なぜ本が売れなくなったのだろう。学者の権威が失墜して、難解な本を読まなくなったことも大きい。しかし、一番の問題は書き手にあるのではないか。平成になってより凡庸な時代に突入したのである。三島由紀夫がかつて小汀利得との「天に代わりて」(「言論人」昭和43年7月号)の対談で、「私は文章はどうも、全般的にみて左翼の方がうまいと思うんですよ」と言っていた。とくに鶴見俊輔らの『思想の科学』に集まっていた学者や評論家を評価していた。建設的な楽天的なことを書いていては面白くないからだ。「破壊本能の方が人間は強いですから」であり、もう一つは、右寄りの文章は「エロティックなことを理解しない」からだそうだ。左翼でもない癖に、若い頃に私が彼らの本を読んだのは、内容よりも文章が面白かったからなのである。四角四面の人生しか歩んでこなかった人たちよりは、波乱万丈の人生の方が面白いのである。その二つがないと「チャーム」がない文章になってしまうのである。もはやそのサヨクが衰退して、三島さんが褒めたような書き手も見当たらなくなった。大根役者しか登場しない舞台では、誰もチケットを買ってはくれないのである。以前から思想的には保守派がしっかりしているが、ここは三島さんが待望していた書き手の登場を期待するしかない。「チャーム」がある文章でなければ駄目なのである。今のサヨクにはかつてのような勢いはない。文章でも保守派が彼らを圧倒する時代が到来したのである。三島さんのような天才的な書き手を渇望するのは無理だとしても。
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