ヒメボタルと天の川の写真を初めて撮ることができた。
日本ホタルの会主催のヒメボタル観察会に理事(スタッフ)として参加してきた。日本ホタルの会では、コロナ禍により発生地でのホタル観察会を2年連続で見合わせてきたが、今年度は再開することにした。とは言え、一日のコロナ新規感染者が過去最高の3万4千人を超えるという状況。感染対策を十分に行っての開催である。日本ホタルの会の観察会は、これまでゲンジボタルが中心であったが、今回は初めてヒメボタルの観察で、写真撮影講習会も行った。
都心から遠方であるため、全員、自家用車での集合。まずは分かりやすい「道の駅」に集まって頂き、その後、ヒメボタル生息地まで移動。18時から生息地と発光する時間帯や飛翔場所等を説明したが、この生息地は深夜型のヒメボタル。20時頃からチラホラ発光を始めるが、本格的な発光飛翔は23時過ぎからである。実に長丁場の観察会である。
20時を過ぎると森の縁で1頭が発光を開始した。ヒメボタルを初めて見ると言う小さなお子様連れのご家族。その光り方や発光色、そしてヒメボタルの小さな命に感動していた。カメラを持参した参加者は、思い思いの場所に散らばったが、撮影初心者の方は、奥には入らず安全な場所から、この生息地らしいブナの森に向けて構図を決めて頂き、私が適宜撮影のアドバイスを行った。私も1台はその場所にセットし、もう1台は開けた草地において縦構図とし、空が入るようにセットした。
このヒメボタル生息地は、2010年からほぼ毎年訪れており、写真と映像を何点も記録しているが、今回はかねてからの目標である構図で撮ろうと決めていた。それがヒメボタルと天の川である。2011年の時には月も雲も無く天の川が綺麗に見えており、ヒメボタルも森から出てきて多くが飛翔していたが、天の川と組み合わせて撮ろうと言う考えさえ浮かんでおらず、撮影できるレンズも撮影技術もなかった。
その後、一年おきに月明りのない夜になるが、これまではいつも雲が広がり星は見えなかった。快晴の夜もあったが、そんな時に限って半月が煌々と照っていて天の川は全く見えなかった。11年経ってのこの日は、月は午前1時に三日月が昇ってくる程度。雷雨等の天候が心配されたが、快晴の時間帯もありチャンスである。過去の知見から、ヒメボタルはブナの森から出てきて草地を発光飛翔することも分かっている。風はなく、気温は19℃。夏の天の川は、肉眼でも確認でき、ヒメボタルは予想通りに森から出てきて飛翔してくれた。天上の星と地上の星の融合である。
もう一台は、この生息地ならではのブナの森を飛翔するヒメボタルの様子を写真と映像に収めた。前々回の記事「ゲンジとヒメのコラボ」の最後で「林床がヒメボタルの光で埋め尽くされる創作写真が多い昨今、できればヒメボタルの生のリズムと躍動を感じるものでありたいと思う。」と記したが、世間一般の方々に評価され受ける写真は、これでもか!くらいに光を重ねた写真である。1時間あるいは2時間の間に発光したすべての光の点を1枚という写真に重ね合わせて凝縮するのだから別の世界である。それはそれで奇麗だと思うし、以下の4枚目に13分に相当する発光数を重ねたものも掲載したが、3枚目の写真と比べると、やはり本質から離れてしまう気がする。映像は、発光飛翔する2時間以上の中で、たったの1分間の光景であるが、写真と異なり実際の見た目に近い。
参考までに6、7枚目に2011年に今回と同じ場所で撮影した天の川、そしてヒメボタルの写真も掲載した。ヒメボタルは、合成なしの256秒長時間一発露光で撮影したものである。
悲しいことに、今回の観察会参加者の撮影組も「これでもか!」を目指している。何百、何千枚を重ねる・・・そんな会話が聞こえてくる。何が悲しいかと言えば、撮影に夢中になり観察しないことである。撮り慣れた方の中には、撮影は連続シャッターでカメラ任せにし、ご自身は車に戻って会話に興じる。カメラは後で回収して、自宅に帰ってからPCで処理すれば写真の出来上がりである。この夜も、まるでヘイケボタルのような発光の仕方で飛ぶ個体や、飛翔スピードがかなり速い個体、同期明滅のタイミングが合っていく瞬間、そして明滅せずに発光飛翔するクロマドボタルの成虫が観察できたが、観察には興味がないようである。
また、光溢れる写真ばかりを目にしているためだろうか「乱舞してなくて残念」という言葉も聞かれた。確かに発光飛翔数の多い時に比べれば半分程度であったが、同じ場所で長い時間観察していれば、多くが同期明滅する素晴らしい瞬間もある。写真の先入観から四六時中、林床が光で埋め尽くされていると誤解する方もいるかもしれない。
私は、初めてヒメボタルの光を見た時には衝撃的な感動を覚えた。ゲンジボタルやヘイケボタルとは全く違う発光の仕方、そしてそれが漆黒の森の中のあちこちで明滅する。里山の小川や田んぼに見る情緒ある光景ではなく、特別な不思議さを感じたものである。そんな話もしたが、何か腑に落ちない様子の方もいた。観察会では参加者の安全を考慮し、森の外から観察するように勧めたが、森の中の漆黒の闇に包まれていれば、きっと不思議な感覚と異次元の感動を体感できたかもしれない。
撮影者も観察者も、まずはこの小さな命が懸命に光りながら飛ぶ姿に感動していただきたい。光の数は問題ではない。
今回の日本ホタルの会主催「ヒメボタル観察会」の参加者は、スタッフを含め総勢30名。それぞれの思いは様々であろう。写真撮影を行った参加者は、それぞれが思うような結果を得られたか
どうかは分からないが、是非、命の神秘さと尊さ、自然の美しさと大切さに思いを馳せて頂きたいと思う。
この記事で今年のホタルの成虫の発光飛翔に関する投稿は終了であるが、私にとっては一年中がホタルの季節。観察と記録はいつでも継続して行っているので、特記事項があれば掲載したいと思う。
以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。
ブナの森のヒメボタル/Fantastic firefly dance
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