ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ミヤマカラスアゲハ(春型)

2018-05-28 21:24:57 | チョウ/アゲハチョウ科

 ミヤマカラスアゲハPapilio maackii Menetries, 1858)は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)アゲハチョウ属(Genus Papilio)のチョウで、食草がミカン科のキハダ、カラスザンショウ、ハマセンダンなどであるため、深山(ミヤマ)という名前のように、主としてミカン科の野生種の生えている山地に生息している。
 本種は、地域変異や個体変異が多く、翅の色や模様が異なり、日本で最も美しい蝶と称されることもある。特に蛹で越冬して春に羽化する春型は、 小型ではあるが美しい。

 ミヤマカラスアゲハのオスは、微量のナトリウムが含まれている水場に集まるという習性があり、時に大集団になることもある。これまで、一度だけ目撃したが、その後はなかなかチャンスに恵まれず6年が経過してしまった。  今年もポイントを訪れてみたが、何頭かは水場に飛んでは来るものの、落ち着いて吸水はせず、すぐに飛び立ってしまったり、吸水すらせずに私の緑色のカメラバッグの周りを旋回した後、行ってしまうという状況で、半開翅やピンボケの写真しか撮ることができなかった。本種は、太陽光と見る角度によって翅色が違って見えるが、今回は、本種の特徴である前翅の緑色を捉えることができたので、証拠程度の写真ではあるが掲載したいと思う。(1枚目の写真は2012年に、6~7枚目の写真は2013年に同じ場所で撮影したものである。)
 今年の撮影目標は、ミヤマカラスアゲハの春型の集団吸水を撮ることであるから、撮影場所を変えて、再チャレンジしたいと思う。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ミヤマカラスアゲハの写真
ミヤマカラスアゲハ(春型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1600 +1EV(撮影地:山梨県 2012.5.27)
ミヤマカラスアゲハの写真
ミヤマカラスアゲハ(春型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1600 +1EV(撮影地:山梨県 2012.5.27)
ミヤマカラスアゲハ(オスの春型)の写真
ミヤマカラスアゲハ(オスの春型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1600 +1EV(撮影地:山梨県 2012.5.27)
ミヤマカラスアゲハ(オスの春型)の写真
ミヤマカラスアゲハ(オスの春型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1600 +1EV(撮影地:山梨県 2012.5.27)

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ホタルの季節

2018-05-24 22:01:42 | ホタルに関する話題

ホタルの季節

 今年もホタルの季節がやって来た。とは言っても、私にとっては一年中がホタルの季節だが、やはり、成虫が乱舞する光景は、生態学的にも 大きなイベントであり、人々にとっても平安時代から安らぎを与えてきた文化でもる。
 ホタルは、里山環境の象徴だ。その美しい光は「豊かな自然環境があってこそ」ということをご理解頂き、どうぞ、ホタルの光だけではなく、自然背景と合わせてご覧頂きたい。

 今年は、今週末にYahooの取材、来週末は佐賀大学での講演会、その後は、ホタル大学での観察会や日本ホタルの会の観察会も予定。私的なホタル調査・観察もありますので、新聞・テレビ等の取材・出演の依頼は早めにご連絡頂きますようお願い申し上げます。

