ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ヤマトシジミ(チョウ)

2024-03-28 15:54:47 | チョウ/シジミチョウ科

 ヤマトシジミ Pseudozizeeria maha argia (Menetries, 1857)は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)ヒメシジミ亜科(Subfamily Polyommatinae)ヤマトシジミ属(Genus Pseudozizeeria)のチョウで、国外では中国、韓国、台湾をはじめ、南アジアから東南アジア、東アジア一帯に広く分布し、日本国内では本州以南に分布している。
 関東では年5~6回、4月上旬頃から11月下旬頃まで発生し、幼虫の食草であるカタバミがある平地であれば、都市部の公園や住宅地においても普通に見られるチョウである。カタバミさえあれば、どこでも繁殖できるという特徴から日本で一番生息数が多いチョウではないだろうか。あまりにも普通種であるため、本種を単独で取り上げたことがなかったことから、本記事にてまとめてみた。

 ヤマトシジミは、雌雄ともに発生時期によって翅の色模様が連続的な変化を示す季節変異(季節型)を有し、春と秋の低温期型、夏の高温期型に分けられる。地味な翅裏には変化は見られないが、翅表には以下のような違いが見られる。

  • 低温期型オス/光沢のある空色の部分が広く、縁の黒い部分は細い
  • 高温期型オス/光沢のある青色で、縁の黒い部分は広い
  • 低温期型メス/全体的に黒褐色だが、前翅後翅ともに青い鱗粉が広がる
  • 高温期型メス/全体的に黒褐色で青い鱗粉は少ない

 季節型は、アゲハチョウやキタテハなど、ほかのチョウでも存在するが、それがどのような生態的意義を持っているのかは分かっていない。しかしながら、季節型を決定する要因については研究がされており、主に4~5齢幼虫時の日長時間が大きく関わっているという。キタテハでは、日長時間が13時間以下であれば低温期型(秋型)、13時間以上では高温期型(夏型)となる傾向があるという。また、気温も決定要因となることが確かめられている。
 ヤマトシジミは、孵化した1齢幼虫から終齢幼虫まで一か月で成長し、その間の日長時間や気温が季節型を決定している訳だが、連続的なものなので、年5~6回の発生のうちには、その中間型も出現する。(掲載写真を参照)

 ヤマトシジミは、あまりにも身近で、そしてとても小さなチョウであるため、気にも留めない方々が多いと思う。私もカメラを向けることは少ないが、良く見れば可憐で美しいチョウである。日中は盛んに飛び回って、なかなか止まって翅を開くことは少ないが、気温の低い朝は、葉の上で翅を広げて朝陽を浴びながら体を温めていることが多い。1~2週間ほどで翅が擦れて色あせてしまうが、美しい個体にも出会えるだろう。時には立ち止まってこのチョウの美しさを眺めてみるのも良いと思う。

参考文献:遠藤 克彦 チョウの季節型と休眠の光周内分泌調整

関連ブログ記事:チョウの季節型

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ヤマトシジミの写真
ヤマトシジミ(オス)
Canon 7D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F3.5 1/400秒 ISO 200(撮影地:千葉県鴨川市 2011.8.20)
ヤマトシジミの写真
ヤマトシジミ(メス)
Canon 7D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/125秒 ISO 320 -1/3EV(撮影地:千葉県鴨川市 2014.4.26)
ヤマトシジミの写真
ヤマトシジミ(低温期型オス)
Canon 7D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/125秒 ISO 200 -1/3EV(撮影地:千葉県鴨川市 2014.4.26)
ヤマトシジミの写真
ヤマトシジミ(高温期型オス)
Canon 7D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/320秒 ISO 250 (撮影地:東京都八王子市 2010.9.20)
ヤマトシジミの写真
ヤマトシジミ(中間期型オス)
Canon 7D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 200(撮影地:千葉県鴨川市 2018.4.29)
ヤマトシジミの写真
ヤマトシジミ(低温期型メス)
Canon 7D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/125秒 ISO 250 -1/3EV(撮影地:千葉県鴨川市 2014.4.26)
ヤマトシジミの写真
ヤマトシジミ(高温期型メス)
Canon 7D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/800秒 ISO 200(撮影地:千葉県鴨川市 2014.5.17)
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スギタニルリシジミ

2024-03-13 11:46:49 | チョウ/シジミチョウ科

 スギタニルリシジミ Celastrina sugitanii Matsumura, 1919 は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)ヒメシジミ亜科(Subfamily polyommatinae)ルリシジミ属(Genus Celastrina)に属するチョウで、中国の南西部・南部、朝鮮半島、台湾、日本では北海道・本州・四国・九州に分布し、日本では以下の3亜種がある。本種は、本ブログ(PartⅡ)において単独で取り上げたことがなかったので、過去に東京都の檜原村で撮影した 本州・四国亜種を掲載し紹介しておきたい。

  • 北海道亜種 Celastrina sugitanii ainonica Murayama, 1952
  • 本州・四国亜種 Celastrina sugitanii sugitanii (Matsumura, 1919)
  • 九州亜種 Celastrina sugitanii kyushuensis Shirozu, 1943

 スギタニルリシジミは、年に1度羽化し、4月中旬から5月上旬の一時期にのみ出現するスプリング・エフェメラルである。和名は、大正7年4月21日に京都の貴船で本種を発見したチョウの研究家で旧三高の数学教授、杉谷岩彦氏に因んで命名されている。
 幼虫の食樹は、以前はトチノキが一般的に知られ、その花や蕾、幼果が主食であったが、昨今の研究でミズキやヤマフジ、ハリエンジュ、キハダも食樹としていることが判明し、九州ではキハダが一般的な食樹である。東京都内では、かつては奥多摩の一部でしか確認されていなかったが、現在では、高尾などでも普通に見られる。また、トチノキがない相模原市の山間部や丹沢、箱根等にも急速に分布が拡大しているが、どの地域も低山地から山地の渓谷沿いの林道で見られ、湿った地面で吸水することが多く、時には集団吸水の様子も見られる。
 スギタニルリシジミは、環境省版レッドリストに記載はないが、都道府県版レッドリストでは、山口県で絶滅危惧Ⅱ類に、鳥取県、島根県で準絶滅危惧種として記載している。

 以下に掲載したスギタニルリシジミの写真は、2014年と2017年に東京都の檜原村の多産地で撮影したものである。風のない暖かい春の日に、渓谷沿いの林道を歩きはじめると、すぐにチラチラと飛んでいる本種を発見。歩くにつれて、その数は多くなった。杉林の中から林道に降りてくる。日当たりが良く、崖から浸み出た湧水が溜まってぬかるんだ所では、30頭を越えるスギタニルリシジミが吸水に訪れており、あちこちで小集団を作っていた。吸水中は一切、翅を開かない。吸水場所から離れた日だまりへ移動し、飛んでいるスギタニルリシジミの後を追う。すると、地面に止まって翅を開いた。どの個体も止まると開翅。深い青紫色の翅表を撮影することができた。
 それ以来、檜原村の多産地には行っていないが、あと一か月もすれば、また出会えるだろう。6月にはメスアカミドリシジミも多く見られる。チャンスがあれば再び訪れてみたい。

参考文献:岩野 秀俊(2006)関東南部産スギタニルリシジミの食餌植物と寄主転換. 蝶と蛾 57巻4号 p.327-334

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

スギタニルリシジミの写真
スギタニルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200(撮影地:東京都檜原村 2014.4.12 10:04)
スギタニルリシジミ(集団吸水)の写真
スギタニルリシジミ(集団吸水)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:東京都檜原村 2014.4.12 10:37)
スギタニルリシジミ(集団吸水)の写真
スギタニルリシジミ(集団吸水)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/250秒 ISO 200 +1EV(撮影地:東京都檜原村 2014.4.13 9:38)
スギタニルリシジミ(交尾)の写真
スギタニルリシジミ(交尾)
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F6.3 1/40秒 ISO 200 +1EV(撮影地:東京都檜原村 2017.4.15 11:04)
スギタニルリシジミ(半開翅)の写真
スギタニルリシジミ(半開翅)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/640秒 ISO 200(撮影地:東京都檜原村 2014.4.12 11:06)
スギタニルリシジミ(開翅)の写真
スギタニルリシジミ(開翅)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/1254秒 ISO 250(撮影地:東京都檜原村 2014.4.13 10:30)
スギタニルリシジミ(開翅)の写真
スギタニルリシジミ(開翅)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/125秒 ISO 200 +1EV(撮影地:東京都檜原村 2014.4.13 10:24)
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ツバメシジミのメス(低温期型)

