このぶろぐにひさしぶりに登場のアジ科・イトヒキアジ属のイトヒキアジ。背鰭の写真は2022年にも登場していたが、全身の写真はじつに2013年以来の登場である。また写真もすべて幼魚または若魚の個体であり、大型の成魚は初めての登場である。
イトヒキアジはインドー太平洋域はもちろん、カリフォルニアからペルーまでの東太平洋、大西洋沿岸にも分布している。暖海に生息する種ではあるが、日本近海では北海道をふくむほぼ全沿岸から記録があるらしく、また日本海側ではピーター大帝湾でも獲れているらしい。
2013年に撮影したイトヒキアジの幼魚
イトヒキアジの幼魚は背鰭・臀鰭の鰭条が長く伸びることで有名である。クラゲに擬態しているともいわれ、筆者も2013年に静岡県の港で2匹のイトヒキアジの幼魚が海表面を泳ぐ様子を見ている。長い鰭条は青く光っているように見えて美しいものであった。定置網などで漁獲されたものは、黒っぽく見えた。もう少し成長すると鰭条はやや短くなり、最後は1本のみが長くなった後、やがて短くなってしまうようだ。全長は80cmほど、最大で1mほどになることもあるらしい。
ウマヅラアジ属のウマヅラアジ
従来イトヒキアジ属は本種のほか、ウマヅラアジと、西アフリカに生息するアレクサンドリアポンパノの計3種が知られるとされた。しかしながら近年のアジ科の系統解析により、ウマヅラアジとアレクサンドリアポンパノは別属Scyrisとされた。この属はキュヴィエがつくったものだがやがて使われなくなり、最近になって復活した。ウマヅラアジは東アフリカから仏領ポリネシア、インドー中央太平洋、アレクサンドリアポンパノはその名が示すようにエジプトの地中海沿岸で漁獲され、ほかに西アフリカにも分布する。しかし西大西洋や東太平洋など、ウマヅラアジ属が分布しない海域もあり、そのような地域ではヒラマナアジ属Seleneに置き換わるようだ。この属は大西洋と東太平洋の産であり、日本人にはあまりなじみがないが、観賞魚の業界で「ルックダウン」と呼ばれるものにはこの属のものが何種か含まれているようだ。
ウマヅラアジの上顎を前から見たところ
イトヒキアジの上顎を前から見たところ
イトヒキアジとウマヅラアジの違いとしては頭部の形が違う。イトヒキアジでは眼前縁で突出するが、ウマヅラアジではわずかに凹む。しかし上唇の形状でも見分けることが可能である。ウマヅラアジよりも、イトヒキアジの上唇は丸みをおびていてあまり高く突出しない。一方ウマヅラアジでは高く突出した形状になる。新大陸周辺の沿岸にすむものなどではもっと高く突出するものもいるらしい。
イトヒキアジの刺身
イトヒキアジもほかのアジ科の魚と同様に食用魚とされている。刺身は脂が非常によくのっている。脂がよくのり美味しい!と書きたかったが、たしかに美味ではあるのだが、脂ののりが強すぎて一度に多くは食べることができなかった。身は白くて美しいのに・・・。難しいところ。
イトヒキアジのフライ
いっぽうこちらはフライ。身が多くて脂も気にならない。ふわふわで美味しく、家族には大好評であった。このほか焼き物や煮物などで食しても美味しいのではないかと思われる。今回のイトヒキアジは長崎県「魚喰民族」石田拓治さんより。いつもありがとうございます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます