訪れて頂きたい。

昨年のブログ記事/野川のホタル

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画も 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ゲンジボタルの写真
ゲンジボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/30秒 ISO 5000(撮影地:東京都小金井市/野川 2024.05.29 18:54)
ゲンジボタルの飛翔風景の写真
ゲンジボタルの飛翔風景
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 5秒 ISO 400×1分相当の多重(撮影地:東京都小金井市/野川 2024.05.29 20:44~)
ゲンジボタルの飛翔風景の写真
ゲンジボタルの飛翔風景
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 10秒 ISO 400×約3分相当の多重(撮影地:東京都小金井市/野川 2024.05.29 20:12~)
野川に生きるホタル
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2024 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.