ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ホタル舞う谷戸を埋めるな!

2020-06-28 17:55:01 | ホタルに関する話題

ゲンジとヘイケが同時に舞う貴重な自然 ~東京都八王子市川町 大沢川源流の谷戸~

 私のブログでは、ホタルをはじめとする昆虫類の記事では、撮影場所の明記は都道府県までとしているが、この記事に関しては、地名の詳細を記している。 これは、地元の方々のご意向でもあり、日本全国の皆様に現状を知って頂きたいという願いからである。

 東京都八王子市川町を流れる大沢川の源流部には、0.2haほどの小さな谷戸がある。雑木林と小川、そして湿地(以前は水田)という典型的な里山環境を呈している。この谷戸には、ゲンジボタルとヘイケボタルが生息し、6月末~7月上旬には、両種が同時に舞う光景が見られる。2種が生息する場所は都内では他にも存在するが、同時期に2種が飛翔する所は極めて珍しい。しかしながら、「源平合戦」の貴重な谷戸は、無くなる危機にある。民間の事業者が大量の建設残土で埋め立てを行い、スポーツ施設を作ろうとしているのである。谷戸は、すでに事業者が土地所有者から買い取り、大部分が立ち入り禁止になっている。しかしながら、事業者にはスポーツ施設を作り、運営するだけの資金がなく、おそらく各地の建設現場で発生する捨て場に困っている建設残土で谷戸を埋める事業だけで終わるだろうと言われているのである。
 この谷戸のホタル保全には、開発以外にもう一つ問題がある。現在は放棄放置されているため、湿地の植生遷移が進行し大部分が草原となっており、ヘイケボタルの生息が危ぶまれている、また、周囲の雑木林も何の手入れもされていない(手入れすることができない)状態のため、急斜面では昨年の台風で崩落が進み、ゲンジボタルの幼虫が生息する小川に大量の土砂の流入が見られた。大木も傾きかけており、このままでは更に大規模な崩落があるかもしれない。里山環境は、放棄放置によって環境悪化が進むのであるが、今は、悪化を見ているだけの状況なのである。

 当地には昨年の7/5に初めて訪れ、ゲンジボタルとヘイケボタルが舞う「源平合戦」を写真に収めているが、今回は、映像を撮ることを目的に27日に再訪した。当初の予定では、7/4に行く予定であったが、地元の「八王子市川町の環境を守る会」の方々から連日観察報告がメールであり、発生状況と天気・天候から6/27に行ってみることにした。
 天気は曇りで無風。19時の気温は26℃で、まさにホタル日和である。林道で待機していると、19時20分。足元と背後の草むらでヘイケボタルが発光を始めた。20分後に飛翔を開始。ヘイケボタルは、あまり広い範囲や高い位置まで飛びまわることは少ないが、当地の暗くて風のない谷戸では、湿地中央や雑木林の高い梢の方まで飛んでいく。
 20時を過ぎると、湿地と雑木林の間を流れる小川上をゲンジボタルが飛び始めた。昨年10月の台風19号の影響で幼虫が流されたのであろう、ゲンジボタルは10頭ほどの飛翔数であったが、ヘイケボタルは100頭以上が湿地のあちらこちらで飛び回っていた。
 20時40分頃になるとヘイケボタルはどの個体も雑木林脇の下草や、高い梢に止まり、静かに発光するようになった。しばらくすると発光も止め、活動時間は終了となった。ゲンジボタルもいつの間にか姿を消していた。

 この「源平合戦」が見られる東京の貴重な自然が、開発と放棄放置によって失われる危機にあることを一人でも多くの方々に知って頂きたいと思う。そして、一刻でも早く良好な里山環境が維持できる状況になるよう、微力ながら地元の方々に協力していきたいと思う。

 今年のゲンジボタル(ヘイケボタル)の調査・観察・撮影は、来週末が最後である。その後は、7月末までヒメボタルの連続になる。

参照:東京のホタル(源平合戦の危機)川町の残土埋立に反対する住民集会

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ゲンジボタルとヘイケボタルが舞う谷戸の写真

ホタルの生息地
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F1.4 3分相当の多重 ISO 250(撮影地:東京都八王子市川町 2020.6.27)

