今日は北海道シリーズはひとやすみ。先月に送っていただいたちょっと変わった南国の魚のご紹介。イットウダイ科のヒレグロイットウダイである。
ヒレグロイットウダイはキンメダイ目イットウダイ科の魚であるが、イットウダイやテリエビスやらが含まれているイットウダイ属ではなく、ウケグチイットウダイ属に含まれる。この属はインドー太平とカリブ海に合計5種が知られており、日本ではそのうちの4種類を見ることができる。
ヒレグロイットウダイはこれまで八丈島、与論島以南の琉球列島から知られているが、日本ではあまり多くないらしい。この個体は長崎で採集されている。しかもかなりイキイキした感じで、長崎の近海で採集されたものと思われる。今年は色々な海域で多くの人が思わぬ熱帯性魚類との出会いを楽しめたそうだ。これらの熱帯性海水魚はよく温暖化と絡められがちであるが、海流のパターンや天候などにもかなり影響されるようだ。和歌山以南あたりであれば越冬可能だが、それ以北のものは冬に死亡してしまう個体も多い。
今回はもう1匹送っていただいた。もう1尾のほうはやや傷があったり、眼がやや死んでいたりしてうまく写真が撮影できなかった。編集もやや適当な感じが・・・。申し訳ない。
背鰭が黒いからヒレグロイットウダイという名前なのだと思われる。背鰭は中央が黒く、縁は白く下方にも白い模様があるのだがちょっとしたミスで鰭膜縁辺の様子を上手く残すことができなかった。この仲間は背鰭が特徴的なものが多い。属の標準和名になっているウケグチイットウダイは背鰭の前方に大きな黒色斑がある。一方ウケグチイットウダイにそっくりなホソエビスにはそれがない。
ヒレグロイットウダイの背鰭。
ホホベニイットウダイの背鰭。黒い矢印が背鰭最終棘
ホホベニイットウダイ
以前紹介したホホベニイットウダイは背鰭の最終棘がその前の棘よりも短いという特徴があり、背鰭の最終棘はその前の棘よりも長いという特徴をもつウケグチイットウダイ、ホソエビス、そしてヒレグロイットウダイと区別できる。カリブ海に生息するNeoniphon marianusは実物を見たことがないが、John E. Randallの「Caribbean Reef fishes」の写真を見た限りでは、最後の棘とその前の棘はほぼ同じ長さのようにも見える。カリブ海にはこの仲間によくにたノボリエビス属というのが2種いるのだが、臀鰭棘と軟条部の長さの違いから見分けられるのだと思われる。
なおホホベニイットウダイとヒレグロイットウダイの色彩は大きく異なっているのだが、意外と色彩をかえたりすることができるらしい。ヒレグロイットウダイでも赤みを帯びた色彩の個体が写真に撮られていたりする。おそらく「ナイトカラー」、夜間の色といえるのかもしれない。また生息地も若干違う。ヒレグロイットウダイとウケグチイットウダイはサンゴ礁のごく浅い場所に生息していて、後者は磯採集で出会えるチャンスもあるようだが、ホホベニイットウダイは水深数10mの海底に生息している。
以前ホホベニイットウダイを焼いて食した時は骨が硬くて食べにくかった。小型だったのも影響しているのかもしれない。今回はその反省で刺身にして食したのだが、それは美味しいものであった。この属で食していないのはウケグチイットウダイとホソエビスの2種のみ。ホソエビスは日本では石垣島から記録されている。海外では東アフリカ~マルケサス諸島にまで分布しているのだが、これも数は多くはないようだ。Googleで検索してみると、ウケグチイットウダイの体側にある線が、線というよりはむしろ点であるような模様になっていた。いつかは出会いたい、幻のイットウダイ科魚類である。
今回のこの個体は長崎県の「たくじー」さんこと石田拓治さんに送っていただきました。ありがとうございました。