ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ホソミモリトンボ

2024-08-18 12:18:27 | トンボ/エゾトンボ科

 ホソミモリトンボ Somatochlora arctica (Zetterstedt, 1840)は、エゾトンボ科(Family Corduliidae)エゾトンボ属(Genus Somatochlora)で、2011年7月に尾瀬ヶ原で見たのが最初であるが、証拠にもならない写真しか撮れなかった。その後、毎年のように別の生息地の探索を続け、十カ所以上を何度となく訪れ、2021年には上高地の田代湿原で目撃したが、場所柄、撮影はできなかった。そして昨年、これまでの経験と知識から自力で撮影可能な生息地を見つけ、今年も含めて8回訪問し、のべ58時間にわたって観察と写真撮影を行った。
 本記事は、その生息地における結果をまとめたものである。(他の生息地でも同一であるとは限らない)観察と写真撮影を行った生息地は乾燥化が進んでおり、このままでは十数年後には姿を消してしまう可能性が大きく、その意味でも、多少なりとも記録に残せたことは意味があると思う。

ホソミモリトンボの分布と生息環境
 ホソミモリトンボは、イギリス及びヨーロッパ中南部以北から中国東北部、シベリアなどに広く分布し、国内では北海道及び本州中部山岳地帯に分布する。学名の "arctica" は、「北極」や「北極地方」などの他「厳寒」「極寒」などの意味があり、エゾトンボ科の中でも好寒性が最も強く、不連続永久凍土地域でも生息が確認されているように世界中で最も高緯度まで分布しているトンボである。
 北海道(主に道東に分布)では平地の高層湿原でも見られるが、本州では、標高1,400m以上のミズゴケ、スゲ、シダ類が繁茂する植生遷移が進んだ高層湿原にのみ生息し、世界中の生息環境をみても、そのすべてが泥炭蓄積の高層湿原である。高層湿原ならば生息しているという訳ではなく、本州では、これまで福島、栃木、群馬、長野、新潟、岐阜の6県で記録があるが、いずれも大変局所的であり、近年では確認されていない場所が多い。
 ちなみに高層湿原とは、低温・過湿のために枯死したミズゴケが分解されず泥炭となり、水を含んで過湿となった場所をいい、泥炭が多量に蓄積されて周囲よりも高くなったために地下水では涵養されず、雨水と雪解け水のみで維持されている貧栄養な湿原を指す。植生はミズゴケ類が主体であり、多量の泥炭の蓄積には低温・過湿な気候が必要なため、日本では屋久島を南限として、本州山岳地帯と北海道に分布している。高山に多いが、必ずしも標高の高い場所に限定されているわけではない。
 高層湿原は、貧栄養であるため発達しても樹木が侵入することは少なく、樹林へと遷移することは稀であるが、気候、水文環境、地形等の条件が微妙なバランスに保たれて形成・維持されているため、近年の異常気象(気候変動)に伴い、そのバランスが変化する可能性が高い。降雨降雪量が少なければ水位が低下し、その結果、泥炭が乾燥して陸生植物が侵入し定着するようになり、湿原の陸化が進んでしまう。本種の観察と撮影を行った高層湿原も乾燥化が進行しており、本種をはじめ氷河期の遺存種など貴重な動植物の生息が危ぶまれている状況である。
 ホソミモリトンボは、これほどまでに希少種でありながら環境省版レッドリストには記載されていない。都道府県版レッドリストでは、栃木県で絶滅危惧Ⅰ類に、群馬県で絶滅危惧Ⅱ類に、新潟県と長野県で準絶滅危惧種としている。

ホソミモリトンボの成虫形態
 ホソミモリトンボの体長は46㎜~54㎜内外で、エゾトンボ科の中では北海道にのみ生息するクモマエゾトンボ Somatochlora alpestris (Selys, 1840)に次いで小さい。飛んでいる時はあまり分からないが、枝などに止まっている時に近くで見ると、その小ささと細さに驚くほどである。
 雌雄共に胸部側面が金緑色で、未成熟時は胸部側面および腹基部に黄斑があるが、成熟に伴って黄斑の大部分は消失し、金緑色も色褪む。複眼は鮮やかな緑で、後縁部に青みを帯びた部分があり、光の当たり具合によって赤やオレンジの構造色が目立つ
 オスの尾部付属器は上付属器が左右になめらかに湾曲した"くぎぬき状"で、これは他のエゾトンボ科とは明らかに異なり、同属他種との判別ポイントになっている。メスは、腹部第2節後縁に黄色の環状斑と第3節背面に一対の黄色斑があり、第3節背面に一対の黄色斑が、同属他種との判別ポイントになっている。

ホソミモリトンボの生態

  1. 発生サイクルと出現期間
    • 幼虫の成長速度は遅く、3~4年の1世代型である。幼虫には移動性がなく、卵から羽化まで同一の場所で過ごすと言われている。
    • 6月中旬~下旬頃に羽化(未確認)し、一か月程度は湿原周辺のカラマツ林で生活し、成熟するまでは産卵場所の湿原には姿を見せない。
    • 成熟した個体は7月中旬頃から湿原に現れ、8月下旬頃まで活動し、その後、姿を消す。(北海道の釧路湿原周辺では10月中旬頃まで生き残っている個体もいる)
  2. オスの飛翔活動
    • 晴れた朝は、7時半頃になると湿地に隣接するカラマツ林から飛び出し、湿地上の高い場所を飛びながら小さな虫を捉えて食べる。(摂食飛翔)
    • 7月では、摂食飛翔が中心で、探雌飛翔や縄張り飛翔はほとんどしない。
    • 8月になると、成熟したオスは、7時過ぎから摂食飛翔し、同時に探雌飛翔や縄張り飛翔を行う個体がいるが、晴れて直射日光が当たっていなければ飛翔しない。
    • 探雌飛翔は、湿原の広範囲を移動しながら産卵に適した細流上を低く、流れに沿って飛翔する。
    • 縄張り飛翔は、成熟度合いが進むにつれて多く行うようになる。産卵に適した場所にて1mくらいの高さで短いホバリングを行うが、すぐに移動する。
    • 縄張り飛翔は、他のオスは勿論、アキアカネなどの他種のトンボやチョウなどの侵入があっても、激しく追い払い、その後同じ場所に戻ってくるが、戻ってこないこともある。
    • 8月中旬以降になると、縄張り飛翔中のホバリングが長くなり、個体差にもよるが、5mほどの狭い範囲を移動しながら、一ヵ所で10秒以上も静止飛翔する個体もいる。
    • 晴れで日中の気温が21℃前後ならば、午前から午後にかけて一定の時間をおきながら探雌飛翔や縄張り飛翔を行うが、気温の上昇とともに活動が鈍くなり、気温が25℃以上になると午前中でも湿原上には現れない。
    • 長い時間飛翔した場合、湿原の下草や灌木の止まって休む個体もいる。
    • 条件の良い日でも、探雌飛翔や縄張り飛翔にまったく現れない時間が30分から1時間近くある場合もある。おそらく交尾をしている時間や休んでいるものと思われる。
    • 夕刻に飛翔活動するか否かは不明である。
  3. 交尾
    • 探雌飛翔中にメスを見つけると、その場で交尾態となり、湿原の低空をタンデム飛翔しながら、隣接する森に飛んでいく。時折、湿原内の灌木の止まることもある。
    • 交尾態が止まる場所は、林縁や湿原内の灌木の枝先で、比較的低い位置である。
    • 交尾にかかる時間は不明である。
  4. 産卵
    • 産卵は、7月中旬以降から出現期間中の8月下旬まで行われる。
    • 8時を過ぎると産卵のために飛来するが、時間はまちまちで、正午近くになってようやく飛来することもある。
    • 季節が進むほど、産卵開始の時刻が遅くなる。
    • 産卵場所は湿原内の細流で、スゲ類に覆われていて流れはほとんど見えない所に、身を隠すように降りて行き産卵する。
    • 産卵は、草につかまりながら腹部を水中に入れて行うが、少しの空間があれば、ホバリングしながら打水産卵も行う。
    • 一ヵ所での産卵は長いと1分程度であるが、多くは10秒以内と短く、移動しながら数か所で産卵する。
    • メスは神経質ではなく、観察者の足元近くでも産卵する。
    • 豪雨等で水量が多くなり、細流を覆う草が倒れて流れが見えるようになると、いつもは産卵に訪れる場所であっても飛来せず、身を隠せる場所でのみ産卵する。

ホソミモリトンボの観察日時

  • 2023年7月30日 6:30~16:00
  • 2023年8月04日 5:30~13:00
  • 2023年8月11日 5:30~13:30
  • 2023年8月27日 6:30~13:30
  • 2023年7月21日 6:00~12:00
  • 2023年8月26日 6:00~12:00
  • 2023年8月03日 7:30~12:00
  • 2023年8月10日 5:30~15:00

ホソミモリトンボの撮影
  雌雄共にいつ飛来するのか分からないので、チャンスを逃さぬよう飛来場所から離れないことが必要で、そのため一回の観察で6時間以上も立ったままその場で待機した。
 カメラは Canon EOS 7D でレンズは トキナーの300mm単焦点レンズで撮影を行ったが、交尾態は2倍のテレプラスを装着し、35mm換算で960mmで撮影した。
 オスの撮影は、まずは図鑑的写真として同属他種との判別ポイントである尾部付属器の"くぎぬき状"が明確に分かるものを撮った。次に、飛翔写真は様々な角度から撮影し、横位置のものは、顔面の触角から尾部付属器までマニュアルフォーカスでピントを合わせ、比較的若い個体から成熟、老熟個体まで撮影し、光線の加減で明瞭ではないが、体色の変化が分かるものを撮った。
 メスの撮影は、産卵に飛来した際のホバリングがとても短く、すぐに草の中に入ってしまうので、オスのように全身を明確に撮ることができなかったが、草被りの場合でも、メスの大きな特徴である腹部第3節背面にある一対の黄色斑を写すようにした。また、産卵においては、運よく足元近くで行ってくれたため、真上から腹部中心にピントを合わせ、2通りの産卵方法の瞬間を捉えることができた。
 来年は、羽化の時期に観察に訪れ、いつ、どのような場所で羽化するのか、その一部始終を収めたいと思う。

