ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ヒオドシチョウ

2018-06-06 22:20:40 | チョウ/タテハチョウ科

 ヒオドシチョウ Nymphalis xanthomelas japonica (Stichel, 1902) は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)タテハチョウ亜科(Subfamily Nymphalinae)タテハチョウ族(Tribe Nymphalini)タテハ属(Genus Nymphalis)のチョウで、北海道から九州に分布し、食樹はエノキで、低地から山地の樹林や雑木林に生息する。鮮やかな赤みのある緋色をしていることが、紅で染められた紐を使った緋縅(ひおどし)の鎧を連想させることから和名がつけられた。
 本種は、年1化で5月中旬頃に羽化しそのまま冬を越して翌年の5月頃まで生きる長命なチョウだが、7月頃から翌春までその姿を見ることはほとんどない。詳しい生態は分かっていないが、低地で発生した本種は、発生後、しばらくすると標高の高いところに移動して夏眠・冬眠して降りてくるからだと言われている。同属のエルタテハ Nymphalis vaualbum ([Denis et Schiffermuller], 1775)やキベリタテハ Nymphalis antiopa (Linnaeus, 1758)も同じような生態である。
 環境省カテゴリにはないが、都道府県のRDBで千葉県で絶滅危惧Ⅰ類、埼玉県・長崎県で絶滅危惧Ⅱ類、福岡県、鹿児島県では準絶滅危惧種に選定している。

 他のチョウでもそうであるが、翅が擦れていない美しい姿を撮るには羽化したばかりの時期しかない。参考に越冬後の写真も掲載したが、長命ゆえに翅はこれほどまでボロボロになってしまう。これもヒオドシチョウの生態写真であり、このチョウの生きざまであるが、筆者の昆虫写真は、生態写真は次の段階で、まずは特徴が分かる図鑑写真が基本。チョウ類では、翅裏と翅表を撮ることが必須であるが、美しい翅表を撮ることは容易ではない。
 掲載写真のヒオドシチョウは、脚が4本しか写っていないが、これは欠落しているのではない。タテハチョウ科に見られる特徴で、前脚は極端に小さくなっていて前胸部に折りたたまれているのである。

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ヒオドシチョウの写真

ヒオドシチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 500(撮影地:山梨県北杜市 2013.06.08)

ヒオドシチョウの写真

ヒオドシチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400(撮影地:山梨県甲州市 2018.5.27)

ヒオドシチョウの写真

ヒオドシチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 400(撮影地:山梨県甲州市 2018.5.27)

ヒオドシチョウの写真

ヒオドシチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400(撮影地:山梨県甲州市 2018.5.27)

ヒオドシチョウの写真

ヒオドシチョウ(越冬後)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:東京都あきる野市 2012.5.12)

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キベリタテハ(2017)

2017-09-10 19:52:32 | チョウ/タテハチョウ科

 キベリタテハ Nymphalis antiopa (Linnaeus, 1758) は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae<)/ヒオドシチョウ属(Genus Nymphalis)で、和名にあるように翅表外縁に黄色の太い縁取りがある。翅全体は小豆色でベルベットのような光沢があり、黄色の縁取りの内側には、青色の斑紋が一列に並ぶ。北海道から本州中部(標高約1,000m以上の山岳)以北に生息している。