ホタル舞う谷戸を埋めるな!ゲンジとヘイケが同時に舞う貴重な自然~東京都八王子市川町 大沢川源流の谷戸~

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東京のゲンジボタル

2020-06-21 13:25:13 | ゲンジボタル

 東京のゲンジボタルは、今年も美しい光を放っていた。東京と言っても、都市部のホテルの庭園や公園のビニールハウスではない。広大な雑木林に囲まれた大自然の中。 流れる小川に天然のゲンジボタルが舞うのである。
 このゲンジボタル生息地には、2003年から通っており、2008年にTBSテレビ「ニュース23」に出演した時にキャスターを案内した。当時は、たいへん多くのゲンジボタルが乱舞していたが、その後、水枯れ等の影響で減少。 一時は絶滅も危ぶまれたが、徐々に発生数は回復傾向にあり、昨年は「日本ホタルの会」の観察会が当地で行われた。その日は、残念ながら雨で気温が低く、あまり飛翔せずに葉上で発光する個体が多かったが、東京都内における素晴らしい自然環境を実感して頂けたと思う。
 さて、今年はどうであろうか?前日は雨で、この日の日中は晴で28℃まで気温が上がり、日の入り時の気温は23℃。曇りで無風。まさにホタル日和である。自宅からは小一時間の距離で16時に到着。今回は、ホタルが飛翔している写真より「映像」を残すことを目的としているため、まずは周辺の環境の映像を撮影。その後、位置を決めてカメラをセットし待機した。
 19時32分。茂みの中で1番ボタルが発光。19時50分から飛翔が始まった。当地は、先週の山梨県のホタルの里のような「光害」は一切ない。地元の方もほとんど来ないが、後から来られた数名の話し声の中に、聞き覚えのある声。日本ホタルの会 理事の 井上 務 氏であった。私も理事であるが、新型コロナウイルスの影響で理事会はずっと行っておらず、今年の観察会も中止にしたため、久しぶりにお会いした。井上氏は、定期的に当地で観察を行っておられ、今年の幼虫の上陸は5月16日がピークであったと言う。
 ゲンジボタルの羽化までの積算温度は、私の理論では発育零点8.02℃、有効積算温度408.4日度であるから、今年の上陸(5/16)後の気温を計算すると、6月17日に有効積算温度419.54日度になり当てはまる。この日は、メスが発生していなかったため、次の週末あたりが発生のピークだと思われる。
 また井上氏によれば、サンプルとして3頭を採集して、日本ホタルの会 副会長の鈴木浩文 氏に遺伝子解析を依頼したところ、2頭が東日本型で当地固有の遺伝子型であったが、1頭は西日本型であったと言う。かつて、人為的に一部移植がなされたと思われるが、今後は交雑が進まず、貴重な固有種が存続することを臨みたい。

 以下には、2005年にフィルムで撮影した写真と今回デジタルで撮影した写真、そして編集した映像を掲載した。デジタルの写真は、光跡を幾らでも写真上に増やせるが、フィルムと同程度の露光時間の多重に留めた。ここは、15年経過しても、一時期の渇水以外は自然環境の変化は少ない。そして「光害」は全くない。これは、ホタル観賞に訪れる方がほとんどいないことを意味している。俗にいう「穴場」であるが、多くの人々が訪れれば「光害」によって一気に状況は悪化してしまうだろう。この光景を守るためにも、そして豊かな生態系を保全する上でも、場所をご存知の方は、公表を控えていただきたいと思う。

 今は、ホタルシーズンの真っ只中である。5月の高知遠征に始まり、千葉県、山梨県と巡り、この週末からは4週連続で東京のホタル(ゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタル)の観察と撮影を行う予定である。その後は、山梨県のヒメボタルで成虫の飛翔シーズンを締めたいと思う。そして、所々にチョウとトンボを挟んでいきたい。

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東京のゲンジボタルの写真

東京のゲンジボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / Ektachrome 320T Professional (東京都 2005.6.23)

東京のゲンジボタル生息地の写真

東京のゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F16 6秒 ISO 100 -1/3EV(東京都 2020.6.20)