参考文献 他
Somatochlora arctica Ireland Red List: Endangered/British Dragonfly Society
Jaap Bouwman,New records of Somatochlora arctica in northwestern Lower Saxony.Libellula 26 (1/2) 2007: 35-40
Belenguier, L. (2021). Suivi de Leucorrhinia dubia et Somatochlora arctica par releve des exuvies :resultats sur trois tourbieres Auvergnates en 2015 (Odonata : Libellulidae, Corduliidae). Martinia 35 (4) : 13-22
Boudot, J.-P. & Karjalainen, S. (2015). Somatochlora arctica (Zetterstedt, 1840), in Boudot J.-P. & Kalkman V. J. (ed.), Atlas of the European dragonflies and damselflies. KNNV Publishing, Zeist, the Netherlands : 237-239
Raphaelle Itrac-Bruneau. (2022). Somatochlora arctica (Odonata : Corduliidae) dans le Massif du Morvan : decouverte d’une station majeure pour la Bourgogne-Franche-Comte et comparaison avec d’autres stations : Martinia 36 (1) : 1-12
吉田雅澄,1995. ホソミモリトンボの幼虫の生息環境と行動に関する知見.Aeschna, (30): 11-16.

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(オス/くぎぬき状の尾部付属器が本種の証)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 3200(撮影日:2023.08.11 9:15)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(オス/探雌中に湿原内の茂みで休む)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 200(撮影日:2023.08.11 9:07)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(若いオスの縄張り飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 8:13)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(成熟オスの縄張り飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / プログラムAE F5.0 1/500秒 ISO 400 -1/3EV(撮影日:2024.08.10 13:23)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(成熟オスの縄張り飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / プログラムAE F5.0 1/500秒 ISO 400 -1/3EV(撮影日:2024.08.10 13:24)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(老熟オスの縄張り飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 200(撮影地:本州中部 2023.08.27 12:46)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(産卵のための訪れたメス/第3節背面の黄色斑が本種の証)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 320 +1/3EV(撮影日 2024.07.21 9:33)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(交尾態)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS PRO300 2X DG / プログラムAE F9.0 1/320秒 ISO 3200 +1EV(撮影日:2024.08.10 12:57)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(交尾態)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS PRO300 2X DG / プログラムAE F9.0 1/320秒 ISO 3200 +1EV トリミング(撮影日:2024.08.10 12:57)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(産卵場所でホバリングするメス/第3節背面の黄色斑が本種の証)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 800(撮影日:2024.08.03 10:18)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(草につかまっての産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 10:19)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(打水産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 10:20)
生息環境及び産卵場所の写真
ホソミモリトンボの生息環境及び産卵場所(湿原の中に細流があり、産卵場所となっている)
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ホソミモリトンボの交尾態

2024-08-11 18:41:51 | トンボ/エゾトンボ科

 ホソミモリトンボの交尾態を撮影することができた。

 ホソミモリトンボの生息地には、今季4回目、昨年から合わせて8回目の訪問。この日は朝6時から待機した。天候は晴れで気温は18℃。7時過ぎにオスが1頭飛来したが、すぐに遠くへ飛んで行ってしまった。その後、8時半頃からは厚い雲がかかり、太陽が照らないと寒いほどの状況が1時間ほど続き、その間はまったく飛来することはなかった。晴れ間が広がってからも、時折、雲に太陽が隠れ、朝から快晴の日よりも気温の上昇が穏やかであった。
 今回の大きな目標は、ホソミモリトンボの交尾態を撮ることであった。そのための方法としては2つ。1つは、周囲の木々を隈なく見て回り、枝に止まっているところを探す。もう1つは、産卵に来たメスをオスが捉えた後、タンデムとなって飛んでいくところを目で追いながら、止まった枝を見極めるというものである。様々な枝を時間をおいて見て回ったが、見つけることはなかなか難しく、結局、タンデム飛翔を追うことにした。
 まず、産卵のために飛来するメスを待つ必要がある。毎回、必ず産卵する場所で待機するが、前日にゲリラ雷雨があったようで、湿原の中を流れる細流は、いつもは草が覆いかぶさって流れが見えないが、この日は草が流れの方向に倒れていた。産卵に来たメスは身を隠すように細流の茂みに潜るが、今回は、身を隠せないのである。それを分かっているのだろうか、いつもの産卵場所には一向に飛んでこない。
 オスもほとんど飛来することなく、遠くで探雌飛翔している。産卵場所はいくつもあり、この日の産卵場所はここだということをオスも分かっているのだろう。10時頃からタンデムとなって飛翔するペアが現れた。しかしながら、かなり遠くであり、目で追ってもすぐに見失ってしまう。そんなことを4回繰り返した。
 これまでは、いつも正午頃に引き上げていたが、今回は粘ることにした。すると5回目のチャンスが訪れた。30mほど先を飛翔する小さなタンデムを追いかけ、運よく湿地に隣接する森に入って行く場所まで追うことができた。当日は知人も一緒で、持参くださった双眼鏡で止まった枝を見つけてくれた。私一人では、撮ることができなかっただろう。
 撮影できる場所からの距離は10m以上あり、老眼が進んだ肉眼ではまったく分からない。そこで、トキナー300mmにケンコーの2倍のテレプラスを付けて撮影することにした。焦点距離は600mmだが、カメラはAPS-Cであるから1.6倍になる。つまり35mm換算で960mmの超望遠での撮影である。以前にキリシマミドリシジミを撮ったときと同じように、背面のモニターで拡大表示してピントを合わせ、カメラブレを防ぐためにレリーズでシャッターを切った。
 掲載した写真は、トリミングもしており解像度に難があるが、これで、成虫においては羽化を除いて多くの生態写真を残すことができ、一段落である。

 この日は、正午になっても気温は21℃で、時折、太陽光が雲で遮られる状況。午後になっても、しばしばオスが飛来し、湿地上で探雌飛翔を行っていた。13時を過ぎた頃、こちらから比較的近い場所で ホバリングするオスがいた。6mほどの範囲において、場所を変えながらホバリングするが、長いと同じ位置で10秒以上も静止飛翔していた。これほど長いホバリングを見たのは初めてである。これは、個体差なのか時期的なものか、あるいはこの日の天候、気温が関係したのかは分からない。

 以下には、今回撮影したホソミモリトンボの交尾態とホバリングの写真を掲載した。交尾態はトリミングもしており解像度に難があるが、これで、成虫においては羽化を除いて多くの生態写真を残すことができ、一段落である。後日、本種についての観察内容とそれぞれの写真をまとめて記したいと思う。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(交尾態)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS PRO300 2X DG / プログラムAE F11 1/500秒 ISO 3200(トリミングあり)(撮影日:2024.08.10 12:57)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(交尾態)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS PRO300 2X DG / プログラムAE F9.0 1/400秒 ISO 3200 +1EV(トリミングあり)(撮影日:2024.08.10 12:59)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(交尾態)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS PRO300 2X DG / プログラムAE F10 1/400秒 3200 +1EV(トリミングあり)(撮影日:2024.08.10 13:02)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリング)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / プログラムAE F5.0 1/500秒 ISO 400 -1/3EV(撮影日:2024.08.10 13:21)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリング)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / プログラムAE F5.0 1/500秒 ISO 400 -1/3EV(撮影日:2024.08.10 13:23)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリング)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / プログラムAE F5.0 1/500秒 ISO 400 -1/3EV(撮影日:2024.08.10 13:23)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリング)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / プログラムAE F5.0 1/500秒 ISO 400 -1/3EV(撮影日:2024.08.10 13:24)
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ホソミモリトンボの産卵

2024-08-04 20:43:59 | トンボ/エゾトンボ科

 ホソミモリトンボの本州における貴重な生息地の1つにおいて、昨年から観察と撮影を続けており、今回、7回目の訪問で産卵の様子を撮影することができた。(前回7/26の訪問では、観察のみで写真は撮れなかった)

 ホソミモリトンボのメスは、どこからともなく現れ、湿原の上を低空で飛翔しながら産卵に適した場所を探す。茂みが少し開けた場所に降りるが、水がないと分かると、すぐに飛び立ち移動する。どの個体も産卵する場所は同じであり、湿原の中を蛇行しながら流れる幅30cmほどの流れである。ただし、流れは草で覆い隠されており、周囲より幾分草が少ないことで分かる程度である。茂みで身を隠すことができる場所でしか産卵しない。
 飛来したメスは、その茂みの中に降りていき、草につかまって尾部先端を水中に入れて産卵する。(写真2、3)短いと5秒程度で茂みから飛び立つが、長い場合は30秒以上も出てこないこともある。ただし、草が多く茂っている場所に潜り込んだ場合、草が邪魔をして飛び立つのに苦労していることもある。産卵場所にわずかな空間があれば、そこでホバリングしながら打水産卵を何回か繰り返すことも今回分かった。(写真4)