2023-04-14 15:55:48 | チョウ/シジミチョウ科

 ツバメシジミ Everes argiades argiades (Pallas, 1771) は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)ツバメシジミ属(Genus Everes)に属するチョウで、和名の由来でもある後翅の尾状突起が特徴。ユーラシアの温帯に広く分布し、日本では北海道・本州・四国・九州に分布。平地の草原や公園などで春から秋まで見られる普通種である。どこでも見ることができるためか、 足元近くを飛んでいても、普段はほとんど気にも留めない。オスの翅表は明るい青色で、メスはほとんどが暗い褐色であるが、春の時期だけは良く観察したい。なぜなら、春先に羽化するツバメシジミのメス(低温期型)は、暗褐色の翅表面に青い斑紋が出現することがあるからである。
 気晴らしにカメラを持って神奈川県の里山を訪れ、前記事のツマキチョウを撮っていると1頭だけツバメシジミが飛んできた。葉に止まって翅を開くと、青い斑紋は発達した低温期型のメスであった。これまでに様々な地域で何回か目撃し撮影をしているが、今回のツバメシジミのメス(低温期型)が、一番美しいと感じた。

 日頃から身近に存在しながら目を向けないものは、このチョウに限らず多くあるように思う。見方や考え方を変えて、改めて見つめてみる必要があるのではないだろうか。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ツバメシジミ(低温期型メス)の写真
ツバメシジミ(低温期型メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 400 +2/3EV(撮影地:神奈川県 2023.4.10 11:05)
ツバメシジミ(低温期型メス)の写真
ツバメシジミ(低温期型メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 400 +2/3EV(撮影地:神奈川県 2023.4.10 11:09)
ツバメシジミ(低温期型メス)の写真
ツバメシジミ(低温期型メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 400 +2/3EV(撮影地:神奈川県 2023.4.10 11:07)
ツバメシジミ(低温期型メス)の写真
ツバメシジミ(低温期型メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/640秒 ISO 200(撮影地:栃木県 2017.5.03 13:11)
ツバメシジミ(低温期型メス)の写真
ツバメシジミ(低温期型メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/800秒 ISO 200(撮影地:栃木県 2017.5.03 13:12)
ツバメシジミ(低温期型メス)の写真
ツバメシジミ(低温期型メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200(撮影地:埼玉県 2013.5.26 9:38)
ツバメシジミ(メス)の写真
ツバメシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 320 +1EV(撮影地:東京県 2010.10.10 12:31)
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ムラサキツバメ

2022-11-25 16:20:06 | チョウ/シジミチョウ科

 ムラサキツバメ Narathura bazalus turbata (Butler, 1881) は、ジミチョウ科(Family Lycaenidae)ムラサキシジミ属(Genus Narathura)で、世界におよそ200種からなるグループの中の1種である。分類は未だに定まっていない。(シノニム:Arhopala bazalus)
 オスの翅の表側はほぼ全体が深い紫色で、メスでは黒褐色の地色の中の狭い部分が明るい紫色に輝く。近縁種のムラサキシジミ Narathura japonica japonica (Murray 1875) (参考までに以下に写真を掲載)とは、後翅に尾状突起があることで容易に区別できる。成虫は5月下旬から6月頃から現れ、3~4世代を繰り返しながら11月頃まで見られる。
 ムラサキツバメは、成虫で集団越冬することでも知られている。何頭ものムラサキツバメが葉の上に集まり越冬するのだが、寒さが厳しくなると散らばって個々に越冬するようである。千葉県の生息地(都市公園)では、毎年、葉の上に数匹が集まって越冬する姿を観察することができる。実験的に木を揺らしてみると、それぞれ散り散りに飛んでいくが、数分するとまた同じ木のほとんど同じ葉の上に集まってくる。
 公園には、個々の木の名前の札が付いている。ムラサキツバメが越冬に選んだ木は「カクレミノ」。ウコギ科の常緑亜高木で、着ると体が見えなくなるという想像上の宝物の一つである「隠れ蓑」に葉の形が似ていることが名前の由来らしい。ムラサキツバメが、カクレミノで身を隠して越冬するのも面白い。

 前記事で地球温暖化について記したが、ムラサキツバメも温暖化と関係が深い。もともと近畿地方以西の本州、四国、九州に分布していたが、1990年代後半以降は東海、関東地方でも普通に見られるようになった。
 チョウの分布北上は、気候の温暖化を介さずともチョウ自らが耐寒性を増大させたり休眠期間を長くさせる等の適応を通じて北上することもできるが、埼玉県環境科学国際センターの嶋田知英氏の研究によれば、ムラサキツバメの関東地方へ侵入した個体の過冷却点(体組織の凍結開始温度)は意外に高く、本種が耐寒性を増大して北に分布を拡大した可能性は低いという。つまり、温暖化によって生存可能な温度帯の地域が北上しているということである。
 北陸や栃木県の一部でも成虫が確認されているが、越冬はできずに、発生期間中に飛来したものと考えられている。また、ムラサキツバメは、温暖化の他に食草であるマテバシイが街路樹や庭木として盛んに植樹されていることが関係しているとも言われている。
 南方系のチョウ類がその分布域を北方に広げていく現象は、ムラサキツバメ以外にもナガサキアゲハ、モンキアゲハ、ツマグロヒョウモン、クロコノマチョウなどが広く知られており、いずれも地球温暖化が影響している。一方、高山蝶は、温暖化により生息できる標高がどんどんと高くなり、本州のクモマベニヒカゲにおいては、昨今2,500mを越えないとなかなか見られない状況である。

参考文献/北原正彦(2006)チョウの分布域北上現象と温暖化の関係,地球環境研究センターニュース Vol.17 No.9

関連ブログ記事/チョウの北上

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ムラサキツバメの写真
ムラサキツバメの越冬
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 3200(撮影地:千葉県 2010.11.13 11:03)
ムラサキツバメの写真
ムラサキツバメの越冬
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 3200(撮影地:千葉県 2010.11.13 11:11)
ムラサキツバメの写真
ムラサキツバメのオス
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 -1/3EV(撮影地:千葉県 2010.12.11 10:15)
ムラサキツバメの写真
ムラサキツバメのオス
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 320 -1/3EV(撮影地:千葉県 2010.12.11 10:37)
ムラサキツバメの写真
ムラサキツバメのメス
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250 -1/3EV(撮影地:千葉県 2010.12.11 10:39)
ムラサキシジミの写真
ムラサキシジミのオス
Canon 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 1000(撮影地:埼玉県 2017.6.11 10:31)
ムラサキシジミの写真
ムラサキシジミのメス
Canon 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 500 -2/3EV(撮影地:東京都 2017.8.19 12:23)

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ミヤマシジミ

2022-09-19 14:32:51 | チョウ/シジミチョウ科

 ミヤマシジミ Plebejus argyrognomon (Bergstrasser, 1779) は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)ヒメシジミ属(Genus Plebejus)に分類されるチョウ。これまで栃木県、山梨県、富山県で観察し撮影しているので、それぞれで写した写真を掲載しまとめた。