東京のゲンジボタルの写真

東京のゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.8 1/125秒 ISO 400 2分相当の多重(東京都 2020.6.20)

東京のゲンジボタル その3

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オオマドボタル

2020-06-15 17:23:19 | その他ホタル

 オオマドボタル Pyrocoelia discicollis Kiesenwetter,1874は、ホタル科(Family Lampyridae)マドボタル属(Genus Pyrocoelia)で、一生を陸地で過ごす陸生ホタルである。成虫は時折しか発光せず、メスが発するフェロモンを感知して交尾が行われる。山地から丘陵地の二次林内、竹林、林道脇などに生息している。

 マドボタル属は、前胸部に1対の透き通った窓があるのが大きな特徴で、日本国内には9種1亜種が生息しており、本州・四国・九州には2種、オオマドボタルとクロマドボタルが生息している。両種の生息環境や生態、幼虫の形態は酷似しているが、オス成虫ではオオマドボタルは前胸部に赤斑があり、クロマドボタルは赤斑が無く黒色である。
 両種は分布域が異なっており、これまでオオマドボタルは近畿地方以西、クロマドボタルは近畿地方以東に生息すると言われていたが、最近の調査では、オオマドボタルは南限が九州鹿児島県で、北限が宮城県。ただし東日本には少ない。一方、クロマドボタルは、北限が青森県で南限は九州の熊本県。ただし、中部・北陸・東海以西には少ない事が分かっている。また、両種の境界地域となっている近畿地方には、前胸部の赤斑について様々な変異を持った個体が見られるのも興味深い。
 両種は、交尾器の形状やコミュニケーション・システムなどにも大きな違いが認められないので同一種と考えられることもあるが、日本ホタルの会 副会長の鈴木浩文 氏に聞いたところ、両種のミトコンドリアCOⅡ遺伝子を分析し系統樹を作成すると、東北~近畿、近畿、近畿~九州という3つのグループ分けられ、東北から近畿のグループがクロマドボタルに対応するかもしれないが、まだ何とも言えない状況であるという。ただし、東北~近畿のグループと近畿~九州のグループには、ゲンジボタルの東西型以上の違いがあるとの結果が得られている。

 オオマドボタルは、環境省RDBや地方自治体のRDBにも記載がなく珍しい種ではないが、関東地方で撮影するのは困難なため、これまで関西方面に遠征に行くたびに探していたが、見つけることが出来ていなかった。先月に訪問した高知県においても探索を試みたが、発生時期が早かったこともあり、1頭も見られなかった。今回、高知県ホタルネットワークの石川憲一 氏のご厚意により、採集した個体を1頭郵送いただき、自宅にて撮影することができた。ゆえに本写真は、生態写真ではなく図鑑写真としての撮影である。この場を借りて、生体を提供して下さった石川憲一 氏に対し御礼申し上げたい。
 オオマドボタル(このオスの場合)は体長が15mmあり、クロマドボタル(オス)の体長10mm~12mmより大きい。今後は標本とし、研究のために保存したいと思う。以下には、比較のためにクロマドボタルの写真も掲載した。いずれもオスである。メスは、下記参照ページ「クロマドボタル」をご覧頂きたい

参照:クロマドボタル

参照:高知県ホタルネットワーク

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オオマドボタルの写真

オオマドボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.5 1/125秒 ISO 2000 -1/3EV(高知県土佐市産 2020.6.13)

オオマドボタルの写真

オオマドボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.5 1/160秒 ISO 2000 -1/3EV(高知県土佐市産 2020.6.13)

オオマドボタルの写真

オオマドボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.5 1/125秒 ISO 3200 -1/3EV(高知県土佐市産 2020.6.13)

オオマドボタルの写真

オオマドボタル(腹部背面に見える発光器)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.5 1/160秒 ISO 2000 -1/3EV(高知県土佐市産 2020.6.13)

オオマドボタルの写真

オオマドボタル(腹部背面に見える発光器)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.5 1/160秒 ISO 2500 -1/3EV(高知県土佐市産 2020.6.13)