 本記事においては、以下に産卵の写真の他に、エゾトンボ科ならではの金属光沢が際立った若い個体の飛翔写真も掲載した。いずれも今季の撮影目標であり、何とか残すことができた。今月末頃まで観察と撮影は継続し、交尾態も記録することに努めたいと思う。ホソミモリトンボの生態や当地における行動等に関しての全体的な観察結果は、今季最後の訪問後に「まとめ」として記したいと思う。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(産卵場所でホバリングするメス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 800(撮影日:2024.08.03 10:18)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(草につかまっての産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 10:19)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(草につかまっての産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 10:19)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(打水産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 10:20)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリングするオス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 8:13)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリングするオス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 8:13)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリングするオス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 160(撮影日:2024.08.03 7:42)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリングするオス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 800(撮影日:2024.08.03 8:14)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリングするオス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 160(撮影日:2024.08.03 7:53)
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ハネビロエゾトンボ(ホバリング)

2024-07-29 13:15:15 | トンボ/エゾトンボ科

 ハネビロエゾトンボは、2012年に千葉県、2020年と2022年に栃木県で撮影し当ブログにも掲載しているが、産卵の様子は未撮影で、飛翔に関しては、真横からのカットはピントが甘く、ジャスピンのものは斜め後ろからで複眼と胸部の色彩が分からないものばかりであった。これは、生息地がかなり暗い場所であったり、小川に近づけなかったり、個体数が少ないなどの理由による。今年は、何とかして複眼の先の触角から尾部付属器までピントが合っていて他種との区別ができ、エゾトンボ科らしい金属光沢の色彩を写して残したい。
 しかしながら、ハネビロエゾトンボは、北海道から九州まで分布しているが、環境省版レッドリスト(2020)では絶滅危惧Ⅱ類として記載され、都道府県版レッドリストでは、何と40の都道府県で絶滅、絶滅危惧Ⅰ類、絶滅危惧Ⅱ類、準絶滅危惧種として記載されているほどの希少種であり、どこでも撮影できるトンボではない。そこで、トンボの羽化撮影ではスペシャリストである知人S氏に相談し、S氏がいつも撮影されている場所をご教示いただき、向かうことにした。

 ハネビロエゾトンボの生息地は、私が過去に他のトンボの撮影も含めて何回も訪れている場所から、ほんの数百メートルしか離れていない所で、小川沿いに歩くことができ、撮影がし易い環境であった。まずはロケハンと思い小川に近づくと、すでに10頭を超えるハネビロエゾトンボのオスたちが、流れのあちこちで縄張り飛翔を行っていた。早速、準備を整え撮影開始である。
 今回の目標は、先に記したように複眼の先の触角から尾部付属器までピントが合っていて他種との区別ができ、エゾトンボ科らしい金属光沢の色彩を写すことである。前記事のマルタンヤンマやネアカヨシヤンマのように木の枝に止まっていれば容易だが、ハネビロエゾトンボの場合はそうはいかない。ただし、個体数が多く、それぞれが狭い範囲でホバリング(静止飛翔)しており、その長さがエゾトンボ科の中でもトップクラスで、最長で10秒くらいある。
 飛翔撮影は、いつものようにAPS-CのCanon EOS 7D に21,000円で購入した中古の Tokina AT-X 304AF 300mm F4 レンズを付けて勝負である。撮影方法は人それぞれで、広角レンズで絞り込み、被写界深度を深めにして「置きピン」で撮る方法もあるが、今回の目標を達成するには、トンボを画面一杯にアップで撮りたい。勿論、プロキャプチャーモードやトンボを認識して追尾するオートフォーカス機能などないから、「置きピン」もせずマニュアルフォーカスで撮るスタイルである。近くの大木で樹液をなめている翅がボロボロのオオムラサキに誘惑されながら、更には同じく樹液をなめているオオスズメバチの大群に耐えながら、撮り続けること1時間。何とかそれらしい写真を撮ることができた。S氏に対し、心より御礼申し上げたい。
 オスの撮影に疲れてきた頃、小川沿いを歩いてみると、木の枝にハネビロエゾトンボのメスが止まっていた。メスは、初撮影である。産卵も撮りたいのだが、昼からはゲリラ雷雨の予報で、昼前に訪問したい場所があったため、午前9時でこの場を引き上げた。産卵は昼近くに行われることが多いため、次回は、遅めの時間に訪れて交尾態と産卵の様子を収めたいと思う。
 ちなみに、7月26日にホソミモリトンボの生息地に今期2回目の訪問をしたが、飛んで来るものの雌雄共に1枚も撮ることができなかった。(昼近くになって、そろそろ帰ろうとしたところ、30m先に熊がいて目が合ったので、すぐに退散)こちらも再度訪れ、交尾態と産卵の様子をしっかりと撮って残したいと思う。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ハネビロエゾトンボの写真
ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / シャッター速度優先AE F4.0 1/250秒 ISO 400 E-TTL評価調光(撮影日:2024.07.24 8:00)
ハネビロエゾトンボの写真
ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / シャッター速度優先AE F4.0 1/250秒 ISO 400 E-TTL評価調光(撮影日:2024.07.24 7:58)
ハネビロエゾトンボの写真
ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / シャッター速度優先AE F4.0 1/250秒 ISO 400 E-TTL評価調光(撮影日:2024.07.24 7:36)
ハネビロエゾトンボの写真
ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 400 -1/3EV E-TTL評価調光(撮影日:2024.07.24 7:10)
ハネビロエゾトンボの写真
ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 400 -1/3EV E-TTL評価調光(撮影日:2024.07.24 7:10)
ハネビロエゾトンボの写真
ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 3200(撮影日:2024.07.24 6:43)
ハネビロエゾトンボ(メス)の写真
ハネビロエゾトンボ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / シャッター速度優先AE F4.0 1/250秒 ISO 400 E-TTL評価調光(撮影日:2024.07.24 8:32)
ハネビロエゾトンボ(メス)の写真
ハネビロエゾトンボ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / シャッター速度優先AE F4.0 1/250秒 ISO 400 E-TTL評価調光(撮影日:2024.07.24 8:33)
ハネビロエゾトンボ(メス)の写真
ハネビロエゾトンボ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / シャッター速度優先AE F4.0 1/320秒 ISO 3200 E-TTL評価調光(撮影日:2024.07.24 8:33)
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ホソミモリトンボ(2024その1)

2024-07-22 16:53:12 | トンボ/エゾトンボ科

 ホソミモリトンボは、北海道と本州に生息しているが、本州での確実な生息地は数か所しかない。古い文献に掲載されている生息地も、実際に行って見た所、現在では尾瀬と上高地以外はほとんど絶滅状態であると言える。それは、高山性トンボであり、高層湿原にのみ生息していることで、温暖化と湿原の乾燥化により生息できなくなってきていることが原因と思われる。
 これまで、この極めて希少な種を写真に収めようと試みてきたが、尾瀬と上高地は撮影できる状況ではなく、探し始めて10年目の昨年に、ようやく間近で撮影できる生息地を自力で見つけることができた。当地には4回通い、オスの老個体の飛翔写真は満足できるレベルのもの残すことができた。(参照:ホソミモリトンボ(ホバリング))しかしながら、まだまだ課題を多く残しているため、今年も訪れることにしたのである。

 このホソミモリトンボの生息地も、植生遷移が進んでおり、10年以内には生息環境ではなくなってしまう可能性が大きい。当地は閉鎖的であり、同じ生息環境の場所は数十キロも離れているから、草原化すれば、この場所では絶滅し貴重な生息地がまた1つ失われることになる。と、分かっていても、保全に関しては何もできない。
 唯一できることは、絶滅の速度を早める採集者を排除するために、写真仲間であっても情報を広げないこと。そして本種の生態に関して、当地でのライフスタイルを明らかにし、各ステージの写真を記録として残すことであり、今年は以下の目標を掲げて、7月21日より訪問を開始した。

ホソミモリトンボの観察と撮影の内容
  • 発生時期の調査
  • 活動時間と内容
  • 若い個体の体色に重点を置いた撮影
  • 交尾態の撮影
  • 産卵の撮影

 写真はピンボケが多いが、今回知りえた事柄とともに以下に掲載した。今後も訪問は継続して行い、証拠となる記録を1つでも多く残していきたいと思う。

ホソミモリトンボの観察結果(2024.7.21現在)
  • 7月7日では飛翔個体なし(知人の観察)
  • 朝6時の気温18℃
  • オスは、8時15分頃から摂食活動を開始
  • オスは4頭を確認したが、探雌行動は1頭で1回だけ
  • 30分から1時間おきに摂食活動し、終えると森へと飛び去る
  • 8時半過ぎに産卵を確認
  • 1時間おきくらいに4回ほど産卵(確認の最後は11時。午後は不明)
  • メスは警戒心はなく、人の足元近くの湿地でも産卵
  • 産卵は、湿地に降りて草につかまり、腹部先端を水中に入れる(産み付けるのは、植物か土かは不明)
  • オスの飛来は11時半で終了(午後は不明)

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(オスの飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 320 +1/3EV(撮影日 2024.07.21 10:29)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(メスの飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 320 +1/3EV(撮影日 2024.07.21 9:33)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 500 +1/3EV(撮影日 2024.07.21 10:54)
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エゾトンボ科の飛翔

2023-09-08 17:29:19 | トンボ/エゾトンボ科

 先月、ホソミモリトンボを撮ることができたので、今回はエゾトンボ科の飛翔写真をまとめてみた。日本に分布するエゾトンボ科は以下の4属13種であるが、そのうち小笠原、北海道、南西諸島等に分布する種を除いた3属7種を撮影しており、それぞれ1枚ずつ飛翔の写真を掲載した。尚、撮影済みの種には各々の記事へのリンクを貼っておいたので参照頂きたい。