 ミヤマシジミは、翅裏は灰色で、外周に沿ってオレンジの帯が入る。そのオレンジ帯の中にある黒斑に水色の構造色がある点が特徴である。ユーラシア大陸から北米大陸にかけての寒冷地に広く分布する草原性チョウ類で、国内の分布域は本州のみで、分布の中心は関東~中部地方で、食草であるマメ科のコマツナギが生える乾燥した河川敷や堤防の草地、富士山や浅間山、八ヶ岳など火山の裾野に広がる低茎草地に局所的に生息している。
 食草であるコマツナギは日当たりが良く、ススキなど背の高い草本が生育しない環境を好む。河川の増水や植生遷移の影響を受けない乾燥した草地が長期間安定的に存在することがミヤマシジミの生息条件にもなっている。
 ミヤマシジミは、近年の河川改修や護岸工事、草刈りの放棄による植生遷移等により、全国的に激減している。東京大学の調査では、1950年以降現在までに記録されてきた確実な産地と、未発表の確認産地の計16都県約300市町村のうち、現在絶滅したと思われる産地はおよそ6都県約140市町村に達し、この数は実に半数近くにのぼる。本種の分布推移を過去10年ごとに比較すると、1970年以降から生息地が大幅に減少し、特に分布の辺縁部や関東周辺で著しいことを明らかにしている。本種は、環境省版レッドリストでは、絶滅危惧IB類にランクされており、都道府県版レッドリストでは、山梨県・埼玉県・群馬県・福島県で絶滅危惧I類に、静岡県・長野県・岐阜県・富山県・新潟県・山形県・栃木県では絶滅危惧Ⅱ類に選定している。
 また本種の幼虫は、アリと共生関係を結んでいることが近年の研究で分かっている。共生しているアリ類の種としては、クロオオアリ、クロヤマアリ、トビイロケアリの3種が確認されており、ミヤマシジミの生息には、アリの生息も必要である。
 山梨県の生息地は、富士山の火山灰が積もった草原で、富山県と栃木県は、大きな河川の河川敷で増水の影響を受けない高さにあるが、いずれの生息場所もかなり局所的で、十数メートル四方でしか発生していない。成虫は食草であるコマツナギの周囲を離れることないようである。
 どの生息地も草刈りは一切行われていないが、栃木県の生息地ではススキやつる性の植物が進出し、過去の状況に比べてコマツナギはかなり減少傾向にある印象だ。このままでは、ミヤマシジミの生息数は年々減少していくものと思われる。継続して観察し、状況を把握していく必要があるだろう。

 この週末は台風14号が鹿児島に上陸し、その影響で関東も土砂降り時々晴れの天気である。九州中国方面で被害に遭われた方々には心よりお見舞い申し上げたい。
 次の週末以降は、天気次第ではあるが、雲海が滝のように流れる様子と星空の組合せ、そして秋ならではのトンボ達を追いかけたいと思っている。

参照:ミヤマシジミ属

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ミヤマシジミの写真
ミヤマシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/250秒 ISO 250(撮影地:栃木県 2021.9.12 8:47)
ミヤマシジミの写真
ミヤマシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F3.5 1/320秒 ISO 320 +1EV(撮影地:栃木県 2021.9.12 8:05)
ミヤマシジミの写真
ミヤマシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F13 1/320秒 ISO 1600 +2/3EV(撮影地:栃木県 2022.9.16 7:21)
ミヤマシジミの写真
ミヤマシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F13 1/250秒 ISO 1600 +2/3EV(撮影地:栃木県 2022.9.16 7:20)
ミヤマシジミの写真
ミヤマシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 800 +1EV(撮影地:栃木県 2021.9.12 8:48)
ミヤマシジミの写真
ミヤマシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 500(撮影地:富山県 2016.5.28 9:20)
ミヤマシジミの写真
ミヤマシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 250 +1EV(撮影地:栃木県 2013.9.28 8:20)
ミヤマシジミの写真
ミヤマシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/250秒 ISO 200 +2/3EV(撮影地:山梨県 2013.8.14 6:47)
ミヤマシジミの写真
ミヤマシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 500(撮影地:富山県 2016.5.28 9:21)
ミヤマシジミの写真
ミヤマシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 640(撮影地:富山県 2016.5.28 9:21)
ミヤマシジミの写真
ミヤマシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO 250 +2/3EV(撮影地:山梨県 2013.8.14 6:48)
ミヤマシジミの写真
ミヤマシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F13 1/250秒 ISO 1250 +2/3EV(撮影地:栃木県 2022.9.16 7:19)
ミヤマシジミの写真
ミヤマシジミ(少しだけ青い鱗粉が出現した秋型のメス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/125秒 ISO 250 +2/3EV(撮影地:山梨県 2013.8.14 6:42)

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ルリシジミ

2022-09-18 10:07:51 | チョウ/シジミチョウ科

 ルリシジミ Celastrina argiolus (Linnaeus, 1758)は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)ルリシジミ属(Genus Celastrina)のチョウで、全国的に分布し、低地から山地の明るい草地などで普通に見られるシジミチョウである。翅の表面は、オスは明るい青藍色、メスは外縁部が広く黒褐色、裏面は白の地色に黒色の斑点がある。  蛹で越冬し、年3~4回、3~11月にかけて発生する。幼虫のおもな食草は各種のマメ科植物の花蕾や新葉であるが、ときにバラ科、タデ科、ミズキ科、ミツバウツギ科、ヒルガオ科、ブナ科、ミカン科、シソ科などでも幼虫が成育することが知られている。

 ルリシジミは、ブログ(ホタルの独り言PartⅠ)では数枚登場しているが、当ブログでは1枚だけしか掲載しておらず説明もない。今回、翅が擦れてはいるがメスの半開翅を初めて撮影したので、過去に撮ったオスの写真と共に掲載した。
 ヤマトシジミやツバメシジミ等の極普通に見られる種でも、春から秋までじっくり観察してみると、季節型があったり青メスが発生したりと面白く撮影頻度も高いが、ルリシジミにおいては意外と出会いが少なく、これまでほとんど撮ってこなかった。というより、ルリシジミを撮ろうと初めから目的にして出かけたことがなく、たまたま出会えた時に気が向けば撮影するだけであった。
 今回撮影したメスは、残念ながら翅が擦れて色あせた個体であったが、新鮮な時期であればとても美しく、発生の季節によっても色の濃さが異なるので、来年は、春から秋までルリシジミに向き合いたいと思う。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ルリシジミの写真
ルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/800秒 ISO 400(撮影地:東京都 2011.4.16 9:17)
ルリシジミの写真
ルリシジミ(オスの半開翅)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/800秒 -2EV ISO 500(撮影地:東京都 2014.6.14 14:54)
ルリシジミの写真
ルリシジミ(オスの開翅)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/800秒 -2 2/3EV ISO 500(撮影地:東京都 2014.6.14 15:03)
ルリシジミの写真
ルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 -1EV ISO 3200(撮影地:東京都 2014.6.14 15:07)
ルリシジミの写真
ルリシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 +1/3EV ISO 200(撮影地:栃木県 2022.9.16 7:59)
ルリシジミの写真
ルリシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 +1/3EV ISO 500(撮影地:栃木県 2022.9.16 8:00)
ルリシジミの写真
ルリシジミ(メスの半開翅)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F13 1/250秒 ISO 640(撮影地:栃木県 2022.9.16 6:41)
ルリシジミの写真
ルリシジミ(メスの半開翅)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F13 1/320秒 +1/3EV ISO 1000(撮影地:栃木県 2022.9.16 7:43)
ルリシジミの写真
ルリシジミ(メスの半開翅)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 +1/3EV ISO 800(撮影地:栃木県 2022.9.16 7:47)