 昨年、当ブログで「キベリタテハがいない?」という記事を書いた。本年も長野県の北信エリア、東信エリアの北部では、ほとんどその姿が見られないと言う。筆者も、以前撮影した東信エリアの北部(標高1,680m)に8月下旬に行ってみたが、まったく見ることができなかった。しかしながら、東信エリアの南部や南信エリアでは、数多くのキベリタテハが見られた。山梨県内でも復活の兆しがあるようで、過去の時期において減少の原因の仮説としてたてた「異常な気象条件による成長の悪化」と「気象条件による高地への移動変化」は、関係がなさそうである。
 撮影当日は、 エルタテハ Nymphalis vaualbum ([Denis et Schiffermüller], 1775) の翅裏の撮影が目的であった。ヒオドシチョウ属3種をまとめるに当たって、エルタテハの翅裏の写真が無かったからである。標高1,580mの発生地において午前7時~11時まで探索したが、結局、見つけることはできなかった。どうやら、標高の低い越冬地へと移動してしまったようである。
 その代わりにキベリタテハが2頭、その優雅な姿を披露してくれた。毎年、撮影しようと出かけているわけではないが、2013年以来の出会いである。木陰にある獣糞で吸汁した後、日当たりの良い砂利道で翅を開いて日光浴し、その後は近くの白樺の梢で休止。こうした行動を数回繰り返して、どこかへ飛んで行ってしまった。
 キベリタテハは、標高1,000m前後の発生地において、7月下旬から8月中旬、9月上旬頃の3回くらいに分かれて羽化する。7月下旬から8月中旬に羽化した個体は、涼を求めて標高1,500m以上の高山へ移動し、9月中旬前後には標高1,000m前後の発生地に戻り越冬の準備をすると言われている。今回の出会いは、高標高の場所から越冬地へと移動の途中であったのだろう。以前撮影した東信エリアの北部の個体に比べて、若干、色が褪せていた。(参照として、2012年に撮影したキベリタテハの写真も掲載し、下記にリンク先も記した。)

参照:キベリタテハキベリタテハ(動画)

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キベリタテハの写真

キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 500(2017.9.10)

キベリタテハの写真

キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 500 +1/3EV(2017.9.10)

キベリタテハの写真

キベリタテハ(タテハチョウは、前脚2本を除いた4本しか見えない。)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 320(2017.9.10)

キベリタテハの写真

キベリタテハ(2012年撮影)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F11 1/160秒 ISO 200(2012.8.25)

撮影場所の風景

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ツマグロヒョウモン

2016-10-05 23:19:28 | チョウ/タテハチョウ科

 ツマグロヒョウモン Argyreus hyperbius hyperbius (Linnaeus, 1763) は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)/ドクチョウ亜科(Subfamily Heliconiinae)/ツマグロヒョウモン属(Genus Argyreus)に分類されるチョウである。有毒のチョウであるカバマダラに擬態していることからドクチョウ亜科に分類されているが、オスは豹柄模様のみで、メスが前翅の先端部表面が黒(黒紫)色地で白い帯が横断している。通常のチョウの仲間では珍しくメスの方が美しい。
 南西諸島、九州、四国、本州南西部に分布し、本州では1980年代まで近畿地方以西でしか見られなかったが、徐々に生息域が北上し、2016年現在、関東地方北部でもほぼ定着し普通種になりつつある。通常ヒョウモンチョウの仲間は山地や北の涼しい場所を中心に分布しているが、熱帯を中心とするツマグロヒョウモンの分布はヒョウモンチョウの仲間では珍しいと言える。ツマグロヒョウモンの北上については、単純に「地球温暖化」の題材として取り上げられることが多いが、幼虫は各種スミレ類を食草とし、野生のスミレ類のみならず園芸種のパンジーやビオラなども食べることも北上と分布拡大の一因だと思われる。
 成虫は4月頃から11月頃まで見られ、その間に4~6回発生する。他のヒョウモンチョウ類がほとんど年1回しか発生しないのに対し、多化性という点でも例外的な種類である。

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ツマグロヒョウモン

ツマグロヒョウモン / オス
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 200(2016.10.2)

ツマグロヒョウモン

ツマグロヒョウモン / メス
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO 400(2016.10.2)

ツマグロヒョウモン

ツマグロヒョウモン / メス
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F2.8 1/250秒 ISO 200(2016.10.2)

ツマグロヒョウモン

ツマグロヒョウモン / メス
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F2.8 1/2000秒 ISO 200(2016.10.2)

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キベリタテハがいない?