  1. ミナミトンボ属(Genus Hemicordulia
    • ミナミトンボ Hemicordulia mindana nipponica Asahina, 1980
    • オガサワラトンボ Hemicordulia ogasawarensis. Oguma, 1913
    • リュウキュウトンボ Hemicordulia okinawensis Asahina, 1947
  2. トラフトンボ属(Genus Epitheca
  3. カラカネトンボ属(Genus Cordulia
  4. エゾトンボ属(Genus Somatochlora

 写真は、昆虫少年だった頃からフィルムで撮っており、今でも趣味として続いている。美しい自然の風景やチョウやトンボ、様々な動植物に出会い、それらを一枚に残すことで、実に多くのことを学ぶことができる。私は、ホタルの生息環境や生態について細かく調べ保全活動をしているが、その学びはホタルの保全にも役立っている。ホタルは里山環境の結晶であるから、ホタルについてだけ詳しくてもダメなのである。そんな理屈からあちこち出掛けては、チョウやトンボを追いかけ、各種の生息環境や生態を学ぶとともに、各種の図鑑的写真や生態写真を残したいと思っている。
 私はプロの写真家ではないが、アマチュアの誰もが思っている「各種の特徴がわかる美しい図鑑写真」を私も撮りたい。チョウならば翅の裏と表を撮る。開翅写真には苦労するが、花や葉上等にいてさえすれば撮ることはできる。トンボの場合は、アカネ属のように枝などに止まれば、それぞれの種が分かる写真が撮れる。羽化などの生態写真では、被写体がその場から移動しないので、構図もピントも思いのままの場合が多いが、成虫はなかなか枝などの撮影しやすい場所に止まってくれないトンボも多い。そのような種は、止まるまで待つか、あるいは飛んでいる姿を撮るしかないのである。

 トンボの仲間では、同じ場所でホバリングしながら静止飛翔する種がいる。ルリボシヤンマもその1種で、体は大きく10秒以上も同じ位置で静止飛翔するから、それなりの結果が残せるが、静止飛翔しなかったり、ホバリングしても数秒だけの種類も多い。エゾトンボ科がそうである。
 ヤンマに比べて体が小さく、飛び回りながらあちこちでランダムに静止飛翔する。その瞬間を撮ろうと言うのだから、フィルムだったら何本無駄にするか分からない。ところが、最新のデジタルカメラ(オリンパス)では、AI技術の一種であるディープラーニング技術を用いて開発された「インテリジェント被写体認識AF」に「鳥認識」を追加することで、カメラが自動で鳥を検出し、鳥の瞳に対して優先的にフォーカス・追尾するため、撮りたい瞬間を逃さず、構図に集中して撮影することができるという。さらに、この鳥認識AFはトンボも認識するというのである。技術の進歩は素晴らしいが、新たにカメラとレンズを購入する余裕はない。

 私は、自然風景は2009年に購入した Canon EOS 5D Mark Ⅱ を使用し、昆虫は2010年に購入した Canon EOS 7D を未だに使っている。レンズも新しいものではない。この記事で掲載している写真のほとんどは、中古で購入した Tokina AT-X 304AF 300mm F4 というレンズで撮っており、オートフォーカスは遅く、勿論、手振れ補正などない。機能では最新機種に太刀打ちできないが、時間をかければ何とか図鑑的な飛翔写真を写せるようになってきた。ただし、トラフトンボ属を除くエゾトンボ科の同定は、尾部付属器の形状が重要になり、その尾部付属器の形状までを飛翔写真1枚に写すことは種によっては不可能である。それは、最新機種でも同じであろう。
 飛び回るだけでまったく静止飛翔しないトンボに対しては、流し撮りのテクニックが必要で、昨年、沖縄においてカラスヤンマを撮った時は、ピンボケでブレブレの写真しか撮れなかった。こんな出会いのチャンスが少ない時でも、最新機種ならば良い結果を残せるのだから羨ましいが、今後も古い機種で頑張りたいと思う。
 今回は、エゾトンボ科の飛翔写真をまとめたが、「アカネ属の連結飛翔と産卵」もブログに掲載しているので、ご覧頂ければ幸いである。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

トラフトンボの写真
トラフトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2013.5.05 13:58)
オオトラフトンボの写真
オオトラフトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 2500 +1/3EV(撮影地:新潟県 2017.5.27 12:16)
カラカネトンボの写真
カラカネトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 800(撮影地:新潟県 2017.5.20 6:11)
タカネトンボの写真
タカネトンボ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 500 +2/3EV(撮影地:東京都 2010.08.28)
エゾトンボの写真
エゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F8.0 1/1000秒 ISO 1250(撮影地:長野県 2020.9.12 9:53)
ハネビロエゾトンボの写真
ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Nissin i40 / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 100 +1EV(撮影地:栃木県 2022.8.15 7:29)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 200(撮影地:本州中部 2023.08.27 12:46)
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ホソミモリトンボ(ホバリング)

2023-08-28 14:05:31 | トンボ/エゾトンボ科

 ホソミモリトンボ Somatochlora arctica (Zetterstedt, 1840)は、国内では北海道と本州に分布し、本州では、これまで福島、栃木、群馬、長野、新潟、岐阜の6県で記録があるが、いずれも局所的であり、近年では確認されていない場所も多い希少種である。10年間探し続け、今年の7月下旬にようやく確実な生息地を自力で見つけ、観察と撮影を続けてきた。4回目の訪問となる今回は、初訪からおよそ一か月後でも出現しているのかを確認すること、そして出現しているならば、ピントの合った飛翔写真を撮る、この2つが目的である。

 ホソミモリトンボの生息地には6時半に到着。天候は快晴。早速、これまで毎回のように飛翔していた場所で待機することにした。前回8月11日に比べて、アキアカネの数が激減していた。多くが麓に降りて行ったのだろう。また、クロヒカゲなどのチョウの姿もほとんど見かけなかった。それだけ季節が進んだということである。
 気温が上がってきた8時。体感的にはこれまでと変わらないが、小さな虫を捉えるために飛び回るアキアカネの姿はない。前回は、すでにホソミモリトンボのオスの飛翔が確認でき、メスも産卵にやってきたが、 今回はその姿もない。もう、いなくなってしまったのか、あるいは前日の午後に激しい雷雨があったようなので、その影響も考えられるが、定かではない。その代わりに、ルリボシヤンマのオスが長いホバリングを行いながら飛び始め、別の場所ではオオルリボシヤンマのオスが縄張り飛翔を始めた。この2種が発生したとすると、体の小さいホソミモリトンボは追い立てられるので、その影響も心配である。
 待機から3時間以上経過した10時。ようやく湿原のはるか遠くを飛んでいるホソミモリトンボ1頭を発見。11時になると、いつも飛翔している場所とは違う湿地で、比較的長いホバリングを交えて飛んでいる ホソミモリトンボを発見。この場所では3頭のオスを確認。ただし、こちらに近い方でルリボシヤンマが縄張り飛翔をしており、20mほど先からなかなか近くに寄ってこないため、小さくしか写らず撮っても証拠写真にもならない。
 そして12時。いつもの場所で飛び回るオスが現れた。この個体は、メスが産卵に訪れる水路がある一定の範囲を2~3秒のホバリングを行いながら細かく移動していた。4回訪れた中で、一番ホバリングの時間が長い。途中、疲れたのか湿原の草むらに降りて止まったりもしていた。13時頃になると、ようやくメスが産卵に訪れたが、近くには寄ってくることはなく、しばらくして見失ってしまった。オスも飛んでくることがなくなり、今回は、現地を13時半に引き上げることにした。
 帰路は、相変わらずの渋滞。中央道は小仏トンネル手前から20kmの渋滞で上野原IC手前では事故も発生。韮崎では工事車線規制で6kmの渋滞。写真が撮れていなければ、疲れただけの遠征であっただろう。

 ホソミモリトンボを4回観察したなかでの結果をまとめてみた。勿論、個体や気象条件(今年は4回ともに早朝から快晴)によっても違いがあると思われる。

  • 出現期間は、およそ一か月である。(7月下旬~8月下旬)
  • メスは、7月下旬から産卵する。
  • オスの飛翔開始時刻は、季節が進むごとに遅くなる。
  • 季節が進むほど、ホバリングの時間が長くなる。
  • 季節が進むほど、産卵開始の時刻が遅くなる。

 今回の目的の1つであった「ピントの合った飛翔写真を撮る」ことは、何とか達成できた。トンボの静止飛翔(ホバリング)の撮影は、広角レンズのパンフォーカスで背景も写し込む方法や望遠レンズで背景をぼかして被写体だけをクローズアップする方法等があるが、今回の撮影場所では、被写体までの距離が遠いため、望遠レンズで撮るしかない。静止飛翔(ホバリング)は、トンボの種類や気象条件、活動時間、個体によっても違うが、ルリボシヤンマのように数10秒も同じ位置でホバリングしていれば、撮影は簡単であるが、本種のように移動しながら2~3秒のホバリングであるならば、難易度が高い。
 最新のデジタルカメラならば、被写体と認識した昆虫にピントを合わせ、動きを追尾するAI自動追尾機能やオートフォーカスが早いAF駆動用超音波モーターのレンズであれば、簡単に最良の画像を撮影することができるであろう。しかし、私の機材はそうではない。未だに、Canon EOS 7D に今回のレンズは Tokina AT-X 304AF 300mm F4 である。頭の先から尾の先端までピントが合い、触覚や細毛までブレることなく細かく描写でき、そして色彩等の特徴も分かる真横からの構図を撮ることは容易ではない。
 カメラとレンズで合計約2kg。長玉であるから三脚に付けなければ手振れしてしまう。上下左右に動くようにし、左目でトンボを追いながら右目でファインダーを覗いてレンズ内に収めようとするが、望遠レンズの狭い画角内にトンボを収めるのに一苦労する。オートフォーカスは使えないから左手の親指でピントリングを回す。ピントが合う前にトンボは移動してしまう。運よくピントが合ったと思ったらシャッターを切るが、合焦音がなることは稀である。トンボが3秒以上静止してくれれば成功率は高いが、それ以下ならば撮った写真は、ほとんどがゴミ箱行きである。
 今回は、4回の訪問の中で比較的長い2~3秒ほどのホバリングを繰り返し行ってくれたので、連写した1割くらいの確率で飛翔写真を残すことができた。尚、1と2枚目、3枚の体色が異なって写っているのは、個体差ではなく、1と2枚目は順光、3枚目は逆光での撮影の違いからである。また、背後からのカットでは、ホソミモリトンボのオスの特徴である尾部付属器が弧状に湾曲した様子も捉えることができた。
 来年は、本種の産卵の様子を詳細に観察すること、交尾態の撮影を目標に訪れたいと思う。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 200(撮影地:本州中部 2023.08.27 12:46)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 125(撮影地:本州中部 2023.08.27 12:38)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 160(撮影地:本州中部 2023.08.27 11:40)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 200(撮影地:本州中部 2023.08.27 12:51)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 200(撮影地:本州中部 2023.08.27 11:41)
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ホソミモリトンボ(飛翔と静止)