掲載写真は過去の撮影したものです。なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ホタルの写真

ゲンジボタル

ゲンジボタルの写真

ゲンジボタルの発光飛翔風景

ヒメボタルの写真

ヒメボタルの発光飛翔風景

ゲンジボタルの写真

ゲンジボタル

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霧ヶ峰より天の川

2018-05-20 20:48:25 | 風景写真/星

 霧ヶ峰より天の川

 先月、新潟県の星峠にて水面に映る天の川を寝坊して撮り損ねた(星峠より天の川)ので、今回は長野県に向かった。しかしながら、風が強く水鏡が期待できず、場所を変更して霧ヶ峰の富士見台から撮影することにした。富士見台からは、水面に映る天の川を撮ることは勿論できないが、名前のように「富士山」を入れることができる。
 霧ヶ峰は、冬には霧氷の撮影で何回も訪れている場所。この時期の新緑も良いものである。萌黄色のカラマツに癒されながら、富士見台に19時に到着。残照で紅に染まる北アルプスと雲海。空には三日月。とても美しかったのだが、気温8℃。薄着で行ったので、寒さに耐えきれず撮影を断念。天の川の撮影に絞り、三日月が沈む22時まで車内で待機。21時半からセッティング開始。これまた残念なことに富士が雲で霞んで見えない。撮影中に一瞬でも見えることを期待して、22時から撮影開始。30秒おきに30秒の露光。90カットを撮影すると目の前に霧が立ち込めてきたので仕方なく終了。結局、富士山は写らず、天の川だけを撮った写真になってしまった。(条件が良ければ、写真1枚目に写っている左下の八ヶ岳、右下の南アルプスの間に富士山が見える。また、写真内の右上に明るく光る星は「木星」である。)
 撮影後は、そのまま車中泊。翌朝の気温は何と2℃。そして濃霧。ビーナスライン、八ヶ岳エコーラインを通って帰路に就いた。

 天の川や星空を綺麗に撮るには、月がない晴れた夜でなければならないが、撮影に行けるのが休日だけだから、チャンスは一ヶ月に一回あるかないかである。今回の写真も満足できる出来ではないので、またチャンスを待って挑戦しようと思う。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。 また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

霧ケ峰高原から天の川の写真
霧ヶ峰より天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 30秒 ISO 1250(撮影地:長野県諏訪市霧ヶ峰 2018.5.19)
霧ケ峰高原から天の川の写真
霧ヶ峰より天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 30秒 ISO 1250(撮影地:長野県諏訪市霧ヶ峰 2018.5.19)
霧ケ峰高原から天の川の写真
霧ヶ峰より天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 30秒 ISO 1250(撮影地:長野県諏訪市霧ヶ峰 2018.5.19)
天の川と富士山のタイムラプス動画/Milky Way and Mount Fuji.

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自然湖

2018-05-13 16:29:33 | 風景写真/湖沼

 自然湖は、長野県木曽郡王滝村の山奥、木曽ひのきにかこまれた王滝川の上流部にある。1984年に起きたM6.8の長野県西部地震の時、御嶽山の一部が崩れて堆積したことでできた天然の湖だと言う。深い渓谷とともに、森が沈んでしまったので立ち枯れの木々が特徴になっている。

 私は、昆虫写真と自然風景写真を趣味で撮っている。昆虫写真は、撮りたいと思う昆虫との出会いまでに時間がかかり苦労することが多い。 前記事のギフチョウ/イエローバンドは、出会いに「感動」し、手を震わせ心躍らせながら撮影した。
 一方、自然風景は、被写体が「個」ではない。個々が集まって形作った景観である。その景観を撮ろうとした時、「インスタ映え」するかどうかではなく、その景観の美しさや「感動」を写そうとしているが、実際は、単に写真を撮るという技術者であることが多い。
 4月の新潟遠征では、有名な景勝地ばかりを巡った。撮影場所が限られるので、いわゆる定番写真ばかりである。構図、露出を考え、シャッター・チャンスを狙って撮るから、その日その時の「美しさ」は伝わるかもしれないが、いずれも単なる「記録写真」である。昆虫であれば「生態写真」として生態学的に貴重な「記録」にもなるだろう。しかし自然風景では「記録」にしか過ぎない。ここに掲載したゴールデンウイーク中に撮影した自然湖や周囲の自然風景も、まだまだ「記録」である。なぜなら、私自身に「感動」が足りないからである。