2016-09-20 21:20:50 | チョウ/タテハチョウ科

 キベリタテハが今年は極端に少なく、各地でほとんど見かけないと言う。一体、何故なのだろうか?

 キベリタテハ Nymphalis antiopa (Linnaeus, 1758) は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)/ヒオドシチョウ属(Genus Nymphalis)で、和名にあるように翅表外縁に黄色の太い縁取りがある。翅全体は小豆色でベルベットのような光沢があり、黄色の縁取りの内側には、青色の斑紋が一列に並ぶ。そのシックな色合いから日本では「高原の貴婦人」とも呼ばれており、アメリカでは、Mourning Cloak(喪服のマント)と呼ばれ、イギリスでは、Camberwell Beauty(キャンバーウェルの美人)と呼ばれている。飛翔は素早いが、また雄大に滑空もするのでたいへん優美なチョウである。
 キベリタテハは、世界的に見るとユーラシア大陸と北アメリカ大陸をほぼカバーする広大な分布域を持っている。ヨーロッパやアメリカでは市街地の林でもよく見られる 身近なチョウで、しかも北米ではコロラド州の低地やカリフォルニアの海岸線では年に2化、バージニア州では年3化もすると言われている。このような広域分布を可能にしているのは、「酷寒と乾燥には非常に強いが、高温と多湿の組み合わせを嫌う種」であることが理由として挙げられている。日本国内においては、本州中部(標高約1,000m以上の山岳)以北に限って分布し、年1回7月下旬頃からようやく発生する。成虫で越冬し、翌年4月頃まで見られる。
 食樹は、カバノキ科のダケカンバやシラカンバ、ヤナギ科のオオバヤナギ等である。成虫は、訪花することはほとんどなく、樹液や腐った果実、獣糞などに好んで集まる。

参照

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キベリタテハ

キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F11 1/160秒 ISO 200(2012.8.25)

キベリタテハ

キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 640V(2013.8.10)

キベリタテハ

キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 200(2013.8.17)

キベリタテハ

キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F5.6 1/320秒 ISO 800 +1 1/3EV(2013.8.17)

キベリタテハ

キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F7.1 1/160秒 ISO 200(2012.8.25)

キベリタテハ

キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO 200(2012.8.25)

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 さて、冒頭にも記したが、今年2016年は、キベリタテハが極端に少ないと言われている。他にもクジャクチョウやエルタテハも同様に少ない。 その基本的な理由として

  1. 生息環境の悪化や破壊
  2. バキュロウイルス等のウイルスによる感染の拡大
  3. 異常な気象条件による成長の悪化
  4. 気象条件による高地への移動変化
  5. 毎年の採集者による乱獲