2023-08-13 09:54:00 | トンボ/エゾトンボ科

 ホソミモリトンボ Somatochlora arctica (Zetterstedt, 1840)は、前々回の記事「ホソミモリトンボ」において証拠程度の写真ではあるが、初掲載として紹介したものの、やはりピンボケの証拠写真では気が済まない。8月4日にも再訪したが、個体の確認はしたものの写真撮影までには至らなかった。そこで、今回8月11日に3回目の訪問である。
 天候は晴れ。8月4日同様に、現地に5時半から待機。6時過ぎには湿原全体に太陽があたり、徐々に気温が上がっていく。初回は7時には飛翔が確認できたが、2回目は8時になってから、ようやく現れた。今回は7時半頃に現れたが、湿原上空で摂食飛翔するばかりでなかなか降りてこない。8時を過ぎると、メスが産卵にやってきた。今回も同じ場所での産卵であり、湿原に茂みの中に潜ってしまうので、どのように産卵しているのかは全く見えなかった。今回も産卵個体を確認できたことで、本種の確実な生息地であると言えるだろう。
 8時半頃になると、オスが頻繁に探雌に現れるようになった。今回は、3回訪れた中で一番個体数が多く、こちらからそれほど遠くない位置で短いホバリングも行っていた。また、飛翔の合間に草や枝で静止する様子も見られた。

 3回目の訪問となると、当地におけるホソミモリトンボの飛翔範囲や行動パターンが分かってきた。オスは、メスが産卵する場所の近くをこまめに移動しながら、1~2秒足らずの短いホバリングを行う。この飛翔を撮影するのは、撮影場所が限られるため難易度が高い。チャンスは何度もあったが、なかなかジャスピンが得られない。
 草や枝に止まれば、撮影は難しくはない。周囲を群れ飛ぶアキアカネより若干大きいかなというくらいの体長。同属の普通種であるタカネトンボに比べれば、かなり細身で小さい。飛翔時では確認することは困難であるが、静止時は、ホソミモリトンボのオスの特徴である弧状に湾曲した尾部付属器を確認することができる。顔面が意外に毛深いことも分かる。
 ホバリングや産卵の様子など、写した結果にはまだまだ課題が多く残る。また、いつまで出現するのかも知りたいところ。今季もう一度訪問して、更なる観察と撮影を行いたいと思う。(→こちら ホソミモリトンボ(ホバリング)8月27日訪問参照)

 前回は、正午まで6時間も直射日光を浴び続けたところ、翌日に体調を崩してしまったので、今回は午前10時で撤収することにした。お盆と三連休の初日でもあり、上りとは言え午後になると渋滞が怖い。さすがに帰路はまったく渋滞がなく、正午には自宅に到着した。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 160(撮影地:本州中部 2023.08.11 8:34)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 160(撮影地:本州中部 2023.08.11 8:34)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 160(撮影地:本州中部 2023.08.11 9:29)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 200(撮影地:本州中部 2023.08.11 9:07)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 3200(撮影地:本州中部 2023.08.11 9:15)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/200秒 ISO 3200(撮影地:本州中部 2023.08.11 9:15)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 500(撮影地:本州中部 2023.08.11 9:15)
ホソミモリトンボ(メス)の写真
ホソミモリトンボ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 100(撮影地:本州中部 2023.08.11 8:19)
ホソミモリトンボ(メス)の写真
ホソミモリトンボ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 100(撮影地:本州中部 2023.08.11 8:19)
ホソミモリトンボのの飛翔及び産卵場所の写真
ホソミモリトンボの飛翔及び産卵場所(湿原の中に細流があり、産卵場所となっている)
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ホソミモリトンボ(初)

2023-07-31 14:27:12 | トンボ/エゾトンボ科

 ホソミモリトンボ Somatochlora arctica (Zetterstedt, 1840)は、エゾトンボ科(Family Corduliidae)エゾトンボ属(Genus Somatochlora)で、1840年にヨハンウィルヘルムゼッターシュテットによって最初に記載された。体長50mmほどの細身で、同属の他種とは、オスの尾部付属器が上から見ると弧状に湾曲すること、メスの腹部第3節背面に独特の丸い黄斑があること、産卵弁が後方に板状に突出することで区別できる。
 本種は、ヨーロッパ北部から中国東北部、シベリアなどに広く分布し、国内では北海道と本州に分布する。北海道では平地の湿地でも見られるが、グループの中では最も好寒性が強く、本州では、高冷地のミズゴケ、スゲ類が繁茂する遷移が進んだ浅い湿原に生息し、これまで福島、栃木、群馬、長野、新潟、岐阜の6県で記録があるが、いずれも局所的であり、近年では確認されていない場所も多い。
 環境省版レッドリストには記載されていないが、都道府県版レッドリストでは、栃木県で絶滅危惧Ⅰ類に、群馬県で絶滅危惧Ⅱ類に、新潟県と長野県で準絶滅危惧種としている。

ホソミモリトンボの分布図
図:ホソミモリトンボの分布図(環境省 自然環境局 生物多様性センター/ 「日本の動物分布図集」第3部 動物分布図(昆虫類 トンボ類)より)クリックで拡大表示

 ホソミモリトンボは、2011年7月に尾瀬で見たのが最初であるが、証拠にもならない写真しか撮れなかった。その後、毎年のように文献に記載された場所を訪れ探索を続けてきたが、一昨年、上高地の田代池で目撃できたのみで、他では確認すらできていなかった。
 さて、今年はどうするか。北海道に遠征すれば、撮影できる確率は高いのだろうが、本州で見つけたい。何回通っても確認できていない湿地に再訪して探索を続けても徒労に終わる可能性が極めて高い。それなら生息が確実な上高地へ行くか。しかし、上高地は観光客が非常に多く、限られた撮影場所に飛んできてくれる確率はかなり低い。そこで今年は、文献にも載っておらす、これまでに訪れたことがない湿原をgoogleマップで探し行って見ることにした。これまで訪れた中で、一番標高が高い場所になる。

 現地には6時半に到着し、まずはロケハン。誰もいない。生息環境に適していなければ、すぐに帰ろうと思ったが、生息の条件に合致していたため、カメラを準備して7時より探索を開始した。すると、すぐさま2頭のエゾトンボ系のトンボが飛び回っているのが目に入った。朝の食事タイムのようである。時折、目の前を通過する。どうも、これまで見てきたエゾトンボの仲間とは違ってスリムである。しかし、種類が判別できない。
 9時半頃になると、湿地の草原で短いホバリングを行うようになった。しばらくするといなくなり、数十分後にまた現れ、決まった場所で数秒のホバリングを繰り返していた。距離は6m。カメラを向けるが、ピントが合う前に移動してしまう状況。
 10時半頃になると、交尾をしながらタンデム飛翔する個体が遠くに見えた。この日は、全部で3組のタンデム飛翔を確認。すべて低空で飛翔し、近くの低木の枝に止まっている。ただし、距離は10m以上もあり撮影はできなかった。そのうち1頭が目の前の草むらに入って行くのが見え観察していると、メスが産卵に訪れたようである。完全に草むらで、地面が濡れているのかも分からない。何カ所か移動しながら草むらの潜っていく。長いと3~4分ほど出てこない。どのように産卵しているのかも見えなかった。その時に写した写真をモニターで確認すると、腹部第3節背面に独特の丸い黄斑がある。この特徴でホソミモリトンボであることが分かった。
 この個体は、見失ってしまったが、正午近くなって別のメスが産卵に訪れ、この個体も草原の中の非常に小さな窪みに降りて行くことが見られた。その時刻には、オスはまったく現れることはなかった。夕方にもオスのホバリングが見られると思い待機したが、この日は現れることはなかった。
 10年間探して求めていたホソミモリトンボをようやく間近で確認でき、証拠程度ではあるが写真に撮ることができた。たまたまこの湿原に飛んできた個体ではなく、数頭を確認したこと、タンデム飛翔と産卵も確認しているので、確実な生息地であろうと思われる。エゾトンボ科では、これまでタカネトンボ、エゾトンボ、ハネビロエゾトンボ、カラカネトンボを観察し撮ってきた中で、本種は、生息環境が他の種とはまったく異なっており、また昨年まで本種を探索していた湿原や湿地とも異なっており、改めて生息できる環境を学ぶことができた。
 ホソミモリトンボは、写真初掲載のトンボで、ブログ記事「昆虫リストと撮影機材」「蜻蛉目」で113種類目となる。