 「感動」とは、大辞林によれば「美しいものやすばらしいことに接して強い印象を受け、心を奪われること。」とある。しかし、ただ美しいものや素晴らしいことに接しただけでは、感動は生まれない。感動というのは、受け取るものではなくて、その対象に対して入り込んで行かなければ生まれない。例えば、ベートーベンの交響曲を演奏したとする。音楽そのものが芸術品である。演奏者は、その曲に対して入り込んで行く。聴衆も、ホールに響く音楽に入り込んで行く。そして感動が生まれる。
 自然風景を撮ろうとした時、自然風景に入り込んで一体化する必要がある。その一体化した短い時間に、自然風景はその人だけに、その秘密を解き明かせてみせるのだと思う。 そして自然という芸術と対峙し、自分は一体何を感じ、何を伝えたいのかを明確に認識すること、そしてその抽象的で漠然とした感覚を「写真」というものに具体化することで、感動が表現できる。勿論、写真を見て頂ける方の感覚は千差万別で、撮影者の感じたことが、そのまま伝わるとは限らないが、少しでも何かを感じていただけるように自然と向き合っていきたい。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

自然湖の写真

自然湖
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F11 1/5秒 ISO 100 -1/3EV(撮影地:長野県王滝村 2018.5.04)

自然湖の写真

自然湖
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F11 1/8秒 ISO 100 +1/3EV(撮影地:長野県王滝村 2018.5.04)

しだれ桜の写真

しだれ桜
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F11 1/10秒 ISO 100(撮影地:長野県木曽町 2018.5.04)

葉桜の写真

葉桜
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/640秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)

新緑の写真

里の新緑
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F3.2 1/1000秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2018.5.04)

新緑の白樺の写真

新緑の白樺
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F3.2 1/500秒 ISO 200 +2/3EV(撮影地:長野県白馬村 2018.5.04)

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ギフチョウ/イエローバンド

2018-05-06 21:28:21 | チョウ/アゲハチョウ科

 ギフチョウのイエローバンドを2014年から毎年通い続け、今年ようやく撮影することができたので紹介したい。

 ギフチョウは、強い飛翔力がなく他の生息地との行き来がないため、小さな地域個体群ごとに翅形や翅のサイズ、前後翅の黄色条または黒色条の幅、後翅肛角部の赤斑、斑紋の細部形状などに違いがある地理的変異が知られているが、同一地域個体群の中でも長野県白馬村で見られるイエローバンドなど常染色体劣性遺伝により引き継がれている形質もある。また更には、斑紋には様々な個体変異があり、赤上がり、イエローテールなどが知られ、斑紋異常による異常型も存在している。
 こうした様々なタイプがいることが、撮影者のみならず採集者を引き付けているギフチョウ。本記事では、イエローバンド及び過去に撮影した変異個体の写真も掲載した。

  • 写真1~3:イエローバンド
    (イエローバンドは、前翅・後翅の外縁部および尾状突起部が全て黄色く縁取られるのが特徴。)
  • 写真4:赤上がりの特徴が少しだけ現れたタイプ
    (赤上がりは、後翅表面の遠位内側にある大きな赤紋以外に小さな赤紋が黒帯の内側に沿って現れるのが特徴。)
  • 写真5:イエローテールの特徴が少しだけ現れたタイプ
    (イエローテ―ルは、後翅肛角紋の赤斑が全て後翅外縁部のオレンジ色と同じオレンジ色に置き換わるのが特徴。)
  • 写真6:斑紋異常タイプ

 ギフチョウのイエローバンドは、羽化して間もない翅のとても綺麗なメスの個体であった。こうして前翅・後翅の外縁部および尾状突起部が全て黄色く縁取られていると、ノーマルタイプに比べてより美しく見える。
 今回、イエローバンドの特徴が分かる写真は撮影できたが、図鑑写真的には満足のいく出来ではない。しかしながら、生息地内に2日間で12時間滞在したことで、気温、風、日差しとギフチョウの行動パターンや攻略法を学ぶことができ、帰り際に撮影に適したポイントも見つけることができたので、来年チャンスがあれば、確実にイエローバンドのもっと良い図鑑写真が撮れるだろう。もし、イエローバンドで赤上がり等の個体が自然界に存在するならば、是非、撮りたいものである。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.05)

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.05)

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.05)

ギフチョウの写真

ギフチョウ(ノーマルタイプ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/125秒 ISO 400(撮影地:神奈川県相模原市 2010.04.10)

