今日も沖縄県那覇・泊「いゆまち」の魚をご紹介。スズキ目・ハタ科・スジアラ属のコクハンアラ。
コクハンアラはスジアラ属の魚で、大きいものではメーターオーバーになる。この個体は体色がご覧のような色、つまりボディは灰色(生きているときは白っぽくもみえる)、各鰭は黄色、体側の背部には鞍状斑があるというカラフルなもの。しかし大型個体は赤紫色~灰色という色彩になり、青っぽい小さな斑点が散らばるようになる。同じように熱帯海域でメーターサイズになるスジアラ属にはオオアオノメアラが知られているが、コクハンアラの尾鰭は若干湾入するのに対し、オオアオノメアラは尾鰭が湾入せず直線状である。オオアオノメアラの英語名(Fishbaseコモンネーム)Squaretail coralgrouperというのはここから来ているようである。一方コクハンアラは英語名(やはりFishbaseのコモンネーム)ではBlacksaddled coralgrouperと呼ばれ、体側の背部にある鞍状斑が名前の由来となっている。またオオアオノメアラのほうが体サイズにくらべ青い点が大きい。
顔はかなりいかつく、サンゴ礁に生息する小魚をその強い歯で捕食してしまう。前鰓蓋に溝のようなものがあるが、これは傷がついているだけと思われる。
胸鰭。コクハンアラの成魚は胸鰭が黒っぽくなり、スジアラと見分けられるというが、このくらいのサイズではそうなっていない。しかし逆に、この独特の色彩からスジアラとの見分けは全く難しくない。
シマキンチャクフグ(石垣島)
コクハンアラのこの色彩は、シマキンチャクフグというフグの一種に色彩を似せて身を守っているもののようだ。シマキンチャクフグは強い毒をもつことで知られており、コクハンアラも幼魚のうちはシマキンチャクフグに似た色彩で、襲われないように自己防衛しているのだと考えられる。やがて茶褐色になるが、その色彩の変化については個体により変異があり、50cmを超えていてもこのような模様をしているものや、同じくらいで褐色になってしまっている個体もいる。
食用魚で市場にもあがる。大型個体はシガテラ毒をもつことがあるとされているが、とくに販売自粛などは幸いにも行われていない。今回の個体はお刺身で食べたが極めて美味であった。幼魚は高知県柏島などでも目撃例があるというが、基本的に成魚が見られるのは大隅諸島以南だろう。海外ではモザンビークからトゥアモトゥ諸島までのインドー太平洋に広く分布している。ただし紅海など一部の海域には生息していない。日本産スジアラ属は3種からなり、本種、スジアラ、オオアオノメアラが見られるが、九州以北ではほとんどがスジアラである。オオアオノメアラは八重山諸島では多少見るが、コクハンアラやスジアラよりもずっと数は少ない稀種である(海外ではそこそこ見られるようだ)。