 ホソミモリトンボを撮るまでに10年以上を要したが、残念ながら今回はピンボケ写真が多く、オスの決定的図鑑写真ではない。近いうちに再度訪れ、ホバリングや静止写真、運が良ければ交尾態の写真を狙ってみたいと思う。(後に静止とホバリングの写真撮影は叶った。参照投稿記事をご覧頂きたい。)
 他の昆虫でも、撮影までに時間を要した種は多い。例えば、オオキトンボを撮るために兵庫県に、ヒロオビミドリシジミは大阪府まで何度も通ったが、ゴマシジミ(青ゴマ)の開翅を撮るためには、長野県に5年間で10回通い、サツマシジミの開翅を撮るために和歌山まで8年間で10回通って撮影した経験がある。これらは確実に生息している場所で、目前に多くの被写体を前にしている状況での事である。ヒサマツミドリシジミは、北陸まで8年間で9回通い撮影できたことを思いだす。ヒサマツミドリシジミでは、生息地ではあっても、一度もオスを確認できておらず、9回目でやっと出会うことができた。これらすべて、各種生態の基本的知識を学ぶことは勿論、遠征の経験から得た知見が何より役立った。これらは、「撮影できた」という結果だけではなく、各種の保全にも役立つものである。
 今回撮影できたホソミモリトンボでも同様で、10年以上探索した経験と今回得た知見は、本種の保全に欠かせないものであると思う。今後も継続して訪問し、本種の本州における生息環境と生態を調べていきたい思う。
 尚、今回の撮影場所は、論文などで発表すれば、ホソミモリトンボの生息地としては、分布上かなり貴重な場所であると思われる。しかしながら、本種の幼虫期は3~4年と推定され、同属よりも比較的長いこと、湿原の遷移という環境変化が進行していることから、あと何年生息できるか分からず、また、インターネット上で地名がある程度公表された場所では、採集者も多いため、保全の観点から生息地の情報は一切、記さないこととしたい。
 帰路は中央道を使ったが、談合坂SA手前5km地点から小仏トンネルまで20kmの渋滞。特に談合坂SA手前から上野原ICまでは、まったく動かないことも多々あり、拷問のような渋滞であった。八王子JCからはスムーズであったが、八王子の料金所からは、また渋滞。今度は事故で、降りる国立ICまで50分の表示。仕方なく、八王子から一般道で自宅に帰った。

参照投稿記事

引用:環境省 自然環境局 生物多様性センター / 「日本の動物分布図集」第3部 動物分布図(昆虫類 トンボ類)

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 160 -2/3EV(撮影地:本州中部 2023.07.30 7:43)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 250 -2/3EV(撮影地:本州中部 2023.07.30 9:53)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 250 -2/3EV(撮影地:本州中部 2023.07.30 9:58)
ホソミモリトンボ(メス)の写真
ホソミモリトンボ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200 -2/3EV(撮影地:本州中部 2023.07.30 10:33)
ホソミモリトンボの産卵場所の写真
ホソミモリトンボの産卵場所(湿原の中に細流がある)
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ハネビロエゾトンボ(飛翔)

2022-08-17 17:46:26 | トンボ/エゾトンボ科

 この時期は、未だに見たことも撮影したこともないチョウやトンボを追いかけて行って見たい場所があるが、13日土曜日は出勤でしかも台風8号が関東を通過。翌14日は台風一過とはならず、休日の15日も遠征計画場所は天候不順のため断念。
 8月になってからどこにも行っていないストレスもあり、15日は、一昨年に撮影不十分な結果で終わった「ハネビロエゾトンボの飛翔」および未撮影の産卵シーンを撮っておこうと生息地へ向かった。自宅を午前5時に出発し、現地には7時に到着。まだお盆休み中なのだろう、平日でも高速道路は車の数が少なかった。
 早速、生息地である河川を見てみると1頭のハネビロエゾトンボが飛翔していた。ただし、台風の影響だろうか、川は増水し、またつる性植物が繁茂していて河川に近づくことができない。別の河川の下流域も見てみたが、目前でハネビロエゾトンボは飛んではいるものの、偵察的飛翔ですぐに姿を消してしまい撮影不可能な状況であった。仕方なく最初のポイントに戻り、飛翔している本種にカメラを向けてみることにした。
 飛翔以外にも羽化や産卵など撮影したいシーンは多くあるが、まずは飛翔シーンである。ただし、飛んでいる姿においてハネビロエゾトンボの特徴を写さなければ意味がない。本種が属するエゾトンボ科は互いによく似ている。種の同定は、オスの副性器や尾部上付属器、メスの産卵弁の形状から判断するが、アカネ属のように枝等によく止まってくれれば簡単だが、そうでなければ飛んでいる場面で写すしかない。種によっては空中で静止しながら飛翔(ホバリング)してくれるが、それも長くて数秒であるから簡単ではない。
 本種の場合、まず早朝は飛んでいる虫を食べる食事の飛翔。その後、他のオスの侵入を防ぐパトロール飛翔と産卵に訪れたメスを探す探雌飛翔をテリトリーの範囲で行う。この間に短いホバリングを行う。今回は、川下から川を見下ろす固定位置で、本種までの距離は最低で3mだが、川上までを行ったり来たりしている。しかも逆光である。観察していると、1~2秒ほどのホバリングするポイントがあり、撮影開始である。
 トンボの飛翔撮影は、撮影者によってその方法は様々だ。広角レンズで置きピンして撮る方法もあるが、私の場合は望遠レンズでマニュアルフォーカス。ファインダー内でトンボを追いかけながらピントが合ったと思った瞬間にシャッターを切るスタイルである。長いことフィルムカメラで撮っていた癖なのだろう連写はしない。10枚撮ってピントが合っているのは1~2枚である。そして特徴がわかる図鑑写真となれば、1パーセントにも満たない。
 今回は制約のある条件下であり、思うような成果は得られなかったが、以下には5枚を掲載した。6枚目は一昨年に撮影したものを比較として掲載した。
 気温32℃。湿地帯でもあり将にサウナ状態。蒸し暑さで蚊も元気がない。汗がこれでもか!というほど噴き出る状況で、午前10時には耐え切れなくなり、この場を引き上げることにした。サウナでは、水風呂へ交互に入ることで交感神経が刺激され、血流が良くなることで陶酔感いわゆる「整う」という感覚が得られるというが、この場で水を浴びなくても陶酔感が得られるトンボの写真を撮りたいものである。機会があれば、今度は産卵シーンを撮りたいと思う。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。

ハネビロエゾトンボの飛翔写真
ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 100 +1EV ストロボ発光(撮影地:栃木県 2022.8.15 7:29)
ハネビロエゾトンボの飛翔写真
ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 100 ストロボ発光(撮影地:栃木県 2022.8.15 7:26)
ハネビロエゾトンボの飛翔写真
ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 800 +2/3EV(撮影地:栃木県 2022.8.15 8:43)
ハネビロエゾトンボの飛翔写真
ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 100 +1EV ストロボ発光(撮影地:栃木県 2022.8.15 7:29)
ハネビロエゾトンボの飛翔写真
ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/80秒 ISO 400 ストロボ発光(撮影地:栃木県 2020.9.04 7:25)

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エゾトンボの静止飛翔

2020-09-15 16:07:58 | トンボ/エゾトンボ科

 エゾトンボの静止飛翔は、8月22日に撮影し記事「エゾトンボ」の中で6枚掲載済であるが、今回、同じ湿地を訪れた際、まだ多くのエゾトンボがおり、あちこちの湿地上で静止飛翔(ホバリング)をしていたので、前回よりも奇麗に撮りたいという欲に駆られてカメラを向けた。
 このブログは「今日はこんな所に行ってきました」と過去に掲載した同じような写真を連ねる日誌ではないと申し上げているが、撮影した結果に満足できなければ何度でも撮り直す。自然風景も昆虫の生態においても「何とか残せた」という証拠程度の写真を掲載することもあるが、根本理念は「美」を追求し「美しいものを 一番美しい時に 美しく写す。」である。まずは自己満足できる結果を残し、そして写真をご覧頂いた方々からも高評価を得られるものでなければならない。そのために何年もの月日を費やすこともある。良い結果が残せれば、その後は次の目標やテーマ、更に深い領域へと進むことになる。

 さて、トンボの静止飛翔(ホバリング)の撮影は、広角レンズのパンフォーカスで背景も写し込む方法や望遠レンズで背景をぼかして被写体だけをクローズアップする方法等があるが、私の場合は、常に後者の方法で撮影している。
 静止飛翔はトンボの種類や気象条件、活動時間、個体によっても違うが、同じ位置に止まっているのは2~3秒、長いと5~10秒ほどである。テリトリーの範囲を飛び回っている中での行動であるから、構図が難しい。頭の先から尾の先端までピントが合い、触覚や細毛までブレることなく細かく描写でき、そして色彩等の特徴も分かる真横からの構図を基本と考えて撮っている。素早く飛び回りながらある場所で数秒間静止飛翔するトンボを真横から狙ってピントを合わせてシャッターを切るのであるから、カメラやレンズの性能ではなく撮影者の勘と腕が試される。
 私の場合は、カメラはCanon EOS 7D、レンズは中古で購入した古いトキナーの単焦点300mmの組み合わせが多い。三脚にカメラを固定し上下左右にカメラを動かせる状態にする。置きピンではなく、左目でトンボを追って右目でファインダーを覗きながら画角に収まったらマニュアル・フォーカスでピントを合わせる。ピントリングは左手の親指で瞬時に回し、ピントが合ったと思ったらシャッターを切る。その間はおよそ3秒。トンボが3秒以上静止してくれれば成功率は高い。連写はしないが、フィルムでは決して撮らないだろう。また以前は使っていなかったが、昨今ではストロボも発光させている。半逆光(逆光とトップライトの中間)で撮ることが多いからである。
 エゾトンボ科は、複眼と胸部の金属光沢のある緑の輝きが特徴で、それは光線によって変化する。今回、様々な角度と光線で撮影し、前回に掲載した写真よりもエゾトンボの魅力や特徴が分かる飛翔写真に少しだけ近づけたと思う。また、今回は9月12日においても発生を確認したという「記録」の意味もあり、再度、エゾトンボの静止飛翔を掲載した。

