今回は以前入手した魚を。カスザメ目・カスザメ科・カスザメ属のカスザメ。
カスザメは見た目がエイの仲間に似ている。サメとエイはともに軟骨魚類で、「板鰓亜綱」というグループを形成している。現生の軟骨魚類は2亜綱に分けられ、もうひとつはギンザメ目が含まれる全頭亜綱である。サメとエイは板鰓亜綱という同じグループに含まれ「サメ」と名の付くエイの仲間もいる。この二つのグループを分ける大きな違いは鰓の位置。サメの仲間は体の側面にあり、エイの仲間は腹面にある。
カスザメの鰓孔はどこにあるのか。カスザメをひっくり返してみると...
鰓孔はない。カスザメもサメの仲間で、体側にある。先ほどの写真からは見えないのですが・・・。
一方で「サメ」と名前についていても、鰓孔が腹面に開いているのはエイの仲間になる。サカタザメ目・サカタザメ科のサカタザメ(写真)は名前に「サメ」とついている。体の後方にある2基の背鰭などはサメのように見えるが腹面に鰓孔があるのでエイの仲間になる。ほか、トンガリサカタザメや水族館の人気者のシノノメサカタザメ、ほかウチワザメといった種もサメの仲間ではなく、エイの仲間になる。
英語でカスザメの仲間はAngel shark、「天使のサメ」という意味である。天使と言えば清らかなものというイメージがつよいのだがサメの仲間は大食いである。海底でじっと動かず獲物の小魚などが来るとひとのみにしてしまう。このぶろぐの読者であれば、アメリカの西岸に生息するパシフィックエンジェルシャークが、同じ海岸に生息しているネコザメの仲間のホーンシャークを丸のみにする動画を見たことがあるかもしれない。
意外なことに歯が鋭く、ヒトが咬まれると怪我をするおそれもある。ちょっかいを出したり、つかんだりしないようにしたい。カスザメもほかのサメと同様に食用として利用されている。底曳網や延縄などの漁法により漁獲され、湯引きなどで食用とされる。新鮮なものは刺身などでも食べられると思うが、残念ながらまだ食したことはない。また、ほかの種類のサメと同様に練製品などの原料として重要である。
カスザメ目はカスザメ科のみからなり、カスザメ科はカスザメ属のみからなる。日本産のカスザメ科魚類はこのカスザメと、近縁種のコロザメの2種とされていたが、近年になってタイワンコロザメという種も土佐湾で見つかっており、合計3種となった。世界でカスザメの仲間は20種ほどが知られており、いずれも似たような生活をしているようである。繁殖の様式はほか多くのサメと同様に仔魚を産む。
カスザメ科魚類の分布域は太平洋・大西洋・インド洋などのほとんど世界中の暖かい海域に及ぶ。カスザメの分布域は南は台湾、北はピーター大帝湾にまでおよび、日本においてもほとんどの沿岸から沖合に見られる。写真の個体は愛媛県宇和海で獲れたもの。
カスザメには臀鰭がない。これはツノザメの仲間やノコギリザメの仲間と同様の特徴である。以前はこれらの仲間とカグラザメ目、エイ目を合わせ「ツノザメ・エイ上目」とされていたが、近年この考え方はあまり支持されていない。今では板鰓類をサメ区とエイ区にわけ、前者にはネズミザメ上目およびツノザメ上目、後者はエイ上目のみからなり、その中にはノコギリエイ目と従来のエイ目(サカタザメ目、トンガリサカタザメ目、シビレエイ目、ガンギエイ目、トビエイ目)が含まれている。ただしエイの仲間の分類は流動的なものであり、トンガリサカタザメ目を認めなかったり、サカタザメ目をガンギエイ目の中に入れるなどしている。