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サツマシジミの開翅

2021-11-03 15:05:56 | チョウ/シジミチョウ科

 サツマシジミの開翅を7年目にしてようやく撮影することができた。

 サツマシジミ Udara albocaerulea albocaerulea (Moore, 1879) は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)/タッパンルリシジミ属(Genus Udara)のチョウ。南方系で、薩摩の国(現在の鹿児島県)で最初に見つかったので、サツマという和名が付いているが、実際は本州(三重、和歌山、広島、山口の沿岸部)、四国と九州の沿岸部等に分布している。近年では、温暖化の影響により、大阪府や愛知県、静岡県の一部にも分布を広げ、海岸付近の樹林帯、山間の渓谷地帯・人家付近の草地等で見られる。
 サツマシジミの成虫は、3月中旬から11月頃まで年4~6回ほど発生し蛹で越冬する。幼虫は、サンゴジュ、クロキ、ハクサンボク、ガマズミ、イヌツゲ、バクチノキ等の花や蕾を食べるが、食樹の開花期に合わせて生息地が移動すると言われ、生息地であっても季節によっては全く目撃すらできないことも少なくない。東京から通った、これまでの遠征記録をまとめてみると以下のようになる。

  • 2015年5月02日  和歌山県 1頭も見ず
  • 2015年5月17日  三重県 大型の春型多し 撮影は翅裏のみ(サツマシジミ
  • 2016年11月04日 和歌山県 1頭も見ず
  • 2017年10月15日 高知県 1頭も見ず
  • 2018年10月20日 三重県 1頭も見ず
  • 2019年 日程が合わず断念
  • 2020年5月24日  高知県 偶然の目撃 撮影は翅裏のみ(サツマシジミの吸水
  • 2020年10月24日 和歌山県 1頭だけ 撮影は翅表を少しだけ(サツマシジミ
  • 2020年10月31日 三重県 1頭も見ず

 以上のように、昨年に翅表が少しだけ見られる程度の写真を撮影できたが、何としてでも、今年は開翅写真を撮りたいと思い、和歌山県まで遠征した。
 今回は、過去の撮影地とは違う場所にポイントを絞り、早朝から日当たりの良い石垣に群生するヒメツルソバや渓流の河原で待機した。しかし、飛んでくるのは、ヤマトシジミとウラナミシジミばかり。半ば諦めていると、地元の方が声を掛けてくれた。昨年は、とても少なく、今年は1頭も飛んでこないと言う。生態系がおかしくなっているんじゃないかと仰っていた。それならばと急いでいつもの撮影場所に車を走らせた。
 そこは、小さな草地。日の当たる場所では、多くの小さなシジミチョウが舞っている。ヤマトシジミにヤクシマルリシジミ・・・1頭1頭逆向で翅を透かして見てみると、前翅の中央の白斑が透けて見え、翅裏の弦月状斑もない。サツマシジミである。しかも数がかなり多い。ただし、小さい個体が多く、ヤクシマルリシジミと同じ大きさである。おそらく低温期型で今年最後の発生なのだろう。春型の個体は大きく見応えがあるが、この時期の個体は大きさにばらつきがあるようである。
 日の当たっている草地では、翅裏の白さが際立っている大きめのメスがイヌタデやミゾソバで吸密していた。朝の気温は14℃であったが、日当たりの良い場所は22℃。この個体は盛んに花から花へ移動しており、一向に翅を開かない。しばらくすると、森の林冠へ飛び去ってしまった。
 まだ日の当たっていない草地では19℃。あちこちで咲いているセンダングサの花で吸蜜している個体も多いが、葉上に止まっている個体も数頭いる。この気温ならば翅を開いてくれるに違いないと思い、その中からターゲットを絞って1頭の個体にカメラを向ける。20分ほどすると翅をすりすりし始め、開いてくれた。全開翅ではないが、十分に翅表の色彩を確認できる。「美しいものを 一番美しい時に 美しく撮る」という理念のもと、ようやく、念願が叶った瞬間であった。また、翅が少し痛んで擦れていたがメスの半開翅も撮影することもできた。尚、掲載写真は同所に多くいたヤクシマルリシジミも掲載した。

 サツマシジミの開翅を撮るまでに7年を費やし、今年撮影したヒロオビミドリシジミヒサマツミドリシジミのオスの開翅も同じく7年かかっている。撮影には、チョウの生態や習性を学ぶことがまず重要だが、いずれも遠い生息地。運の良さに感謝したい。
 しかしながら、これまでの経緯と結果で生態や習性に関する知見が深まっても、写真は単なる記録であり、どれだけ苦労して撮っても自己満足の範疇である。保全に対しては何ら役立つこともない。こうしたインターネットでの公開が、生息地や発生時期等の情報を広めてしまうこともある。
 サツマシジミは、環境省の絶滅危惧種のカテゴリーにはなく、自治体のRDBにも記載はない普通種の扱いであるが、この日、撮影者私一人に対して、網を持った採集者が4人。大阪ナンバーの方は、私の傍らで網を振り回し飛んでいる個体を片っ端から採集していた。趣味の標本コレクションであろうと研究という名目であろうと、一人が1頭しか採らなくても100人が採れば100頭いなくなる。採集は駆除に等しい。
 過去にギフチョウとルーミスシジミの記事において「採集だけで絶滅するほど生物は弱くない」だとか、「生息環境が山深い原生林であることから、大量に採集できるような条件の良いときであっても、全体の発生数からすれば微々たるもの。」等という安易な想像だけでコメントを下さった方もいたが、採集するならば、その地域全体の正確な生息分布と生息数の調査を行い、個体群動態解析及び存続可能性分析を行った上で、採集者全員でその年の採集できる総数を決めて採るべきである。それら調査と分析を行わず戯言を述べながらの採集は許しがたい。
 無責任な行為は、採集だけでなく撮影でも同じである。撮るためなら何をしても良い訳ではない。ホタルの撮影に関し「マナーを他人に押し付けるな」と私に言い放ったプロのカメラマンもいたが、サステナブルな社会の実現が叫ばれる昨今、私自身を含め、各々が自分の行為行動を見つめ直す必要があろう。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

サツマシジミの写真
サツマシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 320(撮影地:和歌山県 2021.10.29 10:35)
サツマシジミの写真
サツマシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 1600 +1/3EV(撮影地:和歌山県 2021.10.29 9:49)
サツマシジミの写真
サツマシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 1600 +1/3EV(撮影地:和歌山県 2021.10.29 9:55)
サツマシジミの写真
サツマシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 1250 +1/3EV(撮影地:和歌山県 2021.10.29 9:55)
サツマシジミの写真
サツマシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 1000 +1/3EV(撮影地:和歌山県 2021.10.29 9:55)
サツマシジミの写真
サツマシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 1000 +1 1/3EV(撮影地:和歌山県 2021.10.29 10:14)
ヤクシマルリシジミの写真
ヤクシマルリシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:和歌山県 2021.10.29 10:15)
ヤクシマルリシジミの写真
ヤクシマルリシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 160 +1/3EV(撮影地:和歌山県 2021.10.29 8:34)
ヤクシマルリシジミの写真
ヤクシマルリシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 320 +1/3EV(撮影地:和歌山県 2021.10.29 8:36)

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ヤクシマルリシジミ(開翅)

2020-10-28 17:41:52 | チョウ/シジミチョウ科

 ヤクシマルリシジミ Acytolepis puspa ishigakiana (Matsumura, 1929)は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)/ヤクシマルリシジミ属(Genus Acytolepis)のチョウで、和名は、屋久島で最初に発見されたことによる。翅の開張は27mm内外。ルリシジミに似ているが、雄の翅表の黒縁は幅広く、翅裏の黒点斑は強い。ただし季節型があり、高温期と低温期では、翅裏の斑紋や翅表の色が異なる。
 国内では20年程前まで紀伊半島南部、四国南部、九州南部、南西諸島に分布が限られていたが、最近では地球温暖化のためか急速に分布が拡大しており、2008年7月の 東京大学本郷キャンパス内昆虫調査では、関東圏では初めてヤクシマルリシジミを発見している。研究では、東京産の個体が日本本土内の移動によって分散したことが明らかにされているが、分散経路としては分布拡大に伴う飛来発生よりも、植栽による人為的導入の可能性が高いことが示唆されている。
 年に数回発生し、夏から秋に多い。越冬態は不定だが、1月末に三重県熊野市で観察報告があることから、成虫で越冬している場所もあるようである。
 本種は、2016年11月に撮影しているが、その時はオスの写真は1枚のみで、しかも半開翅写真であった。今回は、同じ場所でオスの開翅も撮影したので紹介したいと思う。日陰で全開翅した時の青色が美しく、印象的であった。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorer等ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ヤクシマルリシジミの写真

ヤクシマルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 2000(撮影地:和歌山県串本町 2020.10.24 9:20)

ヤクシマルリシジミの写真

ヤクシマルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 640(撮影地:和歌山県串本町 2020.10.24 9:34)

ヤクシマルリシジミの写真

ヤクシマルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 640 +2/3EV(撮影地:和歌山県串本町 2020.10.24 9:36)

ヤクシマルリシジミの写真

ヤクシマルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 640 +2/3EV(撮影地:和歌山県串本町 2020.10.24 9:37)

ヤクシマルリシジミの写真

ヤクシマルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200 +2/3EV(撮影地:和歌山県串本町 2020.10.24 9:38)

ヤクシマルリシジミの写真

ヤクシマルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 1000 +2/3EV(撮影地:和歌山県串本町 2020.10.24 9:41)

ヤクシマルリシジミの写真

ヤクシマルリシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 1250 +1EV(撮影地:和歌山県串本町 2020.10.24 9:40)

ヤクシマルリシジミの写真

ヤクシマルリシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:和歌山県串本町 2020.10.24 10:02)

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サツマシジミ

2020-10-26 21:42:51 | チョウ/シジミチョウ科

 サツマシジミ Udara albocaerulea albocaerulea (Moore, 1879) は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)/タッパンルリシジミ属(Genus Udara)のチョウ。南方系で、本州(三重、和歌山、広島、山口の沿岸部)、四国と九州の沿岸部等に分布しているが、近年では、温暖化の影響により、大阪府南部や静岡県の藤枝市でも見ることができる。食樹は、サンゴジュ、クロキ、モチノキなどである。

 サツマシジミは2015年から追いかけ、2015年5月に三重県で、今年の5月に高知県で撮影しているが、何れも翅裏の様子だけ。過去には、和歌山へ2回、高知と三重にも1回ずつ遠征しているが、この時は出会うことさえ叶っていないチョウである。普通種ではあるが、生息場所が限られており、また遠方であるため発生のタイミングがつかめないことが原因であろう。
 今年は、新型コロナウイルスの感染予防のための自粛と長梅雨の影響で、チョウの撮影予定をすべて中止にしていた。唯一、5月の高知遠征時に、偶然イシガケチョウを撮っただけであった。今回、 このサツマシジミの開翅写真を撮ることを主目的として、和歌山県を訪れた。単にチョウの姿を撮るだけならば、出会いさえ叶えばそんなに難しくはないが、ゴマシジミを代表するように翅を全開にして止まることが少ない本種の開翅写真撮影は、長年の大きな課題である。

 この地は、今回で3回目の訪問である。タムロンのAF70-200mm MACRO レンズを使うのも、随分と久々である。前日入りして車中泊。朝7時から探索を開始した。日当たりの良い道をゆっくりと歩きながら探すとクロマダラソテツシジミ、ヤマトシジミ、ヤクシマルリシジミ、ウラナミシジミは多いが、本種は見つからない。この道には、ほとんど花が咲いていないので、探索場所を変え、センダングサの花が沢山さいている草地に絞ることにした。ただし、山の影になっているため太陽が当たるのは9時半を過ぎてからになった。
 朝日が当たり始めると、様々なチョウたちがセンダングサの花で吸密を始めた。一番多いのはヤクシマルリシジミである。10時をすぎて、ようやくミゾソバで吸密している1頭のサツマシジミ(オス)を見つけた。この日は10時の時点で気温が23℃。活性が高いためか翅を開いてくれない。他に個体は見当たらない。翅表は、最後にほんの少しだけ垣間見られた程度で、林の上へ飛んで行ってしまった。
 来年は、秋の高知にてヘイケボタルの幼虫観察を予定しているので、サツマシジミも探しに行って見ようと思う。

 以下には、サツマシジミ(2015年撮影を2枚含む)の他、今回見られたクロマダラソテツシジミ、ウラナミシジミ、ヤマトシジミも掲載した。クロマダラソテツシジミは、翅裏の模様に個体変異(変異と言うより、低温期型の特徴と教えて頂いた。)があり、ヤマトシジミのメスは青い鱗粉がのった低温期型であることが分かる。尚、ヤクシマルリシジミは次の記事で紹介したいと思う。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorer等ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。

サツマシジミの写真

サツマシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 250(撮影地:和歌山県 2020.10.24 10:06)

サツマシジミの写真

サツマシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 320(撮影地:和歌山県 2020.10.24 10:08)

サツマシジミの写真

サツマシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 640(撮影地:和歌山県 2020.10.24 10:21)

サツマシジミの写真

サツマシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 800(撮影地:和歌山県 2020.10.24 10:21)

サツマシジミの写真

サツマシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 2000(撮影地:三重県 2015.5.17)

サツマシジミの写真

サツマシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 2000(撮影地:三重県 2015.5.17)

クロマダラソテツシジミの写真

クロマダラソテツシジミ(低温期型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 800(撮影地:和歌山県 2020.10.24 10:21)

クロマダラソテツシジミの写真

クロマダラソテツシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 2000(撮影地:和歌山県 2020.10.24 9:22)

ウラナミシジミの写真

ウラナミシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 160(撮影地:和歌山県 2020.10.24 7:33)

ウラナミシジミの写真

ウラナミシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:和歌山県 2020.10.24 7:34)

ヤマトシジミの写真

ヤマトシジミ(低温期型メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 1000(撮影地:和歌山県 2020.10.24 9:48)

ヤマトシジミの写真

ヤマトシジミ(低温期型メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 1600(撮影地:和歌山県 2020.10.24 9:50)

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サツマシジミの吸水

2020-06-06 19:37:24 | チョウ/シジミチョウ科

 サツマシジミ Udara albocaerulea albocaerulea (Moore, 1879) は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)ヒメシジミ族(Tribe Polyommatini)タッパンルリシジミ属(Genus Udara)のチョウで、薩摩という名前の如く南方系で、本州(三重、和歌山、広島、山口の沿岸部)、四国と九州の沿岸部等に分布しているが、近年では、温暖化の影響により、大阪府南部や静岡県の藤枝市でも見ることができる。多化性のチョウで4~11月にかけて出現する。幼虫の食樹は、サンゴジュ、クロキ、モチノキなどである。

 サツマシジミは普通種ではあるが、関東で出会うことができないため、撮影しようと思えばかなりの遠征になる。一番最初は2015年の5月のGWに和歌山県を訪れたが空振り。その2週間後に三重県伊勢市においてミカドアゲハとともに撮影できブログのPartⅠに「サツマシジミ」として掲載したが、翅裏の様子だけであった。翅表を撮りたいが、止まっている時になかなか翅を開かないチョウなのである。
 秋口には、比較的開翅することが分かっていたので、2016年の11月に再び和歌山県を訪れたが、その時は1頭も目撃すらできず、ヤクシマルリシジミの撮影で終わっていた。更に、2018年10月にも三重県伊勢市を訪れたが、やはり見つけられず、その後は遠征をためらっていた。
 ところが、先月の高知遠征の際、渓流沿いにて吸水している本種2頭を目撃し、その様子を撮影することができた。吸水後に翅を開くかと、ずっと追いかけたが、残念ながら今回も開翅はなし。30分ほど吸水した後、林の中へ消えていった。飛翔の瞬間を撮影すれば翅表を撮れなくはないが、やはり止まっている時に開いた翅表を奇麗に撮りたい。この秋に、再度和歌山訪問としたい。