ギフチョウの写真

ギフチョウ(赤上がりの特徴が少しだけ現れたタイプ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 250(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)

ギフチョウの写真

ギフチョウ(イエローテールの特徴が少しだけ現れたタイプ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 200(撮影地:新潟県十日町市 2013.5.18)

ギフチョウの写真

ギフチョウ(斑紋異常タイプ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 500(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)

ヒメカンアオイの写真

ヒメカンアオイ(食草)(撮影地:長野県 2018.5.05)

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ギフチョウ(産卵)

2018-05-05 20:34:45 | チョウ/アゲハチョウ科

 ギフチョウ Luehdorfia japonica Leech, 1889 は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ギフチョウ属(Genus Luehdorfia)に分類される里山に生息するチョウで、氷河期の頃から地球環境の変化に耐えて生き残ったと考えられている。ギフチョウは、吸蜜植物が開花し食草の新葉が出る春に合わせて成虫が羽化・産卵し、葉が硬くなり林冠が閉鎖する真夏が来る前に蛹になる。 そして夏から翌春までの長い期間を蛹で過すという雑木林の季節変化にあわせた生態を持った「春の女神」(スプリング・エフェメラル)である。
 ギフチョウは日本の固有種で、本州の秋田県南部から山口県中部まで25県の広範囲に分布し、下草の少ない林に生息する。また、本州の特産種でもあり、世界中で日本の本州だけに分布するチョウは、このギフチョウだけである。かつては東京都下の多摩丘陵・高尾山とその周辺にも生息していたが、里山の放棄・放置によって食草であるカンアオイが 絶滅したことと、採集者によるギフチョウの乱獲により完全に絶滅している。全国的にも減少傾向にあり、環境省RDBでは絶滅危惧Ⅱ類に選定されており、26都府県のRDBで絶滅危惧Ⅱ類や準絶滅危惧種として記載している。関東地方では、神奈川県の石砂山周辺でしか見ることができない。この地区のギフチョウは、神奈川県の天然記念物され地元の保護団体により保全されているが、人為的に他産地の個体の移入が行われた経緯があるようで、遺伝子攪乱が起こっていることがわかっている。
 環境省RDBで絶滅危惧Ⅱ類に選定され、多くの地方自治体のRDBで絶滅危惧Ⅰ類やⅡ類に選定されてはいるが、法的な拘束力はなく、規制のない地域では採集も行われている。ギフチョウは、地域変異・個体変異が多く見られるので、それを目当てに採集ツアーが開催され、参加者は採れるだけ採る。その日にいたギフチョウをすべて採りつくすのだから、環境の悪化や破壊よりもギフチョウを絶滅に追いやる一番の原因になっている。
 ちなみに、長野県白馬村では、ギフチョウとヒメギフチョウを昭和49年10月1日に村の天然記念物に指定し、成虫だけなく、卵、幼虫、蛹も含めて捕獲を禁止している。 また平成22年度より天然記念物の捕獲等について条例で10万円以下の罰金などの罰則が盛り込まれている。

 ギフチョウは、これまで何度も開翅やカタクリ吸蜜などのシーンを撮影しているが、今回は、生態学的にも貴重な「産卵」シーンを撮ることができた。
 林内で待機していると、林床をゆっくりと飛ぶ個体が目に入った。そっと近づくと、その個体は飛んでもよく止まる。翅も綺麗な大変美しい個体で腹部が大きいメスである。飛ぶ後を追いかけ続けていると、ウスノスズクサ科であるフタバアオイに止まり産卵を開始した。別の個体もフタバアオイに産卵を行っていた。
 ギフチョウの食草と言えばウスノスズクサ科のカンアオイであるが、カンアオイはクリやコナラなど落葉樹の林の日陰に生育する植物で繁殖力が弱く、自生地をほとんど広げない植物で、一度自生地が失われると自然状態で復活することが難しいと言われている。環境の悪化や破壊によってカンアオイが絶滅すれば、ギフチョウも絶滅するが、ギフチョウとヒメギフチョウの混生地である当地ではカンアオイは見当たらない。ヒメギフチョウの食草であるウスバサイシンが多い。そしてそれよりも多いのがフタバアオイであり、繁殖力の強さから一面フタバアオイとなっている場所もある。
 フタバアオイは、ギフチョウの飼育において以前から代用食として用いられていたようであるが、幼虫は若齢からでなければ受け付けないと言われている。当地のギフチョウは、フタバアオイで繁殖していると思われる。

