安倍晋三首相や自民党を支持することと、全権を委任するのは別問題である。一切の批判ができないのでは、保守の活力は生まれない。かつての自民党には、気骨のある政治家がいた。バックボーンがあったのである。大平正芳の懐刀であった田中六助が『保守本流の直言』という本を残しており、党内抗争の渦中でこの世を去った大平を評価し、保守本流の立場を明確にしている。「大平元総理は保守本流に位置するもっとも典型的な政治家だと言えよう。もちろん、吉田、池田と続く宏池会の領袖として人脈的にもその由緒が正しいということは言うまでもないが、それより何より、つねづねガバナビリティということを頭から離すことがなかったのである。国民に対する政治家としての責任、世界の国々に対する日本の指導者としての責任、そして、21世紀に対する旧世代の責任を果たすことが、自分の使命だと認識していた」。安倍首相の今回の決断もまた、そうであって欲しいと願うのは、私だけであろうか。それにしても、記者会見でTPPのプラス面ばかり強調していたのが、なぜか私には気になってならない。もっと苦渋の選択であるというのを、前面に出すべきだった思う。「ガバナビリティ」の観点からすれば、やむを得ない処置であったのかも知れない。しかし、それならばなおさら、国民に向かってバラ色の夢を描くのではなく、忍耐を説くべきだったのである。戦後レジームを脱却するまでの試練として。
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