クロマドボタルの写真

オオマドボタル(腹部の発光器)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.5 1/160秒 ISO 2500 -1/3EV(高知県土佐市産 2020.6.13)

クロマドボタルの写真

クロマドボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/125秒 ISO 500(撮影地:静岡県富士宮市 2010.7.03)

クロマドボタルの写真

クロマドボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/160秒 ISO 640(撮影地:静岡県富士宮市 2010.7.03)

クロマドボタルの写真

クロマドボタル(前胸部の窓がはっきりしていない個体)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/125秒 ISO 800(撮影地:山梨県北杜市 2010.7.08)

クロマドボタルの写真

クロマドボタル(前胸部の窓がはっきりしていない個体)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO 1000(撮影地:山梨県北杜市 2010.7.08)

クロマドボタルの写真

クロマドボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/125秒 ISO 400(撮影地:静岡県富士宮市 2010.7.03)

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ホタルを滅ぼすホタル観賞 これが光害だ!!

2020-06-14 15:29:14 | ホタルに関する話題

 今月はゲンジボタル、来月はヒメボタルの生息環境の調査・研究を進めるための計画を立てているが、この週末は伊豆方面に遠征する予定であったが、悪天候であったため、急遽、場所を変更し、山梨県内の生息地へと足を運んだ。
 その場所は、ゲンジボタルの自然発生地であり、幼虫の上陸観察には何度も訪れているが、成虫が舞う時期の訪問は、2005年6月11日以来である。15年もの間、6月に一度も行かなかったことには理由がある。それは、あまりにもホタル観賞者が多いからである。ホタル祭りが行われ、観光バスや乗用車が何十台も来る。川沿いは人で溢れる。当然のことながら「光害」が酷く、ゲンジボタルは、ほとんど発光飛翔しないのである。その光景が、とても悲しく、悔しい思いをしたので、二度と行くまいと思っていた。
 ところが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のために「ホタル祭り」は中止となったため、また、最盛期でもあり、更には天候も雨のち曇りという予報であったことで当地に行って見ることにしたのである。

 13日の14時に自宅を出発。途中の中央道は本降りの雨。現地には16時半にし、日暮れを待った。
 19時には雨も止み、川沿いで待機していると、19時24分、一番暗い茂みの中で一番ボタルが発光を始めた。ホタル祭りが中止となった影響だろう、観賞者は私以外には一組だけであった。気温は22℃。蒸し暑く、まさにホタル日和。次第に発光する数が増え始め、飛翔するようになった。
 20時近くになると、川沿いの県道を通る車がいきなり多くなった。小さな集落はあるが、車は地元の方ではなく、すべてホタル観賞に訪れた車である。車が通るたびに、少しの間だけヘッドライトの明かりが河川に当たるが、それほどの影響はない。問題は、駐車場所である。ゲンジボタルが飛び交う河川に横づけで止め、しかもヘッドライトを消さない。ハザードは付けたまま。路上には、それが何台も止まっているのである。ちょっと見たら帰る。ドライブスルー的ホタル観賞である。
 当地には、大きな駐車場があるのだが、祭りが中止のために駐車場も閉鎖。(この駐車場にも問題があり、駐車した車のライトがすべて川に当たるのである。)私は離れたスペースに車を止めたが、他の観賞者はすべて路上駐車である。当然、ゲンジボタルは発光を止める。車がいなくなり、やっと暗がりが戻っても、すぐには発光飛翔を再開しない。茂みの中から徐々に発光を始めるが、また車のライトが当たる。今度は、遊歩道を懐中電灯を照らしながら歩いてくる。またゲンジボタルは発光を止めてしまう。ずっと、その繰り返しであった。私は、終始無口を通したが、懐中電灯を振り回すお子さんが私の横を通り過ぎようとした時、「写真を撮っているから灯りを消しなさい」という声。相変わらず、分かっていない。私は軽く会釈はしたが、心の中で「ホタルのために灯りを消してほしい」と言った。結局、今回もやるせない気持ちで当地を後にした。当地にはホタル保存会が存在するが、いったい何のために活動しているのか疑問である。先々週に訪れた千葉県は、保存会すらない、まったくの自然のままの里山である。そこがいかに素晴らしいかが良く分かる。
 この日は、当地のゲンジボタルの発生時期のピークであると思うが、発生数はここ15年で10分の1にまで減っているように思う。