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サツマシジミの写真

サツマシジミ(吸水)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1000 +2/3EV(撮影地:高知県 2020.5.24 9:52)

サツマシジミの写真

サツマシジミ(吸水)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1000 +2/3EV(撮影地:高知県 2020.5.24 9:54)

サツマシジミの写真

サツマシジミ(吸水)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 500 +2/3EV(撮影地:高知県 2020.5.24 10:04)

サツマシジミの写真

サツマシジミ(吸水)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 +1EV(撮影地:高知県 2020.5.24 10:11)

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ベニシジミ(白化型、黒化型、青紋型)

2020-05-16 17:36:48 | チョウ/シジミチョウ科

 ベニシジミは、あまりに普通に見られるため、これまでの主目的としては撮影してこなかったが、この10年間で撮影した本種の撮影データを見直してみると、ベニシジミの白化型と黒化型を撮っていたので紹介しておきたいと思う。
 ベニシジミ Lycaena phlaeas chinensis (C. Felder, 1862) は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)ベニシジミ属(Genus Lycaena)で、日当りのよい草原などに普通にみられる赤色系のシジミチョウである。年に3~5回ほど、春から秋にかけて発生する。春と秋に発生する低温期型は赤橙色の部分が鮮やかで、夏に発生する高温期型(夏型)は黒褐色部分が太くなる特徴があるが、低温期型には赤橙色の部分が白化する個体がおり、高温期型には赤橙色の部分が黒化する個体の存在が知られている。また、低温期型のメスの一部には、後翅表の外縁に青色の紋列が出現する個体がおり、caeruleopunctata という形質として知られている。
 季節型の相違では、高温期型後翅の赤橙色の部分は、低温期型のそれと比べると尾状突起のような形になっており、秋に発生する低温期型にも同じ形の個体が見られる。

 5月14日に39の県で緊急事態宣言が解除されたが、私の住む東京は、引き続き外出自粛が要請されたままである。当ブログ5/6の記事(ライフスタイルの形態と基本事項)では、基本事項を遵守しながら活動を5月16日(土)から再開すると記載したが、本日16日は雨。明日は晴れの予報で行きたい場所があるが、都県をまたぐ遠征になるので、今年は我慢することにした。というより、今週11日~15日までの会社業務が激務で疲労困憊。次週末の遠征のために休養日としたい。

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ベニシジミ(白化型)の写真

ベニシジミ(白化型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 200 -2/3EV(撮影日:2015.4.18)

ベニシジミ(黒化型)の写真

ベニシジミ(黒化型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/800秒 ISO 200(撮影日:2011.8.06)

ベニシジミ(青紋型)の写真

ベニシジミ(青紋型 caeruleopunctata)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 640 +1EV(撮影地:栃木玄真岡市 2021.4.03 11:02)

ベニシジミ(黒化傾向の個体)の写真

ベニシジミ(黒化傾向の個体)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/800秒 ISO 200(撮影日:2011.8.06)

ベニシジミの写真

ベニシジミ(低温期型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 200 +1/3EV(撮影日:2024.4.20)

ベニシジミの写真

ベニシジミ(低温期型/青紋型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/320秒 ISO 200(撮影日:2012.4.21)

ベニシジミの写真

ベニシジミ(低温期型/青紋型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/320秒 ISO 200 +2/3EV(撮影日:2011.4.02)

ベニシジミの写真

ベニシジミ(低温期型/青紋型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F9.0 1/320秒 ISO 800(撮影日:2012.6.02)

ベニシジミの写真

ベニシジミ(高温期型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/800秒 ISO 200(撮影日:2010.10.02)

ベニシジミの写真

ベニシジミ(高温期型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/800秒 ISO 200(撮影日:2011.8.06)

ベニシジミの写真

ベニシジミ(低温期型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F3.5 1/500秒 ISO 200V(撮影日:2011.10.16)

ベニシジミの写真

ベニシジミ(高温期型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 200 +2/3EV(撮影日:2018.9.15)

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オオルリシジミ

2019-05-29 21:50:23 | チョウ/シジミチョウ科

 オオルリシジミ Shijimiaeoides divinus (Fixsen, 1887)は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)オオルリシジミ属(Genus Shijimiaeoides)のチョウで、以下の2亜種に分類される。

  1. オオルリシジミ 本州亜種 Shijimiaeoides divinus barine (Leech, 1893)
  2. オオルリシジミ 九州亜種 Shijimiaeoides divinus asonis (Matsumura, 1929)

 オオルリシジミは、山地の明るい草原に生息し、とくに火山草原を好む。成虫は年に1回、5~6月に発生。卵は約1週間で孵化し、マメ科のクララの蕾と花を食べた後、アリによって巣に運ばれ7月から蛹として約10カ月を土中で過ごすが、日本各地で絶滅し、現在では、長野県安曇野市、東御市、飯山市(本州亜種)と熊本県阿蘇山系(九州亜種)の4地域でしか見ることが出来ない極めて希少な種(環境省カテゴリ:絶滅危惧Ⅰ類)である。
 かつては、人々が食草であるクララを薬草などとして利用するために、田の畦や用水路の土手などに植えて草刈りや野焼きを定期的に行ってきたが、1962年頃から大規模土地改良事業が行われ、クララを含めた草原植生は喪失し、野焼きも行われなくなったことで生息環境が消失したことが減少の一番の原因と言われている。草原は放置しておくと背丈の高いススキやカヤなどが増加するため、クララは減少してしまう。保護には継続的な春先の野焼きや草刈りによる二次的草地環境の維持が重要であろう。草地環境の維持は共生関係にあるアリの生息にも大きく影響するし、卵への寄生蜂を駆除することにもなる。
 現在、長野県では、長野県希少野生動植物保護条例に基き、東御市と安曇野市において「オオルリシジミ保護回復事業」として飼育個体の野外導入により保護回復(増殖)活動が続けられている。

 前記事で紹介したクモマツマキチョウの撮影後に、オオルリシジミの保護区がある「国営アルプスあづみの公園」に寄ってみた。食草であるクララの周りでは多くのオオルリシジミが飛び交い、メスは盛んに散乱していた。以前は、卵への寄生蜂の影響で定着が危惧されていたが、昨今では公園内でも定期的に野焼きを行い、生息環境の維持に努めているという。この保護区で成虫となった本種は、80%が他へ飛んでいくと言われ、他地域においてもクララを植えるなどして、生息環境の拡大も行っている。
 筆者は、本種の保全に直接関わってはおらず、こうして写真でしか紹介できないが、本種の生態や生息環境を理解し知識を深めることは、本種のみならずホタルをはじめとした多くの絶滅危惧種の保全にも役立つものであると思う。
 以下には、今回(2019年5月26日)に撮影したものと、2013年5月26日に撮影したものを合わせて掲載した。

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オオルリシジミの交尾
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250 +2/3EV(撮影地:長野県安曇野市 2013.5.26)

オオルリシジミの写真

オオルリシジミの交尾
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200 +2/3EV(撮影地:長野県安曇野市 2013.5.26)

オオルリシジミの写真

オオルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200 +2/3EV(撮影地:長野県安曇野市 2013.5.26)

オオルリシジミの写真

オオルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 320 +1EV(撮影地:長野県安曇野市 2013.5.26)

オオルリシジミの写真

オオルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/310秒 ISO 200(撮影地:長野県安曇野市 2019.5.26)

オオルリシジミの写真

クララに産卵するオオルリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 320(撮影地:長野県安曇野市 2019.5.26)

オオルリシジミの写真

オオルリシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 800(撮影地:長野県安曇野市 2019.5.26)

オオルリシジミの写真

オオルリシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200(撮影地:長野県安曇野市 2013.5.26)