以上の5つが考えれるが、キベリタテハにおいては、その生息地に訪れたところでは環境の変化は見当たらないし、開発が行われたという話もない。ウイルス感染については、可能性としては考えられるが、現状では研究がなされていないので不明である。では、気象についてはどうだろうか?
 まず、キベリタテハのある生息地における4月から8月までの毎月の平均気温と平年値を気象庁のデータより調べてみた。(グラフ1.)その結果、2016年の気温は4月から6月が平年よりも若干高めであることが分かる。一部愛好家に「幼虫の時期に気温が高かったので、幼虫の生育に支障があったのかもしれない。」という意見があるが、キベリタテハは高温を嫌うから、可能性はあるかも知れない。温暖化による高温が原因ならば、今後、本州中部地方から姿を消す可能性も考えられる。
 次に、4月から8月までの毎月の降水量を見てみると(グラフ2.)、標高1,000mの地区の6月が平年よりも若干多く、また8月が極端に多くなっているが、それ以外の月は平年を大きく下回っているのが分かる。今年は、関東において異常な水不足であったことは記憶に新しいが、乾燥ストレスに対して強いシラカンバ(食樹)と本種であるから、少雨であったことが、幼虫の生育に悪影響を及ぼしたとは考えにくい。
 では8月の1ヵ月間の降水量について、キベリタテハの発生が多かった2012年と2013年、そして極端に少ない本年(2016年)を比較してみると(グラフ3.)になる。2016年は、8月7日から15日を除くほとんどの日に雨が降っているのが分かる。グラフには表していないが、降雨の時間帯は夕立の場合もあるが、ほとんどの日が朝から夕方まで断続した降雨になっている。
 キベリタテハの生活史を見ると、標高1,000m前後の発生地において、7月下旬から8月中旬、9月上旬頃の3回くらいに分かれて羽化する。7月下旬から8月中旬に羽化した個体は、涼を求めて標高1,500m以上の高山へある程度の集団で移動し、9月中旬前後には標高1,000m前後の発生地に戻り越冬の準備をする。9月に羽化した個体は、移動はしないものと移動するものがおり、 高地へ移動した個体の中には、そのまま高地で越冬するものもいる。また、冷夏の年は、ほとんどの個体が高地へ移動することがないと言われている。
 つまり、以上のことから推察できるのは、本年は、幼虫の時期に気温が高く、幼虫の生育に何らなの悪影響があり、羽化までに至らなかったこと、もしくは7月下旬から8月中旬に羽化した個体が、雨のために高地への移動を妨げられたのではないかということである。キベリタテハの観察や写真撮影をする方の多くは標高の高いポイントに訪れるため、キベリタテハが高地へ移動していなければ、当然、見ることはできない。

 本年、キベリタテハが極端に少ない理由が、高地へ移動ができなかったという事だけならば、来年は、気象条件次第では、多くのキベリタテハが見られるかも知れない。しかしながら、標高1,000m前後の発生地において、温暖化の影響で多くが死んでしまった可能性もある。いずれにせよ、標高1,000m前後の発生地において検証したわけでもなく、単なる机上論の仮説でしかない。勿論、他の理由があるかも知れない。(クジャクチョウとエルタテハについては、未検証。)

グラフ1.キベリタテハの生息地における月別平均気温の推移(気象庁のデータより作成)

グラフ2.キベリタテハの生息地における月別降水量(気象庁のデータより作成)

グラフ2.キベリタテハの生息地における8月の降水量(気象庁のデータより作成)

 一番、心配なことは、毎年繰り返される採集者による乱獲である。個人の標本コレクション、あるいは標本の販売が目的の乱獲が横行しているのである。一人が1頭採集しても、100人が来れば100頭いなくなる。しかも、一人が1頭ではなく、捕れるだけ捕るのだから激減するのは当たり前だ。実は、毎年の採集者による乱獲が減少の一番の原因かも知れない。

参照:キベリタテハ(2018)

参考文献等
森下和彦, 1992. 世界のヒオドシチョウ属. Butterflies 3: 36-45
気象庁 過去の気象データ検索

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アサギマダラ

2016-09-06 22:39:18 | チョウ/タテハチョウ科

 アサギマダラ Parantica sita niphonica (Moore, 1883) は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)/ マダラチョウ亜科(Subfamily Danainae)/アサギマダラ属(Genus Parantica)にに分類されるチョウで、日本全土から朝鮮半島、中国、台湾、ヒマラヤ山脈まで広く分布する。分布域の中で下記のようにいくつかの亜種に分かれているが、日本に分布するのは亜種 Parantica sita niphonica とされる。

アサギマダラ属(Genus Parantica)

  1. アサギマダラ Parantica sita niphonica (Moore, 1883)
  2. ヒメアサギマダラ Parantica aglea maghaba (Fruhstorfer, 1909)
  3. ルソンアサギマダラ Parantica luzonensis luzonensis (C. Felder et R. Felder, 1863)
  4. タイワンアサギマダラ Parantica swinhoei (Moore, 1883)
  5. シロアサギマダラ Parantica vitrina vitrina (C. Felder et R. Felder, 1861)