 以下の写真は、当地での光景であるが、上記の現状を表してはいない。19時半の光り始めから、9秒間の露光を1秒間隔で光終わる21時まで撮影したカットの中で、ホタルが発光飛翔したカットだけを全て重ねたものだからである。その露光時間はのべ8分である。つまり、ホタルの活動時間約90分の中で、ホタルがまともに光りながら飛べたのは、わずか8分ということになる。
 ホタルは、光る昆虫である。オスは光ながら飛ぶ。メスは、飛ばずに下草で光っている。メスは、飛んでいる光を見つけると下草で光りだす。オスは、飛びながら、メスの光を見つけるとメスのいる所へ降りていく。そして、光で会話が始まるのである。フラれてしまうオスもいる。メスは、たくさんいるオスの中で一番、光の強いオスを選び、結ばれるのだ。お互いの光は、暗闇でなければ見えない。0.1Luxの月明りでさえ、ホタルの会話を邪魔するのだ。
 暗闇が必要なホタルに車のライトが当たる。懐中電灯が当たる。ホタルは、光ることを止めてしう。これが「光害」である。ホタルは、灯りの当たらない僅かな瞬間で会話をしなければならないのである。こうしたホタル観賞がホタルを滅ぼすのだ。
 ホタル観賞に車で行く時は、ホタルが光りだす前の19時に行く。帰るのは、光終わった21時。(私の車はハイブリッド車で、生息地近くではEVモードで走行している。)あるいは遠くに車を止めて歩いてくる。日暮れ前の19時から小川のほとりで待っていれば、目が慣れるので懐中電灯は必要ない。これは、ホタル観賞のマナーではない。ホタルと自然環境を保全する鉄則だ。そうしなければ、ホタルは滅びてしまうのだ。
 こう書くと「お前も来てほしくない部類だ」とか「カメコはわがままだ」という批判をコメントで頂くが、まずは、光害の動画を是非ともご覧頂きたい。それから議論したい。私は撮影者として、研究者として現場に立っているが、本来は、私も含めて誰も行かなければホタルにとっては幸せなんだろうと思う。ただ、こうした現状を多くの方々に理解していただくことも必要である。このような記事がホタルと自然環境の保全に少しでも役立てば幸いである。

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ゲンジボタルの飛翔風景の写真

ゲンジボタルの飛翔風景
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 8分相当の多重 ISO 800(撮影地:山梨県 2020.6.13)

ホタルを滅ぼすホタル観賞 これが光害だ!!

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ヒメボタルの写真について

2020-06-07 17:41:20 | ヒメボタル

 ヒメボタルの写真は、単にインスタ映えするという理由から昨今ではインターネット上に大変多くの写真が溢れ、またそれを撮ろうとヒメボタルの生息地には、大勢のカメラマンが群がっている。
 ちなみに、ここで言うヒメボタルの写真とは、マクロ撮影ではなく、乱舞している光景の写真についてである。

 私がホタルの写真を撮り始めたのは、今から40年以上も前からであるが、ほとんどが成虫等を接写した生態写真であった。勿論フィルムである。飛翔風景はネガでもポジでも難しく、何とか見せられる写真が撮れるようになったのは2000年頃であった。ヒメボタルの写真を撮り始めたのは2004年だったが、ゲンジボタルやヘイケボタルよりも難易度が高く、やっとフィルムで奇麗な写真が撮れたのは2009年で、ISO1600のネガフィルムで1時間近く露光したものである。
 フイルムで苦労していたところ、2006年あたりからデジタルカメラが広く普及し始め、私も2009年の秋からデジタル一眼レフ(現在も愛用の Canon EOS 5D Mark Ⅱ)を使い始めたが、デジタルで、フィルムと同じような長時間露光でホタルの飛翔風景を撮ろうとすると、数分が限度で、あまり長い時間露光するとノイズがひどくて良い結果は得られなかった。
 ところが、新しい撮影方法により、フィルムに勝るとも劣らない画像を得られるようになった。それが、パソコンソフトによる合成である。今では、デジタルカメラも進化し、撮影時にカメラ内で自動で背景と光を重ね合わせてくれる機種も登場しており、パソコンソフトでの作業とともに、ホタル撮影では一般的な方法となっている。フィルムにおいても、長時間露光ではなく、予め撮影した背景に多重露光によってホタルの光を重ねることもできたが、露出計算が難しく、結果は現像してからでなければ分からなかったが、デジタルは楽である。(参照:ホタル写真の変遷
 誰でも簡単にホタルの飛翔風景が撮れるようになった昨今、インスタ映えするヒメボタルの写真にカメラマンが群がっているのである。