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シルビアシジミ

2018-11-19 18:13:13 | チョウ/シジミチョウ科

 シルビアシジミ Zizina emelina emelina (de l'Orza, 1869) は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)ヒメシジミ族(Tribe Polyommatini)シルビアシジミ属(Genus Zizina)に分類される体長10mmほどのシジミチョウで、昆虫学者でもあった中川和郎氏(国立がんセンターの初代所長)の娘の名前にちなむ。年に4回程発生し、幼虫で越冬。成虫は4月下旬から11月頃までほぼ連続して見られる。羽化する時期によって低温期型と高温期型があり、低温期に羽化する個体は青い鱗粉が濃く(メスにも前翅表基部に弱い青藍色斑が現れ)また、高温期型に比べてとても小さい等の形態的特徴がある。

 シルビアシジミは、1877年(明治10年)に発見された栃木県さくら市を東北限とした本州、四国、九州に分布し、河川敷やシバ状の草地など草丈の低い開放的な草原環境に生息し、マメ科のミヤコグサ(Lotus japonicus)などを食草としている。もともと里地里山や平野部などの人間生活に近い場所に生息していたため、土地開発によって大きな影響を受け、1980年以降、全国的に著しく減少している。本種は、発生時期において各個体が羽化するタイミングの同調性が低く、成虫の寿命が短いこと、また昆虫類特有の感染症の影響、更に本種は、移動性が低いために地域ごとに異なる遺伝子のタイプをもっていることから近交弱勢が進み、各個体群ごとの遺伝的多様性が低下し、個体数が著しく減少している。
 環境省RDBカテゴリでは、絶滅危惧ⅠB類(EN)に選定され、東京都、埼玉県、愛知県、岐阜県、滋賀県、和歌山県、高知県、愛媛県では絶滅、その他分布域のほとんどの府県で絶滅危惧Ⅰ類に選定している。栃木県さくら市では、市の天然記念物に指定しており、採集を禁止している。関東周辺においては、栃木県では鬼怒川水系と渡良瀬川水系のみ、山梨県では、富士川の河川敷等に生息、千葉県では、銚子や白浜にミヤコグサの群生地があるが、銚子では絶滅し白浜でも見られない。同県では房総の一部の農地に点在しているのみで、絶滅危惧Ⅰ類および重要保護生物に指定されている。

 シルビアシジミは、2013年から千葉県某所に通って観察と撮影を続けてきた。発生時期にはヤマトシジミ Zizeeria maha argia (Menetries, 1857) も出現し、飛んでいる様子を見ただけでは区別がつきにくいが、葉上に止まった時に翅裏の斑紋パターンを見れば、後翅裏面第6室基部の黒斑が第7室の黒斑の直下に位置することで容易に判別できる。
 昨今、比較的近縁なヤマトシジミとの交雑種(ハイブリッド)が出現しているという情報がある。両種の特徴がそれぞれ翅裏の斑紋や翅表の色彩等に現れていると言う。研究では、南西諸島に生息する近縁種のヒメシルビアシジミ Zizina otis riukuensis (Matsumura, 1929) との交尾が確認されており、ヤマトシジミにおいては、交尾は確認されてはいないものの両種間で強い関心を示すことが明らかになっており、交雑種が出現する可能性も示唆されているが、筆者は、確認していない。
 千葉県の生息地では、食草のミヤコグサも自生しているが、草地にわずかばかりであり、本種は「食草転換」をしシロツメクサを主食としている。背丈が低い草地や草がまばらに自生し地面が露出している農道を好み、地面スレスレにすばやく飛翔する様子が見られる。産卵も植生のまばらな裸地的な場所にあるシロツメクサに行われている。こうした事は他の地域でも見られる。大阪(伊丹)空港の滑走路脇の草地などでシロツメクサを主食として大繁殖している。航空機の誘導灯が草に覆われないよう頻繁に草が刈られていることで生態系が保たれ、また食草転換することで生き延びて繁殖を続けていると言われている。千葉県の房総地域では、地主の高齢化により草刈りが行われなくなり、背丈の高い草に一面埋もれてしまうなどで消滅してしまう生息地も見受けられるが、撮影地である生息地は、春季の刈り払いによる畦畔と毎月行われる刈り払いの畦畔が共存し、この環境が本種の生息につながっていると考えられるが、個体数の少なさを観察に訪れる度に感じる。
 地味なチョウではあるが、生息地ごとに遺伝子タイプが異なっていることから斑紋にも地域変異があり、標本マニアによる採集・乱獲も頻繁に行われている。幸い撮影地である生息地では、網を持った採集者はこれまで見たことがなく、地元の方にも本種の生息は知られていないので、里山管理が継続して行われることを期待し本種の存続を祈りたい。また、当地における気温と羽化時期の関係も不明であり、これまで羽化直後の翅が擦れていない個体の開翅写真も撮影できていないので、今後も観察と撮影を継続していきたい。

参考文献
坂本佳子 (2015). 絶滅危惧種シルビアシジミにおける遺伝子構成とボルバキア感染. 昆虫DNA研究会ニュースレター, 23, 11-18.
坂本佳子 (2015). シルビアシジミの生息域外保全に向けた保全単位の決定. 昆虫と自然, 50(2), 12-16.

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シルビアシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/125秒 ISO 250 +1/3EV(撮影地:千葉県 2014.9.27)

シルビアシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2013.10.13)

シルビアシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 320(撮影地:千葉県 2014.9.27)

シルビアシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2014.4.26)

シルビアシジミ(オス開翅)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2014.4.26)

シルビアシジミ(オス開翅)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/125秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2014.4.26)

シルビアシジミ(メス開翅)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F4.0 1/500秒 ISO 200 +1EV(撮影地:千葉県 2014.10.11)

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ゴマシジミ属

2018-08-19 19:03:06 | チョウ/シジミチョウ科

 ゴマシジミ属(Genus Phengaris)は、日本をはじめ、朝鮮半島、中国から中央アジアを経てヨーロッパ中央部まで分布するチョウである。日本国内においては、以下の2種が生息しており、ゴマシジミは、北海道と本州、九州(四国では確認されていない)に分布し、それぞれ亜種として分類されている。オオゴマシジミは、北海道渡島半島および本州東北~中部地方の高山に分布し、西限は飛騨山脈であるが、いずれも生息場所は極めて局所的である。

ゴマシジミ属 Genus Phengaris

  1. ゴマシジミ Phengaris teleius (Bergstrasser, 1779)
    • ゴマシジミ 北海道・東北亜種 Phengaris teleius ogumae (Matsumura, 1910)
    • ゴマシジミ 本州中部亜種 Phengaris teleius kazamoto (H. Druce, 1875)
    • ゴマシジミ 八方尾根・白山亜種 Phengaris teleius hosonoi A. Takahashi, 1973
    • ゴマシジミ 中国・九州亜種 Phengaris teleius daisensis (Matsumura, 1926)
  2. オオゴマシジミ Phengaris arionides (Staudinger, 1887)
    • オオゴマシジミ Phengaris arionides takamukui (Matsumura, 1919)

 ゴマシジミ属は、世界的にも絶滅が危惧されるチョウで、国内のゴマシジミは、絶滅危惧ⅠA類(環境省カテゴリ)、オオゴマシジミは、準絶滅危惧(環境省カテゴリ)に選定され、いずれも多くの自治体のREBにも絶滅危惧種として記載している。理由は、その特異な生態にある。  ゴマシジミは「ワレモコウ」、オオゴマシジミは「カメバヒキオコシ」を宿主植物として、若齢幼虫はその花芽を食べるが、4齢になるとアリの巣の中に移り、幼虫はそこで、アリの幼虫を食べるか、またはアリの成虫から口移しで餌をもらうのである。両種はいずれもシワクシケアリ(Myrmica kotokui)に寄生することが明らかになっており、その存在が不可欠なのである。  ただし、シワクシケアリは、形態では判別できない4つの遺伝的系統(L1~L4)に分化しており、遺伝子解析の結果、ゴマシジミおよびオオゴマシジミの生息地には,それぞれシワクシケアリの L2系統 および L3系統 が分布すること、更にゴマシジミおよびオオゴマシジミ幼虫が実際に寄生していた巣のアリ系統も、それぞれ L2系統 および L3系統 であることが明らかになっている。  シワクシケアリの生息環境は、湿った土の存在が必要条件であり、乾燥化や植物群落の遷移が進むとシワクシケアリはいなくなり、結果としてゴマシジミとオオゴマシジミは絶滅してしまうので、草原の管理が保全には大切になっている。撮影者も、むやみに草地に入り込むのは慎まなければならない。