 アサギマダラは、翅の水色の半透明な部分には鱗粉が少なく、名前の「アサギ(浅葱)」とは青緑色の古称で、この部分の色に由来する。気品のある色合いと優雅な飛び方に癒されるが、幼虫の食草となるガガイモ科植物はどれも毒性の強いアルカロイドを含んでおり、アサギマダラはこれらのアルカロイドを取りこむことで毒化し、敵から身を守っていると言われている。体内に毒を持っているため、一度食べた鳥は食中毒症状を起こして二度と食べなくなるという。
 また、成虫が好んで吸蜜するフジバカマやヒヨドリバナには、ピロリジジンアルカロイド(PA)が含まれ、オスは性フェロモン分泌のために ピロリジジンアルカロイドの摂取が必要と考えられている。ちなみにフジバカマ(藤袴)は、秋の七草の一つで「源氏物語」の巻立てがある花であり、環境省RDBにて準絶滅危惧種に選定されている。アサギマダラは、境省RDBに記載はないが、千葉県RDBでは準絶滅危惧種として選定されている。

 アサギマダラは、日本で唯一「渡り」をするチョウとして知られているが、最近の調査では、夏に日本で羽化したアサギマダラは、秋になると南西諸島や台湾まで南下し、そこで繁殖した子孫が春に北上し、日本に再び現れるという行動が明らかになっている(その逆のパターンもある)。 マーキング調査では直線距離で2,000km以上移動するものや、1日あたり200km以上も移動した個体もいるという。
 2012年8月に山梨県のある林道にて何十頭ものアサギマダラが乱舞する光景にであったことがある。谷から吹き上げられる気流に乗り優雅に舞う姿は、未だに忘れられない。

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アサギマダラ

アサギマダラ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F2.8 1/250秒 ISO 200 +2/3EV(2011.9.10)

アサギマダラ

アサギマダラ(フジバカマでの吸蜜)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F3.5 1/400秒 ISO 200(2011.9.10)

アサギマダラ

アサギマダラ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4
絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 800 +1/3EV(2015.9.11)

アサギマダラ

アサギマダラ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F11 1/200秒 ISO 200(2012.8.25)

アサギマダラ

アサギマダラ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 200(2012.8.25)

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オオイチモンジ

2016-07-11 21:35:22 | チョウ/タテハチョウ科

 オオイチモンジ Limenitis populi jezoensis Matsumura,1919 は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)/イチモンジチョウ族(Tribe Limentidini)/オオイチモンジ属(Genus Limenitis)に属するチョウである。前翅の開張幅がオスで 66mm内外、メスで 80mm内外もある大型で、翅表は黒地に白条を持ち、後翅外縁に沿って青色の構造色を持つ光沢部と赤斑が並び、地味ながらも美しい。
 北海道と本州(主に中部山岳地帯の標高1000m~1600m)に分布し、幼虫の食樹となるヤナギ科であるドロノキ(ドロヤナギ)やヤマナラシが多い沢沿いの林縁、湖沼の周辺林、 沢沿いの林道に生息するが、本州においては、生息域の標高が上昇し、生息域の面積が縮小傾向にあると同時に、河川改修や針葉樹の植林による食樹の減少により絶滅が危惧されており、環境省RDBでは、絶滅危惧Ⅱ類(VU)として記載、群馬県・静岡県のRDBでは絶滅危惧Ⅰ類、福島県のRDBでは絶滅危惧Ⅱ類、長野県・岐阜県・富山県のRDBでは準絶滅危惧種として選定しているが、群馬県・栃木県・福島県では絶滅したと言われている。群馬県、長野県、山梨県では県指定の天然記念物であり、長野県においては、種の保存法および関連した都道府県条例での指定種となっており、採集はできない。しかしながら、オオイチモンジはチョウ・マニアの垂涎の的であり、過去に自然公園保護法違反、文化財保護条例違反、県希少野生動植物保護条例違反(無届けの捕獲)等で書類送検された採集者が何人もいる。