 ヒメボタルの写真は、確かに幻想的で美しい。撮るのは自由である。私も各地で撮影しているが、私は撮影者であると同時に観察者として現場に立っている。ホタルの生態や生息環境について調べ始めて48年以上経ったが、未だに分からないことが多い。そのため、ホタルの飛翔風景写真を撮影する場合は「ホタルがどんな環境に生息し、どのように光りながら飛んでいるのかが分かるように、そして、その貴重な場面を証拠として残すこと」を目的としている。ヒメボタルでもゲンジボタルでも、他のホタルでも同様である。
 では、インターネット上に溢れる多くのヒメボタルの写真はどうだろうか。そんなに飛翔していなくてもパソコンソフトで何十枚、何百枚と重ねて、光あふれるように作ったり、実際は飛んでいない場所に合成している写真も目に付く。写真芸術という観点から逸脱するものも目立つが「創作」を前提にしたならば、これらに苦言を呈する気はない。問題なのは、写真という結果を求めるだけで、ヒメボタルの生態を理解せずに生息地に群がるカメラマンの姿勢と態度である。更には、乱舞の様子を軽々しく報道するメディアである。

 これは高知県のヒメボタルの生息地での出来事である。いつもは誰もいない夕方の散歩コースに自動車が何台も止まっていたという。ある人物が、ヒメボタルの写真を撮らせようと県外からも大勢を呼び寄せたのだと言う。写真が撮れれば良いだけで、生息場所を荒らすなどの行為も目立ち、更には、撮った写真を新聞社に売り込んだと言う。地元の方々は、「県外への移動自粛が今月末まであるのに呼ぶ方も来る方も許し難い。自然破壊、生息地荒らしなど何にも考えない人間に風景写真は撮らせたく無い!」と叫んでいる。新聞社は、何枚も合成された光溢れる写真とともに「儚い命・・・」として記事にしている。
 私が10年前に撮影していたヒメボタルの生息地数か所では、当時は誰もおらす私一人で撮影と観察をしていたが、今ではカメラマンで溢れている。撮るのは自由である。ただし、ヒメボタルの生態は、予め学んでくるべきである。写真を撮りたいから「光害」に関してはある程度気を使っているが、メスや幼虫がいるであろう生息地内に踏み込む行為も散見される。ネット上では、インスタ映えを狙ってか、ヒメボタルが飛翔する場所に番傘を置いて撮った写真も見受けられる。言語道断な行為であり、ヒメボタルを撮る資格はない。マナー云々の問題ではなく、自然保全の鉄則は守らなければならない。
 今年も、7月末まで各地でヒメボタルが舞う。是非ともヒメボタルの写真は、単にインスタ映えの自己満足に終わらせることなく、貴重なヒメボタルと自然環境を保全するための一枚になるようお撮り頂きたいと思う。またメディアも、何も考えず安易に報道するのではなく、その記事の裏側や影響を良く考えて書いて欲しい。