 ゴマシジミ属の減少は、「捕獲・採集」が「開発や環境悪化」に次ぐ大きな要因となっていることがわかっている。自身のコレクションやオークションで販売目的で、産地に採集者が集まり、乱獲してしまうのである。  ゴマシジミ属は、その特異な生態から生息地が極めて限られ、ゴマシジミに至っては翅表の斑紋に地域性があり、掲載写真のように青い斑紋を持つ(青ゴマ)個体がいるため、採集者は「採れるだけ採る」のである。長野県と山梨県の一部に生息する「ゴマシジミ本州中部亜種」は、昨年「国内希少野生動植物種」に追加指定され、許可なく採集することはできなくなった。許可を受けずに捕獲したり、譲渡したりすると5年以下の懲役や500万円以下の罰金が科される。そのため、生息地においては、安定的な発生が見られるが、オオゴマシジミは採集の法的規制がない。掲載した写真は2014年に撮影したが、その後、採集圧により完全に絶滅している。撮影当日は、狭い生息場所に、カメラマン(筆者)一人に採集者4人。撮影後に、全てのオオゴマシジミが採られてしまった。長野県、栃木県、新潟県、群馬県、福島県などの生息地も採集圧により激減している状況である。

 ゴマシジミ属のみならず、絶滅危惧種については、捕獲・採集圧(商業目的や鑑賞目的の乱獲・盗掘)が以前から問題になっており、数少なくなってしまった種に対して壊滅的な打撃となることが指摘されている。こうした状況を踏まえ、環境省では、捕獲・採集が与える影響の大きさについて広く国民一般向けの普及啓発を目的としたチラシ及びポスターを作成し、都道府県や関係団体等の協力を得て全国的に配布し、また、個々の種の状況に応じて種の絶滅を回避するため、今後、保護増殖事業の実施や生息地等保護、区の設定を検討するとしているが、まずは採集できない法的規制を早急に取らなければ、現状は変わらない。

 掲載写真は、すべて過去に撮影したものだが、これまで個々のブログ記事にそれぞれ掲載していた。今回それらをまとめ、ゴマシジミにおいては、青ゴマの開翅、交尾、産卵も掲載した。

参照:絶滅危惧種の捕獲・採集圧に関する普及啓発チラシ及びポスター - 環境省野生生物が悲鳴をあげている - 環境省

  1. 参考文献
    • 上田昇平 日本産ゴマシジミ類のシワクシケアリ種内系統に対する寄主特異性 Scientific Reports volume6, Article number: 36364 (2016)
    • 巣瀬司ほか, 2003. 22. 愛知県. 日本産蝶類の衰亡と保護第5集. 日本産蝶類県別レッドデータ・リスト(2002 年): 82-87. 日本鱗翅学会, 東京.
    • 平賀 壯太 オオゴマシジミの宿主アリの再同定について やどりが2003年 2003巻 196号 p.31-34

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ゴマシジミ(青ゴマ)の写真

ゴマシジミ(青色タイプのメス) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 500(撮影地:長野県松本市 2017.8.11 9:32)

ゴマシジミ(青ゴマ)の写真

ゴマシジミ(オス) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 500(撮影地:長野県松本市 2017.8.11 9:32)

ゴマシジミの写真

ゴマシジミ(暗褐色タイプ) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 400(撮影地:長野県松本市 2017.8.11 9:32)

ゴマシジミ(交尾)の写真

ゴマシジミ(交尾) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/250秒 ISO 640 +2/3EV(撮影地:長野県松本市 2015.8.01 9:30)

ゴマシジミ(産卵)の写真

ゴマシジミ(産卵) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 320(撮影地:長野県松本市 2014.8.23 11:21)

オオゴマシジミの写真

オオゴマシジミ Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X / 絞り優先AE F8.0 1/1000秒 ISO 3200(撮影地:岐阜県高山市 2014.8.03 7:54)

オオゴマシジミの写真

オオゴマシジミ Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/800秒 ISO 2500 -2/3EV(撮影地:岐阜県高山市 2014.8.03 8:11)

オオゴマシジミの写真

オオゴマシジミ Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F3.5 1/500秒 ISO 200(撮影地:岐阜県高山市 2014.8.03 8:17)

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ルーミスシジミ(3月)

2018-04-02 21:53:02 | チョウ/シジミチョウ科

 ルーミスシジミ Arhopala ganesa loomisi (H. Pryer, 1886)は、シジミチョウ科(Family Lycaenidae)のムラサキシジミ属(Genus Arhopala)のチョウ。国内では千葉県の房総半島南部を北東限として紀伊半島・中国・四国・九州・隠岐・屋久島に、局地的に分布しているが、環境省のRDBに絶滅危惧Ⅱ類として記載され、都道府県指定状況では、徳島県を除く四国全域で絶滅、九州においても宮崎県、鹿児島県以外は絶滅、その他生息地域でも、ほとんどが絶滅危惧Ⅰ類に選定している。
 今回、2015年11月に観察と撮影(参照:ルーミスシジミ)をした千葉県内の生息地を訪れてみた。今年初の昆虫観察と撮影である。ちなみに、ルーミスシジミは、1877年アメリカの宣教師ヘンリー・ルーミスが千葉県君津市鹿野山で最初に発見している。

 ルーミスシジミの生息地に午前8時過ぎに到着。谷はまだ日陰で気温は10℃。日も当り、気温も上がってきた9時半頃から、イチイガシの樹冠近く(地上から6~7m)から飛び立つようになり、何頭かは地面に舞い降りてきた。撤収する午前10時までの間に10頭ほど確認し、地面に降りた5頭を撮影。越冬後であるため、ほとんどの個体は翅が痛んでいた。
 ルーミスシジミは、新成虫は7月に出現し、産卵や交尾をせずに越冬に入り、越冬明けの翌春に交尾し産卵するとみなされているが、詳しい生態は、未だ完全には解明されておらず、特に成虫の発生回数や時期については諸説あり、生息地域によっても異なっているようである。房総半島(鴨川市)では、7月下旬から10月には、卵・幼虫・蛹はまったく得られなかった(井上 2013.)ことや、越冬後の4月以外の時期には産卵可能と推定される程度にまでは卵巣が発育しておらず交尾嚢内に内容物が認められない(岩阪 2004.)ことから、本種は房総半島においては、年1化である可能性が高いという。しかしながら、筆者が2013年3月に撮影した大多喜町における個体(参照:ルーミスシジミ)は、前年の7月に羽化したものとは思えないほど、ほとんど翅が擦れていなかったことから、房総半島においても、地域によっては年2化の発生地があるように思う。

参考文献

井上 大成(2013)「ルーミスシジミ房総半島個体群の卵,幼虫,蛹の発生消長と発育経過」,蝶と蛾 64(2):61-74,日本鱗翅学会.
岩阪佳和(2004)「房総丘陵産ルーミスシジミの世代数の推定一卵巣の成熟、交尾嚢の形状、翅の鮮度より一」,房総の昆虫(32):8−12.

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ルーミスシジミの写真

ルーミスシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 640(撮影地:千葉県 2018.3.25)

ルーミスシジミの写真

ルーミスシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 400(撮影地:千葉県 2018.3.25)

ルーミスシジミの写真

ルーミスシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 640(撮影地:千葉県 2018.3.25)

ルーミスシジミの写真

ルーミスシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 320(撮影地:千葉県 2018.3.25)

ルーミスシジミの写真

ルーミスシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200 -2/3EV(撮影地:千葉県 2018.3.25)

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