 オオイチモンジを撮影するために長野県の上高地に通って3年。一昨年は天候不順で1頭も現れず、昨年は1頭を撮影したものの翅がボロボロ。そして今年。他の多くの昆虫の発生が例年よりも10日ほど早いことから、昨年よりも9日早く訪問したところ、ようやく綺麗な姿を撮ることができた。
 沢渡を予約したタクシーで4時半に出発し、バスターミナルに一番乗り。梅雨の時期であるが、快晴で無風。気温18℃。最高の条件である。早速、ポイントを目指して歩き始め、現地に7時から待機。しばらくすると、1頭のオオイチモンジが頭上を滑空し、木立の中へ。7時半を過ぎると飛来する数も増え始め、石に止まったりするが、まだ落ち着きがなく、すぐに飛び立ってしまう。その後、石に止まって翅を開き、ミネラルを吸う個体が多くなり、じっくりと観察しながら撮影することができた。(その内1頭に手を近づけると、手に乗ってきて汗を吸い始めた。)このポイントには、30分で6頭ほどのオオイチモンジが飛来したが、すべてオスであった。
 ここでの撮影(目線の高さでの開翅)を終え、次のポイントへと移動すると、川原の一ケ所に多くのオオイチモンジが集団でいるのを発見。近づくと何頭かは飛んでしまったが、2頭のオオイチモンジ(他にコムラサキとセセリチョウ)が動物の排泄物で吸汁している様子を観察できた。タテハチョウ科は、コンクリートや石岩等でミネラルを吸う他、地面での吸水、動物の排泄物や樹液の吸汁が特徴であり、花での吸蜜は稀である。(昨年は、花での吸蜜を撮影している。)

お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

オオイチモンジの写真

オオイチモンジ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 400 +1 1/3EV 内臓ストロボ使用(撮影地:長野県松本市上高地 2016.7.10)

オオイチモンジの写真

オオイチモンジ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 +1 1/3EV(撮影地:長野県松本市上高地 2016.7.10)

オオイチモンジの写真

オオイチモンジ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 400(撮影地:長野県松本市上高地 2016.7.10)

オオイチモンジの写真

オオイチモンジ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 +1 1/3EV(撮影地:長野県松本市上高地 2016.7.10)

オオイチモンジの写真

オオイチモンジ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 640 +1 1/3EV(撮影地:長野県松本市上高地 2016.7.10)

オオイチモンジの写真

オオイチモンジ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 +1 1/3EV(撮影地:長野県松本市上高地 2016.7.10)

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.

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昆虫なのに脚4本?

2015-12-10 22:45:06 | チョウ/タテハチョウ科

 昆虫の脚は6本である。昆虫とは「体が頭部・胸部・腹部からなり、胸部には節のある脚が3対6本もつ生きもの」と定義できる。しかしながら、下写真のタテハチョウの写真では、脚は4本しか見えない。
 実は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae Rafinesque, 1815)は、前脚が萎縮していて小さくなっているのである。 よく見ると、前脚は頭部と中脚の間に小さく折り畳まれている。この前脚は歩行や掴まるためには役立たないが、先端に生えた感覚毛で味を感じることができ、感覚器官としての働きに特化していると言われている。また、前脚は食事や産卵の直前には、餌や幼虫の食草・食樹の表面に前脚を伸ばし触れる動作をおこなうとも言われている。
 タテハチョウ科の他にも、マダラチョウ科、ジャノメチョウ科、テングチョウ科なども4本脚のチョウである。

キタテハ

キタテハ
Canon EOS 5D Mark2 / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F3.2 1/100秒 ISO 160(撮影地:千葉県夷隅郡大多喜町 2013.03.20)

シータテハ

シータテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F5.6 1/200秒 ISO 200(撮影地:群馬県吾妻郡嬬恋村 2012.08.25)

ヒオドシチョウ

ヒオドシチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 1600(撮影地:山梨県韮崎市 2013.06.23)

