マダラナニワトンボの連結飛翔と産卵の撮影を行った。
マダラナニワトンボ Sympetrum maculatum Oguma, 1915 は、トンボ科(Family Libellulidae)アカネ属(Genus Sympetrum)で、体長32~38mm程度、黒色に淡黄色斑を有し。成熟しても赤くならない黒味の強い赤とんぼである。
日本固有種で、平地から丘陵地の抽水植物が繁茂し、遠浅で開放的な樹林に囲まれた水質のよい池沼などに生息しているが、全国的に姿を消している。環境省版レッドリスト2020では絶滅危惧ⅠB類(EN)として記載され、都道府県版レッドリストにおいては、16の府県で絶滅危惧種としている。2000年頃では本州および四国の香川県に分布し産地が点在していたが、京都、大阪、岡山、広島では絶滅し、2015年に確認された生息地は、山形県(一か所)、福島県(一か所)、新潟県(六か所)、石川県(四か所)、岐阜県(三か所)、愛知県(一か所)、兵庫県(一か所)となっている。
池沼の埋め立てと水質悪化、ため池の管理形態の変化などが減少要因として挙げられるが、近年水田のアカネ属の減少要因の一つとしてクローズアップされてきたネオニコチノイド系農薬も絶滅・減少要因であることが示唆されている。
マダラナニワトンボは、7月頃に羽化し、羽化直後は水域を離れ、周辺の樹林で夏を越し、大きな移動は行わずに秋まで生活している。成熟する9月の下旬頃になると水辺に戻ってきて10月にかけて繁殖活動を行う。
本種は、これまでに2011年10月に福島県(絶滅危惧Ⅰ類)で、続いて2017年10月に新潟県(絶滅危惧Ⅰ類)で撮影しているが、今回7年ぶりに新潟県の生息地を訪れ、生息状況の確認及び連結飛翔と産卵の撮影を行った。
現地には午前9時前に到着し、池の様子を見ると、7年前よりも池の周囲の草がかなり茂っており、様子がだいぶ変わっていた。天候は晴れで無風。茂みでは、アオイトトンボとコバネアオイトトンボが朝露をまとって止まっている姿が多くみられた。
10時を過ぎるとキトンボが飛翔をはじめ、しばらくすると連結飛翔と連結打水産卵が観察できたが、マダラナニワトンボは、まだ姿を現さない。11時前になり、やや日差しが暑く感じ始められた頃、
池の周囲の木の枝に止まるマダラナニワトンボのオスを発見。その後、オスは池の上で飛翔を開始した。
11時を過ぎると、産卵に来たタンデムのカップルでにぎわい始める。池から1m以上離れた乾いた草地の上20cmほどの高さを、何組ものカップルがふわふわと上下動を繰り返しながら連結打空産卵を行うのである。 狭い範囲に10組ほどが集まっていることもある。全体では30~40組ほどであろうか、圧巻の光景であるが、以前は三桁の数が見られた年もあったようだ。
空中から草地にばらまかれた卵は、そのまま越冬し、雪解けとともに孵化して池に流れていくものと思われる。12時半頃になると、カップルの数が減ってくる。タンデムのまま産卵を終えてオスから離れると、単独で産卵するメスもいるが、産卵後は雌雄ともに樹林に姿を消していく。
以下には、マダラナニワトンボの連結飛翔と産卵の写真を掲載した。本種は、警戒心があまりなく、目前で何組ものカップが飛翔していたが、300mmの望遠レンズでは数組すべてにピント合わせたフレーミングはできないので、どのペアにピントを合わせるのか迷いながらの撮影。いつものようにマニュアルフォーカスで撮ったが、8月のホソミモリトンボ以来であるから、ジャスピンは多くない。さらに産み落とされた空中の卵まで写し込むのは、まぐれ当たりを願うだけであった。
この池は、水質の悪化や農薬の散布に関しては心配がないようだが、管理がされていないので草刈りなどもまったく行われない。今後、こうした環境の変化がどのように影響を及ぼすのかは分からないが、放置状態が長く続くのであれば、産卵場所がなくなってしまうかもしれない。この写真が最後にならないことを祈るばかりである。
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