 尚、産卵した卵をこの場で撮影する事が出来なかったため、同生息地内で撮影したヒメギフチョウの卵の写真を参考までに掲載しておきたい。

以下の掲載写真は、1024*683 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で表示されます。

ギフチョウの写真
ギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)
ギフチョウの写真
ギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)
フタバアオイに産卵するギフチョウの写真
フタバアオイに産卵するギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 500(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)
フタバアオイに産卵するギフチョウの写真
フタバアオイに産卵するギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 1600(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)
ヒメギフチョウ卵の写真
ヒメギフチョウの卵
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/125秒 ISO 250(撮影地:長野県白馬村 2017.5.04)

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ヒメギフチョウ(交尾)

2018-05-03 20:53:37 | チョウ/アゲハチョウ科

 ヒメギフチョウ Luehdorfia puziloi (Erschoff, 1872) は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ギフチョウ属(Genus Luehdorfia)に分類されるチョウで、ロシア沿海から朝鮮半島、北海道から東日本に分布し、日本国内では北海道亜種と本州亜種に分かれる。ヒメギフチョウ本州亜種 Luehdorfia puziloi inexpecta Sheljuzhko, 1913 は、わずか9つの県にしか生息しておらず、新潟県、群馬県、岐阜県のRDBでは絶滅危惧Ⅰ類、青森県、福島県では絶滅危惧Ⅱ類、岩手県、宮城県、山形県、長野県では準絶滅危惧としており、環境省RDBには準絶滅危惧(NT)として記載されている。また長野県白馬村は天然記念物に指定しているほど、貴重なチョウである。
 同属のギフチョウ Luehdorfia japonica Leech, 1889 とは、前翅のいちばん前方外側の黄白色の斑紋がずれず、他の斑紋と曲線をなしている点や尾状突起が短く先がとがっている点が異なっており、大きさも少し小さい。また、ギフチョウほどではないが、地域変異、個体変異が見られ、「赤上がり」や稀に「イエローテ―ル」「白化型」も出現する。「赤上がり」 とは、後翅表面の遠位内側にある大きな赤紋以外に小さな赤紋が黒帯の内側に沿って現れる個体変異で、群馬県の赤城山麓に生息するヒメギフチョウ(赤城姫)に多く見られるが、白馬村においても 撮影している。(写真:4)また、この小さな赤紋が消失している個体もいる。(写真:5)ちなみに「イエローテ―ル」とは、後翅肛角紋の赤色が淡黄色になる個体変異である。

