久しぶりのご紹介。そして二日連続のキホウボウ科魚類。スズキ目・キホウボウ科・ヒゲキホウボウ属のトゲキホウボウ。
トゲキホウボウはヒゲキホウボウ属の中でも吻突起が細長いグループに含まれる。同じグループの魚には昨日このぶろぐでもご紹介したソコキホウボウ、吻突起先端にボール状の肉質突起をもつウスヒゲソコキホウボウ、ハワイから天皇海山にすむトウホウソコキホウボウ、そして本種の計4種が知られる。
トゲキホウボウの吻の様子。従来は、この吻突起の形でソコキホウボウと見分けられるとされていた。トゲキホウボウは左右の吻突起がほぼ平行か、わずかに内側に向かっているのに対し、ソコキホウボウでは左右の吻突起が外に向かって開くことで見分けられる、とされていた。しかしこの特徴は変異が大きいため、同定には使えないようだ。吻突起の先端には薄い肉質の突起があるように見える。
現在、トゲキホウボウとほかの吻突起が長いグループを見分けるのには、下顎のヒゲの数で同定するという方法が用いられている。ソコホウボウは下顎に3対、6本のヒゲがあるが、トゲキホウボウの場合は1対、2本しかない。写真の黒い矢印で示したのがそれ。体側の黒い斜帯は固定後不明瞭になってしまう、もしくは変異があるのだろう。少なくともアンダマン産のレクトタイプ標本(の写真)を見た限りではそんな模様はなかった。
2009年のトゲキホウボウ
分布域は広く静岡県以南の太平洋岸、九州-パラオ海嶺、インドネシア、アンダマン海(基産地)、インド洋西部のサヤデマルハバンク、東は天皇海山にまでおよぶ。水深200m以深の深海底に生息している。日本でも太平洋岸ではキホウボウほど多くはないが漁獲されており、私も足摺沖で漁獲されているのを見ている。その時は水深270mくらいで、オニキホウボウやヒゲキホウボウと一緒に水揚げされた(そのときの個体については、以前このぶろぐでも書いてきた)。しかし多量に水揚げされてもほとんど食用にはなっていない。一応食用にすること自体は可能であると思う。以前同属のヒゲキホウボウを食したことがあるが、これはなかなか美味であった。
今回のトゲキホウボウも「深海魚ハンター」さんからのいただきもの。ありがとうございました。
●文献
Kawai, T. 2019. Revision of an armored searobin genus Scalicus Jordan 1923 (Actinopterygii: Teleostei: Peristediidae) with a single new species. Ichthyological Research, 66: 437–459.