キベリタテハ

キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO 200(撮影地:群馬県吾妻郡嬬恋村 2012.08.25)

 タテハチョウ属(Nymphalis属)の中でも美しい2種について、簡単に記しておきたい。

 ヒオドシチョウ(Nymphalis xanthomelas)は、6月に羽化しそのまま冬を越して翌年の5月頃まで生きる長命な チョウだが、7月頃から翌春までその姿を見ることはほとんどない。詳しい生態は分かっていないが、低地で発生したヒオドシチョウは、発生後、しばらくすると標高の高いところに移動して夏眠・冬眠して降りてくるからだと言われている。

 キベリタテハ(Nymphalis antiopa )は、和名にあるように翅表外縁に黄色の太い縁取りがある。翅全体は小豆色でベルベットのような光沢があり、黄色の縁取りの内側には、青色の斑紋が一列に並ぶ。そのシックな色合いから「高原の貴婦人」とも呼ばれている。
 ヨーロッパから中央アジア、シベリア、北アメリカ、メキシコまで、北半球の温帯~寒帯に広く分布しており、アメリカでは、Mourning Cloak(喪服のマント)と呼ばれ、イギリスでは、Camberwell Beauty(キャンバーウェルの美人)と呼ばれている。

ヒオドシチョウ

ヒオドシチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 500(撮影地:山梨県北杜市 2013.06.08)

キベリタテハ

キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F11 1/160秒 ISO 200(撮影地:群馬県吾妻郡嬬恋村 2012.08.25)

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.

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ツマジロウラジャノメ

2015-09-15 19:26:03 | チョウ/タテハチョウ科

 ツマジロウラジャノメLasiommata deidamia interrupta)は、 タテハチョウ科ジャノメチョウ族キマダラジャノメ亜族で、翅の地色は灰褐色、または黒褐色で、翅表には前翅に1個、後翅に2個の眼状紋(蛇の目)があり、前翅には白色の帯状斑紋がある。後翅裏面には6個の眼状紋(蛇の目)があるのが特徴だ。
 ジャノメチョウの仲間は、赤道直下の熱帯地方には翅色の派手な種類が多いが、日本では、唯一ベニヒカゲとクモマベニヒカゲが色彩的に見栄する種で、その他はたいへん地味である。しかしながら、ツマジロウラジャノメは、地味ながらも前翅の白斑がとても印象的なチョウである。
 北海道(日高山脈、夕張山地)、本州(東北地方~中部地方、四国地方の一部)に分布している。標高500m~2,000mの渓谷や露岩地、林道の崖に生息し、食草は、崖などに自生するヒメノガリヤス等である。
 局所的とも言える生息環境のガレ場や岩場が、土砂崩れや落石を防ぐためにコンクリートで覆われる工事が進んでおり、絶滅している生息地も少なくない。環境省RDBに記載はないが、青森県、群馬県のRDBでは絶滅危惧Ⅰ類、福井県では絶滅危惧Ⅱ類、埼玉県では準絶滅危惧種に選定されている。

 さて、山梨県甲州市の林道を徒歩で10km往復し、ようやく出会えたツマジロウラジャノメ。かなり急斜面のお花畑で、翅の擦れたオス1頭だけを見つけ、証拠程度の写真を撮影。(写真は、すべて同個体)
 ツマジロウラジャノメは、初見初撮影の種で、「鱗翅目」では 131種類目になる。

ツマジロウラジャノメ

ツマジロウラジャノメ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4
絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 250(撮影地:山梨県甲州市 2015.9.11)

ツマジロウラジャノメ

ツマジロウラジャノメ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4
絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 500(撮影地:山梨県甲州市 2015.9.11)

ツマジロウラジャノメ

ツマジロウラジャノメ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4
絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 500(撮影地:山梨県甲州市 2015.9.11)

ツマジロウラジャノメ

ツマジロウラジャノメ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4
絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 500(撮影地:山梨県甲州市 2015.9.11)

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