 今年も長野県白馬村へ。昨年は5月4日に訪問しているが、今年は桜の開花も早く、様々な昆虫の発生も早いので、おそらく白馬村も早いだろうという予測のもとで4月29日に訪問。昨年は満開であった中綱湖のオオヤマザクラはすでに葉桜。予想通り白馬村の季節も進んでいる。
 午前9時半から、昨年見つけた林でチョウが飛んでくるのを待つ。気温は17℃で、風もない。すぐにチョウが現れ、地面に止まったり、スミレやカタクリで吸蜜を行う。とりあえず撮れる個体をすべて撮影するとヒメギフチョウとギフチョウの割合は半数ずつであり、ギフチョウは羽化したばかりのように新鮮な個体が多かった。ちなみにギフチョウとヒメギフチョウの分布は明確に分かれており、この2種の分布境界線はリュードルフィアライン(ギフチョウ線)と呼ばれているが、長野県白馬村は分布境界線上にあり、ギフチョウとヒメギフチョウ本州亜種の混生地となっている。
 白馬村では、ヒメギフチョウが先に羽化し、少し遅れてギフチョウが羽化してくる。羽化の時期は、両種ともに林内の残雪の量とも関係があると言われているが、ここ数年は雪解けが早く、 今年は4月の気温が高かったので、白馬村の発生は例年より一週間以上早いように思う。ヒメギフチョウは、ちょうど桜が咲き始めた頃に発生し、ギフチョウでは、桜が散った頃と重なるようだ。
 今回の訪問では、午前中に吸蜜と探雌活動。吸蜜後はカラマツの梢でしばらく休息。昼近くからは探雌活動で花には一切止まらないという状況であった。しかしながら、静止、吸蜜という定番写真のほか、初めて生態写真である交尾態を撮影することができた。また、静止開翅という図鑑写真おいても、その特徴が分かる綺麗な個体を撮ることができたと思う。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ヒメギフチョウの写真

ヒメギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)

ヒメギフチョウの写真

ヒメギフチョウ(吸蜜)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)

ヒメギフチョウの写真

ヒメギフチョウ(吸蜜)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 320(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)

ヒメギフチョウ(赤あがタイプ)の写真

ヒメギフチョウ(赤上がりタイプ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/640秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2017.5.04)

ヒメギフチョウの写真

ヒメギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250 -1/3EV (撮影地:長野県白馬村 2014.5.03)

ヒメギフチョウ(交尾)の写真

ヒメギフチョウ(交尾)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 2500(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)

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美人林(春~秋)

2018-05-02 18:54:08 | 風景写真

 美人林は、新潟県十日町市松之山の丘陵に約3万平方メートルにわたって樹齢90年ほどのブナの木が生い茂る林である。昭和初期、木炭にするため、この辺りのブナはすべて伐採され原野となったが、その後、全てのブナがまっすぐ均一に成長し、幹の太さや高さが整って、すらりとした立ち姿が美しい林になったと言われる。
 掲載の順序が逆になったが、4月21日の新潟遠征の際にも立ち寄った。残雪を期待したが、驚いたことは林床には全く雪がなかった。情報によれば4月16日では、残雪と根開けが見られたが、 たった5日ですべて溶けてしまったようである。午前7時だと言うのに、カメラマンは数人。唖然としながらも、静まり返った林の中で新緑の美しさに心癒された。

 本記事では、これまでに撮影した美人林の春から秋を並べてみた。(今回撮影した写真は2枚目)ブナ林の美しさは伝わると思うが、どの写真もスナップ的で作品とは言えないものばかり。霧であったり光芒であったり・・・そうした+αが欠けている。
 思えば、美人林には蒲生の棚田や儀明の棚田の次に向かっている。つまり一番のメインにしていないため、素晴らしい瞬間を逃していることもあろう。十日町市は美しい風景が随所にある。 また美しい時期が重なることが多い。決して近くない場所だけに、どれもこれも撮りたいが、今後は、事前調査・準備をもっと行い、綿密な計画のもと天候とも相談しながら、1つ1つ丁寧に撮って行こうと思う。
 年頭に「2018年の撮影目標」を掲げた。目標では、自然風景は一段落し、今後は昆虫ばかりになっているが、狙うチョウやトンボは難しい種類ばかり。生態写真どころか、図鑑写真すら撮れない種もある。目標にはないが、心折れる毎週末の合間に、心を癒してくれる「自然風景」を撮ろうと思う。

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美人林(残雪)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F10 1/5秒 ISO 100 +1EV(撮影地:新潟県十日町市 2015.4.25)

美人林(新緑)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F16 0.3秒 ISO 100(撮影地:新潟県十日町市 2018.4.21)

美人林(初秋)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F8.0 1/4秒 ISO 100 -1EV(撮影地:新潟県十日町市 2017.10.08)

美人林(紅葉)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F8.0 1.3秒 ISO 100 -1EV(撮影地:新潟県十日町市 2017.11.12)

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