参照:エゾトンボ

以下の掲載写真は、1024*683 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で表示されます。

エゾトンボ(静止飛翔)の写真
エゾトンボの静止飛翔
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F8.0 1/1000秒 ISO 1250(撮影地:長野県 2020.9.12 9:53)
エゾトンボ(静止飛翔)の写真
エゾトンボの静止飛翔
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/1000秒 ISO 1250(撮影地:長野県 2020.9.12 9:53)
エゾトンボ(静止飛翔)の写真
エゾトンボの静止飛翔
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F8.0 1/800秒 ISO 1250 -2/3EV(撮影地:長野県 2020.9.12 8:55)
エゾトンボ(静止飛翔)の写真
エゾトンボの静止飛翔
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F8.0 1/800秒 ISO 1250 -2/3EV(撮影地:長野県 2020.9.12 11:00)
エゾトンボ(静止飛翔)の写真
エゾトンボの静止飛翔
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 1250 -2/3EV(撮影地:長野県 2020.9.12 8:58)
エゾトンボ(静止飛翔)の写真
エゾトンボの静止飛翔
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F8.0 1/1250秒 ISO 1250 -2/3EV(撮影地:長野県 2020.9.12 9:17)
エゾトンボ(静止飛翔)の写真
エゾトンボの静止飛翔
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F8.0 1/800秒 ISO 1250 -2/3EV(撮影地:長野県 2020.9.12 8:56)
エゾトンボ(静止飛翔)の写真
エゾトンボの静止飛翔
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 1250 -2/3EV(撮影地:長野県 2020.9.12 8:57)
エゾトンボ(静止飛翔)の写真
エゾトンボの静止飛翔
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 1250(撮影地:長野県 2020.9.12 11:03)

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ハネビロエゾトンボ

2020-09-05 14:15:15 | トンボ/エゾトンボ科

 ハネビロエゾトンボ Somatochlora clavata Oguma, 1913 は、エゾトンボ科(Family Corduliidae)エゾトンボ属(Genus Somatochlora)で体長約57mm~ 70mm。北海道・本州・四国・九州に分布し、エゾトンボ属ではもっとも南方まで分布する。同属のタカネトンボが池沼性、 エゾトンボが湿地性に対して、ハネビロエゾトンボは、平地から低山地の周囲が樹林に囲まれた薄暗い細流や湿地の細流、河川上流域のうす暗い渓流などに生息する流水性種である。幼虫は流れが干上がってもいきているようである。
 6月~7月頃に羽化し、羽化直後の若い個体は羽化水域から離れた疎林で生活、成熟する8月には流域に戻り、オスは流水の上にホバリングを交えて縄張りを形成し、9月頃まで見ることが出来る。
 本種の色合いは、光沢感少なく黒みが強く、体型は太く短い感じである。未成熟のオスは胸部の黄斑が目立つが、成熟すると一部を残して消える。メスは成熟しても胸部側面の黄斑が顕著である。また他のエゾトンボ属各種と同様、オスの場合は尾部付属器の形状で、メスの場合は産卵弁の形状で区別できる。

 ハネビロエゾトンボは、環境省カテゴリでは絶滅危惧Ⅱ類(VU)に選定され、実に39の都道府県のRDBに絶滅危惧種として記載されている。東京都と神奈川県では「絶滅」、撮影した千葉県では絶滅危惧Ⅰ類及び最重要保護生物種に選定、栃木県では準絶滅危惧種に選定されている。
 農薬などの流入による水質汚濁、開発などに伴う生息地の破壊や消滅、森林伐採などに伴う生息地の乾燥化、谷津田の放棄による植生遷移などが減少の原因と考えられる。

 前々回の記事では「エゾトンボ」を紹介したが、今回は同属であるハネビロエゾトンボの飛翔の様子を撮影したので、2012年に千葉県で撮影した静止写真とともに掲載したい。
 今回の撮影場所は、肉眼でも簡単に判別できるほど明るい細流であるが、農業用水路のためか、ほとんど流れが干上がっており、極一部に水が溜まっているという状況であった、また時期が遅いこともあり、確認できた個体は2頭のオスのみであった。オスは、朝日が当たり始めた午前7時過ぎから飛翔を開始。流れ上の狭い範囲を短いホバリングを交えて行ったり来たりしながら縄張り飛翔を繰り返し、8時頃になると流れから離れて摂食飛翔を行っていた。
 千葉県の生息地に比べて明るいことから撮影はし易いものの、午前7時台は活動時間的なものだろうかホバリングが1~2秒と短い。また、シオカラトンボやアカネ属のトンボ多く、それらを追い払うので頻繁に移動する。更にはカメラとストロボの設定ミスからシャッタースピードが遅くなってしまい、静止飛翔の様子をキッチリと撮ることができなかった。昼近く、または午後ならばもっと長いホバリングをするのかもしれないが、直射日光のあたる気温34℃の蒸し暑さに耐え切れず、証拠程度の写真で撤収することにした。
 来年は最盛期に訪れ、再度、静止飛翔を狙うとともに産卵シーンも収めたいと思う。

参照:日本のレッドデータ検索システム

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorer等ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ハネビロエゾトンボの写真

ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F6.3 1/80秒 ISO 400(撮影地:栃木県 2020.8.30 7:25)

ハネビロエゾトンボの写真

ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F6.3 1/200秒 ISO 400(撮影地:栃木県 2020.8.30 7:25)

ハネビロエゾトンボの写真

ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 400(撮影地:栃木県 2020.8.30 7:28)

ハネビロエゾトンボの写真

ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F6.3 1/100秒 ISO 400(撮影地:栃木県 2020.8.30 7:28)

ハネビロエゾトンボの写真

ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F6.3 1/40秒 ISO 400(撮影地:栃木県 2020.8.30 7:37)

ハネビロエゾトンボの写真

ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 内部ストロボ使用 / 絞り優先AE F9.0 1/60秒 ISO 400(撮影地:千葉県 2012.8.04 6:30)

ハネビロエゾトンボの写真

ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 内部ストロボ使用 / 絞り優先AE F9.0 1/60秒 ISO 3200 -1 1/3EV(撮影地:千葉県 2012.8.04 6:37)

ハネビロエゾトンボの写真

ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 内部ストロボ使用 / 絞り優先AE F9.0 1/20秒 ISO 400 -1 2/3EV(撮影地:千葉県 2012.8.04 6:40)

ハネビロエゾトンボの生息環境写真

ハネビロエゾトンボの生息環境

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エゾトンボ

2020-08-24 22:04:25 | トンボ/エゾトンボ科

 エゾトンボ Somatochlora viridiaenea (Uhler, 1858)は、エゾトンボ科(Family Corduliidae)エゾトンボ属(Genus Somatochlora)のトンボ。体長約5cmで、体は全体に金属光沢のある金緑色で美しい。
 北海道・本州・四国・九州に分布。平地から山地の豊かな樹林に囲まれた明るい湿地に生息している。北海道や東北では平地で普通に見られるが、中部地方では特に高層湿原に多く見られる。環境省カテゴリに記載はないが、26の道府県においてレッドデータブックに記載しており、東京都及び千葉県では絶滅。(ただし、東京都内では細々と生息)埼玉県、静岡県、福岡県、熊本県では絶滅危惧Ⅰ類としている。いずれも産地の限定と生息環境の悪化が原因となっている。
 エゾトンボは、かつて本州産の後翅長40ミリ以上のものを亜種として区別しオオエゾトンボ Somatochlora viridiaenea atrovirens Selys,1883 と呼んでいたが、 個体のサイズはヤゴの栄養状態や生育年数による違いであることが証明されており、またDNA解析でも明確な差異がないことから、現在はこの和名は使われていない。

 今回訪れたのは、長野県のこれまで寄ったことがない標高約1,400mの湿地。主目的は某ヤンマのオス型メスであったが、目撃はできたものの撮影には至らなかった。 再び現れるのを待つ間、湿地上でホバリングするエゾトンボ科を撮影することにした。エゾトンボ科は、飛んでいる時に見ただけでは区別するのが難しい。種によって 生息環境が異なるためある程度は同定できるが、オスの尾部付属器の形状で区別するのが確実である。
 リリースを前提に網で捕獲して形状等を調べるのも一つの方法であるが、できれば写真でも同定できる画像を撮りたい。幸いホバリングの時間が3~5秒と長いため、トンボの真横からピントを合わせて撮影することができた。今回撮影した画像をみると、何度も撮っているタカネトンボとは違う。生息環境もタカネトンボやハネビロエゾトンボとは異なっている。帰宅してから専門書等で調べると本種は「エゾトンボ」であることが分かった。本種は、2011年8月に福島県会津若松市にてメスを撮影しているが、オスは今回が初撮影である。
 エゾトンボは、午前8時半頃にはオスが日当たりの良い湿地上で3頭がホバリングしており、メスも1頭産卵にきた。撤収する午前11時頃にはホバリングするオスも姿を消した。当地では、数年前から某トンボを探索しており未だに見つけられていないが、この湿地ならば生息している可能性が大である。また、某ヤンマのオス型メスの生息も確認できたため、再訪して目的を達成したいと思う。

参照

  1. カラカネトン
  2. タカネトンボ

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エゾトンボの写真

エゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/5000秒 ISO 2000 Speedlite 550EX E-TTLハイスピードシンクロ(撮影地:長野県 2020.8.22 8:55)

エゾトンボの写真

エゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/4000秒 ISO 2000(撮影地:長野県 2020.8.22 9:00)

エゾトンボの写真

エゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/4000秒 ISO 2000(撮影地:長野県 2020.8.22 9:00)

エゾトンボの写真

エゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/5000秒 ISO 2000 Speedlite 550EX E-TTLハイスピードシンクロ(撮影地:長野県 2020.8.22 9:01)

エゾトンボの写真

エゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/1600秒 ISO 2000(撮影地:長野県 2020.8.22 8:58)

エゾトンボの写真

エゾトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/4000秒 ISO 2000(撮影地:長野県 2020.8.22 8:55)

エゾトンボの写真

エゾトンボ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/4000秒 ISO 2000(撮影地:長野県 2020.8.22 8:55)

エゾトンボの写真

エゾトンボ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F3.5 1/320秒 ISO 200(撮影地:福島県会津若松市 2011.8.7)

エゾトンボの写真

エゾトンボ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/2500秒 ISO 1250(撮影地:長野県 2020.8.29 8:21)

エゾトンボの写真

エゾトンボ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1250 +1EV(撮影地:長野県 2020.8.29 8:22)

エゾトンボの写真

エゾトンボ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/2500秒 ISO 2000(撮影地:長野県 2020.8.29 9:47)

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タカネトンボ(静止と産卵)

2017-08-26 20:33:28 | トンボ/エゾトンボ科

 タカネトンボ Somatochlora uchidai Forster, 1909 は、エゾトンボ科(Family Corduliidae)エゾトンボ属(Genus Somatochlora)で、北海道・本州・四国・九州・屋久島に分布している。和名の“タカネ”は、高嶺(高い山、高い峰の意)にちなんでいると言われるが、標高300mほどの丘陵地から標高1,600mの高地まで分布し、周囲を樹林に囲まれた閉鎖的で小規模な池沼等に生息している。

 この時期は、タカネトンボの最盛期である。東京都内の低山地や丘陵地の神社の池や林内の水たまり・・・どこでも見かける。オスは、池の上でこまめに移動しながらホバリングし、縄張りを見張っている。そんな様子を見ると、ついカメラを向けてしまう。過去に何度も撮影し本ブログ記事においても「タカネトンボ」として写真を掲載しているが、今回もカメラを向けてしまった。ただし、今回はホバリングを撮るためのレンズを持っていなかったので、静止と産卵の撮影に挑戦した。
 東京都内では珍しい種ではないが、環境省カテゴリでは絶滅危惧Ⅱ類(VU)に選定され、青森、秋田、山形、宮城、新潟、長野、石川の各県RDBでは絶滅危惧Ⅰ類に選定されており、岩手と富山県では絶滅危惧Ⅱ類に選定されている。

 タカネトンボの美しさと魅力は、鮮やかな金緑色に輝く複眼とメタリック・グリーンの胸部であろう。枝に止まったところで、ストロボを自動調光で発光させて撮影。また自然光のみでも撮影した。(後日、9/18に自然光のみで撮影した写真を2枚追加した。)
 池上からオスが姿を消すと、それほど間を置かずにメスが産卵にやってくる。メスは、一度、池面に腹部を付けて腹端に水を含ませ、その後、泥の岸辺や苔むした石等に卵と水滴を一緒に飛ばして貼り付けるという産卵方法である。そのためだろうか、メスの産卵時の腹端は大きく上下に開いているのが特徴である。
 過去にも産卵の様子は撮影し「タカネトンボ(産卵)」として掲載しているが、今回も産卵そのものの瞬間ではなく、産卵飛翔の証拠程度の写真しか撮ることができなかった。薄暗い池においてストロボを使用すると、夜に撮影したかのような画面になり、またタカネトンボの体色はギラギラした感じに写ってしまうので、ストロボは使いたくない。しかし、明るいレンズでなければ、シャッタースピードを稼げずに被写体ブレの写真になってしまう。なかなか難しい撮影である。
 これもピンボケで証拠程度であるが、過去に撮影したタカネトンボの産卵の動画を参考までに掲載した。この動きを写真で撮るのは、至難の業である。

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タカネトンボの写真

タカネトンボ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/50秒 ISO 400 -1/3EV ストロボ使用(2017.8.26)

タカネトンボの写真

タカネトンボ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/40秒 ISO 400 ストロボ使用(2017.8.26)

タカネトンボの写真

タカネトンボ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/125秒 ISO 3200 -2/3EV(2017.8.26)

タカネトンボの写真

タカネトンボ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/125秒 ISO 3200(2017.9.18)

タカネトンボの写真

タカネトンボ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/125秒 ISO 3200(2017.9.18)

タカネトンボ産卵の写真

タカネトンボ(産卵飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/100秒 ISO 3200(2017.8.26)

タカネトンボ産卵の写真

タカネトンボ(産卵飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 3200(2017.8.26)

タカネトンボ産卵の写真

タカネトンボ(産卵飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F4.0 1/50秒 ISO 3200(2017.8.26)

タカネトンボ(産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / (2014.9.14)

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オオトラフトンボ(飛翔と産卵)

2017-05-29 22:30:42 | トンボ/エゾトンボ科

 オオトラフトンボの飛翔と産卵を撮るべく、一週間前に訪れた池を再訪した。前回は羽化個体は撮影したが、成熟個体は1頭を見かけたのみ。今回の再訪では、多くの成熟個体が池面上を飛んでいたことから、羽化から10日ほどで成熟して池に戻ってくることが分かった。
 同属のトラフトンボのオスは数秒というホバリングを行うが、オオトラフトンボのオスは全くホバリングをしない。岸辺から数メートルの所を左右10mほどの範囲を縄張りとして行ったり来たりの飛翔を繰り返す。時々、他のオスが侵入してくれば、激しい空中戦で追い払う。
 全くホバリングをしないオオトラフトンボの飛翔を撮るのは容易ではない。いわゆる「流し撮り」で撮るが、相手は小さく距離もある。移動するオオトラフトンボをファインダー内に収めながら ピントリングを回して、ピントが合ったと思った瞬間にシャッターを切るしかない。一週間前に撮影したカラカネトンボの飛翔撮影が楽に思える。当然、ピンボケ写真の量産であるが、まぐれで撮れることを期待して、とにかく撮りまくる。成功率は5%以下であったが、以下に飛翔写真を掲載した。
 前回、羽化殻を見つけた時に気になっていたが、今回も飛翔撮影中に見たオオトラフトンボの脚の長さが気になる。エゾトンボ科は全般に脚が長いが、特にトラフトンボは長く、中でも後脚が長い。生態における必然で、必要であるからこのように進化したのだと思うが、その理由は分からない。メスが卵塊を作る際に姿勢を保つのに有利であったり、ヤゴが羽化場所に移動するために有利であると考えられるが、仮説にもならない勝手な推論である。
 飛翔を狙っていると、時々、メスを見つけたオスが交尾態となる。トラフトンボの場合は、池上をタンデム飛翔した後に池の草に止まる。しばらくすると離れてメスは産卵体制に入るが、 オオトラフトンボの場合は全く違う。交尾態のまま隣接する林内の高い梢へと飛んでいく。目撃はできても、撮影は困難であった。それよりも、メスが、いつ、どこから戻ってくるかが分からない。両種ともに、メスは植物などに止まって数分間かけて腹端に卵塊を作り、1回だけ打水してその卵塊を沈水植物に絡ませるような産卵を行うのであるが、交尾を終えたメスを発見できなければ、産卵の様子を撮影することができないのである。
 午後になり、オスの飛翔を撮っていると、目の前にメスが飛んできて茎に止まった。しかも、腹部先端に紐状の卵が付いている。おそらく、卵塊を作った後に打水はしたものの、上手く沈水植物に絡まなかったのであろう。このメスは、再度、打水して産卵を終えて飛び去っていった。卵塊を作る瞬間は撮れなかったが、今回の瞬間も、お目にかかることは多くはないだろう。

 前回の記事同様に、本ブログでは撮影地の記載をしておりません。またお問い合わせにもお答えできませんのでご了承お願い致します。

参照

  1. オオトラフトンボ(羽化個体)
  2. トラフトンボ

以下の掲載写真は、1920×1080ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

オオトラフトンボの写真
オオトラフトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 2500 +1/3EV(撮影日 2017.05.27 12:16)
オオトラフトンボの写真
オオトラフトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 1600 +2/3EV(撮影日 2017.05.27 9:54)
オオトラフトンボの写真
オオトラフトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 2000 +2/3EV(撮影日 2017.05.27 9:26)
オオトラフトンボの写真
オオトラフトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 640 +2/3EV(撮影日 2017.05.27 10:15)
オオトラフトンボの写真
オオトラフトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 500 +2/3EV(撮影日 2017.05.27 10:16)
オオトラフトンボの写真
オオトラフトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 640 +1/3EV(撮影日 2017.05.27 10:30)
オオトラフトンボの写真
オオトラフトンボと卵塊
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 400 +1/3EV(撮影日 2017.05.27 12:42)
オオトラフトンボの写真
オオトラフトンボと卵塊
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1250 +1/3EV(撮影日 2017.05.27 12:43)
オオトラフトンボの生息環境写真
オオトラフトンボの生息環境
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE

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