雑誌『文藝春秋』2005年4月号、白川静、特別寄稿「皇室は遥かなる東洋の叡智」-なぜ皇室は大切なのか。存続のみを論じるなかれ-
■要旨
【殷と日本、そして殷→周革命の意味】
日本は世界にも珍しいほど古代の精神が息づいている。日本では千数百年前の氏族が移動したことが地名として鮮やかに残っている。一方、中国では度重なる王朝交代の結果氏族も移動し、地名も変わる。歴史が連綿と連なっていない。これに対して日本皇室は古代から連なる儀式や精神を受け継いでいる。
日本が古代から受け継いできた文化は中国の古代(紀元前16世紀)王朝・殷と深く共通する。例えば、神話を持つこと、皇位継承の儀式、近親婚、奉ずる神は絶対神ではない、入れ墨、貝と玉を重宝する、など。
殷と古代日本は、ともに東アジア文化の原型をなすような本源的な共通性格をもっていた。
その殷は周に滅ぼされた。殷と周の最大の違いは、周は「徳」という概念を持っていた。つまり、支配者である王は徳があるから天から命を受け地上の支配を許される、という天命思想。殷の思想は、民衆を支配するには、天帝の代理人としてただ見て回ればそれでいい。
故に、殷と周の王朝交代は、非徳治主義・没自然主義的世界観から徳治主義・合理的世界観への文明的大断絶である。神秘主義から人間中心主義へ。周の徳治主義を、後世、理想化してできたのが儒教。
【転調】
中国には儒教に対抗する思想がある。老荘思想。本来の秩序は人知以前の自然のなかにある、との主張。これは殷の思想の流れを汲むものである。
このように中国には儒教と対抗する思想があり、思想は互いに競い合い正統性を主張。これが中国の文化にダイナミズムを与え、思想に深みを与えた。例として元での儒教・儒者不遇。
これに対し日本では、異質民族に征服されることがなかったので、世界観をめぐる対立がなく、相容れないものと対立して、自らを鍛える経験に乏しい。
儒教、仏教、陽明学、朱子学と日本に伝来したが、横並びに受容され柔軟性があるといえるが、一方、各思想が互いに競い合い正統性を主張し、切磋琢磨すること無し。日本文化の優れた点と限界。
【ここから、おいらには、ロジックがわからないが、白川の主張をまとめる】
<近代日本;明治維新はよいが、昭和はだめ>
明治維新は成功した。理由は知識人が東洋の教養を深く身につけていたからである。異文化との戦いの経験をもたないが、学問をして自分たちの精神を鍛えてきた。
昭和日本は失敗した。日本主義が跋扈したからだ。日本主義とは本居宣長の「直毘霊(なほぴのみたま)」の思想、つまり、「わが国には古代からの直接的につながる神話の世界があり、皇室がある。あるがままのものをあるがままに肯定すればよい」を利用して「神ながらの道」を称揚し、天皇を「現人神」に祀り上げた。
「天皇が続いているという事実そのものが尊い」と主張することは思考停止であり、大きな危険であった。この主張は異文化が説得されるはずもなく、思想に不可欠な普遍性がない。つまり幼稚である。
なぜ幼稚になったかというと、昭和に日本人が西洋の科学技術の摂取ばかりして、東洋古典と対話を重ねて大人になるという修練をしなかったからである。
さらに日本の弱さを露呈したのが、敗戦後のアメリカ占領である。敗戦占領は日本人が本当に思想的な能力を発揮する機会であった(が、しなかった)。日本は半世紀たっても米国の前衛基地のままである。日本人は自分たちの文化的伝統を護り、思想的に矜持を保つことができなかった。
【転調】
<汎神論的世界観こそが平和の原理>
歴史的にみて、天皇が絶対的な「現人神」として君臨するのは異例。天皇の本来的な姿は、あくまでも汎神論的な多神教の世界にある。この汎神論的世界観こそ古代から受け継がれている東洋の優れた特質である。
人間が自然を征服するという思想はよくない。汎神論は仏教もキリスト教も受け入れる。平和の原理である。絶対神をもち狂信に走る信仰は戦争をもたらす。未熟である。
いまなお古代的な自然観、世界観をもつ日本は東アジア文化の原点を残す貴重な国である。その象徴が皇室である。その価値を深めるためには多文化との対話が不可欠である。
(以上、要旨おわり)
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