 以下には、過去にデジタル一眼レフで撮影したヒメボタルの写真を数点掲載した。過去の撮影であるにも関わらず、今回初めてRAW現像した写真と動画もある。飛翔写真6枚は、背景もヒメボタルの飛翔時刻に同時に撮影したもので、1と2枚目は、これでもかという位にヒメボタルの光を重ね合わせたものである。背景となる木立のカットがなくても、ヒメボタルの光だけで木立の様子が分かる。乱舞する生息地に違いないが、実際に一度にこれほどの数が飛翔しているわけではない。3枚目は、畑の上を飛ぶヒメボタルの光跡を撮影したものだが、写真を見る一般の方々に受けるのは、写真1、2であることが悲しい。
 人々の興味や感情はうつろいやすいものである。「インスタ映え」を目的としてパソコン上で作り出した偽りではなく、真に感動を表現した写真でなければ、その内、飽きられてしまうだろう。写真を見る方々も、騙されることなく冷静になって撮影者の心を見抜く力を養っていただきたいと思う。
 私は「ホタルがどんな環境に生息し、どのように光りながら飛んでいるのかが分かるように、そして、その貴重な場面を証拠として残すこと」を目的とし、感動の写心を撮れるよう努力していきたい。

昨年、最後に撮影したヒメボタルの写真は、こちら「ヒメボタル(東海)

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ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 20分相当の多重 ISO 6400(撮影地:静岡県 2017.7.23)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 20分相当の多重 ISO 6400(撮影地:静岡県 2017.7.23)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 1600(撮影地:埼玉県 2016.6.05)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 1600(撮影地:埼玉県 2016.6.05)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 800(撮影地:埼玉県 2010.6.06)

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ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 1600(撮影地:埼玉県 2012.6.08)

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ヒメボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO MC AUTO-MACRO 50mm F3.5 / KODACHROME64 Professional(撮影地:東京都 2009.7.06)

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ヒメボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 6秒 ISO 400(撮影地:埼玉県 2011.6.04)

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ヒメボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 映像からの切り出し(撮影地:山梨県 2010.7.19)

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Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE(撮影地:埼玉県 2016.6.5)

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サツマシジミの吸水

2020-06-06 19:37:24 | チョウ/シジミチョウ科

 サツマシジミ Udara albocaerulea albocaerulea (Moore, 1879) は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)ヒメシジミ族(Tribe Polyommatini)タッパンルリシジミ属(Genus Udara)のチョウで、薩摩という名前の如く南方系で、本州(三重、和歌山、広島、山口の沿岸部)、四国と九州の沿岸部等に分布しているが、近年では、温暖化の影響により、大阪府南部や静岡県の藤枝市でも見ることができる。多化性のチョウで4~11月にかけて出現する。幼虫の食樹は、サンゴジュ、クロキ、モチノキなどである。

 サツマシジミは普通種ではあるが、関東で出会うことができないため、撮影しようと思えばかなりの遠征になる。一番最初は2015年の5月のGWに和歌山県を訪れたが空振り。その2週間後に三重県伊勢市においてミカドアゲハとともに撮影できブログのPartⅠに「サツマシジミ」として掲載したが、翅裏の様子だけであった。翅表を撮りたいが、止まっている時になかなか翅を開かないチョウなのである。
 秋口には、比較的開翅することが分かっていたので、2016年の11月に再び和歌山県を訪れたが、その時は1頭も目撃すらできず、ヤクシマルリシジミの撮影で終わっていた。更に、2018年10月にも三重県伊勢市を訪れたが、やはり見つけられず、その後は遠征をためらっていた。
 ところが、先月の高知遠征の際、渓流沿いにて吸水している本種2頭を目撃し、その様子を撮影することができた。吸水後に翅を開くかと、ずっと追いかけたが、残念ながら今回も開翅はなし。30分ほど吸水した後、林の中へ消えていった。飛翔の瞬間を撮影すれば翅表を撮れなくはないが、やはり止まっている時に開いた翅表を奇麗に撮りたい。この秋に、再度和歌山訪問としたい。

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サツマシジミの写真

サツマシジミ(吸水)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1000 +2/3EV(撮影地:高知県 2020.5.24 9:52)

サツマシジミの写真

サツマシジミ(吸水)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1000 +2/3EV(撮影地:高知県 2020.5.24 9:54)

サツマシジミの写真

サツマシジミ(吸水)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 500 +2/3EV(撮影地:高知県 2020.5.24 10:04)

サツマシジミの写真

サツマシジミ(吸水)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 +1EV(撮影地:高知県 2020.5